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二〇一号室  「机上の話」

 まったく、こんなところに呼び出しておいて、しかも相手を待たせるなんて何ごとだろう。いつも散々人のことを馬鹿にしておいて、自分たちがこれじゃあ、常識人が聞いて呆れるね。……君、ちょっといいか。我々人間にとっての、次なる進化とは何だと思う? ……まあ、そうすぐに答えは出せないか。私はこう考えるんだ、次なる進化とは、生命を棄てること、すなわち非生命体になることだと!


 我々は、みずから死を望むまでに進化した。これは実に画期的なことだ。この事実によってこそ、我々は、単なる生物から人間へと進化したのだ。生物にとってなくてはならないもの、すなわち生命を否定したときから、我々は他のどのような生き物とも違う存在となる可能性を得たのだ。我々は生命を、この身体を否定し、精神体として存在することのできる最初の種に違いない! 私は常々そう主張し続けているんだ。残念ながら、同意を得られたことは一度もないのだが。


 永遠を求める思いは、誰の心にもあるだろう。そして、身体などただの器にすぎないということも、誰もが薄々感じていることなんだ。その証拠に我々は、自分の部品が壊れれば他人の部品を使ってでも生き延びる、そのための術を見つけ出した。身体など、所詮は代替可能な単なる部品の集まりにすぎない。本当は誰もが知っていて、ただ知らないふりをしているだけなのさ。


 私の意見は実に単純だ。この部品の集まりを生命体ではなく、我々の信じてやまない科学技術によって、機械体にしてしまえばいいというだけの話だ。我々が行っている精神活動とは、つまり電気信号の活動だろう。置き換えることは不可能ではないと思うのだよ。機械体ならば、代替品も製造することが可能だ。これこそ、我々が古より夢見てきた不老や不死に最も近い形ではないか。


 たしかに現状の技術では難しいが、なに、今までだって我々は幾多の難題を乗り越えてきた。それに、我々人間の、不老を求める執念には凄まじいものがあるだろう。若返り、若々しく、若さの秘訣、などという言葉があれば、とりあえず飛びついてみる。特に女性のそれは舌を巻くほどだよ、実に頼もしい。そういった執念こそ、難題に立ち向かうには必要なものだと思うんだ。


 我々が永遠を求めるかぎり、いつかは必ず生命を棄てるときが来る。そのことにまだ、誰も気がついていないだけなんだ。私には確信がある。それはおそらく、遠い未来のことなのだろうが――ああ、何とすばらしい未来だろう! 非生物として生まれるであろう者たちが羨ましいことだ。できるなら、私もそうして生まれたかった。そうすれば、こんな煩わしい思いを抱えることもなかっただろうに。まったく、世の中とは、うまく行かないものだ。

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