夏練三日目・午後
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
ゆめはミスコンに出るといっていたが、
俺達はとりあえずざるそばを啜っていた。
無論、食事のあいさつはかかさない。
そして、ミスコンが始まるまで少し時間はある。
なので練習を兼ねた海遊びを行う。
時間が経ち、ゆめがスタッフに呼ばれる。
ゆめの向かった先には、ステージがあった。
その向こうでは、恐らくゆめが着替えているのだろう。
そういうのを事細かに想像したりはしないが、
着替え中であることくらいわかる。
まだステージの幕は上がらない。
すると、俺のところに穂花がやってくる。
「いよいよミスコンね。ゆめはもう、一足先に着替えてるのね」
「そうだろうな。お前もそろそろ行かないと遅刻で失格になるぞ」
「部員になるっていうのに、そういうのはつっけんどんなのね」
穂花そういいつつ、ステージへと向かう。
つっけんどんといわれたが、俺はまだ穂花と親しくない。
敵同士から始まった相手をさすがに親しくは接せない。
そういうことができるのは器の広い人間だと素直に関心できるが、
俺はそこまで器が広くないようだ。
ともかく、ステージの幕はまだ開かない。
しばらく待っていると、放送が流れる。
「いよいよ、ミスコンが始まります。さあ、どんなことが待っているんでしょうか」
放送がながれてしばらくすると、ステージの幕が開く。
いよいよ、ミスコンが始まるようだ。
一人ずつステージを女性達が歩いていく。
歩ききった女性は、一旦舞台の袖に引っ込む。
ミスコンに出るだけあって、出場者の容姿は美しかった。
しかし夏葵以外のどの女性にも勝っているような気はしなかった。
夏葵はボーイッシュ系だから、女性らしさでは負けているかもしれない。
しかし彼女にはそれなりの魅力がある。
魅力においては、今まで歩いていたどの女性もうちの部員に勝てないと断言していい。
参加者に失礼な気もするし、仲間内だからという贔屓目があるのかもしれない。
しかし俺はそれでも今ステージに出ている人すら、
部員のみんなほどの魅力を感じなかった。
すると、ついに顔見知りの順番が回ってくる。
無論、ゆめではなく穂花だ。
彼女は色気を出すため、チャイナドレスで歩いている。
今まで出た出場者に比べても、随分魅力的だ。
敵として出会ったとき思わず目のやり場に困ったくらいだし、
彼女の色気はそのまま魅力に転化できるといっていい。
ゆめが去っていくと、今度はワンピース姿のゆめが歩いていく。
スーパーで見たが、海水浴場だとより海に咲く花という雰囲気が引き立てられる。
俺が審査員ならゆめの優勝にする、といいたいが流石に贔屓目すぎか。
だが、やはり彼女の活発そうな雰囲気はやはり魅力だ。
由莉のような熱血漢のような(女性なので『熱血漢』というのに語弊はある)、
活発さも捨てがたい。
無論夏葵のボーイッシュな活発さも同様だ。
幸美はクールな雰囲気であるため活発ではないが、
壁を越えようとする姿勢は評価に値する。
だが、やはりゆめのように周りを和ませる活発さはかなりの物だと思う。
そして他の参加者も一人歩き、舞台袖に引っ込む。
合計で12人ほどの参加者が、再びステージへと集まる。
「さあて、準優勝は……」
思わず息を呑む。当たり前かもしれない。
何せ、ゆめが参加しているのだから。
「廣瀬ゆめさんです!」
ゆめは惜しくも準優勝だったらしい。
となると、誰が優勝なのだろう?
「そして栄えある優勝は……
会場が異様な空気に包まれる。
優勝者が発表されるので、当然だろう。
「間橋穂花さんです!」
同じ学校の生徒が海水浴場の物とはいえミスコンの準優勝と優勝を飾った事実なんて、
ここに居るどのくらいの人間が知っているだろうか。
それにしても審査員は彼女の色気の方が、
ゆめの活発さより良かったのだろうか。
優勝理由は聞かず、俺はゆめを待っていた。
「ううっ、穂花に負けちゃったよ……」
「まあ、そんな時もあるって」
ゆめは少し落ち込んでいた。
優勝する自信があったようだが、準優勝どまりだったなら仕方ないかもしれない。
「まあ、準優勝できるのも充分すごいって」
俺はゆめを慰め、再び練習へと戻る。
そして、昨日焼きそばやいたところで今日は鉄板焼きの準備に取り掛かっていた。
夏葵が肉を手で千切っていく。
当然手は洗っているので清潔だが、随分と豪快だと思う。
昨日はへらで肉を裂いていたので、
余計にそう見えるのかもしれない。
ゆめはホテルから持ってきた石鹸でへらを洗っていた。
肉を裂いたへらなので当然細菌が心配だが、
せっけんで洗えば割となんとかなる。
洗剤とかを持ってこれないのは、まあ致し方ないだろう。
そして野菜も焼かれていく。
夏葵はフライドポテトを注文した。
ご丁寧にも事前入手した食券だった辺り、
鉄板焼きの時はフライドポテトででんぷんを取ろうと思ったのだろうか。
ともかく醤油を掛けて焼きあがった鉄板焼きを挨拶をして食べ終え、
俺達はホテルに帰って寝る準備をすませてからすぐ眠りに付いたのだった。
続く