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「あら、ハル。今日も昼間からお出掛け??」

 店主や店の娼婦達に見つからないよう、こっそり外へ出て行こうとしたハルを一人の娼婦が呼び止める。二階の廊下から階段に続く手すりに、上半身を持たれ掛けさせながら。

「どうせ、最近付き合っている女と会うんでしょ??」

「あ??悪いか??」

「悪くはないけど、休みの日になる度に毎週会いに行くなんて、貴方にしては珍しいと思って。一夜限りの遊びはザラ、持ってせいぜい二カ月、二股三股も平気でしでかしてきたハルが、四カ月以上も一人の女だけと続いているんだもの。信じられない」

 娼婦は手すりに持たれたまま、煙草を吸い始める。

「うるせぇな。お前の相手をしている時間は俺にはないんだよ、レベッカ」

「酷いわね。仮にも一番人気の私に何て口を利くのよ」

 口ではハルに怒りつつも、レベッカはどことなく楽しそうな顔をしている。

 レベッカはこの娼館で一番人気の娼婦なだけあって、とても美しい女だ。

 赤みの強いカッパーブラウンの緩やかな巻き毛は、大輪の華のごとく艶やかな彼女の美貌を更に引き立て、程良く肉感的な肢体や豊かな胸は男の情欲を存分にそそった。

 高級娼婦にも引けを取らない、その美しさに気後れする男も少なくないと言うのに、ハルは平然とレベッカに悪態をつく。何せ、同い年の彼女とは十年以上前からこの娼館で生活を共にしている仲なので、幼なじみみたいなものだ。

「その女とよっぽど『相性』が良い訳??」

 すると、ハルはピクリと眉を擡げる。

「残念ながら、そっちは未確認なんだ」

「えぇっ!?」

 レベッカは信じられないとばかりに素っ頓狂な声を上げ、階下のハルを凝視した。彼女の反応に対し、ハルはいささかバツが悪そうにしている。

「何それ!?あんなに毎週のように、花やらドレスやら化粧品やらを持って、会いに行っているのに?!本当に何もしていない訳?!」

「あぁ、そうだ。手出すどころか、指一本すら触れていない」

「貴方、一体どうしてしまったの?!」

「しょうがねぇだろ。えらく貞操観念の固い、生真面目な女なんだよ」

「ふーん……」

 レベッカは口元を隠しながら、笑いを堪えている。

 こいつ、完全に俺を馬鹿にしていやがる。

「だから貴方、いつになく必死になっているのね」

「あのなぁ、お前は俺を何だと思ってる。早くヤラせて欲しくて、まめに会っている訳じゃなくて……。ただ、あいつに会いたいって思うだけだ。ったく、恥ずかしいこと言わせるんじゃねぇ、笑いたきゃ笑えよ」

 自分で言っていて、歯が浮きそうなくらいに寒いし恥ずかしい。だが、正直な気持ちなのだから仕方がない。

 レベッカを見上げてみると、彼女はもう笑っていなかった。その代わり、ひどく真剣な面持ちでハルを見つめていた。

「本気でその女に惚れ込んでいるのはよく分かったわ。ただ……、貴方も分かっていると思うけど……。生まれた時から歓楽街で生きてきた貴方と、ごく普通の堅気の女じゃ、住む世界が違いすぎるわ」

「……何が言いたい??」

「今はいいかもしれないけど、いずれ上手くいかなくなるかもしれない。だから、本気になるのも程々にね」

 それだけ告げると、レベッカは自室へ戻っていったのだった。

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