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白龍学園

 そして白龍学園行き電車に乗る秋斗達に戻る。

 電車は白龍学園に向かって、一直線だ。

「それにしても、A+判定かよ」

「ん? 何か言った~?」

「な、なんでもねえよ」

 心の声が、声に出てしまっていた。

 慌てて否定した秋斗はカナから視線を逸らした。

 それにしてもA+判定は凄すぎる。

 俺なんて、一番良かったのが、格闘センスのB-判定だぞ・・・・・・。

 今まで喧嘩をしてきたのが功を奏し、秋斗は格闘技術という点でB-判定を貰えた。

 自慢じゃないが、秋斗はそれなりに自分の腕に自信があった。

 でもそれでも、全てのテストの結果、一番ポイントが良くてB-だった。それなのに

カナは、軽々とA判定を取ってしまった。

 なんだかやりきれない気持ちになりながら、昔の事を思い出す。カナは昔から馬鹿力

だった。

 あれは、カナが岩神家に来て大分カナが皆に心を許してくれた時の事だった。

 秋斗とカナは、些細な事で喧嘩した。秋斗がカナの分のデザートを食べてしまったか

らだった。食べ物の恨みとは恐ろしい。

 カナは秋斗に激怒して、小学校低学年の時、秋斗はカナにボコボコに殴られてしまっ

た。

 女の子相手に今考えると大人気ない秋斗は本気で喧嘩していた。が、一度も勝った事

がなかった。

 それから何年も経って少し大人になった秋斗達は、さすがに喧嘩なんてしていない。

 もしかして、今喧嘩しても勝てないんじゃ・・・・・・。

 いや、考えるのはよそう。こんな見た目が幼いカナに喧嘩で勝てなかったら、俺はき

っと立ち直れない。

 そんなことを考えていると、カナが興奮しながら言った。

「わあ~見て、見て秋斗~! 海だー!」

 電車は海沿いの狭い道を走っていた。

 窓の外を見てみると、外には太陽の光を浴びてキラキラと輝く海が目の前いっぱいに

に広がっていた。

 その光景を見ると、本当に知らない土地に行くんだな、と今更ながら実感が沸いてく

る。

 実を言うと、秋斗はカナが白龍学園に行くとわかって嬉しかった。

 誰にも言わず隠してはいたが、心の中では知らない土地に行って、一人で生活すると

いう事が、不安で心しょうがなかった。

 きっと一人で来ていたら、今見る景色もまったく違って見えたに違いない。

 こういう時、カナの溢れんばかりの明るさには助けられる。

「本当だ、綺麗だな」

 秋斗の住んでいた小さな村は森に囲まれていたので、海なんて何年も前の旅行でしか

見ていなかった。

 秋斗が海に意識を向けていると、カナがすっとんきょうな声を出した。

「あ、あ、あ、秋斗! 前! 前!」

「ん? なんだ? うわっ!!」

 カナにそう言われて、電車の前を見た秋斗は驚愕した。

 電車は白龍学園に向かって一直線だった。

 ・・・・・・・・・・・・海に向かって。

 白龍学園行きの電車の進む線路のその先には、道が無くなっていて、秋斗達の乗る電

車は海に向かって進んでいた。電車はスピードを落とさず、むしろスピードを上げて、

そのまま道の途切れた線路の上を走って行く。

 このまま進むと、間違いなく電車は崖下の海に沈没してしまう。

 この電車は、白龍学園に入学する事が出来た俺達だけの為に学園側が用意してくれた

特別電車で、自動操縦になっていて電車の運転手はいない。

 動揺して慌てる二人をよそに、尚も電車は海に近づいて行く。

 パニックになった人というのは、とんでもない事を言ってしまう。

 カナは、その典型的なパターンに陥っていた。

「そ、そうだ! 窓から逃げよう!」

「バカッ! このスピードで窓から落ちたら間違いなく死ぬぞ!」

「え~じゃあ、どうしたらいいの~!?」

「と、取り合えず、電車のイスに身を隠すんだ!!」

 そうこうしているうちに、電車はもう海の目の前まで来ていた。

 ・・・もう駄目だ! 俺はチトセに会えない内に、死んでしまうのか・・・・・・?

 そう思った次の瞬間、電車は海に落ちて行った。

 海に大きな鉄の塊が落ちる音が響き渡る。

 だが、恐れていた水の浸入はやってこない。

「・・・・・・どうなってるんだ・・・・・・?」

 秋斗がおそるおそる目を開けてみると、なんと電車は何事も無かったかの様に海の中

を走っていた。潜水艦の様に海の中を進むと、緩やかに上昇していった。

 電車は海の上に出ると、今度は船の様に海の上を進んでいく。

 へ・・・・・・? 海・・・・・・電車・・・・・・?

 秋斗が呆けていると、すっかり落ち着きを取り戻したカナが驚きの声を上げた。

「へ~! 凄~い! 今時の電車って、海も走れるんだね~!」

「いや多分、コレ(白龍学園の電車)だけだろ・・・・・・」

 カナは最初はビックリしていたものの、暫らくすると海電車を満喫してはしゃいでい

た。そんな海電車に乗って、秋斗は少し前から思っていた疑問が解決した。 

 白龍学園から送られてきた入学案内書には、白龍学園がある街の離れ島に行くのに、

学園側が特別電車を送りますので、指定された時間に遅れずに乗って下さい。とだけ書

かれていた。

 その案内書を見て、電車に乗った後は、どうやって海を越えた街に行くんだろう。と

ずっと不思議に思っていた。

 まさか電車に乗ってそのまま離れ島に行くなんて思ってもみなかったが。

 それにしても、白龍学園に受かったからといって、俺達二人の為だけに海電車? な

んて変わった乗り物を作って寄越すなんて、白龍学園を作った町長ってのは本当に金持

ちで変わり者なんだな。

 秋斗がそんな事を思いながら、海電車に乗ること2時間。二人はようやく白龍学園の

ある離れ島に着いた。

 海電車は島の入り口に停車した。

 秋斗達は電車を降りると、白龍学園から届いた入学案内書を見た。

 その案内書には、「街の入り口に居る人に声をかけて下さい」とだけ書かれている。

 ウェルカムと書かれた大きなアーチをくぐり、秋斗は街の入り口に並んで立って居た

五人の内の、街の入り口から一番近かった女の子に声を掛けた。

「すいません俺達、白龍学園に入学する者で、入学案内書に街の入り口に居る人に聞い

て下さいって書かれてるんですけど・・・・・・」

 秋斗が声を掛けると、案内人の女の子はニコッと微笑んだ。

 ・・・・・・可愛い。

 良く見ると、その女の子は、秋斗達とあまり歳が変わらない様に見えた。

「私を選んでくれてありがとう! 白龍学園、新入生の方ですね。まずはご入学、おめ

でとうございます!」

 ・・・・・・ん? 私を選んでくれてありがとう・・・・・・?

 秋斗は女の子の意味深な言葉が気になったが、そんな秋斗に構わず、女の子は話し続

ける。

「それでは、お名前とこれから住むご住所のご確認を致しますので、私の口に右手の人

差し指を下にして入れて下さい!」

「・・・・・・え?」

 女の子の言っている意味が分からず、秋斗は女の子に聞き直した。

「ですから、右手の人差し指を下にして、私の口にお入れ下さい!」

 ・・・・・・どんな変体なんだコイツ。

 初対面の人に向かって自分の口に指を入れろ、なんて事を言われた秋斗は、どうした

らいいのか分からず、その場で固まった。そんな秋斗に、カナは嬉しそうな顔をしなが

ら、「早くやって~」と言ってきた。

 なんでカナは喜んでるんだよ! 

 というか、なんで俺が見ず知らずの女の子の口に指を入れなきゃいけないんだ!?

 軽いパニックに陥る秋斗をよそに、案内人の女の子は目と口をずっと大きく開けて、

秋斗が指を入れるのを待っていた。

 ・・・・・・なんかスゲー嫌だ!

 案内人の女の子に白い目を向ける秋斗に、カナが「トイレ行きたい~!」と言ってき

た。

 くそっ! もう、どうにでもなれ!

 秋斗が意を決して女の子の口に人差し指を入れると、女の子は「解析します」と言っ

て口を閉じた。3秒程すると、女の子は「解析終了しました。しばらくお待ち下さい」

と言って口を開けた。

 なんだったんだ・・・・・・。

 女の人の口から指を離した秋斗達が、3分程待っていると、急に女の子がお腹を抱え

て苦しみだす。

「う・・・・・・うぅ・・・・・・」

「ん? おい、どうした大丈夫か?」

「うっ・・・・・・ぁ・・・・・・いやん・・・・・・」

 ・・・・・・いやん?

 案内人の女の子は、何故か顔を赤くして恥ずかしそうにしている。

「あ・・・・・・あー! ・・・・・・いや、あー! 生まれるー!!」

「・・・・・・・・・・・・」

 いきなり苦しみ出したかと思うと、女の子はおもむろにスカートに手を入れ、股のあ

たりから一枚の紙を取りだして、秋斗に渡した。

 女の子から受け取ったその紙は、印刷したばかりの様に温かかった。

「お待たせしました! 岩神秋斗様と、岩神カナ様ですね、ご確認が終了致しました。

その今渡した紙に、こちらで住まれる住所や明日の日程が書かれていますので、そちら

をお読み下さい。ちなみに、卒業式は明日ですので、くれぐれも遅刻しないようにお気

をつけ下さいね! それでは、案内を終了させていただきますが、なにかご質問はあり

ますか?」

「いや、大丈夫です・・・・・・」

 質問と言うか、疑問は沢山あったが、何だか聞くのが怖くて秋斗はそう言った。

「はい。それではお疲れ様でした! 今日はご氏名ありがとうございました! またの

ご利用、お待ちしておりま~す!」

 街の入り口を抜けて、さっきの女の子から貰った紙に書かれていた地図を見て、秋斗

達はひとまずトイレを探す事にした。トイレを探しながら、カナが興奮して言った。

「それにしても、さっきの「P45」(ピーヨンゴー)凄かったね~!」

「えっ! あれが「P45」か!?」

「そーだよ~、秋斗知らなかったの~? だって腕に「P45」の証のマークがあった

もん~。まさか、生で見れるなんて~感激~!」

 ・・・・・・それでさっき喜んでたのか。

 カナのその言葉を聞いた秋斗は、さっきのカナの嬉しそうだった顔にも納得した。

 「P45」は、今から10年前、秋斗がカナと出会った頃ぐらいに発表された、超人

型ロボットで、限りなく人間に近いロボットが開発された事は、世界にとても大きな衝

撃を与えた。世界的に栄誉なノーベル賞を受賞した「P45」の衝撃は、秋斗達の住む

小さな田舎町まで伝わった。

 二足歩行は勿論、相手の言った言葉を理解し、その場に合った対応を取る事が出来る

よう設定プログラムされている。

 開発から10年も経ち、色んな顔や体系の「P45」が、世界に出回った。

 だがその「P45」は、違法なまでに高いと聞いてた。

「でも、「P45」って、スゲー高いんじゃなかったっけ?」

「一体数億円は下らないらしいよ~」

「一体数億っ!? もしかして、あそこの入り口にいた五人って、まさか皆「P45」

か!?」

「うん! 皆の腕に「P45」のマークがあったよ~」

「マジかよ・・・・・・」

「あ! トイレ発見~。秋斗、ちょっと待ってて~」

 トイレを見つけたカナが、そう言ってトイレに走って行った。

 近くにあったベンチに腰を下ろし、秋斗はカナが来るのを待ちながら、街の入り口に

居た、案内人の女の子を思い出す。

 さっきの「P45」は、俺の指紋を調べてたんだ・・・・・・。

 カナから聞いても、あれがロボットだなんて信じられない。

 それ程に、人間そっくりだった。見た目も勿論そうだし、喋り方や仕草だって人間そ

っくりだった。口の中に手を入れた時だって・・・・・・、ちゃんと温かさがあった。

 それが、ロボットだなんて・・・・・・。

 それにしても、一体数億円のロボットを、五体も街の入り口にポンっと置いてるなん

て、変わってる、という言葉で終われない。それに、さっきのあのロボットになんて悪

趣味な事させてんだ。

 秋斗はそんな事を思いながら、学校の案内書に再度、目を通した。

 ~街についたら、入り口に居る案内人「好きな人」に、声を掛けて下さーい~

 好きな人・・・・・・。

 案内書のその言葉を見て、町の入り口に居た「P45」を思い出す。

 そういえば、入り口には五人の案内人が居たな・・・・・・。

 やせ気味の人と、ポッチャリ体系の男女が二人ずつ。4人共、中々整った顔立ちをし

ていた。そして残るもう一人が、たくましい体つきをして、可愛らしい洋服を着ていた

ニューハーフだった・・・・・・。

 今度あそこを通る時は、カナにニューハーフの人で指紋確認して貰おう。

 秋斗がそんな鬼の様な事を考えていると、カナが戻ってきた。

 「待たせてごめんね~」と言うカナに、飛びっ切りの秋斗スマイルで返事をすると、

秋斗達はこの街に来ても迷わない様に、と入学案内書と一緒に送られてきた、手のひら

サイズの機械を取り出した。それは、この街の案内ナビだった。

 そのナビに、案内人の「P45」から貰った紙に書かれていた、今日からここで住む

事になっている住所を打ち込んだ。ナビに住所を打ち込むと、画面に「検索中」という

文字が出てきて、2分程で「検索完了」という文字が出た。

 ナビの案内に従い、秋斗達は歩き始めた。

「この先、左に曲がります」

「いや~それにしても助かるね~! こんな小さなナビ機械まで送ってくれてさ~!」

「そうだな、お陰で始めてくるこの街でも、迷わないで済むな!」

「次も、左に曲がってね♪」

 秋斗達は学園の心遣いに関心しながら、案内に従いさらに歩く。

「それに「P45」まで見れたし!」

「・・・・・・あの事はあんまり思い出したくないけどな」

「次も左に曲がらんかいボケー」

「・・・・・・秋斗、案内の声、なんか変わってない?」

「ん? そうか? ま、あんなロボットを街の入り口に置いてる様な所だ。きっと、コ

レ作った人は、おちゃめな人なんだよ」

「そっか・・・・・・そうだね! ずっと同じアナウンスじゃ、飽きちゃうもんね」

「まもなく、目的地です」

「え、以外に近いんだな」

「わーい! 新しい家だ~!」

「最初の場所へ着きました」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・おちゃめ・・・・・・だね・・・・・・」

「・・・・・・おちゃめ・・・・・・だな・・・・・・」

「目的地を入力して下さっ」

 ――――ピッ。

 当てにならないナビの電源を消して、秋斗達は地道に家を探す事にした。地図を頼り

に、沢山の人が行きかう街を歩くと、立ち並んでいる建物に目が行く。

 レンガや木材で作られた家は、色々な色の外壁をしていて、街は明るく見える。広い

道路と歩道にはゴミ一つ落ちてなくて、歩道の脇には木々が立ち並んでいる。電柱や電

線はあまり見当たらないし、大きな公園が沢山あるこの街は、まるで外国にでも来たん

じゃないかと錯覚してしまうぐらい、日本じゃない気がして驚いた。

 街を暫らく歩いていると、紙に書かれていた秋斗達のこれから住む住所に到着した。

「わ~結構大きいね~!」

「そうだな」

 目の前には、秋斗とカナが二人で住むには大きい、一階建ての一軒家があった。

 玄関に行くと、玄関の横に作られた物を見て、秋斗はカナにそこに手を置いてみなと

言った。不思議に思いながらも、カナが秋斗に言われた通りに銀で作られた置き物の上

に手を置くと、銀の作り物から綺麗な緑色の光が出て、玄関に付けられていたカメラが

動き、置物に手を添えたカナを捕らえた。

 そのまま三秒程待っていると、カチャッという音と共に玄関のロックが解除された。

「わ~!凄~い!」

「ここの家は、こうやって指紋とカメラで家のロックを外すんだって」

 案内書にはそう書かれていたが、きっと見てないだろうなと思った秋斗はカナにそう

言った。案の定、案内書を見ていなかったカナは「そうなんだ~!」と言って驚いてい

た。

 ロックの開いた玄関を開けて、秋斗とカナはさっそく家の中に入った。

「キャー! クーちゃんだー!」

「マジかよ・・・・・・」

 家具など生活に必要な洗濯機や冷蔵庫などは、全部配置されている。テレビ、ソファ

ー、食器に本棚、ティッシュなどの消耗品も設置されている。その全てに、秋斗の母さ

んの作ったキャラクター「クーちゃん」の絵が、何故か描かれている。

 さらに奥に入ると、大中小様々な大きさのクーちゃん人形やら、Tシャツやらが沢山

置かれていた。

「ここの学校はなんでもありなのか・・・・・・?」

 家の中には、食糧倉庫や地下室まであった。寝室の部屋に入って、秋斗は驚愕した。

2つある部屋のどちらにも、ヒラヒラのレースの付いたベットがあった。

「なんでどっちの部屋も女の子用なんだよ!」

「可愛いからいいじゃ~ん」

 可愛い女の子用の部屋を見て喜ぶカナを秋斗は呆れ顔で見ながら、これから我が家に

なる家を一通り見終わった。3LDKの一軒家は、二人で住むにしてはやっぱり広い家

だった。

 家を探索した二人は、とりあえずお風呂に入る事にした。

 お風呂の蛇口も、何故かクーちゃんの顔で出来ていた・・・・・・。

 そんな蛇口を見て、今の秋斗の気持ちにピッタリ当てはまる言葉を言っていた、プロ

スポーツ選手を思い出す。

 なんだったっけ、ああ、そうそう。

「なんも言えねー」

 二人共お風呂に入り終わると、お腹が空いたのでご飯を食べる事にした。

「確かここはご飯も準備してくれるんだよね~」

「ああ、確か案内書に・・・・・・お、あった。え~っと、ご飯は、明日から家政婦が

来ますので今日はネットで注文して下さい・・・・・・」

 案内書にはそう書かれていた。「家政婦」というのがかなり気になったが、考えない

事にした。

 家に設備されてあった、タッチ式の最新型のパソコンの電源を入れると、電源が入っ

たパソコンの画面に、クーちゃんの画像が浮かび上がった。

 ・・・・・・徹底してるな。

 そんな事を思いながら、パソコンのご飯メニューという欄の、色々あった食べ物の中

から、ピザを頼んだ。

 注文すると、20分程でピザは来た。

 大食いのカナの為に、ピザのLサイズを二つ頼んだが、カナが最後の一枚を残したの

を見て、秋斗は呟いた。

「珍しいな・・・・・・」

 秋斗は、カナがご飯を残すのを、初めて出会った頃ぶりに見た。

 ピザを食べ終えると、片付けを済ませ、明日の入学式の為に寝る事にした。

 お互いそれぞれ自分の部屋へ行き(と言ってもどっちの部屋も女の子の部屋だったが

)30分程して秋斗がベットでウトウトし始めた時にドアをノックする音が聞こえた。

「どうした?」

 返事をすると、大きなクーちゃん人形を抱きしめたカナがドアを開けて、恐る恐る秋

斗に聞いてきた。

「・・・・・・今日だけ、一緒に寝ていい?」

 いつもは明るいカナだが、環境がガラリと変わってしまった事で不安になっているの

だろう。口には出さないが、秋斗はなんとなくそう思った。

 そういえば、いつもは学校に向かう途中、学校の休憩時間、学校の帰り道、夕飯が出

来るまでの前の時間、必ずなにかしら食べていたカナが、今日は家を出てから夕飯まで

何も食べていない。いつもだったら、足りないとブーブー言うはずの量の夕飯のピザも

残していた。

 カナは、秋斗に笑われるとでも思っているのか、秋斗に視線を合わせず、顔を赤らめ

てモジモジしている。

 秋斗はこの街に来る前に、母さんに言われた言葉を思い出した。

「あんたお兄ちゃん何だから、カナの事よろしくね」

 ・・・・・・そうだな、ここでは俺しかカナを守ることが出来ない。

「・・・・・・いいよ」

 そう言うと、カナは顔をパアッと明るくして秋斗の隣に来た。

 一人用としては少し大きいベットのおかげで、小さいカナが隣に来ても問題はなかっ

た。そして秋斗、クーちゃん人形、カナの順番で二人は川の字になって眠りについた。




 時間はまた少し戻り、秋斗達がこれから住む家を探している時間に、二人の女の子も

白龍学園があるこの街に到着していた。

「良子が準備に時間かかったから、着くの遅くなっちゃったよ~。せっかく街を探検し

ようと思ってたのに~」

「まあまあ、細かいことは気にしない~気にしない~」

 電車を降りるなり、チトセはぶつくさ文句を言って良子に聞いた。

「それにしても何やってたの? ここに来る準備なら昨日の内に済ませてたじゃん」

「実はね、レオも連れて行きたいって事を学園に伝えたら、快くOKしてくれたんだけ

ど、白龍学園の特別電車は動物禁止だからって言って、レオは今日この後、学校側が特

別に迎えに行くっていう電話をしてたらちょっと遅くなっちゃったのよ」

 良子はそう言うと、全然悪かったなんて思ってない様な顔で、舌を出しながら謝って

きた。

「この学園レオも連れてきていいの!?」

 チトセは良子の言葉を聞いて、この学園生活はきっと楽しいものになるだろうと確信

した。だって、レオを連れてきていいなんて他の学校じゃ絶対言わない。

 あり得ないのだから。

 高まる期待を抑えながら、チトセと良子は街の入り口に向かって歩き出した。

「でも、今日はこれからどうすればいいのかな? あ、あっちに人が居る! あの人達

に聞いて見よう!」

「・・・・・・・・・・・・」

 そう言ってチトセは街の入り口に並んでいた、一番近い女の人に聞くことにした。

「すいませ~・・・・・・わっ!」

「そっちじゃないわ、チトセ」

 女の人に声を掛けようとしたチトセに、良子が首を横に振って引き止めた。

「・・・・・・この人」

 良子は入り口に並んでいる五人の内の、真ん中に居た体がムキムキのニューハーフを

指差して言った。

「・・・・・・の方が楽しそう」

「ん? なんか言った?」

「ううん、なんでもないわ」

「・・・・・・?」

 良子が最後にボソッと言った言葉は聞こえなかったけど、良子は頭がいい。きっと、

いい加減なアタシなんかとは違って、良子はきちんと案内書を見ている。そんな良子が

言うんだから、きっと真ん中の人に聞くという事を知っているんだろう。まあ、良子の

言うことは間違いないしね。

 そう思ったチトセは、ちょっといかつい体をしたニューハーフに話を聞いて見る事に

した。

「すいませ~ん、アタシ達、白龍学園に入学する事に~」

「あ~らそうなの! おめでと~う!!」

「ギャッ!」

 いかついニューハーフは、チトセが聞き終わる前にチトセに抱きついてそう言った。

 体が潰れるー! なに、この馬鹿力! アタシを殺す気・・・・・・?

「あ、あの~アタシ達、今日これからどうすればいいのかちょっとわからなくて~」

 チトセは逃げる様にしてニューハーフの体から離れると、気を取り直して聞いた。

「ああ! そうね! まずは、私を選んでくれてありがとう。アンタ見所あるわよ~!

それじゃ今から調べるから、私の口に右手の人指し指を下の方にして入れなさい」

「・・・・・・はあ?」

「・・・・・・」

 何でアタシが見ず知らずのニューハーフの口に手を入れないといけないのよ!

 チトセがそう思って良子をみると、良子は必死に笑いを堪えて肩を震わせていた。

 ・・・・・・良子、あんたアタシを騙したわね!

「早くしなさいよっ」

 チトセが良子を睨みつけていると、ニューハーフがチトセに言ってきた。

 そんなニューハーフを見ると、大きく口を開けて待っている。

 絶対イヤだ――――――!

 チトセが良子にSOSの視線を送ると良子は「頑張って」とでも言わんばかりのガッ

ツポーズをしてきた。

「や、やればいいんでしょ! やればー!」

 チトセは半分涙目になりながら、ニューハーフの口に指を突っ込んだ。

「解析するわ」

 そういってニューハーフは口をモゴモゴ動かした。

「ギャ―――――!!」

「解析終了したわ。ちょっと待ってなさい」

 ニューハーフがそう言って口を開けたので、チトセはすぐに指をニューハーフの口か

ら離して指を良子の洋服で拭こうとしたが、逃げられたので、渋々自分の服で拭いた。

 そして待つこと三分、ニューハーフは急に苦しみだした。

「う・・・・・・うう~・・・・・・」

「なに!? 一体どうしたのよ! 大丈夫!?」

「・・・・・・・・・・・・」

 慌てるチトセとは対象的に良子は落ち着いてニューハーフを見つめていた。

「き、救急車! 110番!」

「それを言うなら119。・・・・・・! チトセ、くるわよ!」

「・・・・・・え?」

 良子にそう言われ、チトセがニューハーフを見てみるとニューハーフはなにやら雄た

けびを上げてスカートの中から紙を取り出しチトセ達に渡した。

「解析完了したわ。西園寺チトセちゃんに夢野良子ちゃんね! その紙にこれから住む

住所と、明日の入学式の日程が書かれているから、ちゃんと確認するのよ♪」

「・・・・・・はあ」

 呆けたような返事をして、チトセ達は街の中に入っていった。

「も~なんなのよあれ~! 早く指洗いたい~!」

 そう言うチトセに良子が笑顔で言ってきた。

「まあまあ、すっごい楽しそうな街じゃない、ここ」

「・・・・・・ま、それはそうね! でも、シャワー浴びたくなっちゃたから早く家探

そうよ~。確かこの街のナビ機器が送られて来てたよね?」

 そういう面白そうな物は、キチンと確認しているチトセだった。

 良子が、「ええ」と言ってナビを出してくれた。そのナビに、さっきのニューハーフ

から貰った紙に書かれてあった住所を入力して、少し待つと、ナビが案内してくれたの

でその案内に従い歩いた。

「あ~早くシャワー浴びたい~!」

 チトセはさっきのせいで気持ち悪いとブツブツ言いながら歩いた。

「次も左に曲がってね」

 ちょっと変わったナビに従い歩いていると、良子が言ってきた。

「ねえ、チトセ、このナビってもしかして・・・・・・」

「も~騙されないよ! 良子、またなんか悪巧みしてるでしょ! もう良子の言うこと

は聞かないからね!アタシ早くお風呂入りたいんだから!」

「でも・・・・・・」

 なにかを言いかける良子の声をチトセは聞かないように耳を塞ぎながら歩いた。

「次、左に曲がれや!目的地じゃ!」

「やっと着いたー! お風呂に入れるー!」

「・・・・・・・・・・・・」

「最初の場所に着きました」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・だから、さっきおかしいって言おうとしたのに・・・・・・」

「早く言ってよ・・・・・・」

 その後は、良子に家を探して貰い、チトセは良子のおかげで無事家にたどり着く事が

出来た。




 次の日の朝、秋斗は聞き慣れた目覚ましよりも、少し音の大きい新しい目覚まし音で

目を覚ました。

 目覚ましを消して、秋斗はもう少しだけ寝よう。と横になった。

 ――――ムニュッ

 なんだか柔らかくて気持ちいい。

「なんだ・・・・・・?」

 不思議に思って目を開けると、隣にあったはずの大きなクーちゃん人形ではなく、何

故かカナが秋斗の隣に居た。

 秋斗の手は、カナの小さな膨らみの上にあった。

「うわっ!」

「う~ん・・・・・・」

 秋斗は急いでカナの胸から手を離してベットから飛び起きた。

「秋斗・・・・・・」

「・・・・・・へっ?」

 やましい気持ちは無かったけど、気づかれたかと思ってドキドキしながらカナを見る

と、カナはまだ寝ていた。

「なんだ寝言か・・・・・・」

 ホッとしながら秋斗は朝食を食べる為にリビングに行き、昨日使ったパソコンを使っ

て食事を注文することにした。卒業式に行く時間より早めに目覚ましをセットしていた

為、時間はまだ余裕がある。

 こんなへんてこりんな家だから、ちゃんと眠れるか不安だったけどそれは杞憂に終わ

った。以外にも目覚めはスッキリしていて、目も冴えている。別に朝あんな事があった

から、と言う訳じゃない。・・・・・・と言っておこう。

 いつも秋斗より起きるのが早かったカナは、珍しくまだ起きてこない。

「疲れてるのかな?」

 そんな事を思いながらパソコンの画面にある、「朝食メニュー」という項目を見ると

和食から洋風、中華など色々な食べ物がズラリと並べられていた。

「・・・・・・これにするか」

 色んな食べ物の中から秋斗は朝食を選び、注文完了を押した。

「確か、ご飯を作ってくれる家政婦っていうのは今日の学校が終わってから来るんだっ

たよな」

 秋斗はリビングに設置されてあった椅子に腰を下ろし、案内書を見ながら、朝食が来

るのを待った。少し待っていると、朝食が来たのでカナを起こす為に自分の部屋に行っ

た。

「カナ~朝ご飯っ・・・・・・!」

 ドアを開けて、カナを起こそうとして、秋斗は言葉に詰まった。

 ベットの上に寝ているカナの洋服が上に上がって、胸の部分が見えてしまっていた。

「・・・・・・ん!」

 秋斗があたふたしていると、カナはガバッと起き上がった。

「良い匂いがする~!」

 そう言ってカナはリビングの方へ走っていった。

 リビングにある朝食を見て、カナが叫んだ。

「わー! 母さんのご飯だー!」 

 秋斗が今日注文した朝食は、白米にわかめのお味噌汁にシャケの塩焼きだ。

 そう、カナの言う通り、飽きる程食べてきた「母さんのご飯」だった。

 昨日カナはピザを残していたし、食欲のないカナの為に、大好きだった母さんの料理

を注文してみる事にした。秋斗としては、本音はいつもと違ったご飯を食べたかったが

カナの喜ぶ顔を見るとコレにして良かったなと思った。

 効果は抜群だったみたいで、ご飯を食べ終わるとカナは、お腹すいた・・・・・・と

言ってきた。おいっ、と突っ込みを入れたくなったが、カナの食欲が戻って秋斗は嬉し

かった。

 支給された学校の制服に着替えて準備を済ませると、秋斗達は学校に行く前に、カナ

がお菓子が食べたいと言ったので、お菓子を買う為コンビニに寄る事にした。

 学校側から貰ったナビは宛てにならないので、街の入り口の「P45」から貰った地

図を頼りにコンビニに向かう。

「それにしても、スカート短くないか?」

「え? そうかな~? でも可愛いからいいじゃ~ん」

 コンビニに向かいながらそんな事を話す。秋斗はまるで父親のような気持ちだ。

 そうこうしていると、コンビニに着いた。

 中に入るとカナのテンションが上がる。

「わ~! 見て見て、秋斗! どれもコレも見たこと無いお菓子ばっかり! わ~どれ

にしようかな~! あ、これおいしそう~!」

「・・・・・・もうそろそろ入学式の時間だからなるべく早く決めろよ?」

「は~い」

 好きなの買っていいよ、と言うと店にある商品全部買ってしまいそうな勢いだったの

で言うのは止めた。いつもはカゴ一杯にお菓子を買うカナだったが、これから入学式が

ある為、カナなりに我慢してお菓子を7個選んだ。

「確か買う時は・・・・・・」

 秋斗は「P45」から貰った紙の、~買い物をするときは~という項目を見た。

 そこにはレジに自分の学園カードを提示して下さい。と書かれてあった。

 白龍学園に入学出来ると、学校側が食事代などを支給してくれる。学園から送られて

きたカードには、一人につき一ヶ月、10万円分程の買い物が出来る用になっていた。

それは、現金には変えられないが、洋服や、自分の好きな物を何でも買ったり出来ると

案内書に書かれていた。

 レジに行くと、可愛い店員がお菓子のバーコードを読み取り、「学園カードをこちら

にかざして下さい」と言って、腕を差し出してきた。

「こうか?」

 レジに居る女の子の差し出す腕に、秋斗は案内書と一緒に送られてきた、自分の写真

付きの学園カードをかざした。

 ~あは~ん~

「・・・・・・・・・・・・」

 変な効果音がした後に、レジの女の子は、「岩神秋斗様ですね、購入完了しました」

と言った。レジに映し出されていた秋斗の残高らしい数字が10万から9万7千900

になった。

 コンビニを出て、秋斗はカナにふと思った事を聞いた。

「なあ、あの女の子ってもしかして・・・・・・」

「あの女の子も「P45」だったね~♪」

 カナは幸せそうにお菓子を食べていた。

 街のいたる所に「P45」置いて、どんだけ金持ちなんだよ!

 秋斗はそんな事を思いながら、紙だけを頼りにどうにか白龍学園にたどり着いた。

「ここが白龍学園か・・・・・・」

「わー! でっかいねー!」

 白龍学園は入学試験が厳しく、全校生徒が500名未満にも関わらず、色々な設備が

設置された、超巨大な学校だった。遠くから見てもこの学園は目に入る程大きな建物に

なっている。

 だから、離れ島とはいえこの見知らぬ広い街にも関わらず、一枚の紙だけで迷わず学

園にたどり着く事が出来たのかもしれない。

 ・・・・・・というか、ただ単純に一本道なだけだった。

 チトセ、お前はここに来ているのか?

 そんな期待と不安が入り混じる気持ちを抑えて、秋斗達は学園に貼られている案内に

従い、中に入って行った。

 新入生の方はこちらにどうぞという貼り紙に従い歩く事数分、秋斗達は大きな建物の

ある場所に着いた。

 そこはどうやら体育館の様だった。

 中に入ると、既に沢山の新入生が並べられた椅子に腰を下ろし、式の始まりを、今か

今かと待っていた。

 秋斗達二人も、並べられている椅子に座る事にした。

 秋斗達が椅子に座ると、周りは何故かザワザワしている事に気づいた。 

「一体何だ?」

 気になって前を見て見ると、そこには皆の注目を集める、スタイル抜群の二人の美女

が居た。

「スゲー綺麗!」

「めっちゃタイプ!」

「超~美人!」

 そんな声が聞こえてくる。

 秋斗は、二人の女の子から遠い距離に居たからあまり見えなかったが、遠くからでも

目を引くものがあった。秋斗はハッとすると、少しでもチトセに似た人が居ないか、周

りをキョロキョロ見回した。

「秋斗、どうしたの~?」

「え、なんでもないよ」

「・・・・・・ふ~ん」

 挙動不審な秋斗をカナは呆れた顔で見てくる。カナには全部お見通しな気がして恥ず

かしくなった秋斗は、チトセ探しを諦め、式が始まるのを待つ事にした。

 じっとしていると、さっき、前にいる二人の美女に騒いでいた男共何人かがこちらを

チラチラ見て何かを言っている。

 ・・・・・・なんだ?

 男共は「あの子もレベル高いぜ」とか「ロリロリだけど、そこがまたいい」などと言

っていた。秋斗がそんな奴らからカナを護るため、カナをいやらしい目で見ている奴等

を睨み付けると、男共は「ヒッ・・・・・・!」と言ってカナを見るのを止めた。

 カナはそんな事にはまったくこれっぽっちも気づかず、今朝買ったお菓子に夢中だっ

た。

 暫らくすると、壇上に一人の男性が出てきた。

「あ~、マイクてすと、マイクてすと~」

 その男はマイクに音が入ってる事を確認すると、体育館で腰を下ろす新入生を見渡し

て大きな声で言った。

「お前等、よくこの学園に入ったな。取り合えず、おめでとう! 私は、この学園の校

長だ! よろしくな! この学園に入学する事が出来たお前等の為に、わざわざ徹夜ま

でしてお前ら新入生、一人一人のデータをリサーチして家を改築してやったのは、この

私だ」

 体育館は校長の話を聞いて、ザワザワしだした。

 150人もいる新入生全員の家を、俺達の家みたいに改築したのか・・・・・・。ど

んだけ暇人なんだ!

「そして喜べ! お前ら新入生の為に、わざわざ案内人の「P45」の設定を改造して

やったのも、この私だ!」

 ・・・・・・あの変体ロボットはコイツの所為か!

 秋斗はカナに小声で言った。

「いいか、カナ、あのオジサンには近づいちゃ駄目だからな」

「え? なんで~?」

「・・・・・・なんでもだ」

「・・・・・・?わかった~」

 よし。これでカナに変体の魔の手が下る心配はないだろう。

 校長先生という名の変態は喋り続ける。

「すでに、お前等のこれからの身の回りの世話をしてくれる「P45」の家政婦を配置

してある。お前等が家に帰ったらいるはずだ。そいつらの性格の設定も、私がしておい

た」

 ・・・・・・体育館が一気にどよめく。

「あ~、落ち着けお前等、何、私も鬼ではない。身の回りの世話をする「P45」ぐら

い、普通の設定にしてある。・・・・・・ま、何台かは茶目っ気があるものにしたが」

 なんだその、何台かは茶目っ気のある家政婦ロボって!

 秋斗はかなり気になったが、その何台かに入ってないことを祈った。

「「P45」の家政婦だって~! 楽しみだね!」

「あ、ああ・・・・・・」

 なんの不安も抱いてないカナを見ていると、なんだか俺の心配は杞憂に思えてくる。

 そうだ! 何事もプラス思考だ!

「私からの連絡はこれで大体以上だ。あ~、そうそう、お前達のクラスは家のパソコン

で知らせる。きちんと見てくるように。それじゃ、他の学校より少し早いが、明日から

お前達はここ白龍学園の正式な生徒になる。今日は帰ってゆっくり体を休ませるがいい

。以上だ! 解散」

 そうして秋斗達は入学式を無事終え、帰宅する事にした。カナは今朝買ったお菓子が

余程気に入ったのか、また行きたいと言ったので、秋斗達はコンビニに向かった。

「それにしてもすごいよね~! 「P45」の家政婦だって~! 楽しみだね~!」

「そうだな。でも、「P45」って一体数億円はするんだろ? それなのに、新入生皆

に「P45」の家政婦を付けれるって、どんだけ金持ちなんだろうな」

 というか、金持ちというレベルを遥かに越えていると思うが・・・・・・。

 秋斗は莫大な金を持つ町長に、驚きを通り越して、呆れてきた。そんな話をして、買

い物を済ませ、秋斗達は我が家に帰る事にした。カナは今朝、余程我慢していたのだろ

う。 あれもこれもと、お菓子やらアイスやらジュースを大量に買い漁った。

 荷物持つのは俺なんだけど・・・・・・。

 そうは思ったけど、カナの嬉しそうな顔を見ると、まあいいか。といつもの様に思う

秋斗だった。

「あ! そうか~もう家政婦さん着てるんだったね~!」

「ああ、どんな家政婦かな」

 家に着いて、買い物に満足して、家政婦の事をすっかり忘れていたカナが、認証装置

に手を置き、ロックを開けて家の中に入った。

「ただいま~!」

「ただいま」

「おかえりなさいませ! お待ちしておりました! ご主人様!」 

 ・・・・・・どうやら俺達は、校長の作った変な家政婦に当たってしまったらしい。

 家には、メイド服を着た家政婦の「P45」がいた・・・・・・。

「わー! 可愛い~! メイドさんだ~」

 そんな家政婦の「P45」を見て、カナは大喜びだ。

「始めまして! 私は岩神家に家政婦として、今日から配属する事になりました。優(

ゆう)と言います! ふつつか者ですが、精一杯頑張らせて頂きますので、今日から三

年間よろしくお願いしま・・・・・・あ、キャー」

 ――――――ガシャーン!

 そう言ってメイド姿の家政婦が思いっきり頭を下げた瞬間、メイドは隣にあったクー

ちゃんの絵が描かれた花瓶を豪快に割った。

「すみません、すみませんっ!」

 そう言って家政婦は割れた花瓶を片付けようとして、割れた花瓶から零れた水で足を

滑らせ、近くにあった本棚を倒して本をバラバラにしてくれた。

 そんな家政婦の優を見て、秋斗は言った。

「あー・・・・・・、一応聞いておくけど、お前はどんな設定の家政婦なんだ?」

「は、はい! 私は、萌え萌えドジっ子というキャラで設定されています」

「なんか、頑張らなくていいや・・・・・・」

 その後、結局秋斗が全部片付けた事は言うまでも無い。家政婦の優はションボリして

いたが、何かを思い出したようにハッとすると、「そうだ! 私ご飯を作らせて頂きま

す!」と言った。さっきの汚名返上と言わんばかりに張り切っている。

 なんだかめちゃくちゃ嫌な予感がしたものの、家政婦としてここに送られて来たんだ

から、ご飯を作る事ぐらい大丈夫だろう。と、思う事にして、秋斗とカナはご飯が出来

る前にお風呂に入る事にした。カナの後に秋斗がお風呂に入る事にした。

 カナがお風呂に入っている間、家政婦の優は上機嫌で料理の下ごしらえをしている。

 ・・・・・・何を作るんだろう。

 そんな事を思っていると、カナがお風呂から出てきたので、秋斗はお風呂に入った。

 お風呂に入りながら、秋斗は今日の入学式の事を思い出した。

 大きな体育館の壇上で校長先生と名乗る男の事を。

「あんな人を見ると、チトセは大喜びしそうなんだよな・・・・・・」

 変わったものが好きなチトセの事を思い出す。

「「キャ―――――!!!」」

 物思いに耽っていると、リビングの方からカナと優の叫び声が聞こえた。

 大急ぎでタオルを腰に巻いて、秋斗は声のしたリビングに走った。

「どうしたっ!! うわっ!!」

 見ると、何故かキッチンが燃えていた。

 慌てる二人を火から離れさせ、秋斗は家に設置してあった消火器でどうにか火を消し

た。フライパンと中にあった料理は、真っ黒で消化液まみれになっていた。 

「・・・・・・今日もネットで注文しよう」

「・・・・・・すいません」

 そう言って、結局今日もインターネットで夕飯を注文した。

 ネットで注文してして暫らくすると、料理が届いた。

「わ~豪華~!」

「これは・・・・・・」

 秋斗が頼んだのは、チキンの丸焼きにポテトフライ、ケーキが付いたパーティーセッ

トだった。運ばれてきた沢山の料理を見て驚く優を見て、秋斗は言った。

「優が頑張ってくれてるのはわかってるからさ、優の作った手料理が食えなかったのは

残念だけど、今日は優が、俺達岩神家に家政婦として来てくれた日だから、豪華にしよ

うと思ってな」

「秋斗様・・・・・・」

「わぁ~い、パーティーだ~!」

 ロボットだけど、失敗ばかりして人間の様に落ち込んでいた優を元気付けようと思っ

て、秋斗はパーティーセットを注文した。優は少し涙目になっている。

 ・・・・・・本当、人間みたいだけど、違うんだよな。

 そんな事を思いながら秋斗は優に言った。

「まあ、優はロボットだからご飯は食べられないだろうけど、雰囲気だけでもな」

「私、食べられます!」

「えっ!? そうなのか?」

「はい! 食べても意味はないんですが、食べられます! 一緒に食べたいです!」

「そっか、じゃあ皆で食べようぜ」

「はい! ・・・・・・秋斗様ー!」

「・・・・・・ん? ギャ――!」

 優が秋斗に抱きついてきて、秋斗は叫び声を上げた。

 ロボットだから力の加減がなく、秋斗は内臓が口から飛び出るんじゃないか?という

激痛に襲われた。

「私、岩神家に配属されて良かったです! こんな私ですけど、これからよろしくお願

いします!」

「わ、わかった! わかったから離れて・・・・・・」

「なんか楽しそう~! カナも~!」

「ギャ――――!!」

 秋斗と優が遊んでると思ったのか、カナも秋斗に抱きついてくる。

 何故かロボットじゃないのに、ロボットの優よりカナの力の方が強い。

 ば、化け物だっ・・・・・!

「あ、早くご飯食べよう! 冷めちゃうよ~」

「そうですね!」

 そう言って二人はようやく秋斗から離れた。

 秋斗はフラフラになりながらも、その後皆で楽しく食事をした。優はご飯作りに失敗

した後、かなり落ち込んでいたが、秋斗達の歓迎に喜んで元気を取り戻してくれた。

 パーティーセットにして良かったな・・・・・・。

 そう思いながら、優のプチ歓迎会を終わらせた秋斗達は、その後眠りに付いた。

 なんとも人間らしい家政婦ロボの「P45」だったが、寝る時は充電の為、充電専用

のソファーに寝ると聞いて、本当にロボットなんだなと、初めて優がロボットという事

を実感した。

 慌ただしい一日も終わり、秋斗はようやくベットの上で体を休めた。

「チトセに会う前に俺は死んでしまうかもしれない・・・・・・」

 そんな独り言を言いながら、秋斗はいつの間にか眠りに付いていた。

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