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学園祭二日目




 秋斗とカナは学校に向かって歩きながら話していた。

「今日は、来れないんだって~」

「そうなのか?」

「うん。なんでも、遊べるのは一日だけで、家政婦の仕事を怠ってはいけないからって

上の人に言われてるみたい~」

「上の人・・・・・・ね」

 優が来ない事に、残念そうなカナだったが、気を取り直したかの様な顔をして言った。

「優の代わりに、沢山遊ばなくちゃ~!!」

 ・・・沢山、食べる。の間違いだろ。

 そんな事を思いながら、秋斗達は学校に着いた。

 昨日は一生懸命働いたから、今日は思いっきり遊べるぜ!

 秋斗は昨日の疲れを吹き飛ばすかの様にそう思うと、教室のドアを開けた。



 文化祭オープンの時間になり、メイド喫茶が開いたが、昨日の様に、お客が集まらな

かった。

「やっぱり、チトセ達が居ないとダメだよー! お願い! ちょっと手伝ってー!」

「「え―――――!!」」

 そう言ってクラスメイトが、チトセと良子とカナの三人を見た。急なお願いに、チト

セとカナが嫌な声を上げた。

「やだー! カナ、優の為にもいっぱい食べ・・・・・・遊ぶって約束したもんー!」

「アタシだって、遊ばないと、ストレスで死ぬわ!」

 死ぬって・・・・・・

 良子は「チトセがやるなら別に構わないわ」と言ったが、チトセとカナの二人は、ク

ラスメイトの必死の頼みにも関わらず、バッサリと断った。

 チトセなら本当に遊ばないと、死にそうだ。カナも色んな屋台の食べ物を食べまくる

予定だったし、二人を説得するなんて無理だろ。

 そんな事を秋斗が思っていると、クラスメイトはカナに言った。

「か、カナちゃん、これ! 超人気のケーキ! あげるから、ね?」

「え? ケーキ・・・・・・これ、あかねちゃんのお店のケーキ?」

「そうだよ! これ、買うのに、超ー苦労したんだけど、カナちゃんが手伝ってくれる

なら、全部あげる!」

「・・・・・・ちょっとだけ、手伝ってあげる~」

 入手困難なケーキを餌に、クラスメイトはカナを引き寄せるのに成功した。

 だが、チトセはケーキでは納得しなかった。遊ぶ事を、楽しみに生きてる様な人だ。

一分一秒も無駄にしたくない、という感じだ。

 そんなチトセに、クラスメイトの女の子は言った。

「こ、これ・・・・・・あげるから・・・・・・」

「えっ! これって! ももちゃんのコンサートのチケット!!?」

「うん・・・・・・」

「しょ、しょうがないわねー! ちょっとだけだからね~」

「あ、ありがとう・・・・・・」

 チトセに手伝って貰う為に、クラスメイトは自分が行く予定だったのであろう、アニメ

のライブコンサートのチケットで、チトセを納得させた。人気のあるコンサートだけに、

チケットをあげた女の子は燃え尽きたかのように、真っ白になっていた。

 そ、そこまでしてチトセに手伝ってほしかったのか・・・・・・。

 そんな事を思っていた秋斗だったが、チトセ達がメイド服に着替え、客引きをすると、

昨日の様に一気にメイド喫茶は沢山の人であふれたのを見て、納得した。

 


 今日の朝、達也はヒトミと地元に帰って行った。

 「達也のやつ・・・・・・昨日、ヒトミと・・・・・・いや、親友のそうゆう事を考えるのはやめよう!」

 一人になった秋斗は、そんな独り言を言いながら行ってみたかった場所に行った。その場

所に着くと、すでに沢山の人が行列を作っていた。

 その行列に並び、秋斗は自分の番が来るのをまった。皆が並ぶ小さな建物の中から出

てくる表情は、喜んでいたり、ガッカリしたりと様々だった。

 ずっと待ってると、ようやく秋斗の番が来た。真っ黒のレースをくぐり、中に入る。

 部屋の中心には、椅子に座ったネモが居た。秋斗は、ネモの占いの館に来ていた。

 外の光が差し込まない様、黒い布で覆われた部屋を、ロウソクの明かりが照らしてい

た。薄い紫色のスカーフを口に巻きながら、水晶に手を当てるネモの姿は、薄暗い部屋の

せいなのか、なにか異様な物を感じた。

「秋斗、来ると思ったの~」

「な、なんでだよ」 

 部屋の雰囲気に呑まれていた秋斗は、いきなりのネモの言葉に一瞬ビクッとしてしま

った。

「水晶がそう言ってるのね~」

「・・・・・・あ、そう・・・・・・」

 ネモのそんな言葉が、秋斗を不思議な恐怖から救ってくれた。

「むむ~、信じてないの~?」

「信じてる、信じてる。・・・・・・んでさ、俺の未来の事を占って欲しいんだけど・・・・・・」

「未来なの? わかったの! 少しだけ、待っててなの~」

 そう言うと、ネモは水晶に向かってブツブツと独り言を言い出した。

 もしかして・・・・・・宇宙語を話してんのか?

 時々、聞きなれない言葉を喋る、ネモの真剣な顔を見てそう思った。

「ん? ああ、そうそう、うんこの野郎がよ~、そう! 信じちゃってんの! マジうける

んですけど! アハハハ!」

「・・・・・・」

 ん? コイツ、本当に宇宙語を話してんだろうな!? そうでなかったら、俺は悲しい!

 そんな事を思いながらネモの独り言を聞き、待つこと数分、ネモの顔から笑顔が消えた。

「見えたのね・・・・・・」

「ほ、本当か!? ・・・・・・ん? どうした?」

 未来が見えたと言ったネモの顔は、どこか切ない顔をしていた。

 もしかして、良くない未来だったのか・・・・・・? 俺は将来、チトセと結婚出来ないとか・・・

「秋斗、聞く覚悟はあるの・・・・・・?」

「・・・・・・っ! あ、ああ。教えてくれ!」

 もしかしたら良くない事なのかもしれない。一瞬、躊躇した秋斗だったが、覚悟を決めた。

 聞きたい。知りたい。俺の・・・・・・未来!

 秋斗の顔を見たネモも、覚悟を決めたように、口を開いた。

「明日・・・・・・」 

「未来って明日!? 早っ!」

「・・・・・・長年の想い人が、秋斗に告白するって出てるのね・・・・・・」

「えっ!!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 秋斗は少し疑いの眼差しで、ネモを見て言う。

「・・・・・・マジで?」

「・・・・・・マジなのね」

 そんな秋斗に、真剣な顔をして、ネモは答えた。

 お―――――――――――!! マジか!!? 長年の想い人って、チトセの事だよな!?

 チトセが明日、俺に告白してくれるのか!? 信じられない!!

「ありがとな! ネモ!」

 ネモの言葉を聞いた秋斗は、上機嫌で占いの館を出た。秋斗の背中を見ていたネモの顔

が、また悲しい顔になっていた事に気づかず。

 占いの館から出て、暫らく歩いていたが、ネモに言われた一言が忘れられず、秋斗の

顔は、緩まりっぱなしだった。

「チトセが俺に・・・・・・ムフフッ!」

「秋斗!」

「わっ」

「なぁ~に驚いてるのー?」

「チトセ!?」

 メイド服を着たチトセと良子とカナの三人が、秋斗の後ろに立っていた。

「手伝い、もう終わったんだ」

「もう大丈夫だから遊んで来ていいって! と言うことで・・・・・・遊ぶぞー!」

「食べるぞぉ~!」

 時間を一秒も無駄にしたくない! と、チトセとカナが大声を上げた。

 食べ物が食べたいと言うカナの言葉に賛同し、ひとまず食べ物が売ってる所へ向かう

事になった。屋台が立ち並ぶ場所には、射撃や金魚すくいのお店もあった。沢山の人ご

みの中を歩き、色々な食べ物を買いあさる。たこ焼きにやきそばにお好み焼き。わたあ

めにリンゴあめにアイスクリームにクレープ。

「・・・・・・どんだけ食うんだよ」

 見つけた食べ物屋さんの食べ物を全部買うカナを見て、呆れる秋斗の言葉を気にもせ

ず、カナは幸せそうだった。

 カナの半分も料理を食べていなかった良子は、チラリと腕時計を見ると、残念そうに

言った。

「それじゃあ、私はそろそろ行くわ」

「あ、そっかーもうそんな時間かぁ。わかった、んじゃ後でね!」

「ええ」

 チトセが納得すると、良子は手を振って、どこかに行ってしまった。急に立ち去った

良子の後ろ姿を見て、秋斗がチトセに聞いた。

「良子のやつ、どうしたんだ?」

「良子は今日、午後の大会に出るからねー」

「え!? 午後の大会!?」

「そだよ」

 チトセはあっけらかんと答えたが、秋斗は開いた口が塞がらなかった。

「まさかとは思うけど、良子が出場させるのって・・・・・・」

「レオだよ?」

「マジかよ・・・・・・」

 今日の午後からの大会は、ペット自慢大会だ。ちなみに、良子のペットというのが・・・

 白豹。

 チトセの言葉を聞いて、秋斗は確信する。「今日の優勝は良子だろう」と。ペットが

豹という人に、勝てる動物なんているだろうか? 否。そんなペットより驚くペットな

ど、いるはずがない。

 普通のペットより、移動に時間のかかるレオを迎えに行く為に、良子は早めに準備を

しに行った。

「さあー! 良子の分まで遊ぶわよー!」

 そう言ってチトセはメイド服の袖をまくりあげた。

「ほらほら、時間は無限じゃないぞー!」 

「お~!」

 チトセの言葉に、手に持っていた沢山の料理をほおばりながら、カナが両手をかかげ

る。近くにあった、射撃屋に行くと、チトセは言った。

「いくら?」

「300円だよ!」 

「よっし、やるわ!」

「まいどありー!」

 射撃の細長い銃を持つと、チトセは片手で銃を構えた。

 カッコいい・・・・・・。チトセは何をしても似合うな・・・・・・。

 銃を構えるチトセに秋斗が見とれていると、チトセは片目を閉じて、少し狙いを定め

ると、間髪いれずに3発連射した。

 ――――パーン!

 ――――パーン!

 ――――パーン!

 小さなキャラメルとチョコレートに、チトセの放った弾が当たり倒れたが、最後に狙

った大きなぬいぐるみはビクともしなかった。

「はーい、おめでとう! 商品二つね」

「もう一回よ!」

「まいど!」

 最後に狙ったぬいぐるみが倒れなかったのが気にいらなかったのか、チトセはムキに

なって再度、挑戦した。今度は銃口が、初めからぬいぐるみに向かっていた。集中して

気を高め、引き金を引く。

 ――――パーン!

 ――――パーン!

 ――――パーン!

 チトセの放った弾は、なんと狙ったぬいぐるみのおでこ同じ所に、3発の弾が当たっ

た。今度は最初とはあきらかに違い、ぬいぐるみがぐらついた。が、倒れるとまではい

かず、グラグラとした後、何事もなかったかのように、元の場所に落ち着いた。

「あー! もうっ!」

「お、おぉ・・・・・・ざ、残念だったね」

 少しぐらついた事に驚いた店員は、明らかにホッしたようにチトセに声をかけた。

 だが、

「もう一回よっ!」

「えっ!?」

 諦めずにそう言うチトセに、店員は驚いた。いつの間にか射撃屋の周りには、沢山の

人が集まり、チトセを応援していた。

「いいぞー! 頑張れ、ねーちゃん!」

「凄い・・・・・・俺、どんなにやっても全っ然、動かなかったぞ」

「私も! 動いたの初めて見たわ!」

「次は絶対いけるよ!」

 この射撃のぬいぐるみを取ろうとして、取れなかったのであろう人達から、チトセは

熱い声援を受けた。そんな光景を見た店員は嫌な顔をしていた。店の中に居た店員三人

が集まり、ヒソヒソと話しをしていた。

「おい、大丈夫かよ・・・・・・もしかしたらあのぬいぐるみ、倒されるんじゃ・・・・・・」

「なにっ!? あのぬいぐるみ、7万円もした、この射撃の目玉なんだぞ!! それだ

けはまずい!」

「・・・・・・大丈夫だ」

「でもっ!」

「・・・・・・あのぬいぐるみが倒れないのは、皆で何度も試したじゃないか・・・・・・」

 なにやら話し込んでいた店員の内の一人が戻ると、ニッコリと笑ってチトセに銃を渡

した。

「はい、300円ね。今度は落ちるといいね~」

「もう一つよ」

「・・・・・・えっ?」

「銃を二つ買うわ!」

「なっ・・・・・・!」

 そのチトセの発言に、定員が驚いた。奥にいた定員は「それはマズイ!」という表情

で、チトセに銃を渡した男を見ていた。同じ事を思っていたのか、男は、チトセの提案

を断ろうとした。・・・・・・が、

「お客さん、それは・・・・・・」

「おいおい、やらせてやれよ!」

「そーだ、そーだ!」

「・・・・・・もしかして、このぬいぐるみ倒れないんじゃねーの?」

 チトセの姿を見ていた観客からそんな言葉が飛び交う。

 ここで銃を二丁渡さなかったら、倒せない事がバレてしまう・・・・・・。

 完全に断れない雰囲気になった店員は、なかばヤケ気味にチトセに銃を渡した。

「ほ、ほら! 600円だ!!」

「フフ、・・・・・・よーし!」

 周りの観客から、わぁっと大きな歓声が上がり、気合を入れたチトセの顔が引き締ま

る。その光景を、店員の三人は固唾を飲んで見守っていた。

 チトセは二つの拳銃を両手に持ち、その両手をゆっくりと前に突き出し構える。目を

つむり、フウと息を吐くと、目を開き銃を持つ手に力を込めた。

 ――――パパン!

 ――――パパン!

 観客から、大きな歓声が上がる。二つの銃が二回、弾を放つと、ぬいぐるみは大きく

揺れた。

 もう一息だ!! もう一回で倒れる!!

 そんな皆の期待を背に、チトセは最後の一発を打った。

 ――――パパン!

 だが、緊張したのか、もう一息で倒れると思われたぬいぐるみには当たらず、チトセ

の放った弾は、ぬいぐるみの真上の商品に当たってしまった。その光景を見ていた観客

から、悲しむ声が聞こえた。

 はずした・・・・・・。

 チトセを見ていた秋斗だったが、チトセの表情が、いつもの自信満々な顔をしている

事に気づいた。

 チトセ・・・・・・?

「い、いやー! 惜しかったねーでも・・・・・・」

「お、おい、あれ!」

「ん? な、なにっ!?」

 店員がチトセに声をかけようとすると、観客から驚きの声が上がった。疑問に思った

店員は、ぬいぐるみの方を見て、驚愕した。

 最後に放った弾が命中した商品が、ゆらゆらと揺れるぬいぐるみに向かって、落ちて

いく。その光景が起きると知っていたチトセが、大声を上げた。

「いっけぇ――――――――!!」

 観客からも「倒れろー!」という声が聞こえた。

 お菓子が、スローモーションの様にぬいぐるみに向かって落ちていく。店員の男の顔

が、恐怖にゆがむ。揺れるぬいぐるみに止めを刺すかの様にお菓子がコツンッと当たる

と、ぬいぐるみとお菓子は同時に床に倒れた。

「そんなバカな・・・・・・」

「やった!」

「スゲー!」

「倒れた!」

 ぬいぐるみが倒れた瞬間、チトセを見ていた観客から盛大な拍手がまきおこった。店

員の三人は、信じられないという顔をした後、ガックリと肩を落とした。

「チトセ、凄ーい!」

「アハハ! どんなもんよ!」

「マジで、スゲー・・・・・・」

 その後も、30分の生徒が作った自作映画に、おばけ屋敷など、学園際を満喫した。

 遊びまくると、校内放送が流れた。

『まもなく、本日の大会が始まります。学園際に起こしの皆様、ぜひお集まり下さい』

 放送が流れると、チトセが腕時計を見て、残念そうに呟いた。

「えー、もうそんな時間? 全っ然、遊び足りないわよ」

「カナも全然、遊び足りな~い!」

「お前は、“食べ足りない”の間違いだろ」

「へへ~、そうとも言う~」

 そんな事を言いながらも、秋斗達は今日の大会が行われる会場に向かった。

 


 会場に着くと、昨日と同じ様に沢山の観客が集まっていた。空いている席を見つけ、

秋斗達は席に着いた。

「へいへい、楽しんでるー?」

「おっ! お前どこに行ってたんだよ?」

「まぁ色々とね~」

 大会が始まるのを待っていると、秋斗の隣に、カメラを首に下げた翔が来て座った。

秋斗に声をかけた翔は、秋斗の隣に座るチトセの持つ、大きなぬいぐるみを見て言った。

「ん? チトセ、なんだよそのバカデケーぬいぐるみ」

「これ? 凄いでしょ! アタシが射撃で取ったのよ」

「射撃のデカイぬいぐるみ!? マジかよ・・・・・・!」

「あれ、本当に凄かったよ~!」

「射撃のデカイぬいぐるみは、絶対誰も取れないって皆が噂してたぜ。くっそ~、俺も

チトセと行動してるんだったなー!」

 チトセに向かってカメラを映す動作をしながらそう言う翔の姿は、さながらベテラン

カメラマンの様だった。

「ところで、良子はどうしたんだよ」

「良子だったら、今日の大会に出場するから舞台裏じゃない?」 

「えっ!?」

 チトセの言葉を聞いた翔は、少し前の秋斗と同じ反応をした。何かを思い出すかの様

に、翔がボソッと言った。

「今日の優勝は良子だな・・・・・・」

「俺もそう思う・・・・・・」

 翔の言葉に頷き、秋斗達は大会が始まるのを待った。たわいもない話をしながら待っ

ていると、マイクを持って壇上に上がる一人の女の子が現れた。会場に可愛らしい声が

響く。

『皆様、お待たせしました! 只今より本日のメインイベント、ペット自慢大会を開催

いたします!』

 女の子の司会者の言葉に、会場が熱気に包まれた。

『本日の大会は、自分のご自慢の愛するペットを出場させ、今、会場にいらっしゃいま

す皆様に、好きなペットに投票をしていただき、一位を決める。という、皆様の好みで

一位が決まる、前代未聞の大会でございます! ペットを飼っている方でしたら誰でも

出場できるこの大会、なんと優勝賞金は・・・・・・昨日と同じく100万円! さぁ~初め

のペット自慢の方に登場していただきましょう~!』

 司会者の言葉で、一人目の出場者が登場した。大きな犬を引き連れて。犬を見た司会

者は少し怖がりながらも、一人目の出場者にインタビューをした。

『こ、この子のお名前はなんというんですか?』

『パピーちゃんよ』

『ぱ、パピーちゃん・・・・・・可愛らしいお名前ですね~』

『バウッ!』

『ひぃ!』

 名前は可愛らしいが怖い顔の大型犬を前にひるむ司会者だったが、なんとか司会を続

け、会場を盛り上げた。大型犬に続き、そのほかにも猫やインコ、鷹など、色々なペッ

ト自慢が登場した。ダンスを踊る犬や、主人の言葉を理解する猫など、さまざまな特技

も披露され、その度に会場は笑いが沸き起こった。

 大会も終盤にさしかかり、ついにあの人の登場になった。

『さあ、次の出場者、夢野良子さんお願いしまーす』

 司会者の言葉を聞き、舞台裏から良子が現れた。良子と一緒に出てくるレオの登場に

会場はどよめいた。

『あ、あの~良子さん? この子はー・・・・・・』

『この子は私のペット、白豹のレオですわ』

『し、白豹っっ!!?』

 良子の言葉に、会場のどよめきは大きくなった。司会者の顔は完全に引きつっている。

「皆、スゲー驚いてるなー」

「当然の反応だろ」

「アハハハ! 良子ーいいぞー!」

「良子のペットって、豹なの~!?」

 初めてレオを見るカナは、初めは驚いていたが、凄い凄いとはしゃいでいた。突然の

豹がペットという衝撃に驚いていた観客も、レオの美しい毛並みと吸い込まれる様な瞳

に魅了され、違う意味でざわつき始めた。

『そ、それじゃあ、アピールタイムお願いします!』

『ええ』

 司会者にそう言われ、良子はレオと向かい合った。

『レオ! ステイ!』

 良子の言葉で、レオがお座りのポーズになる。それだけで、会場からは、「お~」と

関心の声が出る。

『ダウン!』

 レオは伏せの姿勢になった。そして、

『甘えなさい!』 

 その言葉で、レオはゴロンっと仰向け(あおむけ)になり、シッポをぱたつかせた。

凶暴なイメージの豹の、可愛らしいその光景を見た観客からは笑いが起こった。会場か

ら、今日一番の拍手が送られる。

『ありがとうございましたー!』

 司会者も、そんなレオの姿を見て、さっきまでの引きつった表情が明るくなった。

『次の参加者で最後ですね、それではお願いします!』

 司会者の一言で、一人の男が現れた。その後ろから、今大会で一番大きなペット(動

物)が登場した。そのペットの登場に、レオの時よりも大きなどよめきがおきた。

 そのペットとは・・・・・・

『あの~、この子はー・・・・・・』

『ペットの・・・・・・ライガーです・・・・・・』

『ライ・・・・・・ガー?』

 聞いた事のない言葉に、司会者は戸惑った感じだった。それに、明らかに飼い主であ

る、出場者が挙動不審だった事に、司会者は不審に思った。だが、さっき出場した良子

のペットであるレオを見た後だったので、司会者はそれほど緊張する事なく質問できた。

 良子は、出場者の言葉を聞いて、嫌な顔をした。

「ライガーってなんだ?」

「知らねー・・・・・・」

「ライガーってのはなー・・・・・・」

「こう太!」

 いつの間にか近くに居たこう太が、皆の疑問に答えた。

「ライガー。父親がライオンと母親が虎の子供、珍種だ」

「ライオンと虎の子供!?」

「ああ、珍しい動物だ・・・・・・」

 そう言った後に、こう太は嫌な顔をした。

 こう太が秋斗達に説明をいている頃、会場に来ていた校長が、ライガーの登場に困惑

の表情をしていた。

「おい、あいつは観察委員だろう! なぜ町長の動物と出場してる!」

「それが、町長の命令らしく・・・・・」

「町長が・・・・・・? チッ、この大会、いや、学園際をぶち壊す気か!?」

 隣に居た教頭の言葉を聞いて、悪態をついた後、会場に出て来たライガーに視線を戻

し、校長は眉間にしわを寄せた。

『それでは、アピールタイムをお願いします』

 レオの可愛らしい姿を見て、完全に安心しきった司会者が、出場者に告げる。だが、

ライガーの飼い主である出場者は、何も言わないどころか、体が震えていた。

『あのー・・・・・・?』

 不思議に思った司会者が出場者に声をかけると、男は、ハッとしたように頷くと、ラ

イガーに向かって言った。

『お、おすわり』

 すると、出場者の男の目の前に居たライガーが、大きな声をあげた。しかも、ライガー

はどこか機嫌が悪いような感じだった。

『う、うわ――――っ! 俺にはもう、駄目だ――!』

 出場者の男は、大きな叫び声をあげると、一目散に逃げてしまった。

『え・・・・・・? えぇぇぇぇぇ――――!!?』

 取り残された司会者は、どうする事もできずに固まった。そりゃそうだ。ライオンよ

りも大きな猛獣が目の前に居て、どうにか出来る訳もない。良子のペットのレオの様に

言う事を聞いてくれそうもなかったし。

『こ、これはどうすれば・・・・・・』

『ガオ――――ッ!!』

『キャ――――!』

 ライガーが司会者に襲いかかろうとして、司会者は叫び声をあげながらその場から逃

げた。そんな光景を見ていた観客達も、ライガーの様子がおかしい事に気づき、会場は

パニックになった。

 パニックになった会場の壇上に、いつの間に待機していたのか、警官数名が、ライガー

を取り囲んでいた。

「麻酔銃を撃て!!」

 一人の警官がそう叫ぶと、麻酔銃を手にした警官がライガーに銃を向けた。しかし、

銃を向けた警官に向かって、ライガーが襲いかかった。

「うわ――――――!」

士道しどう!!」

 ライガーに襲われた警官の持つ麻酔銃は、ライガーの鋭い牙によって、あっさりと壊

されてしまった。

「士道ぉ――!」

「落ち着け! 他に麻酔銃を持ってるやつ・・・・・・うわ――っ!」

「隊長っ!」

 ライガーは銃を持った警官を襲うと、次に回りにいた警官に向かって襲いかかり始め

た。

「ば、化け物だ――!」

「ヒィ――! 助けてくれ――!」

 次々と殺されていく仲間の警官を見て、完璧に冷静さを失った警官までもが、凶暴な

一匹のライガーになすすべなく逃げ惑う。

 そんな警官達を見ていた校長が、すぐに隣に居た教頭に指示を出す。

「急いで防壁を下ろせ!」

「はいっ!」

 校長の言葉を聞いた教頭が、緊急事態の時だけに使用する、ガラスで守られたボタン

を、ガラスを壊しボタンを押した。

 すると、壇上の上から鉄製の檻が下りてきた。それは、警官を襲うライガーを捕らえ

る事に成功した。だが・・・・・・

「おい、翔! どこ行くんだよ!?」

「良子が! まだ壇上に居るんだ!」

「なに!?」

 ライガーを逃がさない為に下ろされた檻の中に、何故か良子の姿があった。

「なにやってんだよ!」

 秋斗達は、急いで壇上に向かった。

「良子! 今ならまだ出れるわ! 早く!」

「わかってるわ、でも・・・・・・」

 壇上を囲う檻は、大きなライガーはもう出られない程だったが、良子だったらギリギ

リ出られる程のスキマがあった。

「良子! 閉まっちゃうよ! 早く来て!」

「ダメよ! レオを置いて行けない! レオ、こっちに来なさい!」

「ウゥゥ―――!」

「レオ! こっちに来て!」

 警官を全員倒したライガーが、良子達に襲いかかっていた。そのライガーと戦ってい

たレオが、ライガーに足止めされ、壇上の外に動けないでいた。レオを残しては出られ

ないと、良子はレオの名前を呼び続けた。

 とうとう、緊急用に作動した檻が、良子とレオとライガーを閉じ込め、閉鎖してしま

った。



 檻に閉じ込められた良子を守るようにして、レオがライガーの前に立っていた。

そんなレオを目の前に、ライガーの興奮状態はピークに達していた。

「どうすればいいの!?」

 そんな様子を檻の外から見ていたチトセが声をあげる。

「今、警察に連絡してる!」

「間に合わなねーだろ!」

「落ち着けよ翔!」

 混乱する秋斗達をよそに、檻の中にいたライガーが動いた。

「グルゥァア――――!」

「――!」

 大きな体のライガーの突進を喰らい、レオの体が吹き飛ばされる。よろめきながら

立ち上がるレオに対し、ライガーの鋭い爪がレオの体を切り裂いた。

「レオ!!」

 レオの綺麗な白い毛が、真っ赤な色に染まっていく。傷が深かっかたようで、レオの

足元にダラダラと血が流れる。

「グア―――!」

 レオを倒したライガーは大きく吠えると、良子に視線を向けた。

「ひっ・・・!」

「グルォ―――!」

 良子に突進しようとしたライガーに、体から大量の血を流すレオが飛びかかった。

最初に受けた傷がひどいのか、レオは簡単に振り払われてしまう。だが、何度はじき返され

ようが、レオは良子の前に行き、良子を守るようにライガーに立ち向かった。 

「レオ! もういいの! お願い・・・・・・もう動かないで・・・・・・」

「グルルルルー・・・・・・」

「レオ! お願いだから言う事を聞いて!」

「グオ――――――!」

「レオ!」

 レオの体から大量の血が流れ出す。いつもは良子の指示に忠実に従うレオが良子の言

う事を聞こうとしない。目の前に現れた凶暴なライガーを鋭く睨みつける。だがレオの

体はもうボロボロで、立っている事がやっとだった。

 動く度に、レオの白く美しい毛が赤く染まっていく。大量の血を出しすぎたレオを良

子が静止しようとするが、レオは言う事を聞かない。ライガー奇声を上げながら、レオ

達に向かってきた。

「レオ!」

 ボロボロになったレオの体に、ライガーの容赦ない爪が突き刺さる。攻撃の衝撃から

レオの口から大量の血を吐き、レオが地面に倒れた。

 レオを倒した動物が良子に振り返る。既に力など残ってないであろうレオが震えなが

ら立ち上がる。

 どこにそんな力があるというのだろうか。レオはまた立ち上がると動物に向かって行

く。だが、フラフラになったレオが動物に叶うはずも無く、簡単に吹き飛ばされてしま

う。

「レオ、これ以上動いたら死んじゃう! もういいから・・・・・・!」

 そんな良子の悲痛な叫びも聞かず、レオはまた立ち上がる。主人の為なら死をもいと

わないという様に。

 繰り返し立ち上がるレオに苛立った様に、ライガーがレオに強烈な一撃を喰らわせる。

その攻撃で、レオは意識を失ったのか、ピクリとも動かなくなった。

 良子の脳裏に、小さな頃から共に育ってきた、レオとの楽しい光景がよみがえる。

 どうして・・・・・・どうしてこんな事に・・・・・・?

 そんなレオに、動物が尚も攻撃をし続ける。まるで息の根を止めんばかりに。

 抵抗もしないレオに構わず動物はレオを襲う。そんなレオの前に、良子が立ちふさがった。

「もう止めて!」

 良子がいきなりレオの前に現れた事に、ライガーは一瞬驚いた様子だったが、鋭い牙を剥

き出しにして、大きな声を上げると、良子に向かって牙を突きたてた。

「レオ・・・・・・死ぬ時は一緒だから・・・・・・」

 震える声を絞り出し、良子はそう言った。気を失っているレオに聞こえてるかどうかは分

からなかったが良子は構わなかった。ライガーの牙が良子の首に突き刺さろうとした。その

時だった。

「グオ――――――――!」

「・・・・・・レ・・・・・・オ」

 目を覚ましたレオは、良子に牙を向けるライガーの攻撃を受け止めていた。

 レオの体は綺麗な赤色のオーラが体を包んでいて、毛は少し伸びて、全身赤い毛の色

をしていた。

「レオが・・・・・・異能者・・・・・・」

 レオは襲い掛かるライガーを吹き飛ばした。異能者となったレオは、さっきまでとは

打って変わった強大な力を手にしていた。

 倒れたライガーに馬乗りになり、喉元に噛み付いてライガーの動きを止めた。大きな

雄叫びを上げながら抵抗していたライガーは、力尽きたのかやがて動かなくなった。

 だが、我を失ったかの様に、レオは攻撃を止めない。

「レオ! ストップ!」

 良子のそんな叫び声を聞くと、レオはピタリと動きを止めた。

「レオ・・・・・・もういいの・・・・・・もういいのよ・・・・・・」

「・・・・・・ニャ~・・・・・・」

 近寄った良子がレオを抱きしめると、レオの体からオーラは消え、毛もいつもの美し

い白色に戻り、良子に喉を鳴らしながら甘えた。

 そうして、事件は幕を下ろした。             

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