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右眼の紅色  作者:
16/21

消えない痛み

「――シロキよ」

「・・・何用ですか、父上?」

普段滅多に話すことのない銀叉に呼び止められ、銀麒は無意識に身構えた。

「お前、最近何をうろついているのだ?」

予想だにしなかったその一言に身体がびくん、と反応してしまう。

「・・・な、何のことですか」

「とぼけるな。気付いていないとでも思ったか」

父親の鋭い眼光に射竦められ、銀麒は観念することにした。

「・・・父上」

「なんだ」

「・・・結婚を考えている、女性がいます」

銀叉は怪訝な顔を向けた。

「何を今更。お前には私が相応しい女を見つけてやると言っただろう」

「・・・それには及びません。私には、彼女しか考えられませんから」

「・・・誰だ、それは?」

まだ想いも伝えていないというのに早計なことをしてすまないと思いながら、銀麒はその名を口にした。

「・・・クロイという、女性です。・・・隠族の」

「隠族だと?」

銀叉は冷たい眼を向けた。

「・・・やめておけ。隠族では子を残すことが出来んだろう。そうなればこの家も終わりだ」

「それで構わないと、思っています」

それほどに大事な(ひと)だった。彼女と共に居られるのなら、こんな血筋など捨ててもいい。

「・・・本気で言っているのか、シロキ?返答次第ではただでは済まさんぞ」

銀叉は最後の通告をしたが、銀麒は頑として譲らなかった。

「勘当するというなら、構いません。好きにしてください」

「・・・いや、勘当はしない」

銀麒は顔を上げる。

「――十日間ここを出さん。縄で繋いでおけ」

その場にいた妖にそう言い放つと、銀叉はその場から足早に去っていった。


約束の十日が経った。

「下手なことは考えるな。分かったな、シロキ?」

「・・・・・・はい」

頷くしかなかった。父親に逆らうことなど出来ない。

いつ玄威にこのことを告げたらいいものか考えていると、森の中がやたらと騒がしいのに気付いた。

「何事だ?」

「シロキ様!それが何が何やら・・・昨晩隠森が焼かれまして」

「何だと?」

「それも火を放ったのは人間だという話で・・・シロキさん?」

銀麒は居ても立ってもいられずその場から駆け出した。森に玄威の姿はない。ということは、彼女はやはり隠森にいるのだろうか。

無我夢中で奔り、隠森まで辿り着いてただ愕然とした。

「何だ・・・これは・・・・・・!」

あれだけ茂っていた木々がほとんど焼け落ちている。あの木々は隠族の妖を日光から守るもので、つまり今玄威は。

「クロイ!――クロイ!」

森中、いやかつて森だった場所を駆け巡る。しかしどこにも彼女の姿はない。

「クロイ・・・!」

こんな日に限って空は雲ひとつなく、太陽はじりじりとした熱を放っている。

もう、彼女は死んでしまったのだろうか。この日光の下に晒されて。

銀麒がその場に立ち尽くしたとき、

『――シロキ・・・・・・?』

頭の中で弱々しい声が響いた。聞き違えるはずもない彼女の声。

「どこだ!どこだ、クロイ!」

『・・・ここよ・・・ここに居るわ』

見つけた。今にも日光の前に霞んでしまいそうなその魂光(からだ)は、紛れもなく玄威のものだった。

「クロイ!無事か!」

銀麒はその元に駆け寄り必死に身体で影を作ろうとした。

『もう・・・無駄よ、シロキ・・・・・・私は光を浴びすぎたわ・・・』

「諦めるなクロイ!まだ・・・まだ・・・!」

そこで銀麒ははたと気付いた。

「今・・・シロキと、呼んだか」

『・・・ごめんなさい。うっかりしてたわ・・・あなたは、〝シロタ〟だったわね・・・』

銀麒は吼えた。

「そんなことはどうでもいい!気付いて・・・いたのか」

『気付かない方がおかしいわ・・・あなたは、有名人だもの・・・』

「だったら何故!」

玄威は小さくその魂光(からだ)を揺らす。

『族長の息子として、振舞いたくないのなら・・・そうさせてあげたいと、思ったの』

「クロイ・・・」

『あなたは・・・そういう自分が、嫌いなのでしょう・・・?』

何もかも分かった上で。分かった上で、自分と接してくれていたのか。

「クロイ・・・クロイ、私は」

ずっと言えなかった言葉を、喉の奥から搾り出した。

「お前を、愛している・・・・・・ッ!」

クロイは弱々しく、けれども確かに笑った。

『・・・・・・分かっていたわ、とっくに』

その言葉に銀麒がはっとした瞬間、その魂光(からだ)は日の光の中にすっと溶けていった。

「クロイ!」


愛していたわ、と聞こえたその言葉は、

――嘘ではないと、信じたかった。


銀族は森を結界で守るようになり。隠族は地下へと潜り込んだ。

長い月日が流れてある程度隠森が再生したのちも、隠族がその姿を見せることはなかった。

人間を憎み、蔑む気持ちは益々強くなっていったが、その一方で災厄を知らぬ若い妖達が、銀族に見切りをつけて出て行った。

それらの歴史を、彼はずっと見ていた。ずっと、独りで。

銀麒は、いや銀鬼は玄威を殺した人間への復讐のため、永遠かと思われるほど長い時を、生き続けた。


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