第四章 ⑤
(やっぱり、ついてこないでって言えばよかった……)
学校の廊下を歩くミラフはめちゃめちゃ目立つのだ。
綾香はだんだん麻痺してきてしまったが、普通に見たらミラフは超絶美形性別不明の謎の西洋人だ。今は当然、翼もないし。
(睦朗だってめちゃめちゃ目立つし……。わたし、何者だよって思われてますか?)
美里が言うには、一般的に女子とは目立つ女子を嫌う生き物であるらしい。綾香自身はたいして目立っちゃいないだろうが、連れがこうも目立つとなるとどうなのよ?
「あう……。数字錠、また忘れた」
仕方ないので、今日もまた睦朗のロッカーを借りることにする。大した貴重品は持っていないのだが、殺傷以外になんの目的もない黒いコンバットナイフがさすがにやばい。
(筋肉痛……じゃなくって肉離れ)
綾香が睦朗のロッカーの錠をガチャガチャやっていると、「赤ノ倉綾香さん」と背後で呼ぶ声がした。聞き覚えのある低い声。
ミラフの横に、二木先生がいた。
(はうう! 美形西洋人の揃い踏みですよ!)
美少年と美青年ですよ! 中性美と男性美ですよ!
「お友達を連れてくるのは、学園祭のときだけにしてください。……あなたも、ご用でしたらまず事務所で来校手続きをしてください」
二木先生はミラフを見据え、毅然と言った。
「すみません~。以後気を付けます~」
(おこられちゃったじゃない! もう!)
ミラフをにらみつけたら、天使はべーっと舌を出した。むか。
「もう授業がはじまりますよ」
二木先生に促され、綾香は教師と天使をその場に残して、教室へ向かった。
「となりいーい?」
綾香が一限目の教室で席についていると、声をかけられた。和顔ピアスの青島君だ。
「叔父さんは、今日は来てないの?」
「そうみたい」
調査の様子はどうかと何度かメールしてみたけれど、睦朗から返信はない。少々心配だった。
「ねーねー、さっき赤ノ倉さんが一緒にいた金髪の人、どういう知り合いっ?」
さっそく来たか。
綾香は身構えた。青島君に下手なことは言えない。
「親の知り合いー」
「お父さんの? お母さんの?」
「両方ー」
「なにしに来てたの?」
「さあ……?」
様子見とか言ってたけど。なんの様子見だか、綾香は知らない。
「まだいるのかなあ?」
青島君は伸びあがって廊下や窓の外を見回した。
「帰ったんじゃない? 二木先生に怒られちゃったから。『お友達を連れてくるのは、学園祭のときだけにしてください』って」
「二木先生に? ふーん……。なーんだ」
「きれいだけど女の子じゃないよー?」
男でもないけど。
「女の子じゃなくたっていいよ! かっこいいじゃない。また連れてきてよ。会わせて会わせて! お願い!」
「あんまり関わり合いになんないほうがいいと思うよ……」
だって犯罪者だよ? 銃刀法違反。キラキラした目をしている青島君に、心の中で綾香は言った。
ちょっと先が思いやられると思った。




