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一〇三号室  「老いた娘の話」

 ええと、あなた、誰だったかしら? ……、あら、彼の話を聞きたいの? ええ、ええ。それはもちろん、喜んで。だってわたしは、彼のことが大好きなんだもの。何から話せばいいのか、悩んでしまうくらいだわ。


 彼とわたしはいとこ同士なのよ。彼の母と、わたしの父が兄妹なの。だから、小さいころからよく一緒に遊んでいたわ。彼のほうがおとなしい性格だったから、何をするのか決めるのは、たいていわたしのほう。だいたい隠れんぼか、お絵描きか折り紙か、おままごとか……そんなかんじだったわね。今にして思えば、強引に自分のしたいことばかり押し通していたような気もするけど……、ふふ。


 ええと……、何を話していたのかしら? ……そうそう、彼の母親、つまりわたしの叔母はね、わたしたちが小さいときに事故で亡くなってしまったの。……彼の父親は忙しい人で、仕事であちこち飛び回っていたから、その度に彼はわたしの家に預けられていたわ。わたしも他に兄弟がいなかったから、弟ができたみたいで嬉しかったわ。


 そうね……、ええと……、何だったかしら。一緒に勉強したり、外に出かけたり……、端から見れば、仲の良い姉弟みたいに見えたでしょうね。でも、わたしたちは……気がついたときにはもう、お互いを姉弟のようなものとは思っていなかったわ。昔から、ええ、ずっと昔から、ただ大好きだったのよ。そう、それだけだったの……。


 それで……、何だったかしら? ……そうそう、彼はおとなしい性格でね、口数もあまり多いほうじゃないわ。でもね、自分の好きなこと……、たとえば星ね、天文学。そのことについては、本当に楽しそうに話すのよ。瞳がきらきらしてね、それを見ているだけで、きっとわたしも瞳を輝かせていたわ。だって彼が言ったもの、きみの瞳ほど美しく輝く星はない、って……。


 ええと……、どんな話をしていたんだったかしら? ……そうそう、星座がね、わたしが獅子座で、彼が乙女座だから、あんまり相性が良くないみたいなの。星占いで運勢を見るでしょう? どっちもいい日なんて全然ないのよね。わたしはそういうの、気にするほうなんだけど、彼は何とも思っていないみたい。星、好きなのに不思議よね。占いは信じないって言うの。まあ、相性悪いなんて、信じたい話でもないし、別にいいんだけどね。ちょっと……。


 ところで、あなた、誰だったかしら? ……、あら、彼のことを聞きたいの? ええ、それはもちろん、喜んでお話するわ。だってわたしは、彼のことが、本当に大好きなんだもの……

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