夏練三日目・午前
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
三日目の朝、俺はゆめにこういわれた。
「あの、今日ミスコンがあるじゃない?」
「確かに、昨日受け付けていたな」
「その件でなんだけど、今日ワンピースを買って行きたいの」
「そういう服を持ってきてないのか?」
すると、会話に夏葵が割って入ってくる。
「買い物?今日の夜ご飯は昨日の具財の残りで鉄板焼きなんだけど」
「昼どうするかは知らないけど、ミスコン用の決めの服がないのよ。ビキニも何か違うし……」
「一応醤油とざるそば買う予定はあるけど、私だけで行こうと思っててさ」
「なら、ついでに買って来るわ」
ゆめはそういうが、俺は夏葵にこう突っ込む。
「一人だけで買い物行くつもりだったのか?」
「だって、連日大勢でスーパーに押しかけるのも迷惑な気がするし……」
それを聞いた幸美は思わずこういう。
「確かに一理あるわね。でも、ギフトカードどうするの?」
「渡してもらうわけにはいかなそうだし……」
後を追うかのようにこういってきた由莉に対し、
夏葵はこういう。
「醤油は300オラクルしないから、1000オラクル分のを渡せば充分よ」
「まあ、次善の手ではあるかもしれないわね」
「幸美が納得するところかどうかは分からんが、それには同意だな」
というわけで適当に時間を潰し、俺達はスーパーへと向かう。
俺とゆめ以外の部員は海水浴場に残ったので、
二人きりでの買い物である。
だが俺はゆめとここより大規模な施設である、
ショッピングセンターに来たことがあるので問題はない。
とはいえ流石に少しは緊張する。
食品売り場に行き、ざるそばをカゴに入れる。
そしてその後で一食五人分サイズの醤油を入れる。
昨日やったこととやることは変わらないのだが、
何となくだが空気が違う。
どうしてそう思うのかは聞かれても分からないが、
とにかく違うものは違うのだ。
なんていっている間にレジで会計を済ませることとなる。
副部長ということで、ギフトカードは俺に渡されていた。
「995オラクルになります」
取る時に一応計算しといてよかったと思いつつ、
俺は店員に1000オラクル分のギフトカードを渡した。
おつりをもらえる奴なのでそれはきちんと貰いつつ、
レジ近くのテーブルで醤油とざるそばを袋に入れる。
無論、氷を入れておくことも忘れない。
そして、俺達は衣服売り場へと向かう。
だが、婦人服売り場で付き添うのも何かが違うだろう。
「俺はこのへんで待っている」
エスカレーター付近でそういい、
俺はゆめを待つ。
静寂な雰囲気に包まれる。
だが不思議と寂しい感じはしなかった。
むしろ待っている時間というのも悪いものでは無い気がする。
こういうのは仲間が居ないとできないことだからだ。
静けさはいくらかの時が流れるまで続いた。
その間俺はエスカレーターが流れていくのと、
その音声をずっと聞いていた。
スマートフォンを弄るのもいい気はしたが、
彼女の選んだワンピースを直ぐに見たいという気持ちが勝った。
そうして時は流れる。
彼女がやってきた時、彼女は黄色のワンピースに包まれていた。
海辺に映えそうな花のような色のワンピース。
ピンクではなく黄色を選んだのは、
ピンクは良くあるいしょうだからだろう。
「どう、かな?」
「すっごく似合ってるぞ、ゆめ」
「ありがとう。そういってもらえると、やっぱり嬉しいわね」
「いわれ慣れているのか?」
「衣装係の人とかから頻繁にいわれるわね」
俺は思ったとおりのことをゆめにいった。
「やっぱ、演劇部なんだな」
「まあね。私は色んな役を演じたわ。それこそショタっ子の役も」
「その胸でショタっ子は無理があるだろ」
セクハラ気味だが、突っ込まざるを得なかった。
「そういうのは魔法のサラシでどうにでもなるのよ。さすがに普通のサラシじゃきついけど」
「そういうのを他の女性の前でいうのはやめた方がいいと思うぞ」
俺が思わずこういったのに対し、ゆめはこういう。
「そういうのをやっかむ前に、自分の魅力を磨けばいいのよ」
確かに正論だが。『持てる者』が『持たざる者』にそれをいうのはまずい。
そういうのは却って逆効果かもしれないからだ。
まあ相手は男の俺なので分かっていっているのかもしれないし、
そこを指摘しようとまでは思わなかった。
「そうか。それじゃあ、帰るぞ」
「その前に、着替えてからね」
そういってゆめはトイレへと向かう。
別段見ているわけではないが、着替える場所は十中八九トイレだろう。
しばらく待っていると、ビキニ姿になったゆめがやってくる。
「着替えるって、それにか。まあ、今から泳ぐしな」
「ミスコンは昼ごはん食べてからだし、まずはそれを持って帰らないと」
そういってゆめは俺の持っているレジ袋を指差した。
「そうだな。それじゃあ、海水浴場まで戻るとするか」
そういって俺達は、海水浴場まで戻っていく。
当然戻るのも二人っきりだが、だからどうということがあるわけでもない。
俺は脇役なので、そこでフラグを立てることはないはずである。
続く