二〇三号室 「壊れものの話」
……? ……僕なんかに、何の用ですか。……話? ……何の話を聞きたいって言うんです……。おもしろい話なんて、知りませんよ……何も……。……僕のこと? それこそ、聞く価値のない話だ……。……僕は……こんな、どうしようもない人間だから……親にも見放されたんだ……それだけ……。もう、彼女にも会えない……。いや、そのほうがいいのか……どうなんだろう……どっちでも、同じか……。
彼女……? 彼女は……、そうさ、彼女は、それは美しい人で。内面もそれは素敵で。優しくて朗らかで可愛くて、でも少し控えめで。話をしていると気持ちがふわふわしてくるんだ。それだけで幸せになれるんだよ、これはまったくすごい話じゃないか。彼女にはそこにいるだけで周りの人間を幸せにする力があるんだよ! それはすごいことじゃないか? 彼女はきっと天使か何か、そういったものの生まれ変わりだよ! とにかくすばらしい女性なんだ! だから彼女の周りはいつも人でいっぱいさ! もちろん僕もその一人さ!
……、彼女には……、特別に仲の良い人が、一人いました……。その人は……、頭のいい人で……、信頼の厚い人で……。僕は……、全然知らなかったんですけど……、二人は恋人同士……だったんです……。それを聞いて……僕は……、どうしてか……、苦しくてたまらなくなったんです……。それ以来……、彼女たちが、一緒にいるところを見ると……。彼女が笑っているのに……、いつものように笑っているだけなのに……、その度に、ひどく苦しくて……。
本当に……どうしてなんでしょうか、あんなに幸せだったのに。……苦痛はだんだんひどくなって……、彼女が一人でいるだけでも……、彼女の姿が見えなくても……、声も聞こえなくなっても……、全然消えていかない……、苦しいんです。あの日からです。二人が恋人同士だと知ってから、僕はずっとおかしいんです。まるで壊れてしまったみたいに!
なぜだ? なぜなんだ! さっぱりわからない! 彼女に恋人がいたって、ただそれだけじゃないか。二人がどんなに仲良かろうが、僕には関係ない話じゃないか! そうだろう? それなのに、これはいったい何なんだ! 呆れるくらいに胸が痛むんだ。わけがわからない! 自分のことなのに、自分ではどうにもできない! こいつはいったい何なんだ! もういいかげんにしてくれ! ……っ! ……。
……ああ……。それで……。もう、終わりにしたいんですよ……。だから、飲めない酒を無理矢理飲んで……睡眠薬を、……溜めておいたやつと……。目が覚めたら、頭痛が……吐き気がひどくて……。あれ……、おかしいな……まだ終わってないのか……。ここ、天国……じゃないですよねぇ、やっぱり……? よく……覚えてなくて……、あの……僕、どうして、こんなところにいるんですか……?