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ファウストの聖杯 ―Please Burn Me Out―(Prototype)  作者: 明智紫苑
本編、フォースタス・チャオの物語
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Mordred

「双剣の騎士、ベイリン」

 マーク…マーカス・ユエ(Marcus Alexis "Marc" Yue)はゲームセンターにいた。彼は格闘ゲームで遊んでいる。連れはいない。彼は時々、学校帰りに一人でこのゲームセンターに立ち寄る。

 軍隊や警察官の訓練にも使われる技術の応用。彼は個室に入り、体を動かした。このカプセル内でのプレイヤーの動きが、ゲームのキャラクターに反映される。

「チクショウ! こいつめ!」

 マークは、両端が丸く成形された棒状のコントローラーを振りかざした。それも、二刀流だ。

 この時代においては、このようなヴァーチャルリアリティ技術は古典的なものである。しかし、この手の疑似体験ゲームは今でも根強い人気があった。

 このゲームは様々なシチュエーションを選べるが、彼が選んだのはアーサー王伝説をイメージした異世界だった。

「フン、雑魚どもめ」

 騎士ベイリンに扮したマークは、次々と襲いかかる敵どもをなぎ倒す。彼はカプセルの中で飛んだり跳ねたりしている。

 あたかも、自らの鬱屈をしばき倒すように。

「あいつ、絶対に怪しい」

 父の古くからの知人で教え子。そして、母の絵のモデルとして雇われている男。新進気鋭の小説家。

 フォースタス・チャオ。

 マークは、自分より十歳年上のこの男が気に入らなかった。

 いわば、疑似カイン・コンプレックスだろう。

 確かにマーク自身も、幼い頃からフォースタスと顔見知りだ。しかし、彼は早い時期からこの若い男に対して嫉妬していた。フォースタスは彼に対して親しく話しかけようとしていたが、マークはサッサと自室に閉じこもった。

 どうやら、マークの父アーサーはフォースタスに対して、マークの兄代わりの役目を期待していたようだが、マーク自身は自分が一人っ子である事に満足していた。なぜなら、彼は自らの嫉妬深さを自覚していたからだ。

「雑魚どもが!」

 彼は、貧乏大家族の息子であるクラスメイトを見下していた。しかも、ただ単に貧乏人の子だからではない。そのクラスメイトの両親が、あるカルト集団の下っ端信者だという噂があるのだ。問題の少年は、他のクラスメイトたちに対して礼儀正しく優しく振る舞っていたが、マークの目には、それが単なる媚びにしか見えなかった。事実、問題の少年の陰口を言う連中は少なからずいる。

 それに対して、彼自身は自らの一人っ子暮らしに心から満足していた。友達だっていない。余計な兄弟姉妹や友人たちごときと比較されて、肩身の狭い思いをするのは真っ平だ。家の中の「王子」は、自分一人で十分だ。

 それに、地球史の授業で嫌というほど知っている。一体どれだけ骨肉の争いが繰り返されたのか?

「ケッ、クソッタレが」

 彼はコントローラーを所定の場所に戻し、カプセルを出た。


 そんな彼を目で追う男がいた。ダークグレーのスーツに身を包んだ彼は黒人のいかつい大男で、ゲームセンターに隣接するカフェから出てきたところだ。

「あの子、時々来るけど、友達を連れて来た事はないな」

 男は携帯端末を取り出し、検索する。

「作家アーサー・ユエと画家ライラ・ハッチェンスの一人息子か…。なるほど、アスターティのクラスメイトか」

 彼はマークが出ていった玄関を出て、携帯電話で何者かと話す。

「おお、ヤン。さっき、アーサー・ユエの息子を見かけたのだけど…」

 彼は今まで何度となくマークの様子を観察していた。


《我ら、〈地球人〉は本来あるべき秩序を取り戻し…》

 街宣車がアジテーションをがなり立てる。カルト教団〈ジ・オ〉の政治部門〈神の塔〉の街宣車だ。

「ふん、うるせぇ奴らだな」

 マークは鼻を鳴らす。彼は内心、相手に対して中指を立てている。

「何が『秩序』だ」

 彼は大人たちを軽蔑しているが、その理由の一つに「秩序」があった。

「どうせ奴らはてめぇにとって都合の良いガキばかりを求めてるんだろ」

 子供好きの大人はたいてい、自分のような子供が嫌いだった。マーク自身も、あざとく子供好きをアピールする大人が嫌いだった。大っぴらに若者を軽蔑する大人もムカつくが、逆に若者に迎合する大人も目障りだ。

 身体改造をしているアウトサイダーたちが街宣車に罵詈雑言を浴びせ、舌を出して中指を立てている。マークはあのアウトサイダーたちにはさほど嫌悪感は覚えない。

「あいつら、かっこいいとまではいかないけど、かっこいいんだな」

 マークは「人外」アウトサイダーたちに対してシンパシーがあった。自分もあのように逸脱したい。しかし、学校の校則ではあのような身体改造は禁止されている。

「規則なんてクソ喰らえだぜ」

 マークは家に戻り、自室に引きこもる。殺風景な部屋には、これといった書物はないが、彼は読書家自慢をする連中を軽蔑していた。

 軽蔑。そう、それこそが彼の生き甲斐ですらあった。しかし、それ以上に彼は「怨念」を持て余している。

「あの野郎、許せねぇ」

 マークは壁を蹴飛ばす。しかし、衝撃に強い素材はやんわりと彼のキックを受け流す。

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