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力試し(ちからだめし)


「ここで待ってるのよ・・・・・・」

 お母さんはカナに一枚の手紙を渡して、そう言った。

「おかあさん、いつ、もどってくる?」

「カナがいい子にしてたら、戻ってくるわ・・・・・・」

「うん、わかった! カナ、いい子にして待ってる!」

「さ、行くぞ・・・・・・咲・・・・・・」

「ええ・・・・・・あなた・・・・・・」

 お父さんはお母さんの肩を抱いて、どこかに行ってしまった。お母さんの後ろ姿は、

泣いている様に見えた。

「おとうさん・・・・・・? おかあさん・・・・・・?」

 不思議に思いながらも、お父さんとお母さんが戻って来るのをカナはずっと待ってい

たけど、いつまで経っても両親は戻って来なかった。


 お母さんから貰った手紙をぎゅっと握り締めながら立っていると、心細くなってなん

だか泣きそうになってきた。

「いつもどってくるんだろう・・・・・・」

「きみ、だれ?」

 あふれ出そうになる涙をグッと堪えていると、カナの前に建っていた家から男の子が

出て来た。男の子に続いて、その子の両親らしき女性が出てきた。

「名前は何て言うの?」

「・・・・・・カナ」

「カナちゃん、可愛い名前ね。お父さんとお母さんはどうしたのかな?」

「・・・・・・」

「・・・・・・とりあえず、いらっしゃい」

 その人達の家に上がり、一日中待っていたが、両親は来なかった。そして、岩神家で、

カナは暮らす事になった。

「なんで・・・・・・おかあさん、おとうさん・・・・・・いい子にしてたら来るって言ったのに・・・・・・」

 カナがそんな事を思っていると男の子が話しかけてきた。

「ぼく、あきと。よろしくね、カナ!」

「あきと・・・・・・」

「うん!」

「・・・・・・・・・・・・」

 秋斗は優しかった。カナに元気を出してもらおうと、いっぱい話しかけてきてくれた

。秋斗の両親も優しかった。カナは、そんな優しい岩神家が大好きになった。そんな優

しい皆のおかげで、カナは家族の一員になれた。

「あきとのおかあさん、カナ、おなかすいた!」

「あら、ちゃんとお母さんって言ってくれないと、あげないわよ~」

「お・・・・・・かあさん・・・・・・」

「なあに? カナ?」

「おかあさん! おなかすいた!」

「はいはい、ちょっと待っててね」

「うん!」

 そうして、カナは秋斗と同じ学校に行く事になった。学校に行くと、同じクラスの子

に、小さいからと虐められた。その子はカナの事が好きで虐めていたが、そんな事なん

て知らないカナは傷ついた。

「や~い、ちびカナ! ち~びち~び!」

「う・・・・・・」

「カナをいじめるな!」

「なんだよ、あきと!」

「あきと・・・・・・」

 でも、その度に秋斗が守ってくれた。カナは、そんな秋斗が大好きになっていった。

だけど秋斗には、ずっと大好きな女の子がいた。チトセちゃん。名前しか知らないけど

達也が教えてくれた。

 それでも、カナは秋斗が大好きだった。秋斗はカナの気持ちなんか気づいてないけど。

 優しい秋斗が、大好き・・・・・・。



「・・・! ・・・カナ! カナ!」

「秋・・・・・・斗?」

「ほら、ご飯行くぞ~」

 どうやら夢を見ていたようで、カナの周りにはいつものメンバーがカナを囲んでいた。

「わ~! もうそんな時間!?」

「お前、授業中ずっと寝てただろ!」

「エヘへ~、バレた? 今日のお昼は、なに食べようかな~!」

 そんな事を言いながら、いつもの様に皆で食堂に向かい、夢のことを思い出す。

 カナは、秋斗が大好きだよ。

「ん? なんか言った?」

「なんにも言ってないよ~」

「・・・・・・ふーん」



 秋斗達は皆で、いつもの様に食堂でご飯を食べていた。すると、いきなり食堂のスピ

ーカーから校長の声が流れた。

 ――――ピーンポーンパーンポーン

『お前等~今から、体育の剛力先生と力比べをして、勝った者には、商品券30万円分

を進呈するぞ! 挑戦時間は昼休みの時間が終わるまでで、勝者が一人でもでたら終了

だ! 皆、急ぐんだな!』

 校長のアナウンスが流れると、食堂はざわざわした。

「30万分の商品券だってよ!」

「私、欲しい物があったんだ~!」

「早く行こうぜ!」

 放送を聞いた生徒達から楽しそうな声が聞こえてくる。

「カナも行くー!」

「アタシも行くわ!」

「勝者が出る前に、俺達も行こうぜ!」

 皆も商品券が欲しかったので、秋斗達はなにやら勝負をしているらしい、体育館に向

かった。

 体育館には、すでに沢山の人だかりが出来ていた。勝負が終わった様で、いきなり歓

声が上がった。

「もしかして、もう終わっちゃった~?」

 人垣を掻き分けて秋斗達が前に出て見ると、悔しがる男子生徒と、勝ち誇る一人の先

生がいた。

 力比べの勝負とは、腕相撲の事だったらしく、特別に作られた台が建っていた。

「ゲッ・・・勝負の相手って、剛力ごうりき先生かよ・・・・・・」

 生徒との勝負に勝ち、喜ぶ先生を見て、翔がボソッと呟いた。

「うわっ、なんだあの体!」

 初めて剛力を見た秋斗は驚いた。

 剛力先生は3学年の体育の先生で、鍛えられた肉体は、ボディビルダーのようだった。

「勝てる気しねーよー!」

 剛力先生に負けた生徒が言葉を漏らす。そんな男子生徒の光景を見ていた周りの生徒

達は、意気消沈していた。だが、チトセだけは違った。

「誰もやらないなら、今度はアタシの番よ!」

 そう言って皆が見守る中、チトセと先生の勝負は始まった。

「レディー・・・ゴ――――!」

 審判役の男子生徒の声で、チトセと剛力の手にグッと力が込められた。

 さっきまでの挑戦者とは違って、チトセは先生の力に負ける事なく耐えていた。そん

な事はさっきまで無かった様で、周りの生徒が歓声を上げる。剛力先生も、驚いた様な

声を上げた。

「フッ、中々やるな・・・・・・だが!」

「くっ・・・・・・! キャー!」

 剛力先生が力を加えると、チトセは負けてしまった。

「なによ~、あのバカみたいな力・・・・・・」

 腕をさすりながら悔しがるチトセの姿を見て、秋斗が声を上げた。

「次は俺の番だぜ!」

「ほほう、七色か・・・・・・いいだろう!」

 チトセの敵を取ってやるぜ! そしてチトセにいい所を―――

「レディーゴ――――!」

 そんな事を思いながら、秋斗は剛力に挑んだ。

「ギャ――――――!」

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

 勝負はあっけなく付いた。秋斗は一瞬で負けた。

「ふむ・・・・・・そろそろ時間だな」

 剛力は腕時計を見て、時間を確認するとそう呟いた。

「それでは、今日の勝者はなし―――――」

「カナがやる~!」 

 剛力が勝負を終了しようとすると、カナが声を上げた。

「やめとけ、お前じゃ勝てねーよ」

「秋斗が弱すぎるだけだもん!」 

「んなっ!」

 秋斗がカナを止めようとすると、カナはあっさりと否定した。

「ふむ・・・・・・では、この勝負を最後とする」

 カナがやる気満々で諦めないと思ったのか、剛力はそう言った。皆、カナの小ささを

見て、どうせダメだろうと思っていた。だが、秋斗だけは違った。

 ああは言ったけど・・・・・・カナなら、もしかしたら・・・・・・。

 秋斗の期待が高まると、カナと剛力の勝負が始まった。

「レディー・・・・・・ゴ―――!」

 勝負が始まって、一瞬で終わるだろうと思っていた皆は、少しすると息を呑んだ。誰

も、剛力の力になすすべが無く瞬殺されていたのに対し、カナは少し剛力を押していた

からだった。

「おいおい、手ぇ抜いてるんじゃねーだろうな・・・・・・」

「まさかだろ・・・・・・」

 そう思う翔の、気持ちも分からないでも無かった。だが、剛力の驚愕の顔を見て、剛

力が手を抜いていないことは一目瞭然だった。そんな光景を見ていた皆は、カナに大き

な歓声を送った。

「いけー!」

「勝てるぞー!」

「がんばれー!」

 カナへの応援が飛び交う中、剛力は必死だった。剛力の額に汗があふれ出す。

 段々と、剛力の手が、壇上に近づく。

「うぬぬぬ・・・・・・!」

「ん―――っ・・・・・・!」

 もう少しで、剛力の手が壇上に付く! と思った瞬間だった。

「うお―――――!」

 剛力が叫び声を上げると同時に、皆は言葉を失った。

 剛力の体から、灰色のオーラが出ると、剛力の体の筋肉が、以上な程に増大したのだ。

「い、異能者・・・・・・」

「てか、卑怯だぞ!」

 剛力が異能の力を使ってまで、体の小さな女の子のカナに負けたくないという気持ち

も分からないでも無かったが、秋斗は抗議した。

「フッ! 負けなればいいんだ―――!」

「んんっ!」

 さっきとは打って変わって、今度は剛力がカナを押し返した。

 さすがに異能者が相手じゃ、ダメか・・・・・・。

 秋斗がそう思った瞬間だった。

「商・・・・・・品・・・・・・券――――!!」

「なにっ!」

 必殺技のようなカナの叫び声を上げ、カナが最後の力を振り絞ると、剛力の手が壇上

に付き、カナは剛力に勝った。

「やったー! 勝ったー!」

「そんな・・・・・・バカな・・・・・・」

 異能を出してまでも勝てなかった事に、剛力は驚愕した。その壮絶な光景を見ていた

皆からは、大きな歓声が沸き起こった。そんな中、秋斗は思った。

「食べ物への執念で、異能者に勝つなんて、どんだけー・・・・・・」

 その後、カナはその賞金を使ってお菓子を大量に買い込み、一週間で使いきってしま

った。

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