こう太と遊園地と異能
秋斗達はお昼時間に皆でご飯を食べていた。健の家政婦のさやの事件の後から、健と
も一緒に昼ご飯を食べるようになっていた。
一番にご飯を食べ終わったカナが、まだ食事中の秋斗達を見て、指をくわえながら言
った。
「お腹すいた~」
「お前・・・・・・今食べたばっかだろ」
秋斗が呆れてそう言うと、カナは全然足りないもん! と言った。
そんなカナの所にこう太がやって来て、カナに新発売のお菓子を差し出して言った。
「コレ、やる」
「わぁ――! 新発売のお菓子だ~! ありがとう、こう太。大好き~」
校長の大会が終わってからというもの、最近こう太はよくこうやってカナにお菓子を
くれる。
こう太はカナと同じ見た目だが、別にこう太の見た目も幼く見えるから。という訳で
はない。こう太はずば抜けた頭脳の持ち主で、わずか8歳にもかかわらずこの白龍学園
に飛び級してきた天才児だ。
そんなこう太とカナの二人だけを見ていると、小学校低学年にでもいるかのような感
じに思えてくる。そんなこう太とカナのやり取りを見いたチトセと良子が、こう太をち
ゃかす。
「あれあれ~こう太くん、カナちゃんをお菓子で釣ろうって作戦~?」
「もしかして・・・・・・こう太、カナちゃんのことが好きなのかしら?」
そんな大人気ない二人にこう太は顔を真っ赤にしながら対抗する。
「う、うるせーよおばさん!」
「なっ!」
「お、おばさん・・・・・・」
こう太のその罵声に、大人気ない二人は力でものをいわせようとしていた。
「アタシはまだまだピッチピチの16歳だっつーの!」
「そんなこと言う子には・・・・・・おしおきね・・・・・・フフフ」
「わ、なにすんだっ! やめ! ハハハハ」
チトセがこう太の体を後ろから押さえて、良子が容赦ないコチョコチョの刑をこう太
にあびせる。こう太が声もでなくなった所で、コチョコチョの刑は終わった。
「それにしても、コレどうしようかな~」
こう太に容赦ない攻撃を浴びせたチトセが、鞄から出したチケットをヒラヒラさせな
がら言った。
そのチケットは、少し前に開催された優勝賞金の遊園地のチケットだ。チトセがどう
しようと言ったのは、そのチケットの人数の事だった。チケットの人数は何故か7人分
あった。
「7人って・・・・・・これまた微妙よね~」
チトセの持つチケットを見て良子がそう言った。良子の言葉を聞いてチトセが頷いた。
「そうなんだよね~。アタシと良子、カナに秋斗に翔に健、ここに居るメンバーでも、
6人しか居ないからね~。せっかく7人分のチケットがあるんだから6人で行くのは勿
体無いし~」
チトセの言葉を聞いた健が驚く。
「俺も行くのか?」
そんな健に、チトセはなにを言ってるの? と言う顔をして言う。
「ん? 当たり前じゃん。でも、あと一人誰にしようかな~・・・・・・」
チトセがそんなことを言っていると、こう太が口を開いた。
「お、俺が行ってやってもいいぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
こう太の言葉を聞いてチトセが言った。
「ねえ、良子、後一人誰にしよ~」
「そうね~誰がいいかしら~」
「お、おいっ!」
そんなやり取りをするチトセと良子にこう太は突っかかる。そんなこう太に大人気な
いチトセはまだ言っていた。
「人様にお願いする時は、連れてって下さい。でしょ~!」
「うるへーおばはん!」
チトセに頬をつねられながら、こう太もまだ言っていた。
こう太の憎まれ口を聞きながらも、他にあてがなかったチトセは諦めたように言った。
「しょうがない。この礼儀知らずのおこちゃまにするか」
チトセのその言葉を聞いて、チトセから誘われるのを待っていたのか、クラスに居た
男子達から舌打ちが聞こえてきた。
・・・・・・チトセを狙う男共より、こう太で良かったな。
秋斗はそんな事を思いながら心の中でホッとした。
「それじゃ~今週の土曜日に、駅前に集合ね」
チトセが皆に説明するのを聞いて、チトセと二人で行きたかったな。と一人妄想に耽
る秋斗だった。
人里離れた場所にそびえ立つ町長の大きな屋敷に、金村は呼び出されていた。
「失礼します。・・・・・・お呼びでしょうか?」
大体言われる事は想像できていたが、嫌な顔をしないよう勤めながら金村は聞いた。
「金村・・・・・・例の七色の少年の能力は見つかったか?」
やっぱりそれか。
金村はそう思いながらも、口には出さず口を開いた。
「いえ・・・・・・まだ分かっておりません」
「何か手は打ったのか?」
「とりあえず、色々競技を開催していますが・・・・・・」
「ぬるい!」
苛立ちをあらわにしながら、金村の言葉を町長は言葉をさえぎった。
「お前は甘すぎるのじゃ! それだといつまでたっても何も分からないぞ」
「は、町長のお言葉はきっちり頭に入れて・・・・・・」
「レッドパンダを使え」
また金村の話を遮って町長は言った。
町長のその言葉を聞いて、金村はピクリと眉を動かした。
「人間、追い込まれると物凄いパワーを発揮するものじゃ。きっと七色の本当の力(能
力)も見られるじゃろう」
町長は嬉しそうに言う。
「・・・・・・しかし、怪我では済まなくなる可能性も・・・・・・」
「かまわん。確か、貴様の開催したつまらん競技で西園寺チトセとやらが優勝したな。
七色の岩神秋斗も必ず一緒に行くじゃろう。その時を狙え」
チッ!
金村は心の中で舌打ちをして気持ちを表に出さないよう必死で怒りを抑えた。
「・・・・・・は、失礼します」
何とか町長に対して怒りを押し殺す事に成功し、金村は足早に町長の屋敷を後にした。
車に乗り込み、町長のペットのことを思い出す。
レッドパンダか・・・・・・。
見た目はパンダだが、普通のパンダとは比べ物にならないほど獰猛で、飼育にもかな
り手を焼いている町長のお気に入りのペットの一匹だ。
俺の開催した競技にもケチをつけ、おまけに生徒に与えたご褒美の日に襲わせるなん
て・・・・・・。まったく、どこまでもあの爺さんとはそりが合わないな。
そんなことを思いながら金村は憂鬱なため息を漏らした。
チトセのその言葉から4日後、チトセと約束した日がやってきた。
秋斗はカナと準備を済ませ、学校から一番近い駅にやってきた。
「待ち合わせは9時だったな・・・・・・」
駅に着いて時計に目をやると、時間は8時55分を差していた。
チトセと約束した9時の五分前に駅に着いた秋斗とカナは、ひとまず改札近くに向か
った。
「あ、お~い! 健」
駅に入ると、改札の前には既に健が待っていた。 健は、ジーパンにTシャツという
ラフな格好をしていた。
「ああ、秋斗おはよう」
学校でもないのに律儀に挨拶する健は、なんとも健らしい。
「健おはよう~」
「カナ、おはよう」
カナとも挨拶を交わして秋斗達は残りのメンバーが来るのを待った。
他のメンバーを待っていると、健を見たカナが興奮しながら言った。
「わ~、コレ可愛いね~」
カナがそう言ったのは、健が腕に付けていた、男の健にしては少し可愛らしいともい
えるブレスレットだった。
「ああ、コレはさやが、俺が今日秋斗達とエバーランドに行くと言ったら、前に上げた
お揃いのブレスレットを付けて行けとうるさかったのでしかたなくな・・・・・・」
健は少し恥ずかしそうにそう言った。
カナが「本当にカップルみたいだよね~」と言ってきて、秋斗もそうだなと思った。
きっと健は尻に敷かれるタイプだな。
それにしても、健は初めの頃と比べると、大分イメージが変わった。なんというか、
明るくなった気がする。表情を豊かになったし。
これもさよのおかげか?
秋斗がそんな事を思っていると、翔とこう太が一緒にやってきた。
「おいーっす!」
「お、おはよう」
「おう」
「二人共、おはよう」
「おはよ~」
ダボダボの洋服にキャップとサングラスを掛けたDJみたいな翔と、お洒落なTシャ
ツに半ズボンを着たこう太と合流し、チトセと良子が来るのを待った。
「コ、コレやる」
こう太はそう言って、手に持っていた小さなビニール袋をカナに渡した。カナがその
袋を受け取り、不思議そうに中を見ると、一気にカナの目の色が輝いた。そして、こう
太に抱きついた。
「こう太、ありがとう~!」
カナはそうお礼を言うと、貰った袋からお菓子を取り出してさっきも食べていたくせ
に、また幸せそうにお菓子を食べ出した。
そんなことをしてると、後ろから声が聞こえた。
「こう太! ま~たお菓子でカナを釣ろうとして~」
その声が聞こえた方を振り返ると、そこにはチトセと良子の姿があった。
チトセが笑いながらそんなことを言って、秋斗達の方に近寄って来る。
チトセと良子はモデルみたいな体系で、二人共ずば抜けて可愛いせいで、駅に居た皆
の注目を一斉に集めていた。
「「可愛い・・・・・・」」
秋斗と翔の心の声が漏れていた。
そんな秋斗を、怒りのこもった眼差しでカナが見ていた事に秋斗は気づかなかった。
「皆来てるわね~待たせちゃったかしら?」
「いや! 全然待ってないよ!」
良子の言葉に、さっきまで良子の姿に目を奪われてフリーズしていた翔が、全力で答
える。
実際、最後から二番目に来た翔は全然待っていなかったのだが、例え一時間ほど待っ
ていたとしても、そう答えるんだろうなと秋斗は思った。
「よ~しそれじゃ、出発しよう~!」
一番最後に来たチトセが仕切って、秋斗達はエバーランドへ直行する電車に乗った。
電車の中は大人数専用の座席があって、最大5人ずつ向かい合って座れるようになっ
ていた座席があった。座席と座席の間にはゲームなどが出来る様に、テーブルまで設置
されている。
電車には満席になるほどの人が居たが、幸いにも遊園地へ行く為の、電車の座席指定
までされていて、秋斗達はそこに座る事が出来た。
「「「「「お~広い!」」」」」
指定されていた座席に着いた皆は驚いた。そこは他の大人数専用座席よりも遥かに広
く、VIP席のような感じだった。席に着くなり良子と健以外の人は、はしゃいだ。
「これも白龍学園が超金持ち校と言われる由縁ね」
はしゃぐ5人をよそに、良子が落ち着きながら言った。
今日の校長から貰った遊園地のチケットの他に使う、遊び代、交通費、食事代などは
全て白龍学園持ちだ。
落ち着きながらも感心している良子の言葉を聞いて、やっぱりこの高校は凄い学校な
んだな。と秋斗は再確認した。
「あ、これやろう~!」
そう言ったカナが手に取った物は人生ゲームだった。
VIP席の様な大人数専用席には、色々な暇つぶしの為のゲームがずらりと並んでい
た。カナの提案にチトセが大喜びで賛成して、皆で人生ゲームをする事になった。
人生ゲームが始まり、チトセと秋斗が結婚すると良子は凄まじい剣幕で秋斗を睨んだ。
「いやいや、ゲームだから!」
そう言いいながら秋斗は良子を宥めた。
電車に揺られる事1時間半。秋斗達はエバーランドに着いた。
「フッ・・・・・・波乱万丈な人生だったぜ・・・・・・」
電車の中でやっていた人生ゲームでチトセと結婚した秋斗は、働いていた良子の会社
をクビになったり借金まみれになったり、大事故に遭ったりと、散々なバットエンドだ
った。
そんな人生最後のセリフかのような独り言を言う秋斗にチトセが「早く行くよ~」と
急かされてエバーランドに入った。
「うわー、すっげー人!」
エバーランドの中は朝一番に来たにも関わらず、大勢の人で賑わっていた。人気の絶
叫マシンは、既に2時間待ちだった。
「キャー! 何から乗ろうかな~」
チトセは一番楽しそうだった。そんなチトセと秋斗達は色んな乗り物に乗って遊んだ。
「ね~! そろそろご飯にしようよ~!」
カナにそう言われて時計を見ると、時間は2時を回っていた。
「もうこんな時間か」
楽しい時は時間があっという間に過ぎてしまうものだなと秋斗は思った。
「んじゃ、コレ乗ったらご飯にしよ」
「うん!」
チトセがそう言って乗ろうとしたのは、一番待ち時間が少ない乗り物だった。皆でそ
の列に並んで少し待ってると、後ろにも人が並んできた。
「キャー!」
「なんだ!?」
列に並ぶ秋斗達の後ろに並んでいた人の悲鳴が上がった。驚いて悲鳴の上がった後ろ
の方を見て秋斗達は驚愕した。
「なっ! パ・・・・・・ンダ・・・・・・?」
叫び声が聞こえる方を見ると、そこにはパンダの様なものがいた。
普通パンダは白と黒の二種類の模様をしている。だが秋斗達の目の前に現れたのは、
見た目こそパンダのものの、色は赤と黄色の異色の色をしていて、動物園で見る様な穏
やかさは微塵も感じられず、獰猛な、今にも人を襲わんとばかりの感情をむき出しにし
ていた。
すかさず警備員の「P45」が獰猛なパンダを止めに入ろうとしたが、パンダは凄ま
じいパワーでその警備員をなぎ倒した。
「キャー!」
その光景を見て、遊園地に再び叫び声が広がる。そのパンダは、一番近くに居た良子
を狙って走り出した。
「「危ない!」」
良子の近くにいた秋斗とチトセが良子を庇って、良子は怪我をしなかった。
良かった・・・・・・。
秋斗がそう思ったのもつかの間、今度はパンダは向きを変え、カナとこう太の所に敵
意をむき出しにして走り出す。
「カナ!」
秋斗が叫んだのと同時に、カナとこう太の近くに居た健がカナ達とパンダの間に入る。
秋斗は安心した。このエバーランドのチケットを賭けた大会の時、少し戦っただけで
はあるが、三毛猿を捕まえた身体能力から考えても、健は強い。と秋斗は確信していた
からだった。だがその安心は一気に吹き飛ばされた。
「健!」
「くっ!」
健は変色パンダのパンチを貰って、数メートル離れた壁まで吹き飛ばされた。
「そんな・・・・・・」
確かに強いはずの健をも吹き飛ばすほどのパンダの強さ。そんなパンダを見て、カナ
も震えて動けなくなってしまっている。
「くそっ! ヤバイ・・・・・・!」
秋斗の距離と、パンダの距離は遠かった。それに対し、カナ達とパンダの距離は目と
鼻の先。
「翔!」
チトセに名前を呼ばれて恐怖から動けなかった翔が、チトセの顔を見て、しっかりと
頷いた。すぐに翔は紫のオーラを身にまとい、聞いた者を引き付ける異能の力を発揮し
た。だが。
「なんでだよ!」
パンダにはまったく翔の異能が効かなかった。そんなパンダを見て、良子が言った。
「あのパンダ・・・・・・耳がないわ」
「なっ!」
見てみると、パンダには本来あるはずの耳が本当になかった。
翔の異能が効かない・・・・・・! くそっ、考えてる暇はない! 俺の体よ、間に合え!
心の中で叫んで、秋斗は七色のオーラを体にまといながら全力でパンダに向かった。
パンダは怯えるカナに向かって、腕を振り下ろした。それをカナがギリギリの所で避
ける。だがパンダは身軽に体勢を整えて、またカナに腕を振り下ろす。さっきパンダの
攻撃を避けたばかりのカナの今の体勢では、次の攻撃は避けきれない。
嘘だろ? 待て、待ってくれ・・・・・・!
声にならない声を出しながら、秋斗は尚も全力でパンダに向かう。だが・・・・・・
間に合わない!
「くそぉおおお――――――――!」
秋斗がそう言った時だった。
パンダがカナに腕を振り下ろす前に、震える足を必死に奮い立たせてこう太がカナの
前に出た。
「こう太、危ない!」
秋斗がそう言った時だった。
「カナに、手を出すなー!」
こう太がそう言って、両手を前に出した。すると、物凄い風が吹き荒れ、巨大なパン
ダを軽々と吹き飛ばした。
「「「「「「なっ!!!」」」」」」
皆が驚きの声を上げた。不思議な風を出したこう太も、その一人だった。
こう太の体は綺麗な緑色のオーラに包まれていた。
「俺が・・・・・・異能者・・・・・・」
呆然とするこう太に皆が駆け寄った。
「大丈夫か、こう太!」
秋斗のその声に、ハッと我に返ったこう太は後ろを振り返って言った。
「カナ! だ、大丈夫か? 怪我、ないか?」
こう太にそう言われ、カナは安堵の表情を浮かべて言った。
「うん! こう太のおかげで大丈夫だよ」
「そ、そうか」
カナにお礼を言われると、こう太は顔を赤くした。
「凄いじゃんこう太! カッコよかったよ!」
「ええ、見直したわ。こう太、素敵だったわよ」
チトセと良子が珍しくこう太を褒めた。秋斗と翔の二人は、チトセと良子に褒められ
なかったので「凄いじゃねーか」と言いながら、こう太の頭をくしゃくしゃにしてうさ
を晴らすという、なんとも大人気ない二人だった。
そんな光景を覗き見していた金村は報告の為、町長の屋敷に来ていた。
「報告なんて意味ないと思うがな・・・・・・」
そんな事を思いながら金村は憂鬱な気持ちを押し殺し、町長の部屋をノックする。
「おお、金村か。入れ」
町長はいつになくご機嫌な声で言った。
「失礼します。今日、新たな異能者が見つかりました」
お馴染みの挨拶をして、金村は早速今日の報告をした。
「おお、見ておったぞ」
尚もご機嫌に町長は言う。
見ていた・・・・・・か。やっぱりね。
町長の部屋には色々な所に配置した監視カメラの映像のテレビがずらりと並んでいる。
「七色の能力は分からなかったが、素晴らしい収穫だ! フフフ・・・・・・本当に素晴らし
い! 神様にでも与えられたかの様なこの力、物凄い金になるぞ! まさしく金の卵じ
ゃ! 金村、この調子でどんどん探すのじゃ! もっと、もっとじゃ! フハハハハハ
ハ!」
「は、失礼します」
お馴染みの挨拶をして金村は町長の部屋を出る。町長の屋敷から出て家に向かう途中、金村は自分の愛車に乗りながら思う。
ここ最近出た新たな異能者で町長はご機嫌だ。等分は小言を聞かなくて済みそうだな。と。