級友との出会い
「ふぅ……よし。今日準備しておきたいことはこれで済んだから……ホノカちゃんに会いに行こうかな」
(結局この前1人でホノカちゃんに会いに行ってくれと頼まれた時は何で僕1人で行ってくれって言われたのかはぐらかされたし……なんならたまに会いに行ってやってくれって追加で頼まれたし……。)
「まぁ……まだ夜警団で活動を始めるまで少し時間はあるし、始まってからも時々会いに行くくらいの時間はある……のかな」
幽夜達が夜警団での活動を始める数週間前、三日香に頼まれて仄香に会いに行った幽夜だが気付けば「これからもたまに会いに来てやってくれ」と追加の注文をくらっていた。その為幽夜は入団前に済ませておきたい諸々の準備も少しずつ進めながら、空いた時間で仄香に会いに行っていた。
「今日はお菓子、何を持っていこうかな……この前持っていったクッキーはすごく喜んでくれたけど……同じものだと飽きちゃうよね」
外歩き用の靴に履き替え、街中に出て少し歩く。昼時だからか、外出している人達の数も少し多い気がした。ふと近くの飯屋を見やると、見覚えのある人影を見つけた。
「あれ……打手さん?」
少し立ち止まったことで気付かれたのか、手を振って声をかけてきた。
「ユウユウじゃ〜ん、久しぶり〜!あれ以来元気してたー?」
「お久しぶりです、打手さん!おかげさまで」
「あっはは〜。トナトナはたま〜に見に行ってたみたいだけど……アタシは全然そっち行けてなかったからね〜。あと2人は〜?」
「えっと、今は僕1人です。ちょっと知り合いの子に会いに行くので何かお菓子を持っていってあげようかなと」
「あ〜そうなん?偉いじゃ〜んいいこいいこ〜」
打手は幽夜の頭をぽんぽんとたたきながら何か思い出したようだった。
「あ〜それならあそこどう!?この前出来たっていうお店。こっから近いトコなんだけど……結構評判イイっぽいよ〜」
「え、気になります。どっちですか?」
「ノリいいじゃ〜ん、んじゃ一緒にいこ〜」
「ありがとうございます」
そこから数分ほど、お互いの近況をそれぞれ話しながら歩いて目的の店舗に着いた。
「んでさ、アタシの同期のヤツなんて言ったとおも……あっ、アレアレ!」
「想出本舗」と店名が書かれた看板が掲げられているて、建物自体の見た目としては少し古めかしくレトロな印象を受ける。
「あっ、着いたんですね!話の続きも気になりますが……そういえばここはお菓子屋さんなんですか?」
「ん〜とねぇ、お菓子だけじゃないケド……お菓子も売ってる……的な?」
「なるほどです……色々売ってるんですね。店名は……なんて読むんだろ?」
「あ〜確かオ・モ・イ・デ……ホンポ、だったと思う〜。ちょっと前にみた宣伝でそんなん言ってた気がする〜」
「想い出づる……でオモイデかぁ。素敵なセンスしてますね」
「気になってたんだよね〜、ここ。そうだ、お菓子アタシが買ってあげるよ〜。来るキッカケをくれたお礼にさ」
「え……ええと……」
「も〜エンリョしないの!ほら、入るよ〜」
打手に引っ張られて店内に入る。店内は錬金術師のアトリエでイメージすると分かりやすいような、大雑把な感じに見えつつもひとつひとつを丁寧に見ていくと整然としているような……そんな雰囲気だった。
「おぉ〜……なんか……言語化しづらい感じの雰囲気がありますね」
「たしかに〜不思議なカンジすんね」
一通り見渡して店内を見て回ろうとした時、ふと違和感に気付いた。
「……あれ、そいうえば店員さんが1人も見当たらないですけど……タイミング悪かったんですかね?」
「ありゃ、そーいやそうじゃん!せっかくならオススメ聞きたいよね〜。すみませ〜ん!店員さ〜ん!いますか〜?」
(こういう時に気兼ねなく声を出せるのってすごいよなぁ……)
打手に感心しつつも幽夜は改めて店内を見回し人の気配がないか確認した。しかし何度見ても誰かいるようには思えなかった。しかし______
「……客、かな。お二人さん」
「んえっ!?」
突然背後から声をかけられ幽夜は跳び退いて危うく戸棚にぶつかりそうになった。
「おっと、失敬。驚かせるようなつもりは微塵も無かったのだが……どうも生来、儂の気配は薄いようでね」
「あ、いえ……こちらこそすみません。お化けでも見たような反応をしてしまって……」
「……む」
どうやら店員らしいその女性は急に幽夜に近付きまじまじと顔を見つめ始めた。
「あ、あの……何か?」
「何かも何も……ふむ、儂のことを覚えとらんのか」
「はえ?えーっと……?」
「あ!いたんじゃん、店員さ〜ん!」
幽夜が困惑していると、店の奥の方まで行っていた打手が戻ってきた。
「ん?んーー……」
打手は戻ってくるやいなや店員のことを見て首を傾げている。
「キミ、ポラリスに来たことある〜?」
「え、店員さんがポラリスに……?」
「まぁ〜だ分からんのか、薄情者め。1人ずつお主の級友を挙げてやれば思い出すかの」
「級友……?……あっ!カイコさん!?」
「遅いわ!何故一目会ったかどうか程度の先輩の方が気付くのが早いのだこの阿呆め!」
「ご、ご、ごごめんなさい!あまりに違って見えたから!」
「あ〜ユウユウの昔のクラスメイトか〜!アタシはちらっと見たことあったくらいの記憶だけどね〜」
「それだけで儂の顔を記憶しているとは、やりおる先輩だのぅ」
「えへへ〜ケッコー得意なんだよね〜人のこと覚えるの」
「んむ、偉いぞ。ほれ、ちぃと屈んで頭を出せ。褒めてやる」
褒めてやるから屈めと言う後輩と何故か嬉しそうに素直に従う先輩。なんとも不可思議な絵面だった。
「へへ〜褒められた〜」
「えと……邪魔して悪いんだけど……あと気付くの遅くてごめんなんですが……ここの店員さんなの?」
「ん、違うぞ」
「あれ、じゃあ一時的なお手伝いさんとか……?」
「店長だぞ」
「へ?」
「だーかーら、儂がここの店長!ここは儂が経営する店舗だ」
「……えええええ!」
「よかったじゃ〜ん、話が早くてさ!」
「ええまぁ……それはそうなんですが……まだちょっと衝撃というか、お店をやりたいというのは以前聞いていたとはいえ既に始めてるとは……」
「ふん、まぁ儂が建てたわけではないがな。元々ここで違う商売をしていた爺から店舗ごと経営権を譲り受けたんじゃ」
幽夜が落ち着いたところで店主が改めて自己紹介を始めた。
「さて、改めて儂は遺懐遠古。みなは儂のことをカイコと呼ぶ者が多いな。ユウ坊は言うまでもないが……そちらのお嬢さんは初めて見るな」
(その初めて見る人を普通にいい子いい子〜ってさっき撫でててたけどね……)
ツッコミを入れるとまた怒られそうなので幽夜は心の中で呟くに留めた。
「は〜い、アタシ打手呼不地ね。こずっち〜って呼んで!」
「うむ、活力も感じる素晴らしい子じゃな!お主も見習わんか、ユウ坊」
「はは……努力するよ……。あ、で……ここって何を売ってるの?」
「む、そうだな。お主らは客じゃった。店名の通り、ここでは“思い出”を売っておる」
「思い出……?ってどういうこと?」
「う〜むそうだのぉ……例えばこれを見てみぃ」
遠古はそばの棚にあった小瓶を手に取り、幽夜の前に差し出す。中身は何色とも言えない色をしている。
「この小瓶に入れてあるのは、とある人物に依頼されて詰めたものじゃ」
「詰めたって……思い出をってこと?……これが?」
「そう、『味覚』の思い出じゃ」
「思い出の味を……再現できるってこと!?そういえばカイコさんの“力”って僕は見たこと無かったけど、これがカイコさんの能力……?」
「その通り。ちなみに再現出来るのは味覚だけじゃないぞ、視覚でも聴覚でも……『その者の五感が記憶している現象』ならば再現出来る。限度はあるがの」
「そうなんだ……あっなら……ホノカちゃん本人がいないと駄目なのかぁ」
「む、ホノカとな?」
「うん、亜人族のまだ小さな女の子なんだけど……今日会いに行くからお土産にお菓子を持って行こうかと思ってさ」
「ふむ……その子は何の亜人じゃ?」
「え?えーと……犬系の亜人だね」
「ならば……ちっと待っとれ」
遠古は一度奥の方へ行き、何かの包みを持って戻ってきた。
「これを持っていくがよい。以前ここに来た狼の亜人が注文したお菓子の再現じゃ……同じ犬系の亜人族の子なら好みに合うかもしれん」
「わぁ、ありがとう!えっと……お代はいくら?」
「今回は要らん、初回サービスじゃ。その代わり次はその亜人族の子も連れてまた来るんじゃな」
「……分かった、必ずまた来る!ありがとう、カイコさん」
「うむ。こずっちは何を求めてきたんじゃ?」
「わ、早速こずっちって呼んでくれてる!マジ神〜。じゃ〜アタシは大好きだったカフェのお菓子を再現して欲しいな〜」
「お安いご用じゃ、ちっと待っとれ〜」
先程同様、遠古は奥の方へ行き少しして戻ってきた。幽夜にそうしてくれたように、打手のお菓子も初回サービスでお代は無料にしてくれた。
「ありがとカイカイ!ゼッタイまた来るからね〜」
「今度はホノカちゃんを連れてくるよ。またお願い、カイコさん」
「うむうむ、また来るが良いのじゃ」
遠古が手を振り見届ける中、2人は帰路についた。
燈郷の人々の五感から“思い出”を手繰り、再現することである意味記憶そのものを売る商人……それが遺懐遠古。もし、貴方があの日の思い出のひとときを求めるのなら……彼女を訪ねてみるのもいいでしょう。




