地方大会準決勝・先鋒
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
ベスト8終了後の休憩も後2分となり、
いよいよ準決勝が始まろうとしていた。
俺達はすでに控え席に座っており、話を始めていた。
「決勝戦でどっちと戦うにしろ、ここで勝たないと意味がないわ」
そういう夏葵に対し、俺はこういう。
「旗井山学園はかなり奮戦していたけど、だからといって負けてやるわけにはいかない」
「わかっているじゃない、真彦」
「脇役だからといって、空気が読めないわけじゃないんだぞ」
「それもそうだけど、さすがにいい切るのはどうなのかしら」
すると穂花がこういってくる。
「まあ、こういう時は毅然とした態度で返したほうが良かったりするわ」
「そうなのかしら……まあ、私は気心が知れてるから気にならないけど」
すると、幸美がこういう。
「それより、そろそろ休憩終わるわよ」
「分かってるわ」
そういうゆめに対し、由莉はこういう。
「そうね。あいつらと戦うんだとしても、尚更ここで負けるわけにいかないわ」
(やっぱそういうところは兄さんに似たんだろうかな)
俺は思わずそう思った。
すると休憩も終わり、審判がこういう。
「さあ、いよいよ準決勝です」
それを聞いたゆめがマットに向かい、相手も同じくマットへ上がる。
「玉央学園と旗井山学園。片や初参加、片や久しぶりの準決勝進出」
「準決勝だけに、一戦目から漂うオーラが違います」
「玉央学園の先鋒廣瀬ゆめ。旗井山学園の先鋒、土川友洋」
「この二人の戦いから、目が離せません」
「それでは、試合開始です!」
試合開始と同時に、二人が構える。
すると、ゆめがこういう。
「サンダーサーチ!」
「お前が雷使いだってのは知っている。バーニングスプリーム!」
友洋が右手から炎を拡散して放つ。
だが、ゆめに当てるつもりは無かったようだ。
「私が試合を見てない可能性を考慮したわけね。でも!」
「ああ。俺の試合を見てないのはお前の自己責任だが、属性くらい割り引いてやる!」
「そういうのは嫌いじゃないけど!」
そういいつつ、二人は距離を取り合う。
やはりお互いあまり近づきたくはないらしい。
仮にゆめがサンダーランサーを防がれる可能性があるため彼女は動けないし、
同時に友洋もうかつに手出ししたら逆に雷が飛んでくる。
なのでしばらくの間、こう着状態に陥る。
だが、両者ともに隙を作ろうと模索していた。
そして、友洋が先に動いた。
「バーニングスプリーム!」
友洋は再び右手から炎を拡散して放つ。
「雷を撃たせようっていうつもりなら、その手には乗らないわ」
ゆめは前方宙返りで炎の間をくぐり抜ける。
失敗して体が焼けても完璧に治癒できる魔法があるとはいえ、
危なっかしいことこの上ないかわし方だ。
演劇でそういうスタントするときは安全に考慮してやるのだろうが、
演劇でこういうことをしていたのだろうか?
真偽はともかく華麗な身のこなしだ。
「行くわよ、ライジングナックル!」
前方宙返りで友洋の前に出たゆめは、
すかさずこういい雷の篭った拳で彼を貫こうとする。
「ぐうっ!?」
予想外の行動に友洋は対応できなかったようで、
そのままゆめの拳を食らってしまった。
「勝負あり、ゆめ選手の勝利です!」
審判の宣言の後、友洋はこういう。
「すごい身のこなしだ……昔から魔道をやっていたのか?」
「演劇をやっていただけよ。あなたも、あそこでスプリームするなんて冷静なのね」
そういってゆめは俺達のところに戻ってくる。
「やったな、ゆめ」
「今回はちょっと無茶しちゃったけど、まあ何とかなったわ」
そういう俺に対し、幸美はこういう。
「もし失敗したら、痛いじゃ済まされなかったのよ?」
「そのくらいは分かってるって。でも、ここで失敗するほどやわじゃないわ」
「さすがに、親友の私もさっきのはドキリとしたわ……」
由莉もヒヤリとする行為だったこともあり、
俺はこういわずにいられなかった。
「ゆめは、演劇部でこういうスタントをしたことがあるのか?」
「まあ、さっきよりは安全といえるかもしれないけど経験ならあるわ」
やっぱりやっていたのか。
そう思っていると俺は穂花にこういわれる。
「ナイフを白羽取りしたあなたにはいわれたくないわ」
「そんなこともあったけどさ。それは仕方なくだって」
そういう俺に対し、夏葵はこういう。
「仕方なくでああいうことができるっていうのもどうかと思うわ」
「さすがにそれはないぞ。俺だって必死だったんだし」
俺がそういうと、夏葵はこういって話題を逸らす。
「ともかく、準決勝もこの調子でいきたいわね」
「確かに、この勢いには乗って行きたいかな」
それを聞いていたのか、由莉はこういう。
「ともかく、次は私の番よ。はりきっていかないとね」
「頑張って来いよ、由莉」
「分かってるって。行ってくるわ、真彦」
そういってマットに向かおうとする由莉を見た穂花はこういう。
「真彦って何かフラグ立てまくってない?」
「幸美にもそういわれたが、俺は脇役だ。フラグなんてそう立てれない」
続く