表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もし、社畜が異世界の第三王子に転生したら【連載版】  作者: りな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/191

35

随分前に、隣国との文化交流条約が締結された。


その一環として、共同学院の設立が決まった。簡単に言えば、両国から若者を選抜し、同じ屋根の下で学ばせる。言語を学び、歴史を双方の教師が教え、技術を共有する。


寮は混住とし、食堂では両国の料理を出す。

やがて彼らは帰国し、官僚となり、技術者となり、学者となるだろう。その胸のどこかに、もう一つの祖国を抱えたまま。


恩師のいる国。友人のいる国。青春を過ごした国。戦は命令で始められる。

だが、心まで従わせることはできない。


学院設立の準備は、順調に進んでいるように見えた。教官の選定、予算の調整、建物。

両国の文官たちは頻繁に書簡を交わし、細部を詰めていく。そんな折、隣国から王宮宛に正式な書簡が届いた。


王宮の評議室。隣国からの書簡が読み上げられる。

「学院設立の準備にあたり、構想を主導された第三王子殿下の御臨席を願う」

空気が凍る。

第一王子は、しばし沈黙した。

条約は国を前に進める。だが、弟を危険に晒すことも事実だ。第一王子の指先が、机を叩いた。それは怒りというより、思考を断ち切るための動作だった。

すぐに彼は手を引き、淡々と告げる。

「……国益に適うなら、行かせよう」


宰相は静かに言う。

「強国が我らの王子を招く。安全は保証されぬ」

王は第三王子を見る。

「そなたはどう思う」

第三王子は一歩進み出る。

「行かせてください」

第一王子が睨む。

「敵地だぞ」

「敵地のままでは、学院は成立しません」

沈黙。

「強国が立案者を求めるのは、軽視ではありません。本気かどうかを測っているのです」

王が問う。

「戻れぬかもしれぬぞ」

「戻れぬなら、それがこの条約の価値です」

静寂。

「私があちらにいる限り、彼らは剣を抜きづらい」

宰相が目を細める。

「人質になるおつもりか」

「違います。信頼の証です」

王はゆっくり頷く。

「……許す」

第一王子の拳が、卓上で静かに握られる。

「必ず帰れ」

その言葉が落ちた瞬間、部屋の空気が張り詰めた。窓辺の旗がかすかに揺れただけで、誰も息を継がない。

第一王子の瞳は揺れていない。

だが、その奥には王太子ではなく、兄の光があった。



私は命を受けたその日から、動いた。

担当していた案件を洗い出し、急ぎでないものは宰相へ。財務に関わるものは評議会へ。

最終決裁を要するものは、書簡にて私へ回すよう手配する。

机の上から書類の山が減っていく。

その日、私はマルクを呼んだ。

「隣国へ赴くことになった」

マルクは黙って聞く。

「強国だ。礼は尽くすだろうが、安全が約されたわけではない」

わずかな沈黙。

「お前を伴うつもりでいる。……異論はあるか」

マルクは間を置かず、膝を折った。

「仰せのままに」

私は小さく息を吐いた。

「命を預けることになる」

「既に、お預けしております」

視線が合う。

「必ず帰る」

「殿下が帰られるならば、私は帰ります」

その声音に迷いはなかった。



マルク視点


執務室の扉が、重く閉まった。

内側では、まだ書記官の羽根ペンが走っているだろう。条約文の写し、学院設立の通達、隣国への返書――殿下は既に次の一手を考えておられる。

廊下は、僅かに冷たい。窓から差す光が、長い影を落としていた。

軍事協力の条約は結ばれた。互いに兵を向けぬと誓い、技術と知を分かち合うと署名した。

だが――紙の上の盟約が、刃を止める保証にはならない。


……いざという時は、その刃が殿下に届く前に、私が立つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
王様やっと出てきたな。第一王子と第三王子以外の王族が影が薄い。王族だからあんまり家族感ないのかと思ったら兄っぽい所もあった。
第一王子、弟に生きて帰れと言った時点で初めて人として見れました。 (今までは王国運営のための歯車みたいなイメージ)
これで殺すなら第三王子が余程ヘマしたと考えるべきだが……。 隣国の狙いは祖国からの切り離しによる中立化とあわよくば自国の奴から婚約者を見繕う、あわよくば完全に取り込む気だと思うけどね。 殺されたな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ