地方大会準決勝・副将
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
幸美は激しい攻防の末勝利を収め、
俺達のところに戻ってきた。
すると穂花がこういってくる。
「さすが幸美ね。こういうところで勝てるなんて、尊敬しちゃうわ」
「別に、なんてことは無いわ」
そういう幸美のクールさは、さすがだと思う。
「試合の結果がどうあれ、それに一喜一憂したりしないあたりやっぱ冷静だな」
「それがいいかわるいかはその人しだいだけど、私はそういうタイプじゃないだけよ」
まあ、実際そうなんだと思う。
試合の結果で一喜一憂する人は感情豊かでその感情を生かせるんだろうし、
試合の結果がどうあれ冷静に済ませられる人は感情に流さず安定して戦える。
どっちが上かなんて物はなく、いってしまえば得意不得意みたいな物だ。
感情豊かなタイプは感情のせいで引っ張られるんだろうし、
冷静に済ませるタイプは自分を鼓舞するのが苦手なのだろう。
俺はそれなりに自分の意見はいうし、
どちらかというと前者よりなのかもしれない。
「まあ、負けた時は落ち込むけどくよくよしている暇なんてないからね」
ゆめは演劇部だし、切り替え上手なのかもしれない。
「負けても次がある。そこで終わりってわけじゃないわ」
由莉は次に向けて精進するタイプなのだろう。
俺もその意見は良く分かるしそういうタイプなのかもしれない。
「私は負けたくないけど、負けたときは修行不足だってことで受け入れるわ」
夏葵はどっちかいうと感情に流されやすいらしいが、
切り替えポイントが分かっているからくよくよはしないのだろう。
「俺は由莉の意見に近いかな」
「へえ、あなたはそういうタイプなんだ」
「幸美は『そうは見えない』とでもいいたいのか?」
「別に。そんなこといえるほど、私はあなたを知ってるわけじゃないから」
「相変わらずといえば相変わらずだな」
「だが、そういうところ嫌いじゃないぜ」
俺はありのままを伝えただけなのだが、なんかいわれそうだ。
「何となくタラシね、あなたって」
案の定穂花にこういわれたので、俺はこう返す。
「脇役がそう簡単に女の子をタラせるわけがないだろ」
「そういう考え方は修羅場を起こすから気をつけなさいよ」
「ハーレムも修羅場もあるわけないさ」
俺がそういうと、夏葵はこういう。
「まあ、そうなるかなんて今は考えている暇がないもの」
そういいつつ、彼女はマットへと向かう。
「さあ、いよいよ準決勝も副将戦へと突入しました」
「先に二勝を獲得した玉央学園、どうにか主将線まで持ち込みたい旗井山学園」
「玉央学園の副将我満夏葵。旗井山学園の副将、宮井爽香」
「この戦いから目が離せません!」
「それでは、試合開始です」
審判の合図と共に、二人は構える。
「シルバーロッド!」
夏葵は杖を召喚する。
「なら、サンドシュート!」
爽香は土の塊を放つ。
「土属性があいてなら、地形変動には気をつけないと」
そういいながら、夏葵は土の塊を弾き飛ばす。
「でも、金属性なら距離は取りずらいわよね?」
「この杖ならリーチはあるから、もんだいは無いわよ」
「確かにそうだけど、当てれるものかしら」
江里子がそういうと、二人は膠着状態に陥る。
だが、夏葵は咄嗟に杖を投げる。
「ロッドスロー!」
投げられた杖はそのまま土の塊で弾き落とされる。
「弾くと思ったわ。だから弾ける辺りに動いていたのよ」
「そうすると思ったわ。あなたはベスト16の時、そう動いていたからね」
爽香はそういった後で、こういう。
「グラウンドウオール!」
「突き上げるつもりなら!」
夏葵は爽香が居る方向へと走っていく。
「さすがにやるわね、でも!」
「そうはいかないわよ!」
夏葵は爽香に向かって杖を投げた。
「杖を足蹴にすれば!」
爽香はそのままとび蹴りをかます。
「うわっ!?」
夏葵はとっさに身を飛びかわすが、マットの外に出てしまう。
それを見た審判はすかさず宣言する。
「爽香選手に有効1です」
「うっかりマットから出ちゃったわね……でも!」
夏葵は再度杖を取り直す。
それを見た爽香も夏葵に向かう。
爽香としてもこのまま判定勝ちに逃げる真似はしたくなかったのだろうが、
夏葵も決め手が無い。
こう着状態に入り、誰もが爽香の判定勝ちを予期していた。
俺は夏葵を応援していたが、
正直近接戦闘に特化した金属性は近づけないと厳しい。
このままだと爽香にとっても不本意な勝ち方になってしまうだろう。
そう思っていると、夏葵はこういう。
「シルバーチェンジ、イグニッション!ソウルブレード!」
夏葵は持っていた杖を剣に変換する。
無論イグニッションで魔力を節約しつつなので時間はかかるが、
爽香が距離を取っていたので攻撃される恐れは無い。
「さあ、行くわよ!」
杖から変換した剣で、夏葵は爽香に突っ込む。
爽香はとっさに身を引くが、その時審判の声がしてくる。
「そこまで!判定により、爽香選手の勝利です!」
どうやら、もう時間が来ていたらしい。
それを聞いた爽香はこういう。
「次に魔力を温存しつつ切り替える……タイミングが早かったら負けていたわ」
「私も、イグニッションにかかる時間を馬鹿にしすぎていたわね」
夏葵はそういって、俺達のところに戻ってくるのだった。
続く