トュルエラの町2
日が暮れ、そろそろお腹が空いたので麻製の茶色の服に黒のズボンそして、念のため腰に剣を刺し一階に降りていく。
下にはすでに20人近くの客が仲間たちと酒を飲み交わしていた。
レイも空いてる席に座り、周りを見渡す。ニーナと40代の女性が接客をしている。
…忙しそうだし、しばらく待つか。
せっかくなので近くに居る人達を鑑定していく
レベルがあがり、半径5メートルまで出来るようになった。正直5mはめちゃくちゃ嬉しい。今までは1mしかなかったので戦闘中に見るのは一苦労だった。
それに今では鑑定を2種類に使い分けることが出来る。
名前、レベル、スキルのみを表示させる戦闘用
と、さらに種族、年齢、体力、魔力を増やす本来の鑑定の2種類である。
前者は一瞬で開く事が出来るが、後者は少しだけ時間が掛かる特に体力と魔力を表示させるにはどう頑張っても5秒は集中しないといけない。なので正直戦闘では使えない。
なので、今回は後者を使用する。顔が見えるものから順次鑑定していく。
人間族
名前 キース・ウォーター
年齢32
レベル5
体力 180
魔力100
技能スキル
・交渉術レベル2
・計算レベル2
獣人族 犬人族
名前 ザック
年齢23
レベル13
体力450
魔力50
武器スキル
・格闘術レベル2
特殊スキル
・嗅覚レベル2
人間族
名前 アニータ
年齢22
レベル15
体力450
魔力168
武器スキル
・弓術レベル2
魔法スキル
・生活魔法(火・風)
人間族
名前クラスィー
年齢16
レベル8
体力280
魔力200
魔法スキル
土魔法レベル1
獣人族 牛人族
名前 レックス
年齢18
レベル 12
体力500
魔力60
武器スキル
・斧術レベル1
特殊スキル
・剛腕レベル2
などなど、うんなかなか有意義な事が分かった。一つはみんな魔力が多いこと。これが異世界人だからなのか、それとも他に何か理由があるのか?
後はレベルがそんなに高くない。俺でも1週間ほどでレベル8に上がったというのに何故だ?最初から、槍術があったお陰だろうか…
それに冒険者はみんな若いな。これも中には40前後も居るけど…この辺も明日確認だな
そろそろ、ニーナの手が空いてそうだったので、声を掛ける。
ニーナがこちらを向き笑顔で近づいてくる。
…可愛い。
「レイさん、お待たせしてしまいましたか?」
「いや、待ってないよ。大盛況だね。いつもこうなのかい?」
「うーん、今日は少し少ないぐらいだと思いますよぉ。今日は野菜スープとニードルラビットのステーキデスねー。飲むものはエールか果実酒。他は別料金です」
「そうか、じゃあエールでお願い。」
「かしこまりましたぁー」
といって厨房へと去っていく。
エールかぁ。初めてだな。確かアルコールの低いビールみたいなものなんだっけ?
30分ほどでようやく、料理が来た。
茶色の丸パン2つに、塊のチーズそして、野菜スープにステーキだ。ステーキはかなり大きい。アメリカンサイズだ。
思ってたよりも量がある。だがこちらに来てから食事量が1.5ぐらいに増えた気がする。よく、動くからかな?たぶん、食べれると思う。
味は野菜スープは素材と塩の味。本来なら物足りなく感じるがこちらに来てからロクな物を食べてないので素直に美味しく思う。
パンは黒のパンよりはかなり柔らかいし、しっかりとパンの甘さがある。黒パンよりは柔らかいというだけで、固いことは固い。ステーキはソースが掛かっている。食べてみると鳥のもも肉を少し噛みごたえよくした食感。ほんのりとハーブの香りがしている。タレも独特な味だ。うん、美味しい。いや、説明だとそんなに美味しそうには感じないと思うが。今までがゴムだったのだ。ここ2日は肉を焼いて食べれたが所詮塩と胡椒だし。
全体的に薄味に感じるがこれも日本食に慣れてたからそう感じるのだろう。味の組み合わせや、素材の味を上手く合わせている工夫は感じられる。エールを飲む。ヌルめだが、アルコール独特の喉を通っていく喉越しにちょっと感動した。今まで水だったからなぁ。うまいなぁ。まろやかな味だ。ほんのりと何かの果物の香りが口の中を駆け巡る。うまいなぁ。これはお代わり決定だ。その後合計4杯を飲み完食する。デザートにピピを2つ食べた。…ふう。お腹か一杯だ。久しぶりの少し酔っているみたいだ。レイはほんのりと赤くなった顔をしながら、追加分をニーナに払う。
「美味しかったよ。ご馳走さま。しばらく野宿だったから、エールが凄い美味かった。」
「レイさん旅人だったんですかぁ。トュルエラには何しに?」
「ああ、まぁ寄っただけなんだけどね。とりあえず冒険者登録しようかな」
「あれ、てっきり、名のある冒険者なのかと思ってましたぁ。」
「いやいや、田舎から出てきた新米だよ。ハハッそれでさ、登録出来る場所ってどこか知ってるかい?後、武器を扱う所も」
レイは酔いのせいもあり、口調が少し軽くなっている
「ああ、それなら、近いですよ。大通りに出て右にまっすぐ進めば大きな3階建ての建物がありますからそこで出来ますよぉ。赤い屋根が目印です。武器は何軒かありますねぇ。一番大きくて種類が豊富なのはゴルドック商会かなぁ。それも大通りに出ればすぐにありますよぉ。」
「そうか、ニーナありがとう助かったよ」
「いえいえー何でも聞いてくださいねぇーこの町にはそれなりに詳しいですからぁ。ふふふー」
すると、向こうから
「ニーナちゃーーんエールお代わりぃー」
と、声が掛かる。
「あ、はーーい。ではレイさんまた」
ニーナはニコリと笑い去っていく。
きっと人気者なんだろうなぁ。と思う何故なら、余り長く話していると背中に鋭い視線が刺さっていくからだ。
もう少し可愛いニーナと、話して居たかったが仕方なく二階へあがり、ベッドに横になる。だが正直まだ眠くない。
ふと、考えるとこうして、女性と話をしたのは久しぶりかもしれない。前はずっと部屋に篭っていたし、こちらに来てからもむさ苦しい男たちとしか会ったことがなかった。
町に入り、レナと会いそして、ニーナに会った。
ふとニーナの笑顔が頭の中で駆け巡る。まだまだ仲良くなったとは言い難い。話した内容も簡単な事でしかない。ニーナの事をレイはまだ何も知らない。だが、ニーナの笑顔が頭から離れない。
レイはこちらに来てから今まで必死に抑えていた何かがふつふつと湧き上がっていくのを感じた。
恐らく酒のせいや、安心して寝れるという環境せいもあるのだろう。レイは慌てて抑えて心に蓋をする。
が抑えつければ抑えつけるほど、何がが抵抗するように力が強くなっていく。レイは必死に抑えつける。
この時、抑えつけるのではなく別の方法を取っていれば、この後の出来事は変わっていたのかもしれない。
だが、若者にとって、現実は非情だ。唐突に訪れてしまうものだ。
…ダメだ!このままでは! 負けてしまう!!
すると、レイの抑えつけていたものが弱気になってしまったレイの感情を察知してか、
更に強く暴れ出す。黄河に流れる濁流が如く…そして、ついに、レイはその力に負けてしまった。自分の中に潜む何かを解き放ってしまった。
スッとレイの顔から表情が消えた。まるで、うちに潜む何かを周りに知らせないような
氷の様な冷たい無表情に変わる。
レイは静かに立ち上がり、タンスに掛けていた革鎧を着込み出す。そして、アイテムポーチを腰につけ、中に手を入れ、持っている硬貨を確認すると、氷の様な無表情が一瞬ニヤッと笑った気がした。だが、それは一瞬のことすぐ様また、無表情に変わり、立て掛けてある槍を掴み、扉を開け一階へと降りていく。
接客をしているニーナへ近づいて、
肩を叩く。
「…わ!びっくりした。あ、レイさん。あれ?どうしたんですか、そんな格好?」
「…カギお願いします」
レイは質問には答えず、カギをニーナに渡すと建物の外へと歩いていく。
「え?…レイさん?もう夜ですよ?どちらへ?」
レイさんは、ピタッと止まる。そして、背を向けたまま
「………戦場へ」
「……え?」
そして、レイは暗い夜の町へと消えていった。




