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家の犬が美少女になりました。

スラリと伸びる手足に透明感のある白い肌、起伏にとんだ躯体。

桜のように美しいピンク色をしていて腰にまで伸びる髪は、ツーサイドアップと呼ばれるシルエット。

それからピンッっと背骨の付け根あたりからから伸ばされる柔らかそうな紐状のもの…

そしてピョコピョコ動く犬耳―――


自分の部屋に戻ってみると、どういうわけかハイテンションな、頭にケモ耳、腰に尻尾を生やした女の子が、裸で舞っていた。

夢かなー…いや~でも頬を抓ると超いてぇ…

俺、坂之柚子瑠≪さかのしたゆずる≫の知り合いに人様の部屋の中で裸踊りするような人物はいない―――

ましてやこんな犬耳生やした女の子とか、人生で一回も見たことは画面の中以外ではなかった。


あ、目があった―――と思っていると。

彼女の蒼い瞳が俺を見るや否や輝いて――


「ゆず―――」


こちらに向き直ったかと思うと俺の方に向かって飛び出してきた。

間髪入れずに俺は全力で扉を閉める。



          ドゴォ



閉まった扉の向こうから鈍い音がしたけど、とりあえず無視で。

額に手を当て俺は今まで喋ったことのある人間達を思い出す。


母親、父親、兄貴、学校の先生達―――あと数少ない友人。


いないな…というか思い出すと俺の交友関係が想像以上に狭かった。

両手で数えられるぞ、まじで。

いーち、にいっ、さーん! ―――って幼稚園児みたく数えられるな。

というか名前覚えてる奴、10人以上いねーわ。

もちろん知ってるだけの奴ならもう少しいるとは思うけど。

―――さてそんな俺の残念な人間関係は置いておこう。


とりあえず俺が名前を知っている奴じゃない。

かといって俺は人前で目立つようなことをした覚えもない。

―――あいつ誰だ?

それにしてもあの子、外で見たら普通に一目惚れするレベルで可愛かった。

家の中―――それも俺の部屋の中にいるせいで不審者以外の何物でもないけど。

というか裸、だったよな…

親以外の裸見るの初めてかもしれん。

つまりそれは俺が童t―――いや、俺はただ運命の人を見極めてるだけだっ!

それにまだ俺は高一、青春は始まったばかりなのだ。

先日の入学式、すでに俺はクラスから浮いてた気がする。

そんなことは気にしないでおこう、オレ、トモダチ、ヒャクニンツクルンダ。

先程からオーバーロード気味に動く頭が現実逃避を始めて話をずらそうとしてくる気がする。



  ドンッ――ドンッ―――ドガッ!!…ドンッ―――



扉の向こうから鈍い衝撃と鈍い音が何度も襲ってきた。

開かない様に俺が抑えている扉を開けようとあの謎の少女が向こう側から、

タックルでもしている可能性がある。

不味い―――下手すれば扉の蝶番≪ちょうつがい≫が壊れて扉がダメになりかねない。

壊れたら…親に怒られるっ!


衝撃が一瞬やんだところで、俺は扉を開け放った。



「―――ふぇっ?! キャァァァアア――――ッ! 」

  


扉に再度タックルをしようとしていた少女は突然開け放たれた扉に気付くことなく、

そのままこちらに飛び込んできていた。

その為に彼女は扉が先ほどあったまでのところを通過、そして途中でバランスを崩して壁に激突。

今までで一番鈍い音が壁を鳴らした。

その音の原因である張本人はそのままゆっくりと床に倒れこんでのびてしまった。


ちなみにこれ計ったわけじゃないよ? 扉の安全を最優先した結果なんです。

…うーん困った。

俺は倒れた少女の背中をじっくりと観察しつつ今までの事を振り返ることにした。


とりあえずだ。今日の一日を振り返って不審者が侵入するような隙があったかを確認する。

今日は土曜日で、親や兄貴は出かけているせいで家に居ない。

ちなみに親は二人とも共働きで、土曜日でも出勤しなければいけない日が多々ある仕事に就いている。

一方兄貴は、どこで知り合ったか分からない女の人達と遊びに行っている。

くそっ…弟の俺には友達すらできねぇというのに。

そして土曜日に予定なんてなかった俺が起きたのは朝の7時30くらい。

俺、超早起きだね。

ちなみに小学校の頃のラジオ体操は毎日欠かさずいった。

終わった後にスタンプ押して貰うのが好きだったなぁ……

とりあえず起きた後、今日はジャージを着て俺は日課のランニングに出かけた。

つまり不審者が入ってくるのはこの時間しかない。


…いや待てよ――家には非力ながらに番犬がいたはずだ。

我が眷属、ダックスフントの【ポチ】という奴が。

体が小さく飼い始めた当初は出不精で外に連れて行こうとすると頑なに拒否る奴だった。

けれど最近は打って変わり外に行っても割と元気に歩いてくれるようになった家の可愛いワンコだ。

もし追い払えなくても、俺が帰った時にでも不審者がいることをあいつは伝えてきてくれたはず…

しかしさっきからそのポチの姿が見当たらない……まさか―――コイツにやられたのかっ?!

何てことだポチ……‥俺の唯一の親友だったのに――


くっ――許すマジこのアマっ。

俺が最大級の罰を与えてやる―――


「…う、うーん、あっ」


声がしたので下を見ると彼女と目があってしまった。


「しまったっ、コイツm――――」


俺の脳がこの場から離れろと体全体に伝達しきる前に、目の前の少女が立ち上がる。

そして振り向いて逃げようと体を反転しきるまえに彼女の飛びつきにあって床に突き倒される俺。

そのまま彼女は俺に馬乗りになり俺の自由が拘束された。


「ゆずるぅー! あのね私ね、ひt―――」

「糞っ! 離せよ、俺のポチを返せっ! 」


相手の言葉を無視し俺は暴れる。

割と本気で抵抗をした。

するとあっさりと彼女の股下をすり抜けて脱出――

というよりは彼女がどいてくれたお蔭で抜け出せた。

俺の必死の抵抗の末の行動だよな――憐みでどいてくれたとかじゃないよな。

そのまま彼女から距離をとり睨みつける。


「はぁ…はぁ、俺の、俺のポチを返せっ! 」


先程の抵抗で俺の貧弱な体は息を荒げていた、別に変態が『はぁはぁ』とか言ってる奴ではない。


「…なに言ってるの柚子瑠? 私の事解らないの? 」


彼女が若干悲しそうに顔をかしげて俺を見てきた。


「お前なんか知ら…」


彼女の態度を見て俺の思考が停止する。

そして俺が頭の片隅で考えていた、あり得ないと捨て去った考えが、一つ――また一つと繋がってゆくのが解る。

それはまるで最初は分からなかったパズルがある時、ふと分かってしまうような感覚。


―――まさかっ、いやでもそんな―――ALIEN(ありえん)!


もう一度彼女を見る。

彼女に生える犬耳…そして先ほどおしりの方に生えていた尻尾の毛並みや色から、俺の考えは完全に確信へと変わった。


「まさか…おまえポチ―――なのか?」


恐る恐る口を開き効く。


「そうだよ」


かぶせ気味に彼女が答えた。


「う…‥う…うっそだぁぁああああ―――――――――――――――――――――――っ!! 」



              ×      ×      ×



『家の中心で悲鳴を上げる』そんなドラマが作れなくもなさそうだなと思った今日この頃。

俺がこの状況をパニックにならない程度まで呑み込めたのは叫んでから15分後くらい後だった。

その間、ポチが心配して声を掛けてくれたり背中を擦ってくれたお蔭もあり、俺は落ち着きを取り戻した。

決して普段ならモザイクかかっている様な所がいっぱい見れたとか、

胴体にある二つのでっかいボールの感触が気持ちよかったとかそういうわけじゃない。

オレハ、チョウ、シンシダカラネ。


まあ何はともあれ、俺は人と会話する程度までには回復した。

もちろん完全に呑み込めたわけじゃあないが。

しかしまあ足元から鳥が立つとはよく言ったものだ。

以外過ぎるよっ! 誰が自分家の愛犬が美少女になってると思うんだよっ。

だからと言ってガチムチの筋肉ダルマに化けて出られても困るんだけどね。


「うーん、とりあえず服とか持ってないのか? 」

「服いつも着てないよ?」

「……そう…だな、でも着てくれないか? 目のやり場にこう―――困るんだが」


流石にこのままでは彼女の貞操が危うい…もちろん襲うのは俺だ。


「いいじゃん。どうせ何時も見てるんだし」


彼女がジト目で俺を見てくる。

そりゃそうだ。

たとえ彼女が犬でも男の前でいつも裸でいさせられていたのだ。

そしてそのまま外に散歩確かに考えるだけで恥ずかしい。

それに慣れてしまえばこの状態でも気にならないというのも納得――しちゃダメだな。

うん。だって犬は裸は裸でも全身を体毛が覆っていて一種の服みたいなもんだし。

逆にこれは犬で言うなら毛が生えてない状態だ。

全然違うよな?


「いや、いいか人間の裸は犬で言う毛が全部ない状態なんだぞ。

 つまり俺は毛がないお前を見たことないから完全な裸は見ていない! 」


ドヤ顔で豪語すると彼女が納得したのか顔を赤らめさせ後ろに向き直る。

あぁ、なんかそれはそれでエロいっすね。


「そ…そうなんだ」


恥ずかしそうにモジモジする我が愛犬――こう表現すると何ともヘンテコな状況である。

いつまでもこの状況を楽しんでいたい一方で、俺の良心が服を着せて差し上げろと訴える。

それにこのままじゃ風邪を引くよな、幾ら季節的に比較的過ごしやすい春でも。


「とりあえず服を持ってくるから部屋に入って待っててくれ」

「う、うん…」


超睨まれてる――怖い。可愛い顔で睨まれると余計に冷や汗が出る。

あ、でも現実でもジト目って可愛いんだなって無駄な知識は増えました。正し美少女に限る。


さっさとその場から退却し隣の兄貴の部屋に入ってゆく。

部屋に入るとツンっと化粧水の匂いがする。

家の兄貴は美形である、ついでに言えばコミュ力が高い奴でもある。

したがって友達も多い、さらに言えばよく家に女の人を連れてくるのだ。

なのでこの部屋は色々準備がばっちりしている。

例えば―――

俺はクローゼットを開ける。するとそこに女性服、それにランジェリーがぎっしり詰まっている。

余りの量の多さに絶句しそうになる……というか前より増えた?

その中から適当に俺の趣味で家の人になったワンコ似合いそうなものを選んでゆく。

なんとなく着せ替えゲームの様で別ベクトルでワクワクしてきちゃったゾ☆

子供用、割と普通な感じのもの、縞パンそれに紐パン―――

兄貴のカバー範囲が広すぎて普段ならこれだけでもパニックになりそうだ。

一体これで何をしてるんだ家の兄貴は…考えるのはよしておこう。

とりあえず普通そうな黒色のショーツを手にする。

上の方も探したがそっちはなかった。適当なシャツを引っ張り出して対応することにする。

そして大事なのは服、そう中身もだが外はもっと大事だ。

これは俺のセンスが問われている、しくじる訳にはいかない。


白のワンピースを手に取る。

スカート部分が若干短い気がする。

下手に刺激して愛犬にまで嫌われるのはごめんだ。


次にホットパンツとノースリーブを取り出す。

夏物じゃねぇかっ! と思わず突っ込みを入れてしまった。

というかなんでさっきから夏に来そうなものばっか入ってるんだ、もっと春っぽいのはないの―――そうだタンスだ。

タンスの中にならあるはず。

クローゼットを閉めタンスを開ける。


―――あった。


其処には綺麗に畳まれた女性服がぎっしりと詰まっていた。

其処の中から黒いフレアスカートと白のブラウスを取り出す。

なんて言うかあれだな、兄弟ってやっぱり若干好みが一緒なのだろうか――

俺の趣味に合うもの全部あったわ…おっと違った俺のセンスが兄貴と似ているのだ。

あくまで彼女に合いそうなものを選んでいるのだ。

別に俺の趣味全開の物を着させるわけじゃないんだぞ? 合いそうなの選んでるだけですよ?


そしてそれを自分の部屋前まで持ってくる。


「持ってきたぞ」


扉横で彼女を呼ぶ。


「中に入れて…」


扉が若干開いたかと思うと、ムスッっとした彼女の声がした。


「わ、わかった」


あれ? 嫌われてる? やめてくれ、これ以上嫌われたら本気で泣いてしまうじゃないか。

彼女に言われるままに服をそっと扉の内側に置いて直ぐに扉横に退避する。

すると扉がバタンとしまった。


というかさっきの声はムスッじゃなくて恥ずかしいからああいう声になってるのか?

あぁ、そう考えると興奮してきた。


その刹那――――俺は大事なことに気づいた。


「ニーソ持ってくるの忘れたぁぁあぁぁぁぁぁあああああ―――――――っ!! 」


すぐさま兄貴の部屋に飛び込みタンスの中からニーソを探す。

なぜここまでニーソに執着しているのかというと、俺の趣味だ。

ミニスカートとニーソが生み出す絶対領域はなくてはならない。

普通に歩いていると背が高い男にはスカートより下は全部ニーソの黒い布地しか見えない。

しかし階段などがあれば別だ、ちらっとスカートとニーソの間にきれいな肌色が見えるのだ。

それこそが正義ジャスティス!

むしろなければミニスカートの魅力は100%伝えることはできないっ!

ニーソは神なのだ偉大なのだっ、この世が生んだ最も素晴らしい発明なのだ!


「とった、どぉおおおお――――っ! 」


ひざを折り両手でニーソを掲げあげる。

素晴らしい―――これがニーソか……


すぐさま自分の部屋の前に戻る。


ミニスカ―――ニーソ―――


生み出されるものは絶対領域。

HAHAHA―――我ながら末恐ろしい奴だぜっ。


「これも! これも着てくれっ」


ニーソを部屋の中に放り込む。

――――任務完了だ。


後は彼女があれを華麗に着こなしているのを見れば俺は死んでもかm―――いや流石に死ねないな。

とりあえず着てくれることをまとう話はそれからだ。



     ×         ×        ×



それから5分後くらいたったが彼女から一向に着替え終わったという報告が来ない。

ちょっと不安になってきた。俺との趣味が合わなかったのかな?

「あなたってセンスないのねっ! プンプン」

みたいな? それは困った。そしたら俺の絶対領域への野望がなくなってしまう。

しかたないこれは奥の手を使うしかないなその名も…


『主従関係!! 』


この絶対権力スキルが発動した際にペットは主に従うしかないのだっ!


「ポチ、俺の命令は絶対だ。ちゃんと服を着ろよ」

「柚子瑠っ?! ダメッ―――まだ入っちゃっ! 」


扉を開けて侵入、よく考えれば彼女はもともとペットなのだからこれくらい許されてもいいはずだ。

――と軽く開けて入ったが、俺が馬鹿だった。いくら元犬で愛犬でも今は相手は人で、しかも美少女だ。

それがこちらに半尻を突き出した状態で、赤面した可憐極まる女の顔をしている。


―――ゴッフォ…‥俺氏轟沈不可避。


「なんで半尻なんだよっ! 」

「だって尻尾がっ」


あぁ…そっか尻尾あったね。

確かに人には尻尾がないから服に尻尾だし穴とかついてないよね。

そういえばアニメ、ゲームや漫画のケモケモした娘達はどうやって服着てるんだろう?

だれか教えてエロい人。


「とりあえず待ってろ」


俺は自分の机に近づくと鋏≪はさみ≫を取り出した。


「柚子瑠っ?! 嫌っ尻尾は切らないでぇ! 」


後ろから彼女の悲鳴交じりの絶叫が聞こえる。

流石に俺だって生き物の尻尾切る程残酷なことしませんよ。


「いや服を切ろうかなって」

「――――! なるほど」


彼女が幼児のように目を丸くさせる。

むしろ何処の誰なら尻尾を切るんだよっ…

ただここで問題が生じた。


「切りたいんだけどさっ…その状態じゃあ切れないな」

「で…でも脱ぎたくないよぉ」


流石に女の子の半尻の上で作業できるほど俺は女慣れしてない。


「じゃあ目をつぶってるから脱いで尻尾が出る位置にそこのサインペンで印つけてくれ。

 そしたらそこ切るから」

「わ、わかった。絶対見ちゃだめだよっ。ダメなんだからねっ! 」


彼女の羞恥に満ち溢れた声を聴いていると、なんだかこっちまで恥ずかしくなってくる。

お願いだからこれ以上、俺の男の部分を刺激をしないでほしい。


「で、できたよ」


彼女から合図があったので目を開ける。


「わぁっ! だから見ちゃダメって!! 」

「なんで後ろ向くとかそういうことしてねぇんだよおおおお――――――っ! 」


とりあえず下を向いて一心不乱に彼女が付けた印部分を切り抜く。

その作業わずか5秒! しかも超綺麗、俺凄いねっ。

まあ単順に集中しないと色々と抑えれなかっただけですが。


「切った! 早く着てくれっ! 」

「う――うん」


彼女が着替えるのも素早かった。

まだ服を着るのが2回目の奴には見えなかった。

正確に言えばさっきのは着てなかったけど。

尻尾穴にきれいに尻尾が入る。

こうして彼女の“初めてのお着替え”が終わった。

うーんなんか初めてって言葉の響きが素晴らしいね。


「ど…どうかなっ…に、似合う? 」


もじもじしながら頬を赤らめた彼女が聞いてくる。


「もちろんバッチグーだぜっ、エロい」

「うん…えっ」

「あっ、いや、あああ―――うん似合ってるよ」


思わず心の声が外に出てしまった。

いかんいかん落ち着け俺。

これじゃセクハラじゃないですか。

ちなみに『セクハラ』って使い方があってるのは分からないけど一様、俺が上だから合ってるよね?


「柚子瑠ってそういう人だったんだ‥‥」


彼女の目が一気に俺を見下すような目になった。

ひえぇ…あ、でもこれはこれで割とありですね。正しこれも美少女に限る。


「いや、それは―――…はい、正直興奮してました」


正直に答える、下手に誤魔化すよりは良いと思う俺としてはね。

別にあのごみを見る目が怖かったとかじゃないよ、ホントだからねっ!

オレ、スゴク、ショウジキモノ。


「…正直に言っちゃうんだぁ」


なんか驚き果てた顔で見られた。


「オスにメスが興奮するのは自然の摂理だろっ」

「開き直っちゃったよ…」

「お! お前だってそうだろ」

「別に」


吐き捨てるように言われた――うわっ辛い。


「だってお前が可愛いんだよ!」

「ふえっ?!」


驚いた嬉しそうな声がしたかと思うと彼女の顔が赤くなっている。

これは…チョロそう。


「お前が可愛すぎてっ、だから俺はぁお前の事がぁあ! 」


渾身の演技、役者目指そうかな。


「え…えっと、そ…その―――ごめんなさいっ」


ん?

あれ?

なんか聞こえた気がする。


「へっ? 」

「ちょっとそれは無理」


俺の精神に9千9百99兆のダメージ!

俺のライフは1になった。

チョロいと踏んで勢いよく突っ込んだら盛大に爆死とか笑えない。


「えぇっ、な! なんでっ! 」


俺は迫真の演技でドラマの人みたいに叫んだんです。

駄目ですか?

俺の演技じゃ感動はしないのでしょうか?


「だってずっとエッチな目で見てくるから」


あ、あぁ、そっちでしたか。

出してないつもりだった―――出てたらしい。

なるほど―――確かに俺が逆の立場なら、そいつはお断りさせて貰いたい。


「…申し訳ございませんでした」


心の底から俺は謝った。

俺もそんな奴近くにいたら気が気じゃない。


「うん、いいよ」


彼女が俺に、にっこりと微笑んで、若干涙目な俺の頭を撫でてくれた。


天使だよぉ、天使がいるよぉ――


正直立場が逆なのは、この際気にしないで置かせてもらいたい。

飼い犬に頭撫でられる人間って……ねぇ。


「本当に嫌な思いさせてごめんなポチ…」


女の子に撫でてもらって俺氏完全に落ちました。


「別にいつも通りなら、柚子瑠の事、大好きだよ」


好きって単語を女の子から言われるのは初めてだったなと思います。

ちなみに親は子じゃないからノーカンね。


「もちろんLOVEじゃなくて、LIKEだから勘違いしたらダメだから ね? 」


勘違いしてから発言する前に予防線を張られた。

何だろうこのワンコ、俺より頭いいのかもしれない。


「お…おう。もちろんだっ」


そうだよな…あくまで俺は飼い主で彼女はペットだったのだ。

もしも彼女が犬のままなら俺がつがいになることは一生ないのだからある意味正常な反応で、彼女が正しい。

美少女に変わった愛犬、これから俺はどうしたものか。

でも、もう少しは仲良くはなりたいよなぁ…うん。

とりあえずもう一回だけ確認しよう。


「で、本当に家の犬で間違いはないのか?」

「もちろん」


彼女が胸を張って答える。

そして胸を張った為に兄から拝借した窮屈なブラウスが彼女の大きな胸によってミシミシと悲鳴を上げている。

推測だが彼女の胸はEカップとかそこらへん、結構でかい。


「ふんふん…じゃあ俺の家の犬だったなら、俺の家族の名前、全員言えるよな? 」


試すような目をして俺は彼女に尋ねた。

家の家族は兄を除いて社交的ではなく、親に限っては機械音痴でパソコンとかも使わないので、

基本的に俺の家族の名前を全員分いえる人間は少ない。

実際にこの方法でうちの母親は、『オレオレ詐欺』とやらを見破った経緯があり信用性は高かったりする。


「もちろん。言えるに決まってるよ。え~っと…」


頭を傾げて彼女が「う~ん」と唸りながら悩んでいる。

なんて微笑ましい光景なのだろうか、これが家の中で突然湧いた少女ではなかったのなら。


「…! 思い出した」

「ほう、じゃあ言ってみろ一人でも間違えたらアウトだからな」

「判定シビアァ…、じゃあ言うからね。まず柚子瑠ゆずるでしょ、で雄二ゆうじつかさ、で千尋ちひろだよ ね?」

「ぐぬぬ…せ、正解だ」


やはり家の犬なのか、マジか。家の犬が美少女である嬉しさと供に胃が焼けるような焦燥に狩られる。

あれだアニメや漫画などで美少女が突然訪問してくるとか空から降ってくるとか未来から来るとか、

小さい頃とか中学校の時はよく妄想したものだけど、実際に起こると喜ぶどころか今すぐ帰っていただきたい。

やっぱり夢は夢であるべきだな。

そしてもう一つの疑問が俺のかに浮かぶ。


「どうやって人になったんだ? 」

「わからない…」


彼女自信がこの原因不明なこの事について彼女が若干、俺から視線を逸らしたことから、

本当に何も知らないという事がわかった。


「…そうか、まあ分からないならそれでいい」


正直解ってやってるのなら、今すぐ元に戻ってくれると助かるとんだけど、

出来ない事をやれと無理強いする俺ではない。

あ、でも分かってても、変な薬を飲まされた少年探偵はいつまでたっても小学生のままだな。

それだと原因分かっても意味ねぇじゃん…


「成っちまったのは仕方ないとして、親に“家の犬が美少女になったけどどうすりゃいい?”

 とか聞けねぇよ。何なら誰にもいえねぇしなぁ」

「柚子瑠が妄想癖拗らせて作ったダッチワイフって言えばいい」

「ちょっと待てっ! お前犬のくせになんでそんなこと知ってるんだよっ。やっぱりただの不審者じゃ――」

「柚子瑠がこの間パソコン触ってる時に呟いてた」

「いやいやっ! 言ったかもしれねぇけどよ? 使い方までは言ってねぇよ」

「使い方? 」


彼女がポカンと口を開けて「使い方があったんだ」って顔してる。


「――あれだよ、そう、あれ。友達いないから外にいっしょに連れ出して

 友達のふりをさせるって使い方だよっ」


ダッチワイフに服着せて連れ歩かせるとか誰もしねぇよ! って言った後に思わず自分で突っ込みたくなるレベルだった。


そんな俺をよそに彼女は心底納得したようで「なるほど」って顔してる。


信じるなよ、流石にここは突っ込んでくれよ。

ちょっと友達いないの説得力高すぎじゃないですかね。

俺が友達いないって言うと、皆が納得している気がする。

小学校の時にそれを先生に言ったら先生が給食のプリンの余った分を

『柚子瑠くん、これ半分こにしよっ、って誰でもいいから言話しかけてみたら? 』

とか言って皆がいないところで渡してくれたっけ…

勿論結果は誰とも話すどころか、俺がプリンを影で隠してた奴って扱い食らった。

あの教師許すマジ。


「とりあえずそれはダメだ。色々――特に俺のただでさえ危うい立場が社会復帰不能なレベルになっちまう」

「柚子瑠、安心して、例えそうなっても私はちゃんと隣にいてあげるよ」

「戸籍も何も登録されてない奴といても何ら安心感ねぇから」


ダメだ。解決策が出るどころか俺のトラウマを甦らせるだけになってきている。

よし、他の話題にしよう。この際これは親と兄いが帰ってくる前になんとかすればいい。

次の話題を考えよう…

考え始めようとした時だった、頭にふっと電流が走った――


「じゃあお前がこう何か、人になっちまいそうな理由とかないのか? 」

「理由? 」


そうだ理由だ。この手の話でよくある出来事じゃないか。

化けてしまう理由…つまりそれは強い意志による可能性だ。

大概の場合は強い意志―――もとい願いを叶えてやれば元に戻るか、成仏するはずだ。

成仏…は生きてるからしねぇだろうけど。

それでも元に戻るはずだ。人になった方法を聞くよりよっぽど解決策に通じてそうなき気がする。


「そう、お前がどうしても人の姿になってやらなきゃいけない事だ」

「人に……なりたかったの」

「えっ……」


彼女が晴れやかな笑声をもらした。


「そうっ……人に、私は人にっずっとなりたかった! 夢が叶ったんだよっ! 」


彼女が俺の手を取り顔を近づけてきた。


「人に、なりたかった……のか? 」


口を半開きにして、しばらくそのまま彼女を見つめる。


「そうっ! 人になりたかったの」


彼女が再び笑顔で答える。

人になりたい、彼女はそう願っていた。つまり彼女の願いは既に叶っているのだ―――人になったことで。

解決策どころか、むしろ解決策塞がれてるじゃねぇか。


「他に! 他に何かやりたいことは無いのかっ」


そうだ。人になる以外の理由だってあるかもしれない。

彼女が人になったのは俺だけしかいない世界もしくは俺が世界を牛耳っている世界なら大歓迎なんだが。

この現実でなってしまえば其処には多くの問題が生じる。

それらの問題を解決できるような立派な社会性と知識を持った俺ではない。

つまり俺が今やるべきなのはこいつを元に戻すとだ。

そしていつもの日常に戻る。夢は夢でなければいけない。


「あるよ、困ってる皆を助けたいって」

「それだっ! 」


彼女が人になった理由としては、たぶんそっちの理由のが筋が通りそうだ。

困っている皆を助ける。つまり彼女が誰かを助ければ元の姿に戻ってくれるはず。

それなら何とかなるかもしれない。


「うぅ! く……苦しいっ!」


俺は胸を押さえて床に倒れ込んだ。


「! 大丈夫?! 今何とかするねっ―――」

「助け…てくれ、苦しくて死にそうだぁ」

「……って柚子瑠、嘘はよくないよ」


彼女が冷たい目線で俺を見てきた。


「うっ、本当に苦しいんだぁ~」

「だって本当に苦しかったら、もっと酷い声出すよ」

「うがぁぁ、ぐぅるしぃ」

「言ったそばから変えるのが既にアウトだから ね ? 」

「………」


俺の迫真の演技は彼女には通じなかった――結構、頑張ったんだけどなぁ。


「柚子瑠、あのさ外に行かない? 」

「なんで? 」

「だって家に居たら柚子瑠は私の事で気が気じゃないでしょ。

 それにせっかく人になったんだから、こんな狭い部屋でジッとしてるのも嫌だし」

「……まあ確かに」


家の中に居続けたら間違いなく最悪の事態になる事は明らか、特に俺のただでさえ低い社会的評価がマイナス方向にカンストする。

うまい具合に家の家族が帰ってきたところで外から帰ってこれば、まだ言い訳ができるかもしれないな、

となると彼女が言われるがまま外に出る方が得策なのかもしれない―――



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