地方大会ベスト8・初陣
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
トーナメントもいよいよベスト8に差し掛かり、
少しばかりの休憩が挟まれる。
体力と魔力の両方を消耗するので、少しでも休んだ方が万全のコンディションを出せるだろうという配慮だ。
とはいえ別段おにぎりが配られたりとかはしない。
そういうのは各自で用意するだろうということもあり、
ある意味選手をどう回復させるかも試合の鍵になっているのかもしれない。
休憩に対しての真偽はともかく、俺たちは控え席へと向かう。
その道中で、穂花は俺達にこういう。
「ベスト8に進出したんだし、この勢いでいけば準決勝には行けると思うわ」
「勢いなら相手のほうにだってあるが、励ましてくれるのは素直に助かる」
俺はそういって彼女達と共に控え席へと向かう。
そして、先鋒であるゆめがマットに立つ。
相手方の先鋒も彼女に向かうと、審判はこういう。
「さて、ベスト8の初戦を飾るのは玉央学園と南宿学園の戦いとなります」
「玉央学園は今回が初参戦ながら、かなりの勝負を繰り広げました」
「南宿学園は三年連続ベスト8以上の意地を見せられるんでしょうか?」
「玉央学園の先鋒廣瀬ゆめ。南宿学園の先鋒、江上翔平」
「この二人の戦いから、目が離せません」
「それでは、試合開始です!」
二人は向かい合う。
「サンダースプリーム!」
ゆめから雷が拡散して放たれる。
どうやら先手を狙ったようだ。
「ウッドランサー!」
翔平は木を避雷針代わりに刺し込み、それを防ぐ。
どうやら、彼は木属性の使い手らしい。
「前の戦いでもそうやって防がれたわね、槍を避雷針にしたらすぐには攻撃できないわよね?」
ゆめはそういって翔平に近づく。
翔平もそのまま槍に手を伸ばす。
「サンダーランサー!」
槍のような雷がゆめの右の拳から放たれる。
しかし翔平は槍から飛びのかず、冷静に身を引く。
「あの時は飛びかわしていたけど、そうもいかないのね」
「そう何度も同じ展開になってたまるかってんだ!」
別に翔平が飛びのかなかったことはどうでもいい。
気になるのは、翔平選手があまり動きを見せないことだ。
ゆめに押されているならいいのだが、そうでないのならまずいかもしれない。
「ランスに近づけない以上は……ウッドストリーム!」
「そうはいかないわよ!」
翔平の手から木の葉が勢いよく放たれる。
しかしゆめはうろたえない。
「サンダーランサー!」
彼女は右の拳から雷を放つ。
勢い良く放たれた木の葉は、そのまま雷で吹き飛ばされる。
しかし雷も木の葉で妨害されて翔平のところまでは届かない。
「冷静に対応するとは、中々やるな……」
「そちらこそ、いきなり撃ってくるなんて冷や汗かかせるわね」
審判も冷静にそう告げる。
「でも、負けられないわ」
「負けられないのは俺も同じだ!」
翔平がそういい、ゆめに近づく。
しかし、中々刺そうとはしない。
うかつに近づけば雷を撃たれるからだ。
無論、ゆめも相手が槍を持っている以上うかつに近づけない。
槍で直撃させることはないが、
それでも刺されることは警戒しなくてはならない。
槍の一撃は一気に勝負ありが決まってしまうからだ。
「この位置からじゃ、狙いにくいわね……」
ゆめも思わず弱音が出る。
しかしお互いに決め手が無いとなると、
やはり延長にもつれこむ可能性もでてくる。
そう思った時である。
ゆめが左足をはづきの方へ向けたのだ。
「なんのつもりかは分からないが、貰った!」
翔平はそういってゆめのほうに踏み込む。
「サンダートルネード!」
ゆめは雷を纏った回し蹴りで、翔平を蹴り飛ばす。
「しまった!」
突然の出来事に、なすすべが無い翔平。
そのまま、ゆめの回し蹴りを食らってしまう。
「うわあああ!」
「勝負ありです。さすがに白熱した戦いでした」
次鋒の出番が来る前に、翔平はこういう。
「さすがだ……うかつに攻め込んだのが敗因だったな」
「でも、油断できない戦いだったわ」
二人は固く握手をかわした。
「とりあえず、勝てて良かったわ」
「さすがだな、ゆめ」
「まあ、私の友人だしね」
由莉は相変わらずだが、親しい故だろう。
そう思っていると、幸美がこういう。
「ベスト8でもこうやって勝っているのを見ると、緊張したりしないの?」
「別に?そういうあなたはやっぱり緊張しているんじゃない」
そういう夏葵に対し、俺がこういう。
「前にも行ったが緊張していえることじゃないとは思うが?」
すると夏葵はこういう。
「ともかく、次は次鋒の由莉よ。準備はいい?」
「もちろんだよ。親友として、ゆめには負けられないからね」
それを聞いて俺はこういう。
「三勝すれば俺まで回っても消化試合だし、そういう点では期待している」
「あくまでも脇役志望だから?」
由莉がそう問いただすので、俺はこう返した。
「まあ、主峰を任されている以上やはり負けるのはさけるがな」
「負けるときは負けるのも分かる。でも大丈夫だよ、やれるだけはやるから」
そういって由莉はマットへと上がっていくのだった。
続く




