ビバ! ライブ!
今日は翔が歌の大会で優勝した優勝商品である人気アーティスト「あずさ」のライブ
に行く為、クラス全員で電車に乗っていた。
「いやー楽しみだね~!」
「うん! 早く着かないかな~」
「カナったら、まだ電車に乗ったばっかりじゃない」
電車に揺られながら、カナがコソコソと秋斗に聞いてきた。
「ねーねー秋斗~、ネモちゃんがモモちゃんの声優だってこと、誰にも言っちゃダメっ
て言ってたよね?」
実は、人気アーティストの「あずさ」は声優の仕事もしていた。その声優のキャラは
プリキュオのモモ役。つまり、人気アーティスト「あずさ」はクラスメイトのネモだった。
ネモは体調不良といって学校を休んでいた。
「おー。カナ、お前、誰にも言ってないだろうな・・・・・・?」
「まさか~、ちゃんと約束したもん。言ってないよ~」
コソコソと会話する秋斗たちを見て、チトセがからかってきた。
「なになに~? もしかして二人って、禁断の兄弟関係ですかい?」
「ちっ、ちげ――よ!」
「ち・・・違うよ~、チトセ~」
「なんでカナは顔が赤くなってるんだよ!」
なぜか顔を赤くしたカナに秋斗はツッコミを入れた。そんなことを言い合いながら、電
車に揺られること二時間。秋斗たちはコンサート会場に到着した。会場の入り口には、昨
日から並んでいたのか既に行列が出来ていた。
「わ~! 凄ーい! 人がいっぱいだ~!」
「お~い、ちゃんと並べよー」
緒方の誘導で、1年4組のみんなは列の最後尾に並んだ。
入場の時間を待ち、暫らくすると警備員がコンサートの入り口の鎖を外した。厳重な警
備員の指示に従い、沢山の観客が会場に入った。秋斗達も皆に続いて会場に入った。
会場の中は広く、地方の方からも沢山のファンが駆けつけていて、ゆうに一万人はいた。
会場に入ったファンは、モモちゃんの登場を今か今かと待っていた。すると突然、会場の
明かりが急にふっと消えた。辺りは真っ暗になった。
会場にいたファンの熱気が高まる。と、そこで会場に、可愛らしい声が響いた。
「悪を裁いて正義をつらぬく・・・・・・プリキュオのモモ、ただいま参上なのね!」
モモちゃん(あずさ)の声が響きわたると、ステージの上に現れたモモちゃんをライト
が向けられ、会場は一気に歓声に包まれた。
「スゲー人気だな・・・・・・」
秋斗が会場の熱気に驚いている横で、秋斗以外の皆のボルテージもマックスに上がっ
ていた。
「モモちゃ―――――ん!」
「キャー! 可愛いー!」
「コッチ向いてー!」
チトセ、良子、カナの女子三人の声援は凄かった。プリキュオは女の子に人気のアニメ
だったから。
「なあ翔、スゲー・・・・・・」
「うお――――――――――――! モモちゃ―――――ん!」
「・・・・・・」
女子三人よりも、一番の熱烈なファンはなぜか翔だった。
「健・・・・・・翔のやつもスゲー・・・・・・」
「モモちゃ―――ん!! ん? どうした? 秋斗」
「・・・・・・いや、なんでもない・・・・・・」
秋斗が健を見ると、健はモモちゃんのトレードマークの可愛らしいリボンを付けて、
キラキラ光る棒を振りながら楽しそうにモモちゃんを応援していた。
健もファンだったのか・・・・・・。もしかしたら、一番のファンは、健なのかもしれない。
そんな事を思う秋斗をよそに、コンサートは始まった。
「盛り上がっていっくのね~!」
モモちゃんはアニメの主題歌を次々と披露していった。モモちゃんは動くゴンドラに
乗って、会場中を動き回っていた。そのゴンドラが秋斗たちの上空まで来た。
秋斗の周りに居たファンの声援に、モモちゃんは手を振って答えた。モモちゃん役の
ネモが、ファンの中に秋斗たちが居る事に気づいた。
今、目が合った・・・・・・?
秋斗たちに気づいたネモは、微笑みながら秋斗に向かって手を振ってきた。秋斗の心
臓が一瞬ドキッとした。
か、可愛い・・・・・・。
「なあなあ! 今見た!? モモちゃんが俺に手ぇ振ってくれたぜ!」
「なに言ってるのよ! モモちゃんは今アタシに手ぇ振ってくれたの!」
「ちげーよ! 今のぜってー俺だよ!」
「アタシよ!」
秋斗の両隣に居た翔とチトセがそんなことを言い合った。秋斗はそんな二人を呆れな
がら見ていた。ネモのコンサートを見て、一時間が経過した。少し休憩もかねて、ネモ
が水を飲みながら話しをしだした。
「皆~、盛り上がってるのね~?」
ネモのそんな質問に、会場は大声援で答える。そんな観客に、ネモは嬉しそうに微笑
むと、いつもとは打って変わって真剣な顔になった。
「ありがとうなの・・・・・・皆・・・・・・」
感極まったのか、ネモが少し涙ぐみながら声を詰まらせた。そんなネモを見た観客か
らはまた大声援が起きた。そんな会場のファンの皆を見て、ネモは言った。
「モモは・・・・・・皆のことが本当に、うん・・・・・・大好きなの!」
ネモの言葉を聞いた観客からは歓声が沸きあがる。
・・・・・・今、絶対うんこって言おうとしただろ!!
ネモの言葉に、一人だけ気づいた秋斗だった。