致命的な日常 倦怠
日常には、うんざりするような事が多すぎる。
例えば、生きている事とか。
これだけでもう、致命的な倦怠感に苛まれる。呼吸する事さえうんざりしてしまうのだ。かといって、生命の営みには逆らえない。最悪だ。嫌でも止められないのだから。
拷問だ。
そんな事を考えながら、家でのんびりしている時だった。
「やほ」
陽気な声と共に、幼なじみの橋野 名雪がやって来た。長い髪を揺らしながら、真っ直ぐに僕の方へと歩み寄る。
そして、僕の唇に、自分の唇を重ねる。
いつもの挨拶だ。
「いやぁ、アイス食べようと思ったんだけど、一人で食べるのも虚しいでしょ?かといって、こんな薄ら寒い季節にアイス食べようなんてヘンタイ、そう居ないからさ」
それで僕の所か。なるほど、アイス、と言う言葉に魅力を感じた僕がヘンタイだと言う事は素直に認めておこうか。
彼女はコンビニのビニール袋をガサガサと探り始めた。他にも何か買ってきたようだ。まぁ、大体予想は付くが、それは放っておこう。
「さぁ、喰おうヘンタイ」
「僕の名前は一居 一だ」
ふざけた名前だ。が、僕の名前だ。名付けたヤツは馬鹿じゃないだろうか。
「知ってるけど、自分の恋人を鎖で縛ってから犯すようなヤツは、世間ではヘンタイと呼ぶよ。私は世間に従っておく」
彼女はそんな尤もな事を言うと、袋から取り出したソフトクリームを舌先で舐め取った。
「甘い」
「しょっぱかったら驚愕だ」
僕も手渡されたソフトクリームを、軽くかじる。冷たい。暖かかったら驚愕だ。
「ねぇ、まだ自殺したいとか思う?」
「ああ、思うよ。生きている価値は見当たらない」
「そうだね。じゃあ、私と居る時はどう?何の価値もない?」
「卑怯だな、その質問は。・・・もしかして、心中でもしたいのか?」
「どうして?」
「そこで僕が、無価値だ、と答えれば、キミまで無価値になる。そうすれば、キミは、じゃあ私も死のうかな、とか言うに決まっている。しかもその後、きっと、いっそ心中しようか、とか言い出すんだ」
彼女は目を丸くしながらも、ソフトクリームを舌先で舐め取っている。
「大当たり。やっぱ私を一番理解してるのは一ちゃんだ」
「19年も一緒にいたんだ。そりゃ理解もする」
「なるほど。でもそうだとしても、やっぱり私を分かってくれるのは一ちゃんだ」
再びのキス。甘い味がした。しょっぱかったら驚愕だ。
「さて、拘束プレイ大好きなヘンタイ君、アイス食べ終わったら、何しようか?」
そういう名雪は、すでに8割方は食べ終えていた。
「ゲームか?読書か?はたまた拘束プレイか?さぁどれを取る」
3番目が魅力的だが、昼間からヤるような色情狂にはなりたくない。
「じゃあ、昼寝でもするか」
「おお、魅力的な提案だね」
結局は、何でも良いらしい。
僕も、何でも良いのだが。3番以外。
「さて、お布団お布団」
なんで布団の在処を知っている。
「さぁ、寝ようか」
何故一枚しか敷かない。しかも狭いぞ。
「ささ、旦那様〜」
何故そんなに楽しそうなんだ。手招きして。スカートの中身を露出させるな。
「カモ〜ン」
「・・・やる気無くした」
致命的だ。
僕は適当に寝転がると、そのまま名雪に背を向けた。
「あら、すねた?」
「別に。お前も寝ろ」
目を閉じれば、視界は漆黒に染まる。この時だけは、本当に落ち着く。
「・・・一ちゃん」
何かが、背中に当たった。
柔らかい。
名雪の、意外に大きな胸だ。
「・・・しよ」
結局、僕はこの日、色情狂となった。




