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もし、社畜が異世界の第三王子に転生したら【連載版】  作者: りな


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3/6

3

元社畜だった私は、今日も昼までに最低限の仕事を終えた。無理をしない。それが信条だ。

 書類を整え、飲み物に手を伸ばした、その時。控えめなノックとともに、文官マルクが入ってきた。

「殿下、報告が――ごほっ、ごほ……」

 嫌な咳だった。私は即座に飲み物を置く。

「体調には気をつけろ。辛いなら、今すぐ帰れ」

 業務効率以前に、病人を働かせる意味がない。だがマルクは首を振った。

「これくらい、大丈夫です。それより心配なのは、城下町です。咳が長引く病が流行っていて、すでに死者も出ているそうです」

 私は眉を寄せ、執務室の外へ視線を向けた。廊下を行き交う文官、近衛兵、侍女。

 よく見れば――咳をしている者が、確かに多い。

(……おかしい)

「担当部署はどこだ」

「衛生管理局です。しかし――」

「しかし?」

「単なる風邪だと判断し、様子見をしているようで……」

 私は深く息を吐いた。

(様子見で死人が出る。前世で見たことのある光景だ)

「分かった。私が動く」

最低限で最大の指示。私が出した指示は、多くない。

 一つ目。咳の症状がある者は、全員即時自宅待機。

 二つ目。城下町の診療所と薬師に通達し、同一症状の患者数と経過を即日報告させる。

 三つ目。衛生管理局に命じ、人が密集する施設の換気、寝具の消毒、共用食器の使用停止を徹底。

 そして、最も重要な一言を添えた。

「病人を働かせた責任は、管理者が取る」

 それだけで、現場は動いた。


 半日で報告は揃った。

 病の正体は、空気中に残りやすい感染性の咳病。重症化する前に休養すれば回復するが、無理をすると一気に悪化する。

 つまり――働かせ続けたのが、致命的だった。

 衛生管理局は軽症者を放置し、結果、城と城下町で感染を広げていた。

 私は即座に判断を下した。

「治癒するまで復帰禁止。破った部署は、評価を下げる」

 それ以上の罰は与えなかった。無駄だからだ。


 数日後。城下町では咳をする者は目に見えて減り、二週間も経つ頃には、新規患者の報告は途絶えた。

 城でも、病は急速に終焉した。執務室に戻ったマルクは、まだ少し掠れた声で言った。

「殿下、ありがとうございました。被害は最小限で済みました」

 私は彼をじっと見た。

「……お前」

「は、はい」

「病人が働くのは駄目だ」

 マルクが固まる。

「お前が倒れたら、その仕事は誰が引き継ぐ。美談にも忠誠にもならない」

「……申し訳ありません」

「次に同じことをしたら、強制的に休ませる」

 それが、私なりの説教だった。


 私は定時に席を立ち、外套を羽織る。

(無理をしない。だが、放置はしない)

 元社畜として、それだけは譲れなかった。


 後日。城下町では、医師と薬師が小声で話していた。

「殿下の判断で、助かった患者は多い」

「病人を休ませる。それを通した王族は、初めてだ」

 彼らは派閥を作るつもりはなかった。ただ、あの方が困った時は助けようと決めただけだ。


今日もマルクに聞く。

「問題は?」

「ありません」

「ならいい」

 それだけだった。

 今日も定時。私にとっては平和なら、それで十分だった。


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― 新着の感想 ―
↓コロナもインフルも強制出社禁止やぞ。 そうじゃなかったならそれは上が無能なだけだ。 第3王子以外は何もしないから判断仰ぎに来てるのかな?
作者は働いた事無さそう 休ませれば良いなんて太鼓の昔から誰もが知っているが、それが現代でも出来ないのは休まれるとシステムが回らないから 休ませたら社会問題が解決しましたなんて子供でも騙せないでしょ
第三王子権限を超えている<  確かにそうなんですが王子付きの文官がその案件を持ってきて(担当部署から相談されて)いるという時点で城内に重大事ではないけど何かモヤモヤするっていう案件は第三王子に持ってい…
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