最終話
いつもの朝。
いつものカナと優。
いつもの登校風景。
いつものチトセの笑顔。
いつもの皆の笑顔。
そのどれもが、俺に必要な、大切な日常だった。
その日も俺はいつもと同じ時間に起きて、優の笑顔に見送られて、カナと二人で登校
した。
教室に行くと、いつもの調子で翔がビッグニュースと騒いでくる。そのニュースに興
味を持ってくるチトセ。そんなチトセについて行き、一緒に噂話に華を咲かせている良
子。カナはこう太から毎度お馴染みのお菓子を貰い、幸せそうに食べている。こう太は
そんなお菓子を幸せそうに食べるカナを幸せそうに見ている。健は優の手作りのお弁当
を朝礼が始まる前から今か今かと楽しみにしているのが分かる。
朝、緒方が教室に入って来たのを見ると、皆自分の席に着いた。緒方がいつも通りに
朝礼を始める。
・・・ん?
なんとなく。だが、秋斗には緒方があまり元気がないというか、いつもの調子じゃな
い気がした。
・・・気のせいか?
秋斗がそんなことを考えていると、緒方が秋斗を呼んだ。
「はい」
秋斗がそう返事をすると、緒方に手招きされた。
一体何だろう?
秋斗はそう思って、秋斗は緒方の目の前まで行った。
「なんすか?」
秋斗が緒方にそう聞くと、緒方はなにやら嫌そうな顔をして言った。
「校長先生がお呼びだ。今すぐ校長室に行け」
「え、でもこれから授業が・・・・・・」
「いいから、行け」
「・・・? はい」
なんとなく機嫌が悪そうな緒方の言うとおりにして、秋斗は授業も始まる前から校長
室に行く事になった。
「マジでなんなんだよ。俺、悪い事なんてしてねーぞー」
そんな独り言を呟きながら、秋斗は校長室に向かった。
校長室に着くと、ドアの前で「フー」と大きなため息を吐いて、俺は悪い事なんてし
てないんだから大丈夫だ。と再度、心の中で呟いた。
――――コンコン
乾いた音が響いた後に、いつものちょっとかん高い校長の声とは違った声が聞こえた。
「入りなさい」
あれ・・・・・・?
秋斗が少し疑問を持って校長室に入ると、そこには見慣れた校長の顔ともう一人、見
たこともないおじさんが校長と一緒に座っていた。
「・・・失礼します」
校長の隣にいるおじさんは誰なんだろう。
秋斗がそんなことを思っていると、校長ではなく見知らぬおじさんが、「座りなさい」
と言ってきた。
「・・・はい」
見知らぬおじさんの隣に居る校長は、いつもと違って何も喋らない。
コイツ本当にあの校長か? 本人だったら病気かなんかなのか?
などと失礼な事を考えていると、校長の隣に居たおじさんが口を開いた。
「ああ、挨拶が遅れたのう、わしはこの町の町長をしている。渡部という。初めまして、
岩神秋斗君」
「はぁ、初めまして・・・」
何で町長が俺の名前を知っているんだろう。
と秋斗が思っていると、渡部という町長は気味の悪い笑みを浮かべて言った。
「わしは回りくどい事は嫌いでね。単刀直入に言おう。岩神秋斗君。わしの物になりなさい」
「・・・え?」
何かの聞き間違いだろうと思った秋斗は、三秒程フリーズした後、渡部に聞きなおした。
「今、なんて・・・・・・」
「わしの物になれと言っておるのじゃ」
だが、渡部の放った言葉は、さっきとまったく変わる事なく同じ事を言ってきた。
「あの・・・言ってる意味が・・・」
わからない。と言う意味で秋斗は町長に言った。
「まあ、急に言われても困惑するじゃろうな」
そう言うと、町長は「なに、ゆっくり話そうじゃないか」という感じで秋斗に両手を
広げて見せた。それはまるで、私は攻撃なんてしませんよ。だから、そう気を張らずに。
とでも言われているかの様だった。
町長は、目の前にあったコーヒーを一口、口に運んで秋斗にこう言ってきた。
「話を少し変えるとするかの・・・。そうじゃな、わしの仕事の話でもしよう」
「・・・仕事?」
「そうじゃ。わしがこの街を手に入れる前にの、この街である仕事をしていたんじゃ。
その仕事が大成功しての~。どんな仕事だったと思うか?」
「・・・さぁ」
秋斗のあまり乗り気じゃない態度を見ても町長は嬉しそうに話した。
「作ったんじゃよ。新種の動物達を」
「新種の・・・動物?」
「そうじゃ。お前も見たことがあるじゃろう。見たこともないクマや猿やパンダを」
猿、と言う言葉が出ると校長が、バレていたか。という顔をしていた。
「な! あれって・・・」
「そうじゃ! あれはわしの作ったペットじゃ」
ペット? あれがペットだと? あの動物は平気で人を襲っていたぞ! それもこれ
も全部コイツの仕業だったのか? 俺達が危ない目にも沢山あってきたっていうのに、
よくそんな事が言えるな。
今まで起きた事件を思い出し、段々と怒りがこみ上げてくる。そんな秋斗を知ってか
知らずか、町長は得意げに話だす。
「あいつらは世界に一匹しかいない動物でな。色んな国の金持ちの奴らが集まって、わ
しの珍しいペットを見に来たんじゃ。そうしたらな、お金なんぞ一気に集まりおったわい」
「・・・・・・」
秋斗はもう言葉を返す気にもならなかった。珍しく校長も嫌そうな顔を隠そうともし
なかった。秋斗は、校長のこんな顔を見たのも、校長がまともに見えたのも初めてだった。
そんな秋斗や校長に構わず、町長は話し続ける。
「そうやってお金は腐るほど手に入った。そこでわしがそのお金を使って、面白いこと
を考えたのじゃ」
「面白い事・・・?」
「そうじゃ。人間のような・・・いや、ほとんど人間のロボット「P45」を作ろうとな。
そうすれば、さらにわしのペットなんかの時よりも金になると思ったんじゃ」
「・・・・・・」
「じゃが、わしにそんな物を作れる技術なんぞ持っていなかったのでな。わしの変わり
に、作ってくれる優秀な人材を集めたのじゃ」
「・・・・・・」
「ある所に三上という、それは素晴らしい科学者の夫婦がおった。じゃが、
わしのどんな説得にも多額のお金にも関わらず、三上はわしの言葉に耳を傾けることは
なかった。
その三上という夫婦には一人の愛娘がおってな、三上達はその子と幸せに暮らせれば良
いと言って、わしの計画に乗ろうとはしなかった。わしは来る日も来る日も三上の家に
足を運んだ。「P45」を作る上で、三上の手が必要不可欠だったからじゃ。そんな三上
夫婦にある日突然不幸は訪れた。たった一人の愛娘が交通事故で亡くなったんじゃ。こ
この町長の仕事上、わしはその葬儀に行けなくて、その葬儀から一週間後にようやくわ
しは三上の家に行った。その時わしは見たのじゃ。亡くなったはずの愛娘が元気に庭
を走り回っているのをな」
「まさか・・・!」
「そうじゃ。、三上達は超人方ロボットをすでに完成させてたんじゃ。そしてたった一
人の愛娘を復元させた。本来、自分の意思を持つロボットを作る事は、強靭な力を持つ
ロボットの暴動を避ける為、禁止されておる。だがその三上夫婦は、自分の愛娘の姿形
だけでなく、その性格や感情まで完璧に作り上げていた。その事をネタにわしは三上夫
婦を手に入れる事に成功した」
そう言うと、町長は秋斗を見て嬉しそうに話を続けた。
「君には確か、「カナ」という名の妹がいるんじゃったな」
「・・・はぁ」
秋斗は町長の不気味な雰囲気に何か嫌なものを感じて、少しトゲのある返事を返して
しまった。しかし町長はまったく気にすることなく、ハッハッハと高笑いを上げて秋斗
に言ってきた。
「カナという子と君は血が繋がってないじゃろ?」
「・・・それが何か?」
何だか、あまり触れられたくない話を堂々としてくる町長に、秋斗は嫌気がさしてきた。
「君はあの子の事をちゃんと分かっているかね?」
町長は意味ありげな感じで言ってくる。
「どう言う意味ですか? 例え血が繋がっていなくても、俺達はれっきとした家族です」
なんだかイライラした秋斗は町長に声を荒げて言い返していた。そんな秋斗を見て、
町長は楽しそうに笑いながら言った。
「・・・面白い事を教えてあげよう。岩上秋斗君。あのカナと言う子は「P45」じゃぞ」
「・・・え?」
秋斗が聞き返した時と同じタイミングで、校長室のドアが開いた。
「なっ! お前ら!」
秋斗がドアの方を見ると、そこにはいつから居たのか、聞き耳を立てていたらしい、
お昼のメンバー全員が居た。その中に居た一人、カナを見つけた町長が、尚も笑いなが
ら言い続ける。
「なんじゃ、聞いておったのか。そう、お前は人間じゃないロボットじゃ。自覚がある
かはわからんが、わしはお前の事を知っておる。実はわしも最近気づいたんじゃがな。
ハッハッハッハ」
何が楽しいのか町長は一人で笑い続けた。
「そんな・・・カナが・・・ロボット?」
「カナ!」
動揺して、皆の呼び声にも耳を貸さずにカナは走ってどこかに行ってしまった。
カナをチトセ達に任せて、秋斗は町長に聞いた。
「どう言うつもりだ。あんなデタラメな事を言って」
「デタラメなどではない。わしは三上の家に通い続けて、ちゃんと顔を覚えていた。あ
の子は正真正銘、三上夫婦の愛娘であり、そして最初の「P45」の三上カナじゃ。当
時からまったく成長してないのがいい証拠じゃ」
「そんなことが・・・」
認めたくない。秋斗がそんなことを考えていると、町長が言った。
「うむ、少し混乱してしまっているようじゃ。少し冷静になったら、わしの家に来い。
まだまだ話足りないからの」
そう言って、町長は校長室を出て行った。呆然としている秋斗に校長が話しかけた。
「いいのか、カナを追いかけなくて」
「・・・! そうだ、カナ!」
その校長の一言で秋斗は我に返ってカナを追いかける為、校長室を飛び出した。
「三上カナ、・・・人間の「P45」ね・・・」
そんな校長の独り言が誰も居ない校長室に響いた。
秋斗は校長室を飛び出すと携帯を取り出して、チトセに電話をかけた。
「もしもしチトセ?」
「秋斗! 今どこ?」
チトセに今いる場所を聞いて、秋斗はその場所に向かった。カナは秋斗の家の近くの
公園に居た。秋斗が公園に着くと、いつものお昼のメンバーが居た。
「カナは!?」
秋斗がそう聞くと、チトセが少し離れたブランコを指差した。そこにカナはボーっと
していた。
「いくら私達が声をかけても全然反応を示さないのよ。よほどショックを受けてしまっ
ているのね・・・。あんな事を聞かされたら誰だってそうだけど・・・」
良子がカナを見ながら呟いた。
「お前、なんとかしろよ!」
そうこう太に言われると、秋斗は頷いてカナの所に行った。
「カナ・・・」
「・・・! 秋斗・・・」
秋斗がカナに声を掛けると、誰の声にも反応しなかったカナが答えた。
「あんなの気にするなよ・・・なんて言っても無理かもしんないけど・・・」
「無理だよ・・・カナ、人間じゃないんだよ・・・!」
「・・・カナ・・・」
秋斗はなんて言ったらいいのか分からなかった。自分が本当はロボットだなんて急に
言われて信じられるはずがない。
「カナ・・・親に捨てられた事も、秋斗や母さんや父さんに出会えて楽しくって、なんだか
カナはいらない子なんじゃないんだよって。本当の家族がいるよって・・・。いわれてる気
がして、幸せだった。だけど、本当は人間なんかでもない、ただのロボットだったなんて
・・・」
「それでも! カナは俺のたった一人の妹だ!」
「秋斗・・・」
秋斗は叫んでいた。それは嘘なんかじゃない、心の叫び声だった。
「そんな妹が哀しんでたら俺だって悲しいし、カナが幸せだったら俺も幸せで、カナが困
ってたらいつだって助けてやる! お前がロボットだなんて信じたくない。だけどそんな
事はどうだっていい! カナは世界でたった一人の俺の大切な妹で、それ以上でもそれ以
下でもない!」
「秋斗・・・」
カナはそんな秋斗を涙を浮かべながら見ていた。そんなカナに秋斗は言った。
「なんて言ったらいいのかわかんないけど・・・お前には俺がついてるし、そんなお前を皆
が大好きなんだよ」
「皆・・・?」
そう言ってカナが少し離れた所を見ると、いつものメンバーがカナを心配した面持ちで
見ていた。
「カナがなんであれ、お前には皆がついてる。だから帰ろう」
「・・・うん!」
そう言って、皆で秋斗の家に行った。
「しっかしあの町長、なーんか嫌なやつだったよね~」
秋斗の家で集まって皆で話をしていると、チトセが言った。
「俺、明日町長の家に行って来る」
秋斗がそう言うと、カナが不安な顔をした。秋斗がそんなカナに大丈夫だよと言うと、
翔が言った。
「あんな変な動物を仕掛けてくるようなやつだぞ! 危ねーよ!」
そんな翔の言葉を聞いて、カナも同意するように頷く。
「だけど、俺にまだ用事があるみたいで、自分の家に来いとかぬかしてきやがった。カナ
を傷つけるようなことを言った事を謝らせてやる」
「秋斗・・・」
カナが少し嬉しそうな顔をした。そんな秋斗の言葉を聞いたチトセが言った。
「アタシもいくよ!」
「え! なんで・・・」
「アタシもカナに悲しい思いをさせた事を謝って貰いたいからね」
チトセがそう言うと、次々と皆も行くと言い出した。
「お前ら・・・」
「カナも行く」
「分かった・・・皆で行くか」
そうして秋斗達は皆で町長の家に行くことにした。
「んじゃ、明日の何時に行こうかな」
秋斗がそう言って考えていると、チトセが言った。
「今から行こうよ」
「えっ!? 今からか!?」
「そっ。まさか町長もすぐ来るとは思わないだろうし、変な動物を準備する心配もない
でしょ?」
チトセのその提案に良子もそれもいい考えね。とかいいだした。
「んじゃ、皆、準備が出来たら秋斗の家に集合ね!」
「準備・・・?」
そう言って皆、一度自分の家に帰って、秋斗の家に集まった。良子が連れて来たもの
を見て秋斗は驚いた。
「レオも連れて行くのか?」
「ん? あら、レオがいたら怖いものなしじゃない」
「そ、そうだけど・・・」
良子はレオまで連れてきていた。
「よーし、それじゃ、行くよ~」
そう言うチトセの背中には、日本刀があった。
何持ってんだよ・・・。
そんな事を秋斗が思いながら、秋斗達は町長の屋敷に向かった。
町長の屋敷に着くと、大きな門が待ち構えていた。秋斗達がどうしようか考えていると、
門はゴゴゴゴーという音を立てて開いた。
「なんだ、来てるのバレバレじゃん」
なんだかチトセが楽しそうにそう言った。
皆でその大きな門を入り、少し進むと、屋敷の入り口、玄関が見えた。屋敷がデカイ分、
玄関だけでもそうとうな大きさだった。その玄関も、秋斗達が近づくと、また自動的に開
いた。
皆で顔を見合わせて、中に入った。すると、屋敷のどこからともなく、町長の声が聞こ
えてきた。
「ようこそ。良く来たな。岩上秋斗の他の者も歓迎するぞ」
どこから見てるんだろうな。翔が秋斗にそう言ってきた。
「君たちの為にわしの自慢のペット達を各フロアに配置しておいた。わしの居る最上階
の6階までくるのじゃ。くれぐれも、わしのペットに殺されないようにの。ハッハッハ
ッハ」
そう言って、屋敷からの声は途切れた。
「やっぱり一緒に来て良かったわね」
町長の声を聞いたチトセがそう言った。
何だか楽しんでないか?
そんな事を思いながら秋斗達は用心しながら二階に向かった。二階に着いてすぐ、異
様な声が聞こえた。
「グルルルルー」
「なっ!あいつは!」
秋斗達の前に胸に星の模様が付いたスターベアが現れた。スターベアは初め見た時よ
りも興奮した様子だった。そんなスターベアが突進してきた。
秋斗が七色のオーラを出した時、健が前に出た。健に向かって、スターベアが吠えな
がら突撃した。そのスターベアの攻撃を交わして健はスターベアの首の後ろに回し蹴り
を喰らわせた。健の蹴りを喰らったスターベアは白目になって倒れた。
やっぱこいつ、強い・・・。
秋斗がそんな事を思ってると、健が早く行くぞさやが家で待ってるんだと言った。本
当さやが好きだななんてことを思いながら秋斗達は3階に向かった。3階に行くと、大
きな、それも人間の大きさよりもデカイ、カマキリが居た。
「なんだこいつ!」
巨大なカマキリは有無を言わず、飛び掛ってきた。
「キシャー!」
皆の前にチトセが出て、今度はアタシの番ねと言った。健のさっきの戦いを見て、少し
興奮したのか、チトセが言った。
―――――キンッ!
チトセは持っていた日本刀を出してカマキリの攻撃を防いだ。そして、一瞬チトセの姿
が消えた?と思った瞬間、カマキリの後ろにチトセがたたずんでいた。
早く攻撃しないのか?
秋斗がそう思っていると、カマキリが倒れた。
「なっ・・・いつの間に・・・」
秋斗がそんな声を漏らすと、チトセは早く上行こうよ~と涼しい顔をして言った。
チトセは日本刀を持った時が一番強いな・・・。
秋斗はチトセの強さに関心しながら皆で4階に向かった。4階に行くと、また町長の変
なペットが現れたが、今度は異能に目覚めたこう太がそいつを倒した。
5階に行くと、レオが町長のペットを倒した。秋斗の出番もなく、秋斗達は町長の部屋
にたどり着く事ができた。
皆が居なかったら俺はここまでたどり着けずに死んでたかもしれないな。
そんな事を思いながら、秋斗は町長の部屋を開けた。
「「「「なっ! これは・・・」」」」」
町長の部屋に入ると、皆が息を呑んだ。
「なんだこれ・・・」
翔がそんな言葉を漏らした。言葉にはださなかったが、皆もそう思った。町長の部屋
には沢山の、数え切れない程の映像が映されていた。色んな町並み、コンビニや遊園地
やデパート。この街の全てを映しているのではないかと思われる程の数。そして一番気
になったのが・・・。
「ようこそ、わしの部屋へ。良く来たの」
「町長・・・」
皆が部屋の映像に目を奪われていると、町長が部屋の奥から出てきた。秋斗が町長を
睨みつけていると、チトセが声を上げた。
「あ! アタシ達の家・・・!」
そう、沢山の映し出された映像の中には沢山の人の家の中の映像もあった。そこには
メンバー皆の家、もちろん秋斗の家の映像もあった。秋斗もそれが一番気になっていた。
しかも、その映像は固定されているわけでもなく、色んな所を映し出していた。そし
てその映像は、何かにぶつかったのか、転んだように、地面を映し出した。その映像を
見て秋斗は思った。
「町長・・・アンタまさか・・・」
秋斗がそう言うと、町長は秋斗を見て笑いながら言った。
「フッフッフ、気づいたか? そうじゃ、お前らに配っていた家政婦、「P45」の目
にカメラを仕込んでいた。いつ、どこで異能の力を発揮してもわかるようにな!」
「ゲス野郎が・・・」
珍しく健が嫌悪の感情をあらわにしながら言った。そんな健を見て、町長が楽しそう
に言った。
「ハッハッハ、貴様は河野健だったな。貴様の事もちゃ~んと見ておったぞ。貴様とロ
ボットとの楽しそうな風景もな!」
「なっ・・・!」
「・・・サイテー・・・!」
町長のその言葉を聞いた良子が、嫌悪感を隠そうともしないでそう言った。
「貴様!」
さやとのことを言われて頭に血が上った健が町長に飛び掛った。
「なっ!」
町長に飛び掛った健の表情が怒りから驚いたものに変わった。皆も驚いた。町長の前
には、あのいつもやる気のなかった緒方が、いつもとは違う表情で健の攻撃を受け止め
ていた。
「なんで、緒方が・・・」
「ふんっ・・・」
秋斗がそういうと、緒方はばつが悪そうにそっぽを向いた。そんな驚く皆を見て、町
長がさらに楽しそうに言った。
「ハッハッハ。お前達に緒方が倒せるかのう? 緒方は白龍学園を建てて出会った中で
一番のやり手だからのう」
「なっ・・・あの緒方が、白龍学園の卒業生?」
「しかも、一番つえーのか?」
秋斗と翔が驚いて言った。そんな言葉を聞いて、町長が言った。
「なあに、白龍学園で働く教師の9割が学園の卒業生じゃ」
そんな言葉を聞いて、秋斗が言った。
「なんで、そんなやつの言いなりになんかなってるんだよ!」
秋斗がそう言うと、緒方は少し哀しそうな顔をした。そんな秋斗の言葉を聞いた町長
が言った。
「人はな、大切なものの為なら自らを犠牲にする事なんてたやすいんじゃよ」
もしかして、緒方は町長に何か弱みを握られているのか?
秋斗がそんな事を思うと、チトセもそう思ったのか、今まで見たこともない、チトセ
には似合わない怒りに満ちた顔をしていた。
「緒方をぶっ飛ばして、町長もぶっ飛ばしてやる!」
健がそう言って緒方に殴りかかったが、緒方はそのパンチをなんなく流して緒方を吹
き飛ばした。
「なっ!」
緒方は異能のオーラを出してもいないのに、健を軽々と五メートルは吹き飛ばす程の
凄まじい力だった。
「つ、つえー・・・」
翔が驚きの声を漏らした。
「いったじゃろう、緒方は強いとな。ハッハッハ」
驚く皆を見て町長が言った。そんな町長の言葉を聞いて、良子が言った。
「レオ、ゴ―――!」
「ガルルル――――!」
良子の合図で、レオが容赦なく緒方に向かっていった。
「フッ・・・白豹か。飼い主に似て、綺麗だな」
緒方はそんなことをいうと、レオをも吹き飛ばした。
「なっ!」
良子が驚きの声を上げた。
「うお―――!」
「こう太!!」
綺麗な緑のオーラを身にまとい、こう太が異能の風の力を出しながら緒方に攻撃した。
「フッ、異能の力で俺を倒そうとするのはいいが・・・」
緒方はそう言うと、あっという間にこう太の後ろに回りこんだ。
「こう太! 後ろだ!」
「えっ・・・」
「だが、遅い!」
「うわ!」
緒方に後ろから攻撃されてこう太は倒れた。そんなこう太を見て、翔が、紫のオーラ
を身にまとった。そんな翔を見て、緒方がすぐ翔に近づき、翔を気絶させた。
「翔!」
秋斗の声に、翔は反応しなかった。
「コイツの異能は厄介だからな・・・」
そう言う緒方にチトセが日本刀で切りかかった。だが、その攻撃も緒方は人間離れし
た胴体視力で受け止めた。そして、チトセのみぞおちを殴った。苦しげにチトセは倒れ
る。
「チトセ! っんのやろー!」
秋斗が激情しながら七色のオーラを放ちながら、緒方に殴りかかった。が、緒方は異
能の力を持つ秋斗ですら寄せ付けない程のスピードとパワーだ。
「くそっ・・・」
緒方に吹き飛ばされて、秋斗は地面に膝をつく。そんな秋斗を見て緒方が言う。
「お前ら一人一人の力は大したものだが、一人では俺には敵わないぞ。・・・一人ではな」
「・・・一人・・・?」
秋斗がそう言うと、緒方はフンっと鼻を鳴らした。秋斗はそんな緒方を見て言った。
「そうかい・・・ご忠告、ありがとよ!」
そう言って秋斗は七色のオーラを放ちながら、また緒方に突っ込んでいった。
「バカが。まだわからんか・・・なに!?」
町長は緒方に向かう秋斗ともう一人を見て驚いた。先ほど緒方に吹き飛ばされた健が
秋斗と共に緒方に向かっていた。そんな健の姿を見て、町長は苦虫を噛み潰した顔をした。
「ちっ、緒方め・・・手を抜いたな? 恋人の命がどうなってもいいのか・・・」
そんな事を呟いた。秋斗と健は挟み打ちで緒方に攻撃した。
「「うおー!」」
「くっ!」
二人の攻撃に緒方は防戦一方になった。そこへ意識を取り戻していた翔が異能の力で
緒方の動きを止めた。その緒方にチトセ、こう太も加わり、皆で緒方を倒した。
「上出来だ・・・」
緒方はそう言って倒れた。皆で町長を見つめて、こう太が言った。
「さあ、カナを傷つけたこと謝れよ!」
そんな皆を見て、町長が笑った。
「フッフッフ、面白い・・・。皆、欲しくなったぞ。どうだ? わしのものにならんか?」
皆を見て、町長はそんなこと言う。
「誰があんたの物になんかなるものですか」
町長の言葉を聞いてチトセが言う。そんなチトセを見て、町長は笑いながら言う。
「この世の物は全てわしのものじゃ! わしのものに・・・なれ―――!!」
「「「「「なっ!」」」」」
町長が、そう大声を出した時だった。町長の体は不気味な黒色のオーラに包まれていた。
「異能者・・・」
誰かがそんな言葉を漏らした。町長は自分の体からオーラが出ている事に気づくと、
さらに不気味な笑い声を上げた。
「ハッハッハ! 素晴らしい! わしにも神の力が与えられたのじゃ!」
そう言うと、体から出たオーラが空中に集まって、少し大きな円の様な形をした。そ
れは、なんでも飲み込んでしまう、ブラックホールのような形をしていた。黒い円は、
周りにある、こまごまとしたようなものを吸い込んでいく。
「どうだ? わしのものになれば、命だけは助けてやるぞ」
町長がそんな事を言ってくる。
「あんたの物になんかならないっていってるでしょ!」
町長に向かってチトセが言った。そのチトセの言葉をきっかけに次々と皆も言った。
「そうだ! 誰もお前の物になんかならない!」
そんな皆の声を聞いて、町長が言った。
「そうか・・・残念じゃの・・・」
皆が一斉に町長に向かって飛び込んだ。だが、町長の体から作られた不気味なオーラ
の塊によって、凄まじい力で、壁に叩きつけられた。
「なんて・・・力だ・・・」
皆、町長の圧倒的なパワーを見て、愕然とした。そんな皆を見て、町長が、秋斗に語
りかける。
「わしはな、10年前この異能という力を知って初めて見たとき、衝撃を受けたよ・・・。
体から放たれるオーラの美しさに目を奪われた。それからというもの、わしは異能の力
を持つ者達を、多額のお金で手に入れてきた。わしは、オーラに心を奪われたんじゃ。
そして、異能者を集める為だけに、この街に人を集めて街を豊かにする。と言う名目を
つけて、色んな人をこの街に集めた。わかるか?全ては異能者を探す為だけに、白龍学
園と言う学校を高い金を出して建てたのじゃ。色んなオーラを見てきたが、岩神秋斗。
七色のオーラというのは見たことがない。さぞかし素晴らしい能力なんじゃろうな~。
だが、役立たずの校長ではお前の力を見つけることが出来なかった。わしは手ぬるい校
長とは違うぞ。確かお前が始めて能力を発揮したのが、自分の妹が危なくなったからだ
ったのう」
そう言って町長は異能の力を使って、チトセを町長の前に連れてきた。チトセの体は
町長の力によって宙に浮いていた。
「な、なにする気だ!」
壁に体を叩きつけられて、動けなくなったチトセが悔しそうな顔をする。
「大事な妹が危なくなって発揮したお前の力は、一番大切な人が危機に陥ると、どうなる
かの?」
「やめろぉぉおお―――!」
秋斗のその言葉も無常に、町長はチトセが手にしていた日本刀を手に取り、チトセの体
に突き刺した。チトセの体はフッと地面に落ちた。
「チトセ―――!」
秋斗がチトセに駆け寄ったが、チトセの体はピクリとも動かなかった。チトセを抱き上
げた秋斗の手に、大量の赤い液体が付いた。
「よくも・・・よくも、チトセを!!」
秋斗は町長を睨みつけた。秋斗の体には、今までで一番大きい七色のオーラが体を覆う。
「さあ! お前の力を見せてみろ!」
町長がそう言った瞬間、町長の体を覆うオーラが辺りに広がり、世界は真っ黒の色で埋
め尽くされた。辺りは真っ暗になって、皆の姿は見えなく、世界には秋斗と町長しかいな
いような感じだった。
「ゆるさね―――! よくもチトセを・・・!」
「おお、これは・・・!」
秋斗の後ろには、神々の全ての王、ゼウスの姿が浮かんでいた。
「素晴らしい・・・わしの、わしの物じゃ・・・」
秋斗の後ろに現れた、ゼウスの姿を見て、町長はそんな声を上げる。
「お前は選ばれし者じゃ! わしの所へこれば、なんでも手に入れられるぞ! そう、
この世界までもな。わしの物になれ、岩神秋斗! 富も名誉も、全てお前のものじゃ!」
「まだ、そんなことを言ってるのか」
「お前とわしは選ばれた者じゃぞ! この異能の力を持ってすれば、世界の王にだって
なれる! それを・・・お前は捨てると言うのか!?」
「世界が手に入ったら何になる?」
「そんなもの決まっている! 世界の支配者になれるのじゃ! 世界の王だぞ! 何で
も王の、自分の思うがままじゃ!」
「世界の王なんて・・・俺はそんなものいらない」
「・・・なに!?」
「俺は、仲間が・・・皆が居て、冗談言い合って、たまには喧嘩して・・・それでも助け合っ
て、それで笑って生きていければ、他に何もいらない。だから・・・俺は世界の王なんて、
そんなものいらない! 世界の王になって一番になったって、一人では意味がない・・・
そんなの寂しいだけだ!」
「・・・ふん! 愚か者め! やはりお前には世界の王になる資格なんてない!」
「俺は、自分の事しか考えていない、自分の欲望の為に平気で人を傷つけるお前なんか
に絶対負けない!」
「ぬかせ!」
町長の真っ黒いオーラと秋斗の七色のオーラが激しくぶつかり合う。
互角。ではなく町長のオーラの方が、秋斗のオーラを押していた。
「くそー・・・! 俺は負けちまうのか・・・?」
秋斗がそう思った時、秋斗の頭の中にこう太の声が響く。
『カナのことバカにされたまんま、負けんじゃねーぞ!』
「こう太・・・」
その言葉の後に、秋斗のオーラの力が少し強まった。今度は良子の声が聞こえた。
『チトセにあんな事したやつに負けんじゃないわよ!』
「良子・・・」
良子の言葉の後にまた秋斗のオーラが強まる。健の言葉が頭に響く。
『頼む、秋斗。俺達の分まで町長をぶん殴ってくれ』
「健・・・」
また秋斗の力が上がる。
『秋斗! 絶対負けんじゃねーぞ!』
「翔・・・」
『秋斗、負けないで!』
「カナ・・・」
『秋斗! 負けたら承知しないからね!』
「・・・っ! チトセ!」
皆の声と共に、皆の力が秋斗に入ってくるようだった。
「皆の為にも、俺はぜってー負けねえ! 負けられねー!」
「なにっ!?」
町長はさっきまでと違う秋斗のパワーに驚愕した。見る見るうちに秋斗のオーラが町
長のオーラを押し返していく。
「そんな・・・バカな! このわしが・・・うわー!」
秋斗のオーラが町長のオーラを打ち負かすと、町長の姿は跡形もなく消え去った。
「やった・・・・・・町長を倒した・・・・・・」
秋斗はそう言うと気を失った。
「・・・・・・ここは?」
気がつくと、秋斗の目の前は霧がたちこめていた。辺りは誰もいない。
「・・・・・・! そうだ、チトセは!? あんなに血が出てたんだ! 早く手当てしないと!」
そう思った秋斗の耳に、聞きなれた声が聞こえる。
「秋斗」
「チトセ!?」
遠くから、自分を呼ぶ声に向かって秋斗は走った。少し走ると、そこにはチトセの姿が
あった。
「チトセ!」
川の反対側に、チトセの姿が見える。急いでチトセの方に行こうとしたが、
「秋斗! ここじゃないよ」
「・・・・・・え?」
「・・・・・・あっち」
そう言ってチトセは秋斗の後ろを指差した。後ろから、カナの必死な声が聞こえてくる。
「・・・・・・いって」
少し迷ったが、カナの声が気になった秋斗はチトセと反対側に走り出した。
「・・・・・・約束、守れなくてごめんね」
「・・・・・・え?」
秋斗が振り向くと、そこにチトセの姿はなかった。
「・・・・・・チトセ?」
チトセの所へ戻ろうかと思った秋斗だったが、今はカナが気になる。どこか泣いている
ように聞こえるカナの声のもとへと秋斗は走った。
「秋斗! 良かった、目が覚めた!」
「・・・・・・カナ?」
目の前には、泣きじゃくるカナの姿があった。そこは、さっきまで死闘を繰り広げた
町長の部屋だった。
「チトセは・・・・・・!」
少し離れた所に、チトセが横たわっている。その周りにいる翔、こう太、健が険しい表情
をしている。秋斗は急いでチトセに駆け寄った。地面が、チトセの血で真っ赤に染まっている。
「・・・・・・チトセ! チトセ!?」
秋斗の呼びかけに、チトセは答えなかった。
「心臓が・・・・・・止まってるの!」
チトセの胸に手を置いた良子が顔を真っ青にしながら言った。
「くそっ! どうしれば・・・」
秋斗がそう言った時だった。
「私に任せろ」
町長の部屋の入り口から入ってきたのは校長と教頭だった。校長はチトセの頬を触ると、
まだ暖かいなと言って、教頭に何かを指示した。
「なに・・・する気だ?」
皆がそう思いながら、校長の行動を見守っていた。
「岩神秋斗、お前も手伝え」
校長にそう言われて、秋斗は頷いた。
「俺は何をすればいい!?」
秋斗が校長にそう聞くと、校長はたった一言だけ言った。
「お前はオーラを出しているだけでいい」
「え・・・?」
「よし、いくぞ!」
「ああ!」
準備が整ったのか、校長が合図をして、教頭が頷くと、二人は体にオーラをまとった。
「なっ!」
教頭は緑色のオーラを身にまとい、なにやらチトセの傷部分に手を当てた。
治癒能力の持ち主なのだろうか?
秋斗は言われたとおり七色のオーラを出していた。皆が驚いたのは校長のオーラだった。
「金・・・色・・・」
翔が驚きの声を上げる。金色のオーラを出しながら、校長はチトセの心臓部分に手を
当てていた。結構深い刺し傷があったチトセの腹部に教頭が手をかざすと、傷は見る見
るうちにふさがっていった。
「す、スゲー・・・」
治癒能力にも個人差があって、保健の先生では、転んだ擦り傷の血を止めるので精一
杯というぐらいだ。教頭の治癒能力の力はそれを遥かにしのぐもので、皆驚いた。
校長が、金色のオーラを出して、チトセの胸に手をかざして10分程して、校長はオ
ーラを消してチトセの体から手を離した。
校長はこの10分の間で大量の汗を掻いていた。額の汗を拭う校長に秋斗はわらをも
掴む思いで聞いた。
「校長! チトセは、チトセは無事なのか?」
そんな秋斗を見ながら校長は言った。
「・・・見ての通りだ」
秋斗はそう言われてチトセを見た。チトセはピクリとも動かない。
「そんな・・・チトセ・・・!」
秋斗がチトセの手を取った時だった。
「ん・・・」
「チトセ!」
チトセは目を覚ました。
「心臓が止まってたのに・・・! 信じられないわ!」
良子がチトセが目を覚ましたのを見て、目に涙を浮かべながら驚いた。皆チトセの無事
を確認すると、嬉しさに泣いた。
「校長の能力って・・・」
翔が驚きながら校長に聞いた。そんな翔の言葉を聞いて、校長が皆を見ながら言った。
「お前らには話すか。ここではなんだ、岩神秋斗の家に行くぞ。後、チトセと健の家政
婦も呼べ」
チトセと健の家政婦を呼べ、と言う校長の言葉に一同はキョトンとしたものの、目覚
めた緒方も連れて、町長の屋敷を出て、秋斗の家に向かった。
秋斗の家に着くと、チトセと健の家政婦が来るのを待った。チトセと健の家政婦が到
着すると、翔が校長に聞いた。
「なあ、そろそろ教えてくれよ。校長の能力って、死んだ人を生き返らせれるのか?」
「ああ、そうだ」
校長の言葉に皆が驚く。そんな皆を見て、校長は続ける。
「だが、俺の力は万能じゃない。一度、心肺停止した者の蘇生できる確立は50%だ」
校長の言葉を聞いて、皆が息を呑む。
「じゃあ、チトセが生き返ったのは、本当に運が良かったのか」
秋斗がそう言うと、校長が首を横に振る。
「いや、違うな」
「違うの?」
秋斗の言葉を否定する校長に良子が聞く。その良子の言葉に頷いて、校長は言う。
「もしや、とは思っていたが、教頭の治癒能力を見て、確信した。今日の俺の能力が成
功したのは、秋斗。お前のおかげだ」
「え? 俺?」
秋斗は驚きの声を上げた。驚く秋斗に構わず、校長は話続ける。
「ああ、お前が学園に来て、能力を開花させてから、お前の周りで能力に目覚める者が
続出した。それに加えて、お前の近くにいる者の能力は、自分の持っている、倍以上の
力を発揮できるんだ。実際、教頭の治癒能力は、西園寺チトセのあの傷を治せる程の力
はなかった」
校長のその言葉を聞いて、教頭も頷いて言う。
「ああ、私も驚いたが、いつもの治癒能力の倍以上の力が発揮できた」
その教頭の言葉を聞いて、校長は続けた。
「岩神秋斗、お前の本当の能力は、身体能力が上がるだけ、ではなく、近くに居る者の
力を最大限、いや、それ以上に高める事が出来る能力なんだ」
「俺に・・・そんな力が・・・」
校長の言葉を聞いて、秋斗は驚いた。
「でもよー、町長は何で俺達を襲わせるような事をしたんだよ」
翔が校長に聞いた。その言葉を聞いて、校長は話出した。
「町長は、この俺達の異能の力を見て、全部自分の物にしようと思ったんだ。そうすれ
ばさらに前とは桁違いの金儲けが出来るってな。それで思いついたのが、異能者さがし
さ。異能者を探す為、町長は学園を建て、いろんな生徒を集めた。そして、毎日お前ら
を見ていた。町長の部屋にあった映像をな」
校長の話を聞いていた良子が校長に聞いた。
「校長達はお金で雇われていたの?」
「いいや、違うね」
良子の言葉を聞いて、緒方が言った。
「あの汚い町長はなんでもありだ。俺も校長も人質を取られたのさ。反抗すればお前の
大事な人がどうなっても知らないぞってな」
「そうなの?」
そんな事は初めて知った。と、教頭は校長を見た。そんな教頭に緒方が言った。
「ああ、だから校長は大事な人が危ない目に会わないようにする為に、自分の傍にその
人を置く事を条件に町長の要求をのんだんだ」
「それって・・・」
教頭が校長を見ると、校長は、喋りすぎだと言う感じで緒方を見た。緒方はそんな校
長の視線を感じて、笑って喋るのを止めた。
長い町長の呪縛から逃れられたからか、緒方はいつになく上機嫌だった。校長は、ゴ
ホンと咳払いをして話を続けた。
「まあ、そんな欲望の塊の町長は、力に溺れ、その力に飲み込まれてしまったわけだがな」
秋斗は町長の最後を思い出した。自らの力に飲み込まれて消えていった町長。欲望も、
行き過ぎると身を滅ぼすと言うことを学んだ。
「・・・で、なぜさや達も集めたんだ?」
ずっと疑問に思っていたことを健が聞いた。
「それはな」
珍しく校長が言葉に詰まった。が、何かを決意したように言った。
「秋斗達の家政婦、優。チトセ達の家政婦、つぐみ。健の家政婦のさや。お前達は元は人間だ」
「「「「「「えっ」」」」」」」
秋斗の家にいた、校長と教頭以外の皆が驚いた。教頭は辛そうな顔をしていた。校長は話を
続ける。
「昔、俺の能力を知った金持ちが、事故にあった自分の娘を助けてくれと、俺の所まで来た。
俺は町長に言われるがまま、自分の能力を使った。だが、成功したのは、俺に頼んできた人
の半分だけだった。その時に俺の能力が万能じゃない事に気づかされたんだが・・・。町長に気
づかれないように、俺は「P45」を作った人に頼んで、その子達の臓器などを使って、人
には出来なかったが、ロボットにする事に成功したんだ。・・・それがお前達三人なんだよ」
「そんな・・・」
優もさやもつぐみも驚いた。
「でもどうして今そんな事を?」
良子が校長に聞いた。
「今だから・・・かな」
「まさか・・・」
良子以外、皆、意味が分からないという感じだったが、校長は気にせづ続けた。
「ああ、今日、秋斗と共に、俺の能力で三人を人間に戻せるか試したいんだ」
「そんな事できるのか!?」
健がすがるように聞いてきた。そんな健に校長が言う。
「だが・・・昔、一度は蘇生に失敗している者達だ。もし今度失敗したら・・・死ぬかもしれん可
能性が高い」
「なっ!」
校長の恐ろしい言葉に皆が言葉を失った。
「これは俺の罪滅ぼしがしたいと言うわがままだ・・・。勿論、そんな危険な賭けをしなくて
もいい。それは自由だ」
「金村・・・」
校長を見て、教頭が寂しそうな声を上げる。
「私、やるわ」
「つぐみ!」
そんな中つぐみが言った。
「いいのか?」
そんな校長のセリフにつぐみは言った。
「ええ、色んな人と接してきて、なんで自分は人間じゃないんだろうって・・・ずっと思って
きたわ。その事が今、解決してスッキリしたわ。私は人間だったの。ちゃんと自分の意思
も意見もあるわ・・・私の蘇生に失敗した事を校長は後悔してくれたみたいだけど・・・元は一
度死んだ身よ。今日死んでしまっても、後悔はないわ。むしろ校長には感謝しますわ。私
をここまで生かせてくれたんですもの。私は・・・生きる時も死ぬ時も、人間らしくいたいから」
「そうか・・・」
「私も!」
つぐみの話を聞いた優が声を上げた。
「私も・・・秋斗様やカナ様を見ていて、ずっと思っていたんです・・・人間になりたいって。
もし失敗したって、私も後悔なんかしません!だって私、人間だったって事がわかっただ
けで幸せですから・・・」
そんな優の言葉を聞いて、さやも言った。
「私も、その提案に乗らせていただきます」
「さ、さや・・・」
そんなさやを見て、健が不安な顔をした。
「私も・・・健と一緒に歳を取りたいから。健が歳を取っていくのに私だけずっと変わらず
居たって、そんなの哀しいだけだから」
皆の言葉を聞いて、校長が言う。
「・・・よし、皆決まったな。それでは始めるぞ」
校長の言葉に家政婦の三人が頷いた。
「まずは、誰からいくか・・・」
成功するのか、失敗するのか、どうなるのかもまったく分からない、トップバッターを
やるのはかなり勇気がいる事だ。だがしかし、三人は違った。
「「「私が!」」」
三人同時に声を上げた。
「私がいくわ!」
「いいえ、私が行きます~!」
「私よ!」
三人は一歩も下がらなかった。そんな三人をほっといたらラチがあかなさそうだった
ので、結局じゃんけんで決める事にした。
「私が一番ね」
一番手はつぐみがやる事になった。
「「つぐみ・・・」」
心配する優とさやに、つぐみは「じゃあ、ね」と言って、ベットに横になった。
皆も事の成り行きを見守った。ベットの上につぐみが横になる。そのつぐみの左胸に
校長が手をかざし、金色のオーラを放つ。
秋斗は七色のオーラを放ち、校長の背中に自分のオーラを放つように、手をかざす。
そして、校長のオーラがつぐみを包んだ。時間にして、実際には五分程だろうか。だが
その場に居た者達には、その倍近く感じた。校長の手がつぐみから離れる。
「つぐみ!」
チトセと良子、皆もつぐみを見つめる。だがつぐみは動かない・・・。
もしかして、ダメ・・・だったのか・・・?
秋斗がそんなことを思った瞬間、つぐみは目を覚ました。
「「「つぐみ!」」」
皆が歓喜の声を上げる。
「校長!」
秋斗が校長を見ると、校長は汗を拭きながら笑って言った。
「ああ、成功だ。次は・・・」
校長がそう言って、優とさやを見ると、さっきまでどうなるかわからない一番手を取
り合っていた二人が、成功したつぐみを見て、今度は譲り合っていた。結局、押しに弱
い優が二番目にやって、さやが三番目にやった。皆、無事、人間に戻る事に成功した。
「さてと・・・お前もやるか?」
校長はそう言って、カナを見た。
「カナ・・・」
秋斗が不安な顔をしてカナを見る。カナはそんな秋斗に笑みを返して、校長に言った。
「やる!」
こう太も凄い不安そうな顔をしていた。校長が三人と同じ様に、カナの胸に手をかざ
す。秋斗もオーラを出して、校長に手をかざした。校長がカナから手を離して、皆が固
唾を呑んだ。暫らくして、カナのまぶたが動く。
「カナ!」
カナも成功したことが分かり、皆の歓喜の声が秋斗の家に響いた。
「なんだよこう太、泣いてるのか?」
「な、泣いてねーよ!」
チトセにからかわれて、こう太は皆に背中を向けて顔を拭った。皆が笑顔になった後、
その日は豪華な食事を注文して、朝までバカ騒ぎをした。
朝、秋斗が目を覚ますと、秋斗の周りには、騒ぎ疲れた皆が眠っていた。だが、そこ
にチトセの姿はなかった。
「チトセ・・・!?」
秋斗は家を出て、近くの海辺に行った。そこにチトセは居た。チトセは砂浜に座って、
一人で海を眺めていた。秋斗はそんなチトセの傍に座った。チトセは秋斗が隣に来ても、
驚かなかった。
昨日の一晩で、いろんなことがあった。秋斗はそんなことを思い出していた。
「秋斗」
そんな秋斗にチトセが不意打ちで声を掛ける。
「な、なに?」
秋斗は少し慌てて返事を返した。そんな秋斗を笑う事なく、チトセは秋斗を真っ直ぐ
見つめて言った。
「強くなったね」
「チトセ・・・」
秋斗はゴクリと唾を飲み込んで言った。
「チトセ!」
「ん?」
チトセの顔を見ると、少し怖気ついたが、秋斗は勇気を振り絞って言った。
「お、俺と、結婚してくれる?」
秋斗の言葉を聞いたチトセが、昔と変わらない笑顔を見せて言った。
「アタシより強くなったから、結婚していいよ!」
初めまして、ちんすこうです。
小説かくのは初めてで色々と間違いが多いと思います。
お気に入り登録してくれた方、最後まで読んでくれた方、嬉しいです。
ありがとうございます。




