始まり
金村は部下の犯した失敗の最後報告の為、町長室を訪れていた。
「町長、最後のスターベアを無事、捕獲しました」
「そうか、ご苦労じゃったな」
「それから、そのスターベアを捕獲する際、新たな異能者を見つけました」
「な、なに!? それは本当か! オーラの色は何色じゃ!」
「色は・・・・・・七色です」
「七色じゃと!? 素晴らしい・・・・・・! して、その能力はなんじゃ?」
「能力まではわかりませんでしたが、身体能力が脅威的にアップしていました」
「そうか、能力まではわからなかったか。じゃがいい・・・・・・。時間はたっぷりあ
る。ゆっくり能力を確かめるとしよう。そうか、金の卵が見つかったか・・・・・・」
そう言って町長は、金村に七色のオーラを持つ者の能力を調べるように命じた。
「異能者の力は、全てわしのものじゃ!」
町長はそう言って不敵な笑い声を上げた。
「は、失礼します」
金村は町長の部屋を出て、苦い顔をした。
「まったく強欲な爺さんだ・・・・・・。その強欲が、いつか身を滅ぼさなければいい
がな・・・・・・」
そうを呟いて、今日の出来事を思い出す。
「岩神秋斗、か。七色のオーラを持つとはなんと面白いやつじゃないか・・・・・・。
いい暇つぶし相手が見つかった。今度は何をして遊ぼうか・・・・・・おお、確かビー
チパーティーに1年4組は行く事になったな・・・・・・」
そんな事を言って、校長は楽しそうに笑った。
秋斗が新歓で優勝してくれたおかげで、1年4組は次の日、学校が休みになりクラス
全員で学校から少し離れた所で、1泊2日のビーチパーティーをする事になった。
秋斗のクラスはバスに乗って、森の奥にあるビーチパーティーの場所まで移動する事
になった。バスの中では、翔が前に出てなにやらクイズを出していた。
「さてさて、皆さん! ここで問題です! え~っと、今日あなたは、宇宙のデザート
を食べることになりました。さて、そのデザートの味は何味!?」
カナはそんな翔のクイズよりも、今朝買った新商品のお菓子に夢中になって食べてい
る。翔の出すクイズを、秋斗は真剣に考える。
宇宙のデザートなんだから、きっと美味しいよな・・・・・・。
ん~そうだなー・・・・・・なんだろ・・・・・・。
食べた事の無い物の味を考えるなんて、結構難しいな。
以外と、かぼちゃ味とかだったりして・・・・・・。
そんな事を考えていると、翔が言った。
「皆~考えましたか? そ・れ・はー・・・・・・皆のファーストキスの味なんだって
よ~!」
――――――ブッ!
俺のファーストキスは、かぼちゃの味かよ!
「わ~! 汚いよ秋斗~!」
「ご、ごめん!」
秋斗は飲んでいたジュースを思いっきり吹いて、カナに怒られた。
良子は、翔の出すクイズ何か気にせず、色んな角度からチトセの写真を取りまくって
いた。
そんな事をしながら、バスに揺られる事二時間。秋斗のクラスは無事、別荘のある海
沿いのビーチに到着した。バスを降りると、ビーチの入り口には専用の「P45」が居
た。
皆が一列に並んで、一人一人「P45」の目の前に右手の人差し指をかざして、本人
確認をしていく。
目で指紋確認できるなら、なんで街の入り口に居た案内人の「P45」は口の中で確
認させてたんだよ・・・・・・。
そんな事を思いながら、秋斗の番が来たので、秋斗が「P45」の目に指をかざそう
とした時、急に「P45」が秋斗の時だけここに手をかざして下さいといって、胸の方
を指差した。
「ん?」
少し疑問に思いながらも、秋斗は「P45」の胸のところに手をかざした。
すると、「P45」が、顔を真っ赤にして大声で言った。
「キャー! どこ触ってるのよー!」
「・・・・・・は?」
「P45」がそう言うと、クラスの皆が秋斗を見た。
良子がサイテーというと、クラスの女子の秋斗を見る目が怖いことになっていた。
「・・・・・・え? いやいやいや、いやいやいや! 「P45」が!」
秋斗が必死に弁解しようとすればするほど、女子は秋斗の事を白い目で見ていた。
そんなあたふたする秋斗の姿を見て、チトセは笑っていた。
秋斗の次に並ぶ人には、「P45」は普通に目で、指紋確認をしていた。
なんで俺だけだったんだよー!
秋斗の心の叫びは誰にも届かなかった。
「わー! 海だー!」
ビーチに入ると、海が珍しいカナは大はしゃぎだった。
「今日はいっぱい泳ぐぞー!」
チトセも子供の様に目を輝かせている。良子は、そんなチトセに目を輝かせながらカ
メラのシャッターを切っていた。
「チトセの水着姿・・・・・・ウフフ・・・・・・」
秋斗はそんな良子の言葉を聞かなかったことにした。
担任の緒方は皆が揃ったことを確認すると、皆に向かって言った。
「皆いるな~? 今日は、優勝したクラスへの校長からのご褒美だ。秋斗に感謝しろよ
~。皆、好きに遊べ~。あ、海はあんまり遠い所に行くなよ~! それから、昼時間に
なったら集まれよ~!」
緒方がそう言うと皆、秋斗に感謝して騒ぎだした。
緒方も授業じゃないからなのか、どことなくいつもより上機嫌に見えた。
秋斗もさっきの「P45」のことは忘れることにして、テンションが上がった。
ビーチと言ったら海!
海と言ったら水着!
今日はチトセの水着姿が見れると思うと、昨日の夜は寝付けなかったぐらい秋斗は楽
しみだった。
いつの間に着替えたのか、水着姿の翔が「秋斗も早く着替えろよ!」と言ってきた。
翔に返事をして着替えを済まし、ビーチに行くと、クラスのほとんどが水着に着替え
てビーチで遊んでいた。その中に、チトセも居た。
ビーチで遊んでる皆が見える位置に座っていた、翔の隣に秋斗も座る。
水着姿になり、女子の皆と空気ボールでバレーをしていた良子を見ながら翔が言う。
「マジで可愛いよな・・・・・・」
秋斗は、良子と一緒にバレーをしていたチトセを見ながら言った。
「ああ、マジで可愛い・・・・・・」
昨日、秋斗がベットの上で想像していたよりも、今日のチトセの水着姿は刺激的だっ
た。長くスラリと伸びた長い足に、キュッと引き締まったウエストの上は、何を食べた
らこんなに大きくなるんだと思ってしまう程の膨らみ。
チトセが海に入ると、海の雫は宝石のように輝いて見えた。
チトセが砂浜で横になるのなら、俺はその下の砂になってしまいたい!
なんて思う秋斗だった。
秋斗はそんな光景を見て、昨日のスターベアとの戦いの疲れも一気に吹き飛んだ。
そんな穏やかな光景を金村は遠くから見ていた。
「フッ。生ぬるいぞ少年達よ! 青春といえば水着! 水着といえばポロリだ!」
そんな変な事をいいながら、校長はある動物を鎖から放した。
「ピー子~、頼んだよ~」
「キキッ」
ピー子と呼ばれた動物は金村から離されると、不適な笑みを浮かべてビーチに向かっ
て一目散に走っていった。
「う~ん。ピー子は町長のペットの中でも一番性欲が強いから、あいつならきっとやっ
てくれるだろう」
そんな独り言を呟いて、さっきのように、また望遠鏡でビーチの様子を観察した。
「んっ!?」
「どうした?」
「いや、なんか誰かに見られてるような気がして・・・・・・」
「気のせいだろ」
「・・・・・・だな」
秋斗は誰かの視線を感じたが、翔にそう言われ、今日は秋斗達1年4組の貸きりでク
ラスの人以外、誰も居ないビーチを見てそれもそうだなと思った。
秋斗がそんな事を思っていると、ビーチバレーをしていたチトセ達が騒いでいた。
「キャー可愛いー!」
秋斗達がチトセ達を見ると、そこには猿のような動物がいた。
「なにこれ新種の猿?」
その猿は、模様が三毛猫のような三色の色の模様をしていて、見た事もない動物だっ
たが、見た目は猿そのものだった。
「野生の猿かなー?」
チトセがその猿を触ろうとしたその時だった。
「キャ――!」
「キキッ♪」
猿は、目にも留まらぬ速さでチトセのビキニの上を剥ぎ取ってしまった。
「「なっ!」」
砂浜で、チトセの美しい上半身がさらけ出されてしまう。秋斗は、隣にいた翔の目を
急いで隠した。
「な、なにすんだよ秋斗!」
翔はじたばた暴れたが、秋斗は異能の力を出し、体から七色のオーラを出して、力の
限り、翔にチトセの体を見せないようにした。
チトセが片腕で上半身を隠しながら猿を捕まえようとするが、体を隠しながら動いて
るせいで、いつもの半分のスピードも出せていなかった。チトセが猿を必死に捕まえよ
うとしていたが、猿はチトセの手を軽やかにすり抜け、近くにいた良子とカナのビキニ
の上も剥ぎ取っていった。
「キャ―――!」
「なに!? この猿!」
良子とカナの悲鳴が飛び交う。
秋斗がこうしちゃいられないと、翔から手を離すと猿を捕まえる為み、チトセ達の所
へ走る。秋斗の体から七色のオーラが増大して放たれる。
秋斗の体に、力がみなぎる。
目にも止まらぬ速さで、秋斗はチトセ達の所に着いた。
「キャ―――!」
「エッチ―――!」
「いでっ!」
上半身が裸の良子とカナの近くに行った秋斗は、良子に張り倒された。
三人の体を見ない様にしながら、四苦八苦する事10分。秋斗はようやく猿を捕まえ
る事に成功した。
「捕まえた! いででででっ!」
「ウキ―――!」
捕まえられた猿は、秋斗を引っかきまわした。そんな秋斗達を遠くから見ていた金村
は、嬉しそうな声を漏らしていた。
「あの三毛猿を簡単に捕まえるとはな。さすが異能の力だ・・・・・・。フッフッフ、
もうちょっと楽しみたかったが、まぁ、今日はいい物が見れた事だし、これくらいでよ
しとするか」
猿にビキニを脱がされる、といった騒動がおきたビーチでは、捕まえた猿の周りに皆
が集まっていた。
「このエロ猿っ!」
「ウキ~♪」
チトセに小突かれると、猿は何故か嬉しそうだった。
皆でエロ猿をどうしようかと話していると、突然どこからともなく校長が現れた。
「いやーお前ら! すまんすまん、その猿は動物園の貴重な猿でな、逃げ出したのでこ
こまで追ってきたんだが、お前達が捕まえてくれたか! 感謝するぞ!」
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
校長の突然の登場に、皆はなにか胡散臭いものを感じていた。
エロ猿の被害にあったチトセ達に白い目で見られたが、校長はそんな事まったく気に
しないで、エロ猿を抱えて高笑いをしながら、どこかに行ってしまった。
校長がなんでこんな所にいるんだよ!
・・・・・・てか入り口の「P45」も、もしかしてコイツの仕業なんじゃねーか?
そんなことを思う秋斗だった。
「お~い、皆ー! 飯にするぞー! 集まれー!」
緒方の号令で皆集まって、砂浜でバーベキューをする事にした。緒方が持ってきたバ
ーベキューの鉄板や網を組み立てて、誰が作るか、という話しになった。
クラスの話し合いの結果、男子の代表と女子の代表でジャンケンをして、負けた方が
料理を作る事になった。この学校の生徒は皆、勝負事が好きだ。秋斗も、いつの間にか
この学校の雰囲気に染まっていた。
男子代表は秋斗。女子代表はチトセが出る事になった。
「行くぜチトセ・・・・・・!」
「いいわよ、かかって来なさい!」
などと意味の分からない事をいいながら勝負した。
「「ジャーンケン・・・・・・」」
―――――ポン!
勝負は一瞬だった。結果は・・・・・・。秋斗の負け。
「卑怯だぞ、チトセ!」
「勝負に卑怯もクソもないわ!」
秋斗は勝負の結果に講義した。いや、結果というよりインチキに。
秋斗の出したグーに対し、チトセは小指と薬指を曲げて、残りを開くという反則技の
グー、チョキ、パーを出してきた。
「ま~ま~いいじゃん」
翔に宥められて、男子がご飯を作る事になった。
少し責任を感じた秋斗は、焼きそばの担当を自らやる事にした。男子同士のジャンケ
ンで負けた翔は、肉焼きの担当になっていた。
「ふー、皆の分、渡ったかな?」
秋斗は焼きそばを作ってはカナに運んで貰うという事を、20回以上は繰り返してい
た。そんな秋斗に、クラスの仲間が言う。
「秋斗ー、焼きそばまだ?」
「後、何人分~?」
「まだ一個も来てないよー」
「えっ!?」
嘘だろ! 俺、あんなに作ったじゃん!
そう思いながらカナを見ると、カナは口の周りいっぱいにソースを付けて、秋斗と目
が会うと、カナは額に汗を垂らしながら、目をパチクリさせて満面の笑みを秋斗に向け
てきた。
このヤロ――――!
カナ一人に、全部食べられていた焼きそばを作り直して、お腹が空いていた秋斗達は
肉をたらふく食って、ジュースも飲みまくった。そしてご飯を食べ終わると、また皆で
泳いで、遊びまくった。
だいぶ日も落ちてきた所で、秋斗達は別荘に行った。
別荘に行くと、海の塩で体がベトベトしていた秋斗達は温泉に入った。
「なんだよ! 混浴じゃないのかよー!」
温泉が男女別だと知ると、翔は涙を流して悲しんだ。
「当たり前だろ!」
高校生の俺達に混浴なんて刺激が強すぎる。
そんなことを呆れ顔で翔に言いながら、秋斗もひそかに混浴じゃない事を悲しんだ。
温泉は広く、昼間に遊んでいたビーチが近くに合って、波の音が聞こえた。温泉に浸
っていると、海の匂いがしてきた。
気持ちいいな・・・・・・。
「秋斗、見て、見て」
秋斗がゆったりとした時間を満喫していると、翔がなにやら両手をくっ付けて、お湯
の中に手を入れた。空気が漏れない様にゆっくりと自分のお腹まで持っていく。
そして、両手を開く。
―――――ゴポゴポッ。
「おなら~」
「・・・・・・言っていいか?」
「おぅ!」
「くっっだらね―――――!!」
「ギャハハハ!」
そんな事をしながら温泉を出ると、別荘から料理が出てきたので、皆で料理を食べな
がら、大きな部屋でドンちゃん騒ぎが始まった。カラオケ大会が始まり、マイクを持っ
た翔が皆の前に出て歌う。
「わー! 上手いね~!」
「上手いな!」
「翔カッコイイじゃん!」
「本当、上手ね~」
翔の歌を聞いた皆は、驚きの声を上げた。皆、翔の歌声に引き込まれた。翔は、普段
のおちゃらけた性格からは想像できない、綺麗な声をしていた。
驚く秋斗達の所に、緒方が来て言った。
「翔の歌の技術は、A+だからな~」
「へ~! 凄~い!」
「A+って・・・・・・プロの歌手レベルじゃん!」
「人は見かけによらないのね~」
緒方の言葉を聞いた皆が、驚きの声を上げた。
そう言う緒方からは、物凄い酒の匂いがした。見ると、顔も少し赤くなってて酔って
いる様だった。そんな緒方はヘラヘラしていて、いつもより更にだらしなく見えた。
てか、酒飲んでいいのかよ・・・・・・。
秋斗がそんな事を思いながらも、楽しい食事も終わり秋斗達は男女別々の部屋に行こ
うとした。すると、どこからともなく校長が出てきて皆に言った。
「お前等、今から肝試しをするぞ!」
そんな校長の登場に一瞬驚いた皆だったが、校長の肝試しという言葉に大賛成した。
「なんで校長がまだいるんだよ・・・・・・」
「まあまあ、楽しければいいじゃん!」
そんな秋斗の言葉に、チトセが楽しそうに言った。
「男女ペアを決めるから、皆くじを引け~」
そう言う緒方の持った、あらかじめ準備されていたくじを引いて、二人一組の男女の
ペアを組んだ。
秋斗は・・・・・・チトセと同じペアになった!
良子に睨まれたが、秋斗はそれも気にならない程テンションが上がった。初めて、校
長に感謝した瞬間だった。
良子と翔が同じペアで、カナは自分と同じ身長程の男子とペアになっていた。
そして、別荘の周りを一周する肝試しが始まった。たったの一周と言っても、中々大
きな別荘の周りは、早歩きでも10分は掛かりそうだった。
ペアになった、男女の一組が、別荘からスタートした。そのペアを見て校長が言う。
「お前等、別荘を一周し終わるまで、手を繋いで行くんだぞ!」
そんな校長の言葉を聞いて、クラスの皆は恥ずかしりながらも、ちゃんと校長の言い
つけを守った。翔と良子の番が来た。
「お、俺達も行くか!」
「・・・・・・なんで・・・・・・」
「・・・・・・え?」
「なんでチトセと秋斗が、一緒のペアなのよ――――!」
「いで―――――!」
秋斗とチトセが一緒のペアだと知った良子は、ありったけの力を込めて翔の手を握り
潰した。
「・・・・・・なにやってんだ?」
「さあ~?」
そうこうしてると、秋斗とチトセの番が来た。
「い、行くか」
「お――!」
心底楽しそうなチトセと秋斗は手を繋ぐ。
チトセのしっとりとした柔らかい手に触れると、秋斗の手は緊張から、汗でびっしょ
りになった。でも、チトセは嫌な顔一つしなかった。
チトセとの至近距離に、秋斗の心臓は爆発寸前だった。
別荘の周りを一周だけと言っても、別荘の周りは街頭も無く、森に覆われて、中々怖
かった。
「キャ―――――!」
森の中で、叫び声が響き渡る。
秋斗達の目の前を、何かが通り過ぎたからだ。
「だ、だ、だ、だ、大丈夫だよ、ち、チトセ!」
「・・・・・・秋斗、もしかして怖いの?」
「・・・・・・・・・・・・」
秋斗は、女の子みたいな叫び声を上げていた。
「も~、だらしないな~。ほら行くよ」
チトセにそう言われて手を引っ張られながら、秋斗達は進んで行った。
チトセ、やっぱり、カッコイイな・・・・・・。
秋斗はそんな事を思いながら、幼稚園の頃を思い出す。
昔もこうやって、俺を守ってくれた・・・・・・。
暗闇の中を歩きながら、秋斗はチトセに見とれていた。
「う~ら~め~し~や~!」
「ギャ――――――!」
「・・・・・・先生、全っ然怖くないよ」
「・・・・・・え? 先生・・・・・・?」
よく見てみると、秋斗達の前には緒方が血のりを付けて、包帯を巻いて脅かす役をし
ていた。
「うるせ~、子供は子供らしく、泣き叫べ」
全然驚かなかったチトセに、緒方はそんな悪態をついた。
・・・・・・子供らしく泣き叫べってなんだよ。
そんな事を思いながらも、秋斗達は先に進んだ。
森の奥にあるこの別荘の近くには、民家がなかった。その為、辺りは不気味な程静か
だった。
「・・・・・・静かだな・・・・・・」
そんな事を言う秋斗を見て、チトセが笑う。
「秋斗、やっぱり怖いんだー」
「こ、怖くねーよ!」
「嘘だ~。だって手、震えてるもん」
「うっ・・・・・・」
秋斗の手は震えていた。でも、怖いからという訳じゃなかった。初めてチトセと手を
繋いだ緊張から、秋斗の手は震えていた。
そんな事、絶対言えない・・・・・・。
――――――サワッ。
「キャッ!・・・・・・秋斗、今触った?」
「え? 何が?」
「・・・・・・なんでもない」
「・・・・・・ん?」
チトセにそんな事を言われた秋斗は、意味が分からなかった。
秋斗達は、無言で歩き続ける。
――――――サワサワッ。
「キャッ!・・・・・・やっぱり秋斗、今触ったでしょ!」
「えっ・・・・・・?」
「しらばっくれる気!?」
「何の事だよ!?」
「この・・・・・・エッチー!!」
「いで――――!」
秋斗は意味も分からず、チトセに殴り飛ばされた。
――――――サワサワ。
「ちょっと! まだ触る気!?」
「ちょ、ちょっと待てよ! 一体、どういう事だよ!」
「・・・・・・あれ?」
チトセに殴り飛ばされた秋斗の距離からは、絶対自分に触れられない事に気づいたチ
トセが自分の胸に目を向けると、そこには昼間ビーチを騒がせた三毛猿が、チトセの胸
にくっ付くいていた。
「こいつ~! また!」
「ウキキッ」
チトセが三毛猿を小突くと、猿はまた嬉しそうに笑った。
「こいつが居るって事は・・・・・・」
「いや~すまんすまん! またコイツが逃げ出してな!」
「やっぱり・・・・・・」
猿を捕まえた秋斗達の前に、全然悪気が無さそうな校長が現れた。そんな校長に猿を
渡すと、校長は高笑いをしながらどこかに消えていった。
そんな校長の後を、二人は呆然と見つめていた。
・・・・・・俺があんな事すると思ったのかよ
校長の消えた方を見つめながら、秋斗がそんな事を思っていると、チトセが急いで謝
ってきた。
「あっ! 秋斗ゴメンね!」
「別にいいけど・・・・・・わっ!」
不機嫌になった秋斗の顔を、チトセが心配して触ってきた。
「本当にゴメンね・・・・・・腫れちゃった?」
「い、いや! ぜ、ぜ、全然、大丈夫!」
秋斗の目の前に、チトセの顔が近づく。
「ち、チトセ・・・・・・」
―――――ゴンッ!
「いでっ!?」
「・・・・・・え?」
心配して近づくチトセに見とれていると、秋斗の頭に何かがぶつかってきた。
「・・・・・・な、なんだ? ヒッ!」
暗闇から感じた殺気に、秋斗は声を漏らした。
・・・・・・この殺気、感じた事がある!
「秋斗、どうしたの?」
「な、なんでもないよ! ほ、ほら、行こうぜ!」
「う、うん」
いつもチトセと楽しく喋っている時と、同じ恐怖を感じた秋斗は、急いでチトセから
離れて歩き出した。
結局いい所一つも見せれずに、肝試しは終了してしまった。
肝試しが終わると、皆は男女別々に分かれた部屋に行った。秋斗と翔は同じ部屋だっ
た。部屋に行くと、遊び疲れたのか翔は先に寝てしまった。
「良子~・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
そんな翔の寝言は聞かなかった事した。
秋斗は昼間のチトセの水着姿が頭に焼きついて、少し興奮して眠れなかったので、少
し海辺を散歩することにした。
昼間、皆で遊んでた時には太陽の光を浴びてキラキラ光っていた海も、夜にはなにか
飲み込まれてしまいそうな不思議な感じがする。
砂浜は外灯が一つも無かった。真っ暗な海辺を歩いていると、人影が見えた。
「もしかして・・・・・・幽霊?」
幽霊なんて見た事もないし、信じていなかったけど、秋斗は怖くなった。
段々近づいてくる人影は、秋斗の前まで来た。
「チトセ!?」
「あ、秋斗」
幽霊かと勘違いした人影は、チトセだった。暗い海辺を、チトセは別荘の浴衣に身を
包み、歩いていた。お風呂に入ったのであろう、少し濡れた髪が風に揺られて、チトセ
から良い匂いがした。
真っ暗な海辺で、秋斗とチトセは二人で歩く事にした。
「眠れないの?」
「ああ、ちょっとね・・・・・・」
チトセにそう言われ、チトセの水着姿を思い出して眠れなかった。なんて恥ずかしい
事が言えるわけも無く、秋斗は曖昧な返事をした。
チトセの横顔をチラリと見て、秋斗は気づいた。
今、チトセと二人っきりだ・・・・・・!
そう思うと、なんだか余計に目が冴えてきてしまった。
「今日のクイズ、答えなんだった?」
「へっ?」
そんな事を考える秋斗をよそに、急にチトセが突拍子もない質問をしてきた。
「ほら、宇宙人のケーキ」
「ああ・・・・・・」
チトセは朝、バスに乗っている時に翔が出してきたクイズのことを聞いてきた。
確か、宇宙人のケーキを食べられる事になって、その味は何味だったでしょう。って
クイズだったよな・・・・・・。
少し考えて、言うのをやめようかとも思ったが、秋斗は小さく言った。
「かぼちゃ・・・・・・だった・・・・・・」
「かぼちゃ!?アハハハ!」
「わ、笑うなよ・・・・・・」
秋斗が照れながらそう言うと、チトセは大笑いした。
予想通りのチトセの反応に、秋斗は言った事を後悔しながらチトセに聞いた。
「チトセはー・・・・・・」
何味だった? 秋斗はそう言おうとして言えなかった。
チトセが秋斗にキスしていたから・・・・・・。
「・・・・・・え?」
戸惑う秋斗にチトセは笑いながら「かぼちゃの味した?」なんて聞いてきた。
秋斗の顔はみるみるうちに真っ赤になった。
夜で良かった。
なんて秋斗は思ったが、大きな光を放つ星の下で、チトセがその事に気づかなかった
かどうかは分からない。
「なんで・・・・・・」
秋斗はそう言うことしかできなかった。
「アタシ、約束は守るの」
そう言うと、チトセは秋斗を見て昔と変わらない笑顔で微笑んだ。
体が動かない。
引き込まれる。
目が離せなくなる。
星の明かりに映し出されたチトセの姿は、まるで妖精の様だった。
チトセ・・・・・・君は本当に人間なの・・・・・・?
そう思ってしまうほどにチトセの姿は、
神秘的で・・・・・・美しい。
「校長先生との勝負で私に勝ったらキスする約束だったでしょ?」
そう言うと、チトセはクスッと笑うと、力強い瞳で秋斗を真っ直ぐ見つめて言った。
「でもアタシ、まだ秋斗より強いから」
「それって・・・・・・!」
幼稚園の時に交わした、約束の事だよね?
秋斗がそう聞こうとしたとき、旅館の方から良子が走ってきた。
「チトセ、やっとみつけた! もう、どこに行ったかと思ったら・・・・・・あら?」
良子はチトセの隣に居た秋斗を見つけると、ジローッと三秒ほど見て言った。
「こんな所で、二人でなにしてたのかしら・・・・・・?」
二人を怪しむ良子に、「なにもないよ~」と言ってチトセは旅館の方にさっさと一人
で歩いて行った。
「本当になにもしてないでしょうね・・・・・・」
納得のいかないといった表情をした良子が秋斗に詰め寄る。秋斗は殺気の篭ったその
良子に、頭を縦に振った。そんな秋斗を見て良子は疑いの眼差しを向けたが、チトセを
追って走って行った。
秋斗はそんな二人の後ろ姿を暫らく呆然と眺めていた。そして、さっきの事を思い出
す。あっと言う間の出来事だったけど、秋斗はさっき確かにチトセとキスをした。
「夢・・・・・・じゃ、ないよな・・・・・・」
旅館に帰ってからベットに入っても、秋斗はなかなか寝付けなかった。
「宇宙人のケーキは、神秘的な味だった・・・・・・」
あのスターベアの事件の後から、秋斗が七色のオーラを出したという噂を聞いた上級
生が、わざわざ秋斗を見に、別棟からやって来て教室に群がるという事が起きた。
そんな上級生は、秋斗を見て言った。
「なんだ普通のやつじゃん」
・・・・・・なんだとはなんだ。
そんな日が続いたが、暫らくするとそういう事もなくなって、秋斗は落ち着いた毎日
を送っていた。
あのスターベアの事件の後、秋斗は校長の指示の元、再度能力テストを受ける事にな
った。だが、七色のオーラが出た後、全ての身体能力の数値が上昇する。という事が分
かっただけで、赤のオーラが出せる人が、火を自由自在に操れるといった様な特殊な能
力が見つかる事もなく、秋斗の能力は謎に包まれたままテストを終了した。
そんないつもの日常が戻ったある日の朝。
いつもの様に3人で朝食を食べて、優に見送られながら学校に登校すると、教室に入
って来た秋斗とカナを見て、翔が声を掛けてくる。
「はよーっす、秋斗! カナ!」
「おぅ、おはよー」
「翔、おはよ~!」
「なあなあ、聞いてよ、昨日さ~・・・・・・!!」
秋斗とカナに挨拶を済ませると、翔は新しく入った情報を、楽しそうに話し出した。
翔と喋っていると、チトセと良子が登校して来た。
「カナちゃん、今日も小さくて可愛いわね~」
「むっ! カナ小さくなんかないもん!」
良子はカナを見るなり朝から、からかった。カナが気にしているとわかっていて、わ
ざとそんな事を言ってくる。
「まあまあカナちゃん、コレあげるから機嫌直してよ~」
「わ~! ケーキだー! 許してあげる~」
不機嫌なカナに、また誰かから貰ったケーキをチトセが笑いながら上げて、機嫌をと
ってる。
・・・・・・完璧に手なずけられてるな。
そんな事を思いながらも、いつも通りの和やかな光景を見て秋斗は安心する。
白龍学園に入って、色々な事が起きた。
チトセに会えた。良子とも、翔とも友達になれた。スターベアに襲われたりもした。
カナが死んでしまったかとも思った。俺が、異能者だという事も知った。そして・・・
・・・。
そして、チトセは俺との約束を覚えていてくれた!
皆とじゃれ合うチトセを見て、秋斗は思う。
俺が君より強くなったらその時は・・・・・・その時はチトセ、君と・・・・・・。
秋斗がそんな事を考えていると、チトセが秋斗の顔を見て言った。
「秋斗・・・・・・鼻の下伸びてるよ・・・・・・」
「えっ!」
「チトセを見て鼻の下伸ばすなんて、サイテーの七色鼻の下伸ばしヤローね!」
「良子、なんだよそれ!」
「「サイテーの七色鼻の下伸ばしヤロ~」」
「翔とカナも、真似すんなよ!」
そんな事を言いながら、秋斗の頭の中には幼稚園の頃のチトセの言葉がリピートして
流れる。
「アキちゃんがアタシより強くなったら、結婚していいよ」
俺は必ずチトセより強くなってやる!
俺の白龍学園生活は、まだまだ始まったばかりだ。