生き血を啜る、贖罪の子は踊れ 3
明け方になると、強張った雪が村を白く染めていた。Kは窓から用心深く村を観察して、静かに深呼吸をした。それほど大きな村ではもちろんない。四方を山と田園に囲まれた穏やかな村だ。村民がまだ誰も起きていないことを知ると、Kは自分が意外にも早い時間に目覚めてしまったことに気づいた。Kはその場でひとつ咳払いをすると、脱ぎ捨てたぼろの懐を探り、煙草を一本吸った。
腹はまだ減っていなかった。うずくのは酒を求める喉のみである。Kは煙草を吸い終えると吸い殻を雪面に放り投げ、それから布団の上へ胡坐を掻いた。手を叩いて村長を呼んでみようかとも考えたが、休める時には休んだ方がいい。なんにせよ、雪道では骨が折れる。Kは夫妻が目覚めるまで布団の上で胡坐を掻き、目をつむって酒を頭の中から払おうとした。
それから一時間もしないうちに村長はKの部屋の襖から声をかけた。
「ただ今お食事をご用意いたします」
果たして村長がKの目覚めていることを知っていたかどうかは定かでないが、村長は手を叩くと夫人を呼び、台所へ行って茶を持ってくるようにと頼んだ。従順な夫人はまた昨日のようにいそいそと歩き、台所へ立って薬缶に火を入れた。村長はそのあいだも、Kの自室の襖へ立って、静かに夫人を待っていた。しかしそれは、息を潜めてKの様子を窺っているようでもあった。
「先生」
村長がこう呼んだのをきっかけに、Kは目を開けた。
「なんですか」と、Kが答えた。
「昨晩はよくお眠りになられましたでしょうか」
「あまり眠れませんでしたな」
「そうですか。朝食を召し上がりましたらその後は助手をお呼びいたします。それまでお部屋でお待ちください」
「私についてはかまわなくってけっこう」と、いくらか不機嫌そうにKは言った。「村のことをまだまるで知りませんし、そうそう閉じこもっているわけにも行きません。私の仕事は非常に複雑で厄介なものです。よって誰の指図も受けることはできません。私の好きなようにやらさせてもらいます」
村長はそれについてどんな意見も持たなかった。襖から去ると村長は夫人にお茶を催促した。
朝食を自室で食べ終えたKはそのまま部屋の中で煙草を吸い、ふたたび瞑想じみた儀式に戻った。Kも当面は村長の言いつけを守っておくことにした。助手達が一体いつ来るのかも定かではなかったし、また外に出て体が冷えてしまえば、どうしても酒を飲みたくなるだろう。Kはやがて、自分の道具の手入れを始めた。長ドスに磨きをかけ、手ごろな布で鏡と数珠を磨いた。ひととおりそれらを終えると、また瞑想に入った。
今家に誰がいて、誰がいないのか、はっきりとはしなかったが、玄関の戸を引くような音が度々Kの耳に入った。今ごろ村長が助手を探しに回っているのかもしれないとKは思った。そしてその予感は当たっていた。ばたばたと玄関の方がうるさくなったと思うと、Kの自室の方へ何人かの足音が聞こえた。Kは用心のために長ドスを腰の後ろへ回し、腕を組んで襖を前にした。先生、と村長が声をかけると、Kは中へ入るように言った。