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生き血を啜る、贖罪の子は踊れ 4

 助手の二人はKよりも一回りほど若く、体格もそれなりによかった。二人は村長を挟んで座り、ずっと頭を下げていた。村長がひとつ咳払いをすると、場のひどく締まったような感があった。

 「先生、これが助手にございます」と、村長は言った。

 Kは黙ったまま腕組みをして、二人の助手をじっと眺めた。

 「……まあいいでしょう。では村長はもう下がってください」

 村長は言われるまま立ち上がり、障子をしめる前に一度だけKと目を合わせた。それから助手の二人を少し心配そうに眺め、ゆっくりと戸を閉めた。助手の二人はなお正座のまま膝に両手を置いて頭を下げていたが、Kが顔を上げるように指示するとゆっくりと頭を上げた。

 二人は多少怯えた目をしながらKを見やると、それきりまた目を伏せてしまった。Kはここでひとつ咳払いをした。

 「お前達」と、Kはなるべく優しげに言った。「お前達は今日から俺の助手になるんだ。それは一心同体を表すんだぞ。なにもそうかしこまることはない。もっと肩の力を抜いていいんだ。どれ、俺にもっと顔を見せてごらん」

 するとひとりの助手が顔を上げ、Kと目を合わせた。まだ少年のような目をした垢抜けない青年であった。彼はKとしばらく目を合わせたのちに、隣の青年が顔を上げていないことに気づいて、肘で軽く小突いた。隣の青年は体をびくんと動かし、それからゆっくりと顔を上げた。

 「お前達には今日は村の案内をしてもらう」と、Kが言った。「おい、この村はどのくらい広いんだ」

 「軒が四十ほどあって、みんなそれぞれに畑を持っています」

 少年のような目をした青年がそう言うと、Kは「ふむ」と、自分のアゴをさすった。Kのアゴは北陸までの旅路ですっかりと伸び、指は黒ひげに隠れて助手たちからは見ることができなかった。

 そのころ、Kはこの助手二人の果たしてどちらが優秀なのかを見極めようと躍起になっていた。好感が持てるのは断然、少年のような目をした青年の方だった。だが初見ではわからぬことが多いことを、Kはよく知っていた。Kがそれぞれの名前を訊くと、少年の方は「又一」、もうひとりの助手は「長蔵」と答えた。Kは初めに助手達に言っておくべきことはないか、と考えをめぐらせた。

 「一心同体という意味がどういう意味かわかるか」と、だしぬけにKが言った。「又一、答えてみろ」

 「生きるも滅ぶも道連れということですね」

 「違う。それだけじゃない」と、Kは首を振った。「いいか、俺達は義兄弟の契りを交わしたも同じなんだ。俺の助手につくということはそういうことなんだ。俺の助手についた時点でお前達はもう村の人間ではない。俺の所有物だ。だから俺の質問には全て答える義務がある。そしてお前達は俺がここにいるあいだ、村の人間とは一切口を利けない。親兄弟とも、だ。寝るときは俺の部屋で同じように寝る。もしこの誓いを破るようであれば、俺は即刻お前達を殺す」

 助手の二人はKのこの言葉に面食らい、怯えた目でK自身を見た。Kの方はと言うと、今にも二人に食いかかっていかんばかりに助手二人を睨みつけていた。助手の二人が当惑顔でお互いを見合すと、Kが一喝した。

 「これが守れないならば即刻この場を立ち去れ。いいな」

 Kがそう言うと、長い沈黙が部屋に訪れた。助手達はお互いの顔色を窺うことすらできず、下を向いてもじもじと体を動かしていた。長蔵が正座を崩しかけたのを見ると、又一がまた肘で軽く小突いた。そのあいだもKは胡坐を掻いて二人を睨みつけたままである。しかし、この半ば脅しにも聞こえる言いつけには、Kなりの人心掌握術があった。初めに厳しい面を見せておけば後々になって助手達も言いつけを破ろうとはしないだろう。それに、いざという時は頼りになること実証できたに等しい。10分も沈黙が続くと、Kはゆっくり立ち上がった。

 「お前達は自分で自分の人生の選択もできんのか」と、吐き捨てるようにKは言った。「悪いが俺はもう行くぞ。こんなところで油を売っている暇はないんでな。ただし、まだ俺の助手になりたいという人間がいるなら、そのまま立ち上がってついてこい。その人間はきっと男になれることだろう」

 Kが障子を開けて廊下を歩いて行ってしまうと、助手の二人は焦ったような顔で互いを見合わせ、それから立ち上がってKのあとを追った。

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