マジックロープ
俺は和久井真彦。至って普通の脇役だ。
ゆめと一緒に平田のショッピングセンターに来ていた。
家族と一緒ならどうってことは無い場所だが、
男女二人っきりのショッピングセンターはさながらデートのようだ。
「いつ見ても広いわね。とりあえず、服でも買わない?」
「男物と女物を一緒に売ってる店はあったけな」
「マジックロープがあるわよ。案内見てないの?」
マジックロープ。それは安くてそれなりにデザインもいい店だ。
魔法使いはロープを被るということからつけられた名称で、
薄利多売で利益を得ている。
魔法がまだ未開発で一部の人間だけの物だった遠い昔はともかく、
今の時代にそんなの話をしても笑い話だと思えなくはない。
しかしそういう昔の魔法使いの服装は教科書にも載っており、
今の俺達にとっても印象的な物なのだ。
「分かったよ。しかし、ノリノリだな」
「折角の訓練なんだし、楽しまないと損よね?」
ゆめは演劇部だし、色んな役を演じたのだろう。
ボーイッシュな魔獣使いとかヒーローになりたい男の娘とかは、
さすがにその大きな胸とは不釣合いだろうが。
「お前のそういうところ、少し羨ましいな」
「あなたがそこまで暗いとは思わないけど?」
「その積極的なところが羨ましいだけに決まってるだろ」
こういい返したら図星に聞こえるかもしれないが、
暗いといわれたらいい返したく物だ。
「私は、脇役に憧れるあなたも素敵だと思うけどね」
「それはまたどうしてなんだ?」
「自分から引き立て役に回ろうって人は中々居ないからね」
それは俺が脇役に憧れる理由でもあるな、
と思いつつこういう。
「まあ、俺くらいの子供は目立ちたがり屋が多いからな」
「いくら魔法があるとはいえ痛い言動をする子もいるしね」
それは俗にいう中二病というやつだ。
自分は魔王の生まれ変わりだとか勇者の生まれ変わりだとかいいだして、
かっこつけたりすること思春期特有の現象といってもいい。
勇者や魔王は伝承の中にしか居ないが、
勇者の子孫は実在するという説もある。
しかし転生があったとして記憶を残したまま別の存在になる、
なんてことは不可能だろうという説が強い。
要するにたわいの無いごっこ遊びだ。
妄想乙、といわずに温かく見守ったほうがいいと思う。
「ねえ、これ似合ってるかな?」
とか何とか考えている内にゆめが服を選んでいた。
地味な紺のブラウスだが、ゆめはそれでもさまになっていた。
「似合うと思うぞ」
「それじゃあ、あなたにも。ペアルックだから男物よ」
そういってゆめから俺に男物でありながら、
彼女のそれに似ている紺のブラウスが渡された。
服を選んでないことを見透かされたようで少し気恥ずかしかった。
続く