地方大会ベスト16・他校
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
ベスト8進出は既に決まっていたとはいえ、
どうにか主将戦に勝利できてほっとした。
これから先の戦いを見学しようとすると、穂花はこういう。
「お待たせ」
「どこいってたんだ?」
「いやさ、控え席でこういうのを食べるわけにはいかないよね」
そういって穂花が取り出したのはバスケットだ。
「観客席だからといって食っていいわけじゃないだろ」
「分かってるわよ。だから休憩室に行くわよ」
そういって穂花は俺を含めた五人を休憩室へと連れて行く。
そこでは飲食が完全フリーとなっており、
英気を養うことができるのだ。
試合もモニターで移されている。
カメラは無かったので恐らく審判のクリアスコープからの映像だろう。
クリアスコープにはそういう機能も搭載されていることがあるので、
その機能が搭載されていても不思議ではない。
審判の誤審を防ぐビデオ判定としての役割もかねているのだろうが、
観客席に居なくても試合が見れるのはありがたい。
鞍出川学園と南宿学園の対決の勝者と戦うことになるので、
俺はじっくり観察していた。
しかし俺と幸美以外の連中は食べるのに必死だ。
そういうのは実戦でやって確かめればいい、
ということだろうが幸美はこういう時もクールだ。
鞍出川学園は何一ついいところが無かった。
今回が初参加ではないもののメンバーは一新されており、
どうなるかと思ったが相手が二年連続ベスト8以上なこともあり圧倒される。
最近三位までは行ったことがないらしいが、
昨年は準決勝まで駒を進めたこともありある程度注目されていた。
由莉の兄である楓が居る学校は彼が強いというだけで、
他の生徒や彼の居る八笠台学園に関する噂は聞かない。
「なあ、由莉。楓の居る八笠台学園の噂は聞かないが昨年どうだったんだ?」
「昨年は南宿学園を下して3位だったわ」
南宿学園が準決勝で戦ったのは楓の居る八笠台学園だったのか、
と思った。
しかし先鋒のみ入れ替わっていたが、
それでも何とかなる辺りさすがは注目校だ。
ともかく俺達が戦う相手は南宿学園と決まった以上、
気を引き締めていきたいと思った。
「相手は注目校だ。しっかり気を引き絞らないとな」
「分かってるわよ。それと、次の試合どうするの?」
夏葵にそう問われた俺はこう返す。
「別に興味は無いかな」
「そう……別にいいけど」
旗井山学園と瓦梅寺学園の戦いは接戦だったが、
旗井山学園の方に軍配が上がった。
続く近笹川学園と狛幸野学園の戦いは、
近笹川学園の圧勝だった。
そして、荒丘学園と正香学園の戦い。
この戦いの中で荒丘学園の生徒たちは圧倒的な力で正香学園の生徒をねじ伏せていた。
彼らは今回が初参加らしかったが、相手が魔道部においては由緒ある学校だっただけに動揺が見える。
俺たちは休憩室でおにぎり食っていたりスポーツドリンク飲んでいたりで、
どのくらい動揺しているのかは良く分からない。
しかしそれでも客席の動揺が分かるので、
相応の動揺が走っているのも分かる。
「相手は由緒ある魔道部を持っていたっていうのに!」
「まあメンバーは全員一新されていたわけだし、楓があいつらに負けると決まっちゃ居ない」
「それはそうだけど、心配ね……」
そういう夏葵に対し、由莉はこういう。
「楓なら、大丈夫よ。きっとどうにかしてくれる」
「それは私も保証するわ。友達の家族だもの」
そういう二人に幸美はこういう。
「確かにそうかもしれないけど、由緒ある学校は威信を掛けていたはず」
「にもかかわらずああもねじ伏せられたとなると、相応の力は持っているわ」
七岬学園が勝ち上がり、舞川学園が勝ち上がる。
しかし由緒ある学校を圧倒的な力で破った荒丘学園の生徒たちの前では、
それらの事実はかすんでしまう。
何しろちょうど全員相性が悪い相手なので、
力量差も相まって勝てそうに無いからだ。
負け前提の戦いでも受ける覚悟のある俺はともかく、
他のみんなは戦ったら負けるとしか思ってないかもしれない。
八笠台学園の、楓の強さが気になる。
だが、戦いは互角だ。
生延学園は優勝候補らしいので、そのせいで互角なのだと思いたい。
舞川学園も昨年優勝したチームだし、互角でも希望は持てる。
しかし、何故か舞川学園の生徒が希望には見えない。
希望が持てるのは八笠台学園の生徒だけだ。
俺達ですら、勝てないかもしれない相手。
そういう絶望感をふり払えるのは、
楓の持つ熱い思いしか無かったのだ。
仲間の親戚だから贔屓目があるのかもしれないが、
俺にはそうとしか思えなかった。
続く




