幸美と夏錬と
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
そのはずなのだが、魔道トーナメントの団体戦で大将をやることになった。
おまけに幸美とも特訓することになったわけだが、
まあ断らなかった俺も俺だし付き合うことにした。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「ああ、大怪我しないよう気をつけつつやり合おう」
俺はそういい、位置に付く。先手を取ったのは幸美だった。
「フリーズフィスト!」
彼女がそういうと氷の礫が幸美の拳から照射される。
「バーニングフィスト!」
俺は炎を拳から照射し打ち消す。
「やるわね……フリージングランス!」
幸美が氷の槍を召喚したと思ったら、それを俺に投げつけてくる。
「うおっ!?」
俺はそれをとっさにかわす。無論、本気で当てる気はないだろうが。
ちなみに相手を殺してしまった場合、魔道の試合においては失格となる。
また、後遺症がレベルの重体を負わせてしまっても失格だ。
とはいえ今回仮に当たったとしても、
制服にかかっている魔法でそこまでの傷を負うことはないのだが。
魔道には柔道や空手のような所定の服が存在しないので、
戦う時は制服を着て戦うことになる。
だが、上記の理由により制服で戦うことに不安は無い。
無論そんなことを考えている間に後ろへ回った幸美が槍を拾うが、
俺は後ろ飛び蹴りで幸美を牽制する。
「やるわね……」
「槍を投げるくらいで出し抜けると思われても癪だからな」
「脇役志望でもそう思うことはあるのね」
「脇役には脇役の意地がある。そう簡単にはやらせないさ」
「だけど、私もそう簡単にはいかないわよ!」
幸美は槍で俺を突こうとする。
狙いはわき腹だ。
さすがに槍で腹のど真ん中を直接突くと、
いくら制服に魔法がかかっているとはいってもそれを貫通して大怪我を負わせてしまう。
なので魔法で形成した武器を使えるルールである魔道においても、
その使い方が制限されている武器なのだ。
今は正式な試合ではないが、練習なのでそういう心遣いが自主的に行われるのだ。
「行くぞ、バーニングナックル!」
ともかく、俺は幸美の隙をついて炎を纏ったパンチを彼女にぶち当てる。
「ぐぅっ……さすがにやるわね」
「模擬戦闘は一日一回にした方がいいな。幸美は結構強いから寸止めできない」
「そうね。さすがにこんなパンチを何度も食らったら身体に応えるし」
そういって俺達は的抜きをし始めた。
そんな毎日を過ごしているといつの間にか時は流れ、夏休みに差しかかろうとしていた。
校長先生のながったらしい話もそこそこに聞き流せば、
中等部最後の二学期の締めくくりである終業式は終わりを迎える。
すると、そこに夏葵が現れてこういう。
「明日からは夏錬よ。分かってるのかしら?」
「ゆめのスケジュールに合わせるためとはいえ、殆ど間が開いてないよな。一週間合宿だろ?」
「貴重な部費から合宿費出しているんだから、来なかったらお仕置きよ!」
というわけで、翌日。俺は合宿所のホテルに向かう。
ホテルといっても安めの物だが、海に面しており設備も悪くない。
浴場が同じ施設の中にあり宿泊者なら無料で使えるし、
朝食も豪勢とまではいえないが値段を考えれば文句なしの質を誇っている。
五名一室で連泊割引がついて一人一泊一万オラクルである。
合計金額はこれに5と7を掛ければいいので三十五万オラクルとなる。
それに一週間における五人分の食費を足せば、
大体四十万オラクルから四十五万オラクルだろう。
むろん食事代も部費から決済されることになっている。
全国大会の遠征費が部費とは別に出るからとはいえ部費の殆どを使っているので、
この辺りは少人数の強みを生かせたんじゃないかと思った。
俺はホテル近くのラーメン屋に居た。
集合場所はここだったからだ。
チェックインが14時なので、それまではラーメンでも食べて待っていようということらしい。
集合時刻は13時だが、俺は十分前にそこへたどり着いていた。
俺がそこで待っていると、五分前に他の四人もやってきた。
「早かったな」
「うう……こういうのは部長が早くくるべきなんだけどね」
「気にすることはないわ、夏葵さん。部費から落とす際の手続きとかがあるし」
そういったのはゆめだった。
「私は基本五分前に来るからね」
「由莉もそういう性格なわけね」
「さて、こうやって駄弁ってるのも何だし入ろうぜ」
そういって俺達はのれんをくぐる。
「いらっしゃいませ」
「みんなは何が食べたい?」
すると、何を食べたいのか問いただした夏葵以外の全員が一斉にこういう。
「この店のおすすめ、とんこつラーメンだからそれにする」
どうやら、みんな考えることは一緒らしい。とか思っていると夏葵はこういう。
「奇遇ね。私もとんこつラーメンを食べようと思ってたところなの」
夏葵はそういって、店主にこういう。
「おすすめのとんこつラーメン五つ」
「はい、とんこつラーメンね。飲み物はどうされますか?」
「みんな、水でいいよね?」
「まあね」
それについても全員同意のようだった。