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健(けん)とさや


「はい。未だ特に怪しい事はみつかりません」

『そうか、引き続き捜査を頼む』

「はい」

『ところでどうだ、学校は』

「学校・・・・・・ですか?」

『ああ、そうだ』

「特に・・・・・・なにもありません」

『・・・・・・そうか。ではまた連絡しろ』

「はい。失礼します」


 通信を切ると、健と話しを終えた上官に部下が聞いてきた。

「しかし、何故健をあそこに派遣したのですか?」

 さっきまで健と連絡を取っていた上官は部下のその言葉を聞いて、なんら問題はない

といわんばかりに答える。

「なに、健の技術面では我々大人に負けん物を持ってるのはお前らも知ってるだろう」

「しかし・・・・・・」

「それにアイツは、小さい頃からここに勤めていて、学校というものに行ったことがな

い。なあに、ちょっとした親心だよ」

 そう言って女上官は不適にわらった。


               


 翔と良子の事件も終わり、秋斗達は平和な学校生活を送っていた。そんなある日のことだった。

 秋斗とカナが学校を終えて家に帰ると、優が秋斗に泣きついてきた。

「秋斗様大変ですー!」

「わっ! どうしたんだよ!」

「あのですね、えーっとえーっと、大変なんですよ~!」

「わ、わかった! わかったから、とりあえず落ち着け!」

 慌てすぎて言葉が出ない優をとにかく落ち着かせて、大分落ち着いたであろうと思っ

た秋斗は聞いた。

「で? なにが大変なんだ?」

 秋斗が聞くと優は一度、深呼吸をしてから話し出した。

「それがですね・・・・・・今日、お友達のさよちゃんとお昼に、いつもの喫茶店でお茶を楽

しんでたんです・・・・・・」

 優がそう言うと、カナが「優って普通の人間みたいだよね~」と言ってきた。

 確かにロボットっぽくないよな・・・・・・。

 と、秋斗も思いながらも必死に話す優の話しに耳を傾けた。

「それで・・・・・・」

 お昼の事を思い出してか、なにやら顔を真っ青にしながら優は話しだした。



『さよちゃん何にする? 私は~いつものデザートセットにしよーっと・・・・・・さよちゃ

ん? どうかしたの?』


「さよちゃんはいつも明るくて、私なんかと違ってしっかり者なんです。そんなさよち

ゃんが最近とんと元気がなくって、心配になって私、さよちゃんに聞いたんです。そし

たら、さよちゃんが私の顔を見て言ったんです」


『優・・・・・・優の所はいいな~。秋斗さんとカナさん、二人共優しそうで・・・・・・』


「私は秋斗様とカナ様のお話をさよちゃんにしていました。でも考えてみると、さよち

ゃんが自分のご主人様のことを話しているのを聞いたことがなかったんです。そんな事

を言うさよちゃんに、私は聞きました」


『さよちゃんの所のご主人様って、どんな人なの?』

『優の所の秋斗さんとカナさんと同じクラスの人よ・・・・・・河野健っていう人なんだけど・・・・・・』



「河野健・・・・・・」

 秋斗はビーチパーティーの事を思い出した。ビーチに急に現れて暴れ出した変な猿を、

いとも簡単に捕まえた同じクラスの健のことだ。

「健~? でも、ビーチパーティーの時優しかったよね? 猿捕まえてくれたし~」

「そうだな、悪いヤツには見えないな」

 カナと秋斗のそんな言葉を聞いて、優の顔は悲しそうになり、そしてまた話し出した。

「それで私、聞いたんです」


『健様って・・・・・・怖い人なの?』


「私が恐る恐る聞くと、さよちゃんは首を横に振って重い口を開きました」


『私・・・・・・嫌われてると思うの・・・・・・』


「それを聞いた私はすぐに否定したんです」


『・・・・・・え!? まっさかー! さよちゃんの気のせいだよ~。だって私なんかとは違

ってさよちゃんは綺麗だし、お仕事だって何でも出来るし~』

『そんなことないわ! だってなに言っても無反応だし、なに考えているかわかんらな

いし・・・・・・それに今日だって、喧嘩しちゃったの・・・・・・』

『喧嘩!?』

『・・・・・・・・・・・・』

『さよちゃん・・・・・・』



「いつも凛としていたさよちゃんが、いつにもなく取り乱してそう言ったんです・・・・・・」

「なに考えてるかわかんない・・・・・・か」

 秋斗はまたビーチパーティーのことを思い出す。

 カナが猿を捕まえてくれたお礼を言った時、健は返事もそこそこにさっさとどっかに

行ってしまった。

 確かになにを考えているかわかりずらいところはあるが、でも健が悪い奴には思えない。

「で、結局なにが大変なんだよ」

 秋斗が優にそう聞くと、優は「続きがあるんです!」と、興奮して言った。

「その後、さよちゃんが、何か閃いたような顔をして言ったんです・・・・・・」

「何て?」

 秋斗は言いづらそうにしている優に聞いた。すると優は、重い口を開いた。

「私とさよちゃんのご主人様を交換しようって・・・・・・」

「なにっ!?」

「え―――!」

 秋斗はもちろん、カナも驚いた。

「それで・・・・・・」

 優はチラチラと部屋の方を見ている。

「まさか・・・・・・お前・・・・・・」

 秋斗は優を信じられないと言う顔で見ていた。

「私、さよちゃんの悲しい顔を見て断れなかったんです~!」

 優は目にいっぱいの涙を溜めながら言った。

 すると、さっき優がチラチラと目を向けていたカナの部屋から、女の子が出てきた。

 秋斗達の話を部屋で聞いてたらしい女の子が、秋斗達の前に来ていった。

「初めまして! さよと言います。今日からよろしくお願いします♪」

 秋斗が本当に悩んでいるのかよ。と思うほど、さよは明るかった。

 そんなさよに、カナが聞いた。

「健は、さよちゃんがカナ達の家政婦と交換するって、オーケーしたの~?」

「それは・・・・・・」

 カナにそう言われると、さよはさっきとは打って変わって元気がなくなった。

「言ってないんです・・・・・・」

「「「えー!」」」

 秋斗とカナ、そして優も驚いた。そう言うさよを見て、優が言った。

「さよちゃん! 健様に連絡してないの?」

 慌てる優を見て、さよがサラリと言った。

「ああ、大丈夫よ、今から連絡するから♪」

「さよちゃ~ん!」

 さよにそう言われて、優は泣きそうになっていた。さよは、携帯を取り出すと、慣れ

た手つきで電話をかけた。さよが健の携帯に電話をかけると、健はすぐに電話に出た。

『おい、お前今どこに・・・・・・』

 とっくに学校から帰っていたであろう健の、聞いたこともない慌てた声が、さよの携

帯から聞こえた。健が聞き終わる前にさよが声を荒げて言った。

「私、今日から秋斗さん達の家政婦になるから! 健の所には秋斗さん達の家政婦の優

が行く事になったから!」

「「「ヒッ!」」」

 さっきまでの優しい声とは間逆のさよの声に、三人は驚きの声をあげた。

『秋斗・・・・・・? っておい、ちょっ・・・・・・』

 ――――プップーップー・・・・・・。

 そう言うと健の話を最後まで聞かずに、さよは携帯を切った。

「これで連絡はオッケーね♪」

 さよの清々しい顔を見て秋斗が声を漏らす。

「オッケーって・・・・・・」

 そんな秋斗を優が涙目になりながら見て言う。

「秋斗様~・・・・・・」

 そんな助けを求める優に、

「明日、健に話を聞いてやるから、今日は我慢して健の家に行け」

 と言って、秋斗は渋る優を宥めた。

 何度も振り返りながら行きたく無さそうな優を見送って、秋斗達は家に入った。家に

入ると、さやがキッチンに立って、掃除をしだした。

「・・・・・・なんでフライパンが真っ黒なのかしら・・・・・・」

 そんなことを言いながら、さよがさくさくと掃除をすると、キッチンはあっという間

に綺麗になった。

「わ~ピカピカだ~!」

 綺麗になったキッチンを見てカナがはしゃぐ。そんなカナを見て、さやはフフっと楽

しそうに笑い、秋斗とカナを見て言った。

「待っててね、すぐご飯作るから♪」

 さやは言葉通りにテキパキと夕食を作った。

「わ~! 美味しそうー!」

「これは・・・・・・凄いな!」

 さやのご飯を見て、秋斗とカナはテンションが上がった。テーブルには、美味しそう

な料理がズラリと並ぶ。

「さあ、召し上がれ」

 さやが優しい笑顔でそう言う。

「わ~い! いっただっきま~す・・・・・・って、さやは食べないの~?」

 テーブルに並べられた二人分の食事を見て、カナが言う。カナにそう言われたさやは

驚きながら聞いた。

「え? 一緒に食べてもいいの・・・・・・?」

 それを聞いたカナが驚きながら言った。

「もちろんだよ~! 皆で食べなきゃ美味しくないもん! 優ともいつも一緒にご飯た

べてるし~。ね~、秋斗」

「おぉ、岩神家は皆でご飯を食べるのがマナーだからな。さやも一緒に食べようぜ」

 秋斗とカナがそう言うと、さやは嬉しそうに、「そうするわ♪」と言って自分の分の

ご飯をよそった。皆で話しをしながら楽しい食事をしてると、さやがポツリと言った。

「健もこうしてくれればいいのに・・・・・・」

「ん?」

「な、なんでもないわ」

 秋斗がさやを見ると、さやはどこか哀しい顔をしているように見えた。

 なんかこんな顔、最近みたような・・・・・・あ!

 秋斗は思い出した。良子と翔が気まずくなってしまった時の、その時の良子のなんと

も言えない顔と、さやの顔がかぶった。

 もしかして、さやって健のこと・・・・・・いや、いくらなんでもそれは考えすぎか。

 秋斗はそんなことを思いながら、涙を溜めて健の家に渋々行った優を思い出す。

 優は大丈夫だろうか、ちゃんと家政婦が出来ているだろうか。

 そんなことを思った。優のことを考えていると、なんだか健の方が心配になってきた。

 ・・・・・・明日健に聞いてみよう。

 そんなことを思いながら秋斗は夕飯を食べた。



『どうだ、まだ何も分かった事はないか?』

「・・・・・・はい」

 健は毎日の日課である、上司への報告をしていた。

『そうか・・・・・・。ん? どうした、元気がないな』

「いえ、なんでもないです」

『なんでもない事ないだろう、そんな暗い顔をして。いいから言ってみろ』

「それが・・・・・・」

 健は上官に、自分の家政婦が出て行ってしまった事を話した。

「上官・・・・・・自分には女の考えることはわかりません・・・・・・」

『ふむ・・・・・・話をきくと、その家政婦とやらの方が人間らしいな・・・・・・』

「え?」

『まあ、あれだな。健。お前は小さい頃から自分の考えを押し殺すようにしてきた。任

務を遂行する為にな。それが、彼女と上手くいかない理由だ』

「と・・・・・・言いますと」

『自分の気持ちを相手に言葉でしめさないと、相手はそれをわかってくれない。と言う

ことだ』

「自分の・・・・・・気持ち」

『そうだ。お前が思っていることを相手に伝えるんだ』

「・・・・・・はあ」

『なあに、お前がきちんと相手のことを思っていれば相手に伝わるさ』

「・・・・・・はい」

『それじゃ、また明日連絡しろ』

「はい。失礼します」

 健と通信を終えると、上官に部下が言ってきた。

「やはり、健をあちらに行かせたのは間違いでは? 健に潜入捜査は無理です。いくら

身体能力が高いとはいえ、コミニュケーション能力が低すぎます。自分に仕えるロボッ

トとも上手くいかないようじゃ、任務どころではないのでは?」

 部下にそう言われ、上官は不敵に笑う。

「なあに、アイツをあそこに行かせて正解だよ。あんなに悩んだ健は見た事ないからな

。それに・・・・・・ここでは教えられない事を経験できるさ。そう、何事も経験だよ」

「はあ・・・・・・」

 不安がる部下をよそに、上官は嬉しそうだった。


             


 次の日、秋斗はいい匂いがして目を覚ました。リビングに行くと、すでにカナが起き

ていて、さやの作る朝食を今か今かと待ちながら、お菓子を食べていた。

「秋斗、おはよ~」

「あ、秋斗さんおはようございます」

「おはよー」

 さやは秋斗に気づくと、出来上がったばかりの朝食をテーブルに並べてくれた。

 昨日のように三人で朝食を食べると、さやは笑顔で秋斗達を見送ってくれた。

 健のやつ、こんな完璧なさやとなんで喧嘩なんかしたんだろう・・・・・・。

 そんな事を思いながら秋斗達は学校に向かった。

 

 教室に着くと、健はすでに登校していた。二人を待っていたかのように秋斗とカナを

見るなり、二人に近づいてきた。

「秋斗、さやが昨日お前の家に行ったよな?」

「あ、ああ」

「そ、そうか・・・・・・」

 入学してから今まで見た事のない健の慌てようを見て、昨日から健の素の部分が垣間

見れた気がしてなんだか楽しかった。

 さやが秋斗の家に来ていたことを確認すると、健はあからさまにホッとした表情を見

せた。

 そんな健を見てなんか可愛いなと秋斗が思っていると、健はゴホンと咳払いをしなが

ら顔を赤らめていた。

 そんなことを考えている場合じゃなかった。

 秋斗はそう思うと、一番心配していたことを聞いた。

「健・・・・・・お前大丈夫だったか・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・」

 健は何が? と聞き返すような無粋なことはしなかった。

 というよりも、健の沈黙が大丈夫じゃなかったことを証明していた。

「秋斗・・・・・・お前達の家政婦は、その、なんと言うか・・・・・・凄いな」

 健は一言だけそう言った。

 秋斗は健の疲れた顔を見て、早く解決しないとな、と思った。

 そうこうしていると担任の緒方が来たので、話はゆっくり話せる昼休みに持ち越しに

なった。

 

 お昼時間になって、健が秋斗の所にきた。

 良子と翔が仲直りして、秋斗達はまた皆でご飯を食べていた。

 そんなもんで、秋斗の所に健が来たので、チトセと翔が秋斗に言った。

「ちょっと~! なんで秋斗とカナだけ、急に健と仲良くなってるのよー!」

「そうだぜ~俺達おいてけぼりかよー」

 そんな事を言うチトセ達に事情を話していいか健に聞くと、健は秋斗達は仲がいいか

らしかたがないといった感じで頷いた。

 健が話してもいいということを確認してから、秋斗は昨日の事情を皆に説明した。

「・・・・・・と言う訳なんだ」

 秋斗が説明を終えると、皆「そんな事があったんだ~」と言った。

 それを聞いた良子が健に質問した。

「なんで喧嘩したの?」

 秋斗もなんで喧嘩したのか、聞きたかった。

 良子にそう聞かれると、健は言いづらそうに言った。

「それが・・・・・・俺にもわからないんだ・・・・・・」

「「「「えっ?」」」」

 健以外の皆が驚く。

「とりあえず、喧嘩した時の事を教えてよ」

 秋斗のその言葉に健は少し考えるようにして言った。

「昨日、俺は学校に行く為に起きて、リビングに行ったんだ・・・・・・」

 

 

『あ、健。おはよー』

『ああ』


「さやはいつものように朝食を作ってくれていた。俺はいつものようにその朝食を食べ

た」


『ねえねえ、昨日ね、健の同じクラスの秋斗さんとカナさんの家政婦の、優の話聞いた

んだけど~』

『・・・・・・』

『・・・・・・ねえ、ちゃんと聞いてるの?』

『・・・・・・ん? ああ』

『なんでいつもそうなの!?』

『え? なにがだ?』

『なんで、いつも必要最低限の言葉しか話さないのかって事よ!』

『必要であれば聞くが・・・・・・』

『あたしは・・・・・・優のところみたいに沢山、話ししたいのに・・・・・・』

『え? さや、なに言って・・・・・・』

『もういい!! 健のバカ!!』

『あ、ちょっと・・・・・・おい!』


「そう言ってさやは家から出て行ってしまった・・・・・・。とりあえず、俺は時間もなかっ

たし学校に行って、帰ったら家にいつも居たさやは居なくて、電話がかかってきて・・・・

・・今日にいたる訳なんだが・・・・・・」

 昨日の事を思い出してか、頭を抱えながら健は言った。

「俺にはなんでさやが怒ってるのかまったくわからないんだ・・・・・・」

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

 そう言う健の言葉を聞いて皆黙った。

 「なんだかカップルみたいだね」とカナが秋斗にささやいた。そんなカナの言葉を聞

いて、秋斗はゴホンとわざとらしい咳払いをして、健に言った。

「ん~っと、さやはさ、健と話がしたいんじゃないか?」

「話し・・・・・・?」

 健は意外そうに驚いた。が、健の話を聞く限り、そうとしか思えなかった。

 というか、そう言ってたし。

「とりあえず、さやと話あわないとな。ずっと俺達の家にさやが居るわけにもいかない

し・・・・・・」

「あ、ああ。そうだな」

 優が健の家にいつづけるのも危険だし。と言う言葉を飲み込んで、秋斗は健に言った。

 そんな秋斗の言葉を聞いて、健が言った。

「だが、話をすると言っても、今のさやは俺の話を聞いてくれそうにもないいんだよな

・・・・・・」

 健のその言葉を聞いて、秋斗は昨日のさやと健の電話を思い出す。確かに今のさやは

興奮していて、健の話を聞いてくれそうにもなかった。

 秋斗と健がどうしたもんかと悩んでいると、そんな二人を見て良子が言った。

「私にいい考えがあるわよ♪」

 そう言って良子は翔の肩に腕をまわした。「俺?」と言う翔の言葉を無視して、何か

を考えているらしい良子の顔は何故か楽しそうだった。

 大丈夫だよな・・・・・・? 

 そう思いながらも他に方法はないので、とりあえず作戦は良子にまかせることにした。


 学校が終わって、秋斗達は作戦を決行した。カナにさやを秋斗の家の近くの公園まで

連れて来てもらった。さやが公園につくと、そこには健が一人で居た。

「健・・・・・・!? なんで・・・・・・!」

 さやが驚いて隣を見ると、さっきまで一緒に居たはずのカナはいなかった。

「さや、俺の話を聞いてくれ!」

「私に話すことなんて何もないくせにっ!」

 健の話を聞こうとしないでさやが走り去ろうとした時だった。良子が翔に言った。

「翔! 今よっ!」

「おうっ」

 良子にそう言われ、翔は紫のオーラを体から放ちながら、歌を歌った。

 翔の歌声が公園に居た二人を包む。

「「これは・・・・・・」」

 翔の歌声にはやはり力があるのだろう。翔の歌声を聞いた二人はさっきまでとはうっ

てかわって落ち着きを取り戻してた。

「ここからは健の勝負所ね」

 隠れて見守っていた、チトセが言った。

「さや・・・・・・俺は、お前が俺の家政婦じゃないと嫌だ」

「・・・・・・!」

 健は秋斗が思っていたより大胆なことを言ってのけた。

 これも翔の力のおかげなのか?

 口下手な健が自分の思いをストレートに伝える。

「こんなこと初めてなんだ・・・・・・お前が俺の心の中に入ってきて、お前が家を出て行

ってしまってから、お前のことばかり考えている」

「健・・・・・・私のこと嫌いじゃないの?」

「嫌いじゃない!」

「だって、いつもあんまり話ししてくれないし・・・・・・」

「それは・・・・・・俺、話すのが苦手なんだ。だから、その」

「・・・・・・本当に、私の事、嫌いじゃないの?」

「ああ。・・・・・・俺のところに戻ってきてくれないか?」

「これからは、ちゃんと話ししてくれる?」

「う・・・・・・が、頑張るよ」

「アハハハ」

 さやは泣きながら喜んでいた。

「もう大丈夫だな」

 秋斗はそう言うと、皆とこっそり公園を離れた。

 こうして、健の家政婦事件は無事、解決した。

 

 健とさやはお喋りをしながら、初めて楽しく家に帰った。

 家のドアを開け、中に入るとに着くと健は倒れた。

「健! どうしたの? 大丈夫!?」

「腹が・・・・・・」

「お腹!? お腹がどうしたの? 痛いの!?」

「・・・・・・へった・・・・・・」

「え?」

 薄れいく意識の中さやの声を聞きながら、さやが家に帰ってきたことに安心して、健

は意識を失った。

「・・・・・・いい・・・・・・匂いがする」

「健! 良かった・・・・・・気が付いた?」

 気がつくと、健は自分のベットの上に居た。健のベットの横で、イスに座っていたさ

やが心配そうな顔をしていた。。

「俺は・・・・・・」

「お医者様に見てもらったら、ご飯を食べていないから意識を失ったって言ってたわ。・・

・・・・健、ご飯食べてなかったのね」

「あ、ああ・・・・・・」

 優が家政婦に来て、健の家の物は凄い事になっていた。初めて会う人の家に行き、優

は緊張してしまったのだろう、物をたくさん壊し、健は食事どころじゃなかった。

 色んな意味で、本当にさやが戻ってきてくれて良かった、と健は思った。

「ご飯作ったから、今入れてくるね」

 そう言うさやの顔には、ご飯を作った時に味見をしたからなのか、ご飯粒がついていた。

「・・・・・・きゃっ!」

 健は、ご飯を入れに行こうとしたさやの腕を掴んでさやを引き寄せると、さやの口の

横に付いたご飯粒を食べた。

 それは、まるでキスをしたかのように。

「健・・・・・・!」

 さやは顔を真っ赤にして固まった。

「やっぱりさやの作るご飯は旨い」

 ボソッと健がそう呟くと、さやは慌てて立ち上がった。

「あ、そ、そうだね、健なにも食べてないからお腹空いてるよね! すぐ入れるね!」

 そう言って、さやは急いでキッチンに行った。健の部屋を出るなり、床にへたりこん

だ。

「・・・・・・ビックリした・・・・・・キスされたかと思った・・・・・・」

 さやの顔は、真っ赤に染まっていた。急にあんな事をされ、心臓がバクバクいってい

るのが聞こえそうなぐらい、驚いた。

 少し戸惑いながらも、さやはご機嫌で健のご飯を入れた。

 さやが慌てて部屋を出た後、健は一人言を呟いた。

「・・・・・・なにしてるんだ俺は」

 さやは気づかなかったが、健は耳まで真っ赤になっていた。

 その日から、健とさやは二人で食事するようになった。



 その日の夜。健は日課の報告をしていた。

『どうだ今日も何もなかったか?』

「はい。今日もとくに気になることはありませんでした」

『そうか・・・・・・』

 通信映像で健の顔を見た上官は、うっすらと笑いを作りながら言った。

『ふむ・・・・・・どうやら上手くいったみたいだな』

「・・・・・・え? あ、はい」

 上官が、さやとの事を言ってることに気づいて健は返事した。

 どこか照れたような、健の表情を見て上官は嬉しそうに言った。

『健・・・・・・少し変わったな』

「え、そうですか?」

 上官にそう言われ、健は少し動揺した。そんな健をよそに上官は続ける。

『ああ、いい方向に、と言う意味でだ。まあ、あまり気にするな。あ、それから今度か

らは何か進展があった時だけ連絡するようにしろ』

「え・・・・・・ですが」

『私もそこまで暇じゃないのでな。なに、なにかあるまで暫らく学校で羽でも伸ばして

いろ。それでは以上だ』

「は、はい。失礼します」

 上官のその言葉で、話しは終わりだと言われた気がして健は通信を切った。

 そうして、健の慌ただしい一日は無事、幕を下ろした。

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