試合会場にて
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
バスに揺られつつも、いよいよトーナメント会場までたどり着いた。
その会場には様々な学校の制服を着ている生徒が居た。
5人だけではないので、個人戦の参加者がいくらか居るのだろう。
個人戦に出ない俺とは無関係な話だが、
五人に足りてない学校もあるくらいだ。
その中に、明らかに由莉と似た生徒が居た。
といっても男性だし、少し雰囲気が似てるくらいだが。
いわゆる美形であり、男である俺も思わずかっこいいと思うくらいだ。
由莉とは双子だからか、女性的な部分も無くはないが却って美形さを引き立てている。
「お前が、三枝楓なのか?」
「そういう君が、噂の和久井真彦君だね」
「由莉から話を聞いていたのか。でも、何で分かったんだ?」
「制服が由莉と同じだからさ。妹と同じ制服で、男子部員となれば君しか居ない」
「と、それもそうか」
「まあ、由莉の制服を僕が見てない可能性だってあるし一応聞いておく意味はあったと思うよ」
そんな会話をしていると、一つのチームがやって来る。
「俺は荒丘学園の、明次道秀だ」
リーダーらしき男がそういってくる。
いかにも力で他の誰かをねじふそうとする感じのオーラがあるものの、
楓が居るからかそのオーラに気圧されはしなかった。
「俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ」
「脇役だと?なら、俺の敵じゃないな」
それを聞いた楓はこういう。
「僕が主役を名乗るのはおこがましいかもしれないけど、君のような人を倒すためなら!」
そういう彼からは道秀のオーラをかき消すような何かを感じた。
どうしてかは分からないが、彼からは不思議と温かい物を感じる。
いや、むしろ熱い感情といった方がいいのかもしれない。
「ふん、面白そうなやつだ。だが覚えておけ。俺は力で全てを手に入れる」
「富も名声も、力があれば全て手に入る。正義などそこには不要だ」
道秀がそういうのに、俺は率直な疑問をぶつける。
「そういう割には、ルールは守るんだな」
「ルールを破る行為など、弱者がすることだ。真の強者はルールを守った上で勝利する者だ」
野獣のような道秀だが、ライオンとハイエナは違うということだろうか。
彼には彼なりの仁義がありそうだが、はっきりいって恐ろしい。
何しろ、彼からは力任せに何もかも破壊しそうな雰囲気を感じずにいられないからだ。
もし俺が戦うことになったとしたら、せめてあいつに一矢でも報いたいと思う。
そう思い、俺は彼にこういった。
「なるほどな。だが、お前のその刺々しい波動は危険だ。脇役だろうと、無視はできない」
「君も彼の危険さは何となくわかるみたいだね。でも、安心して欲しい」
「あいつは俺が倒す、とでもいうのか。頼もしいが、いい切って大丈夫か?」
「正直、彼の力は未知数だ。どんな魔法を使うのかは分からない」
すると俺は疑問に思ったことをいう。
「相性は気にならないのか?」
「僕は無属性の使い手だからね。相性なら気にする必要が無いんだ」
「無属性の使い手、か。相性の心配はしなくてもいいわけか」
「まあね、そろそろ始まるよ」
楓が俺にそういう。
確かにそろそろ開会の儀が執り行われる時間だ。
俺は所定の位置へと向かう。
「まあ、まずはベスト16を勝たないとね」
「その通りだが、俺はもう行かないといけないみたいだ」
俺は歩きながら楓にこう返す。
同じ制服を着た、恐らく八笠台学園の生徒であろう者達は彼の居る場所に集まっていた。
そして所定の位置に戻ると、由莉にこういわれた。
「お兄さんと会ってきたの?」
「まあな。お前に似て、いやこの場合お前が似たんだろうが熱い奴だ」
それを聞いた夏葵はこういう。
「真彦の見立ては信頼できるからね」
「そうかな?でも、由莉のお兄さんなら悪い人じゃなさそうね」
幸美も夏葵に続けてそういった。
「開会の儀は五分後だけど、とりあえず集まったわけだが」
俺がそういうと、ゆめはこういう。
「こういう時は大抵五分前には集まるものよ」
「確かにその通りだな」
そして五分後、開会の儀がとり行われる。
「これより、学園魔道部中央地区大会の開会の儀をとり行う」
司会の男がそう挨拶するや否や、彼はこういう。
「小難しい話はいらない。ただ、諸君らに期待する物はこれから先のことに他ならない」
「スポーツマンシップに乗っ取り、持てる力を最大限出し切り悔いの無い戦いを行って欲しい」
「以上である!これをもって、開会の儀は終了とさせていただこう」
こうして、開会の儀は幕を閉じる。
いよいよ、試合が始まろうとしているのだ。
「始まるのね。となると、私はタオルとかを用意しないといけないわね」
穂花がこういう。
「だが、大切な役目だ。汗がにじむと戦いにくいからな」
それを聞いたゆめはこういう。
「先鋒は私ね。初戦から負けるなんてまねはしないつもりよ」
「ああ。だが、飛ばしすぎるのも良くないぞ」
「分かってるわよ。トーナメントだし、そのへんもしっかり考えないとね」
トーナメントは勝てば勝つほど連戦となる。
そのため、実は体力の配分も重要になってくるのだ。
続く