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私は、兵士たちの訓練の様子を見に行った。
以前、訓練時間の改正を命じていたためだ。
もし、私が提案したことが負担になっているのなら、直す必要がある。
順調に進んでいるのなら、それで良い。
兵士の訓練の様子を、しばらく眺めた。顔色の悪い者はいない。身体がふらつく者も見当たらない。
秘かに、安堵する。無理をして壊れる者を、可能な限り、出したくない。
戻ろうとした、そのとき。どこか苛立った声が聞こえてきた。
「どうして、無いんだ」
「昼にはなかった。だから、見つけておけって言っただろう」
「朝は、あったんだ」
どうやら、何かを紛失したらしい。
しかもそれは、ただの道具ではないようだった。
耳を澄ますと、「鍵」という言葉が混じる。それも、古い鍵らしい。
一人の兵士が、何も言わずにその場を離れ、周囲を探し始めた。まずは、周りを見た。次にしゃがみ込み、地面に視線を落とし、物の影を丁寧に確認していく。
しばらくして、彼は何かの箱と箱の隙間に手を伸ばした。
「……これか?」
指先に摘ままれていたのは、黒ずんだ古い鍵だった。
「それだ」
「どこにあったんだ」
二人は、同時に声を上げる。鍵が見つかった場所は、本来の保管場所からそう遠くない。落ちた拍子に転がり、誰かの足で蹴られでもしたのだろう。その位置は、少し視線を落とせば気付ける場所だった。
しかし彼らは礼を言うでもなく、再び言い争いを始めた。どうやら最初から、ろくに探してもいなかったらしい。
私は、つい口を出した。
「礼は、ないのか?何故、昼の時点で探さない。言い争いは、無駄な時間だ」
言い争っていた二人は、黙り込んだ。
「きっと、そのときは忙しかったり、他に用事があったのかもしれない。しかし、そのままにしておくのは良くない」
私はそう続けてから、見つけ出した兵士に目を向ける。
「礼を言うといい」
言い争いをしていた兵士たちは、ようやく口を開いた。
「ありがとう」
「助かった」
形だけの礼だった。苦々しい表情を隠そうともせず、お互いに目配せをしていた。
私は何も言わなかった。
言うべきことは、すでに言ったからだ。
……その態度が自分自身を貶めているということは、他人に指摘されて理解するものではない。いずれ、自分で気づくしかないことだ。
気づくか、気づかないか。
人は常に、人を見ているというのに。
私は思う。
対応も、礼儀も、判断も。すべては、自らの意識の積み重ねによって形作られていくものだ。
だからこそ――私自身も、常に心していなければならないのだろう。
その場を離れ、歩き始めた。あの二人は、また何か話し始めた様子だった。
その様子を背にしながら、ふと思い出す。
最近、ひそやかな声が、上がっているらしい。
――第三王子は、煩わしい。
――口煩い。細かすぎる。
そう囁く者もいる。だが一方で、
――あの方は、よく見ている。
――言っていることは、間違っていない。
そう言う者もいるらしい。
マルクがそれを耳にして、私に言ったことがあった。
「殿下、あまり細かく口を出されるのは、どうかと」
私は答えた。
「上に立つ者は、時には嫌がられるものだ。それを怖がってはいけない」
正しいと思う道を、選ぶべきなのだ。
たとえそれが、人に疎まれる選択であったとしても。
ふと、空を見上げる。
陽はすでに傾き、訓練場に長い影を落とし始めていた。兵士たちは片付けをし、いつものように持ち場へ戻っていく。
慌ただしさもなく、焦りもない。
規律どおりの、整った動きだった。
今日も、定時。
平和だった。




