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良子と翔

 良子のサプライズ誕生日パーティーが終わって、1週間程が経った。

「りょ、良子! あの・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

 翔の言葉を無視して良子はどこかに行ってしまった。うな垂れる翔を見ながら、秋斗

はチトセに言った。

「まだ怒ってんのか・・・・・・良子のやつ」

 秋斗の言葉を聞いたチトセが、少し驚いた様に言う。

「良子があんなに怒ってるの初めて見るよ」

 珍しそうにそう言ったチトセの言葉を聞いた秋斗は、良子の誕生日パーティーの事を

思い出した。

「それにしても、なんで翔は女の子になってたんだろうな・・・・・・」

「・・・・・・良子がまた変な薬作ったんだろうね・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 なぜ? と言う言葉を飲み込んで、今は良子と翔の事を考える事にした。

 落ち込む翔を見て、カナが言う。

「なんか、こんなの楽しくないよ~!」

「ああ」

「そうだね」

 カナの一言に、秋斗もチトセも頷いた。しかし、良子と何があったのか翔に聞いても

翔は答えてくれなかった。

 どうしたものか・・・・・・。

 秋斗はそう思いながらも、何も解決策は見つからないまま、日は過ぎていった。時間

が解決してくれるかとも思ったが、良子の翔に対する態度は依然として変わらなかった。

 どうしたら良子と翔を仲直りできるかと思っていたある日、学校に行くと、担任の緒

方が朝礼で言った。

「お前ら~、明日学校の授業は無くなって、急遽、歌の大会を開く事になったぞ~。ま

あ、校長の気まぐれだろうがな。このクラスからは・・・・・・翔! お前が出ろ。お前は歌

の技術は学年でも上位の成績だからな。優勝すると、有名アーティスト「アズサ」のラ

イブチケットがクラス全員分貰えたり・・・・・・後は、まあ・・・・・・俺の給料もあがったりす

るから頑張ってくれ」

 担任の緒方の急な発言に、教室は色めきたった。

「アズサのライブ!? すげ―――!」

「まじ!? 行きた―――い!」

「翔、頼んだぜ!」

 クラスからそんな声が上がった。

「え、いや・・・・・・俺は・・・・・・」

 良子を見て何かを言おうとした翔だったが、良子にフンッと鼻であしらわれて、また

ガクッと肩を落としていた。

「大丈夫なのか? 翔のやつ・・・・・・」

 秋斗の不安を余所に、翔の明日の出場は勝手に決まった。

 そんな緒方の急な発表を聞いたその日の昼休み、良子の誕生日パーティーの後から、

秋斗達は秋斗と翔、チトセと良子とカナ、のグループに分かれて少し離れた所で昼食を

食べるようになっていた。

 お昼時間になって、良子と食事をしていたカナが良子の鞄に入っていたストラップを

見て言った。

「あ―――! これこの間、限定販売していたストラップだー! いーなー良子! 並

んだのー?」

「え? いえ、これは・・・・・・」

 カナの言葉を聞いた翔が、ハッと良子の方を見た。良子と一緒に食事をしていたチト

セも、良子のストラップを見て声を上げた。

「あっ、本当だ! 可愛い~! これ、超入手困難なんだよね~!」

「そ、そうなの・・・・・・?」

 チトセの言葉を聞いて良子はビックリした顔をしていた。

「あれ、持っててくれたんだ・・・・・・」

 秋斗の隣にいた翔がそんな声を漏らした。良子の鞄に入っていたストラップは、良子

の誕生日に翔が上げた物だったらしい。

 もしかして良子のやつ、翔の事もう許してるけど、意地はって仲直りできないだけな

のか・・・・・・? だったら何かきっかけさえあれば仲直りできそうだな。

 秋斗はそう思った。

 ただ、どうすればいいんだ・・・・・・。

 仲直りをさせるきっかけがわからない。更に頭を悩ませる秋斗だった。



 次の日、校長の突然の提案で、歌のコンテストは開かれた。

 こういう急な大会がひんぱんに行われる白龍学園には、大きな会場が大会用に作られ

ている。そこに移動し、歌の大会は開催された。

 1学年5クラス。1クラスから1人が出場し、3学年まで、年齢関係なく計15人の

生徒がエントリーしていた。

 皆、自分の十八番の歌など好きな歌を歌って行く。

 採点は、出場選手の15人以外の全校生徒445人が1人1ポイント付けられ、後は

音楽の先生が3人、一人10ポイント、教頭先生が10ポイント、校長先生が15ポイ

ント付ける事ができ、皆で500点満点となる。

 優勝賞品のビーチパーティー券は、学校の授業が一日無くなる上に、料理も食べ放題

で、一日別荘に宿泊も出来るという、まさに遊びたい盛りの生徒には魅力的すぎる賞品

だった。

 皆、優勝賞品でもらえる有名アーティスト「アズサ」のライブチケットが欲しくて、

自分のクラスの出場者の番になると大きな声を出して応援していた。

 1年の1クラスからスタートして、秋斗達4クラスは4番目だった。

「次は翔の番だな」

 1年3組の生徒が終わり、次は秋斗達のクラスの翔の番が回ってきた。舞台の上で歌

う準備している翔を見てカナが呟いた。

「翔の歌ってどんな感じなのかな~? カナ聞いた事ないや~」

「アタシは聞いたことあるよ!」

 それを聞いたチトセが言った。

「たまたま学校が終わって忘れ物しちゃったのを思い出して、教室に戻ったんだけど、

その時に翔が教室に一人で残って歌ってたんだよね。それが、超上手くてさ~! アタ

シ暫らくその歌声に聞き入っちゃったよ」

「へー、そんなに凄いんだな」

 チトセの話を聞いた秋斗は驚いた。

 壇上で準備をしていた翔の準備が終わり、翔の歌う曲が流れ出した。翔の選んだ曲は

少しヒップホップ系のラップのあるような音楽だった。

 サビの所に入ると翔の大きな、それでいてまるで語りかけるような、よく透き通る声

が会場を包んだ。

 皆、翔の歌声に引き込まれている。秋斗は翔の歌っている姿を見て思う。何て楽しそ

うに歌うんだろう、と。

 歌っている時の翔はいつも一緒に居るはずなのに、まったく知らない人に見えた。

 本当に歌が好きなんだな・・・・・・。

 翔の発する歌詞の一言一言に、魂が込められている様な気がする。そんな翔の歌に魅

了され気が付くと、翔の歌は終わっていた。

 会場は一度、静寂に包まれたがすぐに大きな歓声が会場を埋め尽くした。

「すげー・・・・・・!」

「翔―――! いいぞ―――!」

「なんか今日の翔って、カッコよく見えるね~」

 秋斗もチトセもカナも翔の歌を聞いて盛り上がっていたが、良子はなんだかまだ意地

を張ってるような感じだった。

「これは結構点数いくんじゃないか?」

 秋斗がそう言うと皆、点数が表示される掲示板に注目した。

「只今の得点はー・・・・・・」

 司会進行役の教師が点数が出るのを待っている。皆も翔の得点がいい点を取ると思っ

たのか、会場中から息を呑む音が聞こえた。

「487点!!」

 掲示板に映し出された点数を見て会場中が湧き上がった。

「487点だ!」

「スゲーよ!」

「もしかして優勝出来るんじゃないか!?」

 点数が表示されると、翔と同じクラスの皆が興奮していた。

 翔が歌う前の1,2,3クラスは皆、歌が上手かったのだが、438点が、最高得点

だった。採点が厳しく、500満点中の487点というのは、今のところかなりの高得

点だった。

 舞台上に居た翔も点数を見て喜んでいたが、会場に居た良子と目が合い、フンッと視

線を逸らされてまた肩をガックリ落として舞台から降りていった。

 その後も、次々と他の生徒が挑戦したが、2学年の生徒一人が479点を叩き出した

が皆、翔の点数には遠くおよばなかった。

 そして、3学年の最後の出場者が出てきた。もうこの時点で、翔の決勝戦の出場は決

定していた。

 決勝には、得点の高かった上位三名で行われ、その三人でまた勝負をして、決勝で一

番得点が高かった生徒が優勝となる。

 その3学年最後の女子生徒が舞台上に上がっただけで、何故か会場が盛り上がった。

「綾香ちゃーん!」

「綾香先輩ステキー!」

「キャー! 綾香先~輩!」

 男女問わず、そんな声が飛び交った。

「な、なんだ・・・・・・?」

 秋斗が驚いていると、控え室から出てきた翔が秋斗達の所に戻って来ていった。

「3年5組、峰綾香。その美しい歌声と美貌から白龍の歌姫って言われてるみたいで、

なんでもあまりの綺麗すぎる歌声に、いろんな所からスカウトされまくってるみたいだ

ぜ。それに、去年、一昨年とこの歌の大会で優勝していて今回の優勝候補ってまで言わ

れてるしな。綾香先輩のファン倶楽部もあるみたいだぜ」

 情報通の翔からそう聞かされて、秋斗はこの会場の熱気にも納得がいった。

 そんな説明している翔を見て、チトセとカナが声をかける。

「翔、カッコよかったわよ」

「凄い上手だったー!」

「そうか? へへっ、ありがとな」

 チトセとカナにそう言われて、翔は照れながらお礼を言うと、良子に鬼のような顔を

見せられ、半泣きになっていた。

 なんか、決勝に響かなければいいんだけどな・・・・・・。

 秋斗がそんな事を思ってると、綾香先輩の曲が流れた。

 会場は一気に静まり返り、皆一人の女の子の歌声に聞き入っていた。

 見た目の美しさとピッタリの美しい声に、日本人離れした声量に、皆が引き付けられ

た。

 本物のプロの歌手より上手いんじゃないか・・・・・・?

 歌の事をあまり知らない秋斗がでもそう思えるほどだった。綾香先輩の歌が終わると

会場はまた熱気に包まれた。割れんばかりの歓声が場内を埋め尽くす。

「ただいまの得点は~・・・・・・」

 司会進行の教師がそう言うと皆、掲示板に注目した。

「490点です!!」

 掲示板に得点が表示されると、会場はまた大盛り上がりだった。

 翔が決勝戦の為、また控え室に行くと言うと、チトセとカナが「頑張ってね」と言っ

て笑顔で見送った。

 翔は良子に視線を送ると、良子はいつもの様に、フンッ翔の視線を逸らした。そして

翔は肩を落として控え室に行った。

 その様子を見てチトセは笑っていた。そんなチトセに、秋斗は呆れたように言った。

「おい・・・・・・笑ってる場合じゃねえんじゃねえか?」

 そんな秋斗の言葉にチトセは笑いすぎて涙が出ていた目を擦りながら言った。

「いや~アタシも最初はそう思ったけどさ~、良子の事は大丈夫だよ」

「え・・・・・・?」

 なんで? と言う秋斗の顔を見ながらチトセは続ける。

「良子はそこまで根に持つ奴じゃないしさ、もうとっくに翔の事は怒ってないよ」

 長い付き合いのチトセが言うんだ。きっと間違ってないだろう。それに、翔が良子の

誕生日にプレゼントした物を鞄に入れていた事からも、怒ってない事は納得できる。

「でもよ、笑う事ないだろ」

「だってさー、良子があんなにムキになって感情をあらわにしてるなんて、今まで一緒

に居て初めての事だから面白くってさ~」

 そう言ってチトセはまた笑ってた。

「でもいくら許してるって言っても、いつまでもあんな態度じゃ翔も可哀想だろ・・・・・・」

 そう言った秋斗にチトセが大人びた笑みを浮かべて秋斗に言う。

「あの良子があんなに感情的になるってことは・・・・・・そういう事でしょ」

 秋斗はチトセの笑みに一瞬ドキッとしたが、チトセの言ってる意味が分からず、ワケ

が分からないという顔をしていた。

 そんな秋斗にチトセは、「鈍感な秋斗には分かんないか」と楽しそうに言っていた。

 チトセの言葉に更にクエスチョンを作りながら、会場に現れた司会に目を向けた。

 司会者は、決勝に進んだ三名の生徒の決勝で歌う順番を読み上げた。

「え~、厳選なくじびきの結果、1番、2年坂井めぐ。2番、3年峰綾香。最後に1年

松尾翔。この順番で、決勝戦を始めます!」

 司会者がそう言うと、会場はまた盛り上がった。そして、1番目の女の子の歌が始ま

った。

 綾香先輩と翔には及ばないまでも、女の子の歌声は明らかにプロと変わらない程上手

かった。

 歌が終わり、採点が出る。

「只今の得点は~・・・・・・出ました! 485点!」

 翔の一回目の点数に及ばなかったものの、一回目より遥かに点数を上げてきた。そし

て2番目の綾香先輩の番が来た。

 場内はやはり盛り上がり、綾香先輩の歌声に皆が癒された。綾香先輩が歌い終わると

会場は綾香先輩の点数を待って、静寂に包まれた。

「只今の得点は~・・・・・・! 4、497点!!」

 司会者も驚く点数が飛び出した。会場は大歓声に包まれる。綾香先輩のクラスの3年

5組はもはや優勝モードだった。

 そんな大歓声の中、翔は出てきた。翔はなんだか元気がないように見えた。

「さっきの良子の事が堪えてるのか・・・・・・?」

 秋斗はそんな事を思っていた。

 元気のない翔の表情にはまったく不似合いな、明るい、いかにも翔らしいといった感

じの演奏が流れる。だが、演奏が始まっても翔は歌い出さなかった。

 いつまでたっても歌い出さない翔に、会場中からどよめきが起きた。

 そんな中、哀しそうな顔をしていた翔がキッと表情を引き締めると、会場の特別席に

座っていた校長を見て言った。

「校長先生、曲のチェンジをお願いします!」

 そんな翔の突拍子もない発言に、会場がさらにどよめく。

 突然の翔の頼みを聞いた校長は、少し考える仕草をして言った。

「準備している曲は今のしかない。演奏なしでお前の声だけになるが、それでもいいの

か?」

 校長がそう言うと、翔は即答した。

「はい! かまいません!」

 翔がそう言うと、校長は子供の様に嬉しそうな屈託のない笑顔をしていった。

「面白い! いいだろう、お前の好きにしろ」

 校長がそう言うと、会場はざわついた。

「翔・・・・・・曲なしで歌うのか?」

 秋斗が不安を抱いていると、ざわついた会場に翔の声が響いた。

 翔の声が会場を包むと皆、何かに取り付かれたかの様に翔の声に見入った。



For you, I would have done whatever

And I just can't believe we're here together

And I wanna play it cool, but I'm losin' you

I'll buy you anything, I'll buy you any ring


(きみのためなら ぼくはなんでも 

なんだって するつもりだよ


ぼくたちが 今ここで 二人っきりでいるのが

ただ 信じられないきもちだよ


かっこつけて 平気なふりしてたいよ

でも きみを 失っちゃうなんて


きみのためなら なにを買うのもおしくないし

指輪だって きみに贈りたいよ)


And I'm in pieces, baby fix me

And just shake me 'til you wake me from this bad dream

I'm goin' down, down, down, down

And I just can't believe my first love won't be around


(でもぼくの心は コナゴナだよ

ベイビー お願いだ 救っておくれ


この悪い夢から さめるように

ぼくを揺すって 起こしておくれ


ぼくは 落ち込んで 落ち込んで 落ち込んでいくんだ

ただ 信じられないよ

ぼくの初恋には もう 明日なんて ないなんて)


 

「な・・・・・・! コレは・・・・・・!」

 壇上で歌う翔を見ていた校長が、珍しく驚く。翔が歌う姿を見ていた、会場の審査員

、教頭、生徒、校長以外の皆も息を飲み込んだ。

 翔の体からは、美しい紫色のオーラが出ていた。異能者のみが出す事が出来るオーラ

を。

 翔が異能者だったという事に皆が驚いていたが、翔の歌声を聞いた皆は翔のそのあま

りの美しい歌声に言葉が出なかった。

 翔は英語の歌を歌っていたが、英語を分からない秋斗でも何故か心に響いた。

 翔の異能の力のおかげなのか、翔の歌からは、一人の人を一途に思い続けるような切

ない気持ちが溢れてくる。

「あ、あれ、俺なんで・・・・・・」

 気が付くと秋斗の目からは涙が出ていた。秋斗の隣に居たカナも涙を流していた。

 翔は、歌いながらずっと一点を見つめていた。

 その翔の見つめる先には、良子がいた。美しい翔の歌声に良子も心を奪われていた。

 良子は頭が良い。きっと歌詞の意味を理解しているだろう。

 そんな良子の顔は何故か赤く染まっていた。秋斗はチトセの言葉を思い出していた。

「鈍感な秋斗には分からないか」

 もしかして、翔って良子のことが・・・・・・。

 気が付くと、翔の歌は終わっていた。あまりに引き込まれていた為、本当に一瞬のよ

うに感じた。

 始めは圧倒されて声が出せずにいた皆だったが、暫らくすると、大きなざわめきにな

っていた。

「た、只今の得点は・・・・・・!」

 司会者も翔の歌声に、暫らく呆然としていた。会場が翔の得点に注目する。

「出ました!! ご、500点! 満点です! と、いう事で、優勝は1年4組! 松

尾翔です! おめでとうございま~す♪」

 司会者のその言葉で、ざわめきが歓喜の声へと変わった。

 優勝者の翔に、トロフィーが渡されると、会場は今日1番の割れんばかりの歓声で幕

を閉じた。

 会場から出ると、翔と秋斗達は合流した。

「翔! やったじゃん!」

 秋斗がそう言うと、チトセもカナも「おめでとうー」と言ってきた。

 3人にお礼を言った翔が見つめるその先には、秋斗達から少し離れたところで良子が

気まずそうにしていた。

 チトセの目配せに秋斗は頷き、カナを引っ張って、良子と翔から離れた。

 カナが、「なんでなんで~?」と言って来たので、あっちに美味しいものがあると言

って誤魔化し、翔と良子を2人っきりにした。

「あ、あの! この間は本当にごめん!」

 翔が良子に頭を下げて謝ると良子は少しビックリした顔をした後、少し顔を赤らめる

と、少し俯きながら言った。

「あの時の事は・・・・・・翔の責任だけじゃないし・・・・・・その、うっかりしていた私のせい

でもあるわ」

「良子・・・・・・」

 翔が良子の鞄にふと目をやると、翔が1日中並んで苦労して買って良子に上げたスト

ラップが良子の鞄に付いていた。

「そ、それ、付けてくれてたんだ」

 翔が良子の誕生日にプレゼントしたストラップを見ながら言うと、良子はフッと笑い

ながら言った。

「ああ、これ? ・・・・・・ええ、凄く可愛いから。お礼まだ言ってなかったわね、ありが

とうね」

 久しぶりに見る、良子の笑顔。あの事件からまともに会話さえしてくれなかった良子

と、前みたいに普通に会話ができている。

 良子とそんなやり取りをしていて、翔は思った。

 なんか、いい感じだ! 良かった―――!

 そんな事を思っていると、数人の女子生徒が翔の所に来た。

「翔さん! 私、今日の翔さんの歌声を聞いて、ファンになっちゃいました!」

 その一人の女の子の一言を境に、近くに居た数名の女子も「私も! 私も!」と言い

出した。

 可愛い女の子に囲まれ、握手を迫られた翔は有頂天になっていた。女の子に囲まれデ

レデレした翔の顔を見て、良子はその場から離れた。

 それを見た翔は、どこかに行こうとする良子の腕を慌てて捕まえて、良子を引き止めた。

「ちょ、どこ行くの!?」

 まったく女心が分かってない翔にイライラしながら良子は満面の笑みで言った。

「翔・・・・・・」

「ん?」

「死ねぇええええええ―――――――――!」

「うわっ! な、何でぇ!? ギャァアアア――――――!」

 翔の悲痛な叫びが会場には響いたけど、前みたいに、いや、前以上に、良子と翔の仲は深まった。

 ・・・・・・はず。


              


 金村は町長室に来ていた。

「今日、新たに異能者が見つかりました。1年の生徒で、松尾翔。紫のオーラの持ち主

です」

 それを聞いた町長は嬉しそうに笑い、金村に聞いた。

「そうか! 能力はなんじゃ?」

「は、多分声になにやら力があるらしく、聞いた者を引き込む力があるようです」

「そうか・・・・・・素晴らしい! 今年の1年は最高じゃ・・・・・・。金村、もっと探すのじゃ!

神様に与えられたかのような、この不思議な力を持つ者達をな!」

「は、了解しました」

「珍しい物は全部わしの物じゃ・・・・・・ハーッ八ッハッハ」

「失礼します・・・・・・」

 金村はいつものように、ため息をつきながら町長の屋敷を後にする。そして、今日の

ことを思い出す。決勝で異能の能力に目覚めた生徒の事を。

「松尾翔・・・・・・声だけで皆を引き込む能力・・・・・・素晴らしい力だったな・・・・・・。今年の

1学年が入学してきてもうすでに二人の異能者が発見された。今年はなにやら荒れそう

だな・・・・・・」

 そんなことを考えながら、言葉とは裏腹に顔は笑っていた。

「さてさて、今度はなにをして遊ぼうか・・・・・・。まったく今年の1年は飽きさせてくれ

ない。フッフッフ・・・・・・ハーッハッハッハ!」

 町長とは違った意味での不気味な高笑いをする、金村の声が森に響いた。

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