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第一王子派の貴族たちは、第三王子の評判を快く思っていなかった。
「大したことをしていないのに、支持だけ集めている」
「なら、失敗させればいい」
そうして用意されたのが、次の案件だった。城下町の施設改修。予算はあるが、人手が足りない。
「殿下の采配で、ぜひ進めてほしい」
表向きは期待。実際は、現場が回らず混乱すれば責任を押し付ける算段だ。
「殿下、人手が足りませんが、進めるべきかと……」
マルクの報告に、私は即答した。
「人がいないなら、やらない」
それだけだった。
「……よろしいのですか?」
「足りないものは、先に用意する。それができないなら、仕事を増やさない」
前世で何度も見た失敗だ。私は文書を一通出した。
「本件は、人員確保が完了するまで凍結する。兼務、残業、気合による補填は認めない」
余計な説明は付けない。
結果。工事は始まらず、混乱も起きなかった。城下町では、
「無理に人を使わない」
「倒れる者が出なかったな」
と、一部では静かに評価が上がった。一方、第一王子派の貴族たちは困惑した。
「失敗しない……」
「人が足りないのに、なぜ」
答えは単純だ。私は、人手不足の仕事を引き受けなかっただけ。
執務室に、乱暴な足音が響いた。
「第三王子!」
第一王子派の貴族が、許可も待たずに踏み込んでくる。
「なぜ引き受けないのだ!城下町では工事が始まらず、民が困っている!それを王族として見過ごすのか!」
声だけは大きい。
私は書類から目を離さず、静かに答える。
「人がいないからです」
「言い訳だ!」
貴族は机を叩いた。
「王族とは責任を負う者だ!第三王子である貴殿には、その覚悟が足りぬ!」
正統性。血筋。序列。
彼はそれだけを、何度も繰り返した。
(……懐かしいな)
前世の会議室でも、同じ光景を見た。
根拠のない精神論。責任の所在は曖昧なまま。倒れるのは、現場だ。私はようやく顔を上げた。
「でしたら」
声は穏やかだった。
「ご自分で、なさってください」
貴族が言葉に詰まる。
「な、何を――」
「城下町を思うお気持ちは立派です。人手不足の現場を放置できないのでしょう?」
私は立ち上がり、机の上の書類を差し出した。
「この案件、あなたにお譲りします」
そして、にっこりと笑った。
「責任も、すべて」
空気が凍りついた。
「ま、待て!それは第三王子の――」
「いいえ」
私は遮る。
「王族である以上、権限があります。引き受ける覚悟がおありなら、問題ないはずです」
逃げ道は、塞いだ。貴族は何も言えなくなった。
人手はない。失敗すれば、責任は自分。
精神論では、どうにもならない現実だ。
「……検討、する」
そう言い残し、彼は部屋を出ていった。
足音は、来た時よりもずっと静かだった。
マルクが、恐る恐る口を開く。
「……よろしかったのですか?」
「何がだ」
「敵を作ることに……」
私は肩をすくめた。
「仕事を押し付ける相手が、減っただけだ」
そして、飲み物を一口。
(人手不足の仕事を、気合で受けるのは――
一番やってはいけない)
今日も私は、昼までに最低限の仕事を終える。
世界は、驚くほど平和だった。




