地方大会準決勝・次鋒
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
ゆめは準決勝も勝利を飾ったが、このペースでいってくれるとは限らない。
ともかく、俺は由莉がマットへ上がっていくのを見ていた。
もちろん、彼女の対戦相手もマットの上だ。
「さあ、凄まじい戦いになりました」
「まさかの戦い方を見せ付けた玉央学園の先鋒」
「対する旗井山学園は動揺を抑えることができるんでしょうか?」
「玉央学園の次鋒三枝由莉。旗井山学園の次鋒、寺崎美保」
「この戦いから、目が離せません!」
そういう審判を他所に、美保はこういう。
「あなたはあの楓の妹さんだっけ?」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「不思議よね。一卵性双生児の男女なんて」
それを聞いた由莉はこういう。
「フィクションとかじゃ良く見るんだけどね」
「日本に何故そういうケースが少ないのかは研究成果が出てないからなんともいえないけど」
「ともかく、とっとと試合を始めるわよ」
そう由莉がいったのを聞いて、審判はこういう。
「それでは、試合開始です」
その合図と共に、二人は構える。
「フリーズブレード!」
美保は氷の剣を構える。どうやら彼女は氷属性使いのようだ。
「氷属性が相手なら、やることは一つね。ウインドハーケン!」
切り裂くような風が美保へと放たれる。
「ウインドウォール!」
氷の壁が美保の前で展開され、それのみが切り裂かれる。
「中々やるわね……」
「今度はこっちから行くわよ。フリーズスプリーム!」
美保の左手から氷の礫が拡散して放たれる。
「なら、ウインドストリーム!」
由莉の右手からは集中的な風が放たれる。
だが、氷の礫をはじくために放ったため、
美保を射程に入れることはできなかった。
「冷静ね。でも、私に剣があることを忘れないでよね!」
美保は脇から由莉を襲い来る。
万事休すかと思われたその時、由莉はこういう。
「ウインドハーケン!」
そのままだと由莉が放った切り裂くような風が美保を襲うため、
彼女は距離を取る。
当然の選択だろう。
いくらなんでもウインドハーケンを食らったら勝負が決まりかねない。
俺が美保の立場でも恐らく距離を取っただろう。
俺は由莉を応援していたが、美保がどのように対処するかは興味があった。
「お互いに相応の技量はあるようね」
「なら、そう簡単には決まらないってことよね」
「楓の妹は伊達じゃない、ってことかな」
「私の技量はそれとそんなに関係ないと思うわ」
お互いにそういい合うが、お互いに決め手がない。
いわゆるこう着状態だ。
このまま延長までもつれ込んでしまうのか、
一手取ったほうがそのまま勝つパターンかは分からない。
しかし、魔道においては技をぶつけあうよりもこうやって牽制しあう方が多い。
ゆえに今までこう着状態に文句をいう奴なんていなかったし、
これからいうやつが居たらそいつはにわか扱いされるだろう。
ともかく、二人のこう着は長く続くかに思われた。
しかし、先に動いたのは美保だった。
「このまま突っ込むわよ!」
「誘おうったってそうはいかないわ。なら!」
由莉は逆に突っ込んでいった。
ウインドハーケンをかわしつつ上から攻撃する、
という腹積もりでそうしたのだろう。
やけっぱちに見えるが、そうではない。
その証拠に、由莉は美保の右手を掴んだ。
「これで剣は振るえないわね、美保!」
「フリーズナックル!」
美保は氷を纏った拳で由莉を殴ろうとする。
「無駄よ!ウインドストリーム!」
しかしその前に由莉は右手を離し、
右に逸れつつ左手から吹き荒れるような風を放つ。
だが、美保は剣を捨てて風が当たらないところまで退避していた。
「抜かったわね。フリーズフィスト!」
氷の塊が美保の右拳から放たれる。
「しまった!」
さしもの由莉もそれをかわすことはできず、もろにくらってしまう。
「勝負あり!美保選手の勝利です」
審判の宣言を聞いた由莉は美保にこういう。
「一手足りなかったわね……」
「だけどいい勝負だったわ」
美保がそういうのを聞いた由莉は俺達のところに戻ってくる。
それを見た俺はこういう。
「中々の試合だった。負けてしまったとはいえ、いい結果を出せたと思うぞ」
「そういってくれて嬉しいわ」
それを聞いた穂花はこういう。
「相手も結構対処していたし、伯仲した戦いだったと思うわ」
「正直な話、あの時の戦いを思い出すわ」
それを聞いた俺はこういう。
「リア充爆散団やってた時の戦いか」
「そうね。あの時は敵同士だったけど、仲間としてみたら随分頼もしいと思ったわ」
「昔のことを振り返る余裕はあるんだな」
「あの時のことは忘れちゃいけないと思うの。やってきたことの贖罪のためにも」
「無理に背負い込む必要はないと思うぞ?お前は乗せられてただけなんだ」
すると穂花はこう返した。
「だからといって罪を背負わなくていい理由にはならないわ」
「扇動された奴に罪があるとして、その子孫にまで罪を問うのも可笑しい話だがな」
「そんなことあったっけ?」
「そうする奴が昔はいたってだけの話だ。他意は無いさ」
続く