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もし、社畜が異世界の第三王子に転生したら【連載版】  作者: りな


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近頃、第一王子のもとには、ある名が頻繁に届くようになっていた。

第三王子、レオンハルト。

報告の端々に、噂話のように混じっている。

改修工事のやり取り。領地運営への助言。文官たちの間での評価。

どれも、総じて良い内容ばかりだった。

「聡明だ」

「実務に強い」

「指示が的確だ」

だが同時に、別の声も混じる。

「出過ぎではないか」

「目障りだ」

「いずれ厄介になる」

第一王子は、報告書を机に置いた。

レオンハルト。あの、目立たない弟が。幼い頃から、彼は控えめだった。自己主張も少なく、競うこともなく、いつも一歩引いた位置に立っていた。

剣も、学問も、決して劣ってはいなかったが、わざわざ目立とうとはしなかった。だからこそ、気に留めることもなかった。

王位を巡る競争相手と、見なしたことすらない。

第一王子の記憶にあるレオンハルトは、いつも静かに本を読み、必要なときだけ口を開き、そして、すぐに下がる少年だった。

誰の邪魔もせず、誰とも争わない。それが、今はどうだ。

自ら前に出ているわけではない。だが、周囲が勝手に彼の名を持ち出す。

「第三王子に相談してみてはどうか」

「現場をよく見ている」

まるで、静かに張り巡らされた糸のように、

気づけば、あちこちにレオンハルトの影がある。


第一王子は、椅子にもたれた。

目立たないということは、時に最も厄介だ。敵として現れる者よりも、気づけば周囲の信頼を集めている者の方が、はるかに扱いづらい。

しかも、それが、あの弟だということが、妙に引っかかった。

(あれは、そんな男だったか……?)


最後に、あれと直接言葉を交わしたのは、いつだったか。第一王子は、ふと記憶を探った。

確か――あの時。少々、厳しいことを言った気がする。忠告のつもりだった。甘さを戒めるつもりでもあった。

王族として、あるべき姿を説いたのだ。だが、去り際のレオンハルトの表情が、妙に暗かったことだけは、はっきり覚えている。

あのとき、あれは何かを言いかけて、飲み込んだように見えた。

あれ以降、だったか。

いや、まさかな、と自分で打ち消す。

あの程度の言葉で、何かが変わるはずがない。そう思った。



だが、夜会でちらりと見かけたとき、確かに違和感があった。王族特有の銀色の髪に、

静謐を湛えた蒼眼。少し高い背は、遠くからでもすぐに見つけられる。

人混みの中にいても、自然と視界に入る。

そのレオンハルトが、貴族と長々と言葉を交わしていた。

あれは、珍しい光景だった。

これまでのあれは、挨拶こそ丁寧だが、会話は短い。必要以上に踏み込まず、踏み込ませず。

それが、相手の話に耳を傾け、時に自ら言葉を返している。遠目にも分かった。

ただの社交ではない。話を、している。

(珍しい……)

そう思っただけだったはずなのに、妙にその光景が記憶に残っている。


もしかすると。あの去り際の、暗い表情のあとから――あれは、変わり始めていたのかもしれない。


クロウフォード家のリディア嬢が、夜会の最中、レオンハルトを睨むように見つめていた姿は、妙に印象に残っている。燃えるような赤みを帯びた栗色の髪と、鋭く光る琥珀の瞳。

あれは、敵意というより――苛立ちに近かった。視線だけで、何かを訴えているような、そんな目だった。

その後の彼女の動きは、正直なところ、理解不能だったが。意を決したように場から出ていったかと思えば、しばらくして肩を落として戻ってきた。顔色も、先ほどまでの気迫が嘘のように沈んでいる。

どうやら、目論見は失敗したらしい。


だが――後日、耳に入った話が、妙に引っかかっている。リディア嬢と、レオンハルトが、手紙のやり取りをしているという。

あの夜会のあとで、だ。

あれほどの表情を向けておきながら、手紙、だと?理解が追いつかない。

だが同時に、妙に気になる。


第三王子の名を耳にする機会が増え、それに伴い、私のもとへ寄ってくる貴族たちの声色も変わった。

「いずれ目障りになります」

「今のうちに手を打つべきかと」

「早々に排除を――」

そんな言葉を、さも当然のように口にする者までいる。

無用だ。私は、その話題に対して、何も言わない。肯定も、否定もしない。ただ、聞き流す。

なぜなら、それは国の益とは関係のない話だからだ。王族同士の感情や、貴族の思惑など、どうでもいい。



清も、濁も、選り好みはしない。

国が前に進むのなら、それでいい。

それが、私の統治だ。


ただひとつだけ、譲れないものがある。

亡くなった婚約者は、最期にこう言った。

――国を、お願いします。

新しい人を迎えてほしい、とは言わなかった。

私の隣を、誰かで埋めてほしい、とも。

あれ以来、私の隣は空白のままだ。

だが、それを誰かに理解してもらう必要はない。王位の継承は、制度でどうにでもなる。国の未来に支障が出ない形は、すでに考えてある。血統も、体制も、国家運営も。

だからこそ、私はこの国を継ぐ者として、最大限国に尽くす。



だが、それでも。心だけは、あのときのままだ。統治者としての責務と、ひとりの人間としての想い。

その両方を抱えたまま、私は王座に就く。

……自分への許しが、誰にだって必要だ。

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― 新着の感想 ―
まあ、実際レオンがやってるのは状況の整理なので 臣の器だろうなとは思う。
 この第一王子の周りに集まっている貴族の誰かが、権力争いのために、亡くなった婚約者を排除したということかな。  ろくでもない貴族達が、多く集まっているようだから。
第一王子を批判するコメントがあるが第一王子が主人公を守ってあげる必要性を感じない。 おそらく主人公だから守られるべきだという考えなのだろうが自分の言動によって周りの反発があるのであれば己で身を守るべき…
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