夏練一日目・夜
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
バーベキューをしていたのだが、
まあみんなかなり食べる。
持ってきたクーラーボックスが無くなるのなんてあっという間だった。
だが、俺は知らなかった。それすらも待ち受ける災難の序章に過ぎないということを……
「さて、温泉に行くから別行動になるな」
そういった俺に、夏葵は残酷な事実を打ち明ける。
「この温泉、混浴なんだけど。さすがに更衣室は別だけど」
混浴イベントってあからさまに主人公が建てるフラグだ。
なんとかしてそれだけは避けたいのだが、
いかんせん夏葵からのプレッシャーが強い。
部員なんだし一緒に入れ、といわんばかりの波動を纏っていた。
「分かったよ……」
俺はプレッシャーに勝てなかった。
女子の団結力は強い。
俺は負け前提の戦いだろうと進んで受けるのだが、
こんなところでチームの仲をギクシャクさせたくもない。
というわけで、俺は彼女たちに見送られ更衣室に入る。
そのまま更衣室に引きこもっていてもいいような気はするが、
絶対後でばれるしな。
と考えてそれはやめておいた。
ちなみに、混浴なので特別にタオルの着用が許されている。
というかタオルをつけることが義務になっている。
むろんタオルが外れようと浴場なので通報はされないが、
恥ずかしいことには変わらない。
「さあ、行くぜ」
気合を入れて浴場に入ると、そこはなぜか貸切状態だった。
他の奴らはまだ海で何かやっているんだろうか?
とか思っていると、そこに魔道部の四人がやって来た。
「真彦ー!」
そう声をかけたのはゆめだ。
胸が揺れていて何となく扇情的だが、あまり気にしない方が身のためだ。
「ゆめは真彦が気に入っているのね」
そういったのは由莉だった。
「何となく分かるわ。あまり面倒事は嫌いそうで、実は熱い。となれば魅力は充分よ」
「まあ、魅力のある脇役もそれなりに居るからな」
俺は幸美から自分に魅力があるといわれて否定するのも何か違うと思った。
さっきいったように魅力のある脇役はざらに居るし、
むしろそういう脇役が居ないと物語の受けは悪いと思う。
主役が無双する物語だろうと脇役の支えがあるからこそ安心して無双できるんだろうし、
逆に主役が弱ければ脇役の援護は必須となる。
俺TUEEだろうが、YOEEだろうが脇役は等しく存在しなければならない。
であればこそ主役は主役たりえるのだろう。
そう、主役を支えるのはいつだって脇役だ。
だからこそ、脇役は尊い存在であり目指すべき目標なのだから。
すると、夏葵はこういう。
「真彦って不思議と人を引き付けるわよね」
「それは夏葵の方だろ?俺はそんなご都合主義とは無縁だ」
「そういう一歩引いたところが魅力として映っているのかもね」
夏葵の指摘は分からんでもないが、俺は主役になるとしたら力不足だろう。
主役はもっと才能のある奴が、それこそ夏葵やゆめがやればいい。
ゆめに至っては演劇で何度も主役をやってるのでピッタリだろう。
由莉も正義感はそれなりにあるし、メイドさんというだけあって主役になれるだろう。
幸美は性格を鑑みればさすがに主役向きとはいえないが、
現代風でもあるから問題ないと思う。
「俺は、この部活は俺以外みんな主役になれる素質はあると思うんだ。ただそれだけの話さ」
「でも、その理屈でいうとあなただって捻くれた主役ともいえないくはないわ」
そういったのは幸美だった。
「俺のスタンスなんだって。察してくれ」
「まあ、それならとやかくいわないけどね」
そして、温泉から上がり部屋へと向かう。
俺たちは寝間着に着替え、歯を磨いてからベットに入る。
さすがにまくら投げする元気はないのか、あるいはホテルだからか素直にベットに入っていたのだ。
俺にもそんな元気はなかったし、その点で特に問題はなかったが。
続く