20
私はクロウフォード家当主からの手紙を受け取った。封蝋は丁寧に押され、紙質も上等だ。形だけの礼ではないと、触れた瞬間にわかる。
封を切り、読み進める。
そこには、まず娘の無礼に対する深い詫びが記されていた。だが、それ以上に多くを占めていたのは――感謝だった。
第三王子殿下
この度は、我が娘の拙い振る舞いに対し、貴重なお時間を割き、数々のご教示を賜りましたこと、クロウフォード家当主として、深く御礼申し上げます。
頂戴したご助言は、単なる助言に留まらず、
我が領地の停滞を打破するための、明確な道筋でございました。
早々に、街道の仮補修に着手し、鍛冶職人の呼び戻しと、遊水地の候補地選定を開始します。
結果が出るまでには時間を要するでしょう。
しかしながら、我々はもはや迷っておりません。示していただいた順序を、一つずつ実行に移して参ります。
未熟な娘ではございますが、この経験は必ずや、将来の糧となるはずです。
今後とも、ご指導ご鞭撻を賜れましたら幸いに存じます。
クロウフォード伯爵
私は、静かにうなずいた。
文面に、無理がない。見栄も、過剰な飾りもない。ただ、実行している者の言葉が並んでいる。
そして、封筒の中には、もう一通、手紙が入っていた。筆跡が、少しだけ荒い。リディアからだった。
私は、わずかに眉を寄せた。
……厳しく、叱られたのだろうか。
第三王子殿下
先日は、大変失礼な態度をお見せしましたこと、改めてお詫び申し上げます。
私は「考えたつもり」になっておりました。
ですが、自分がどれほど足りていなかったのか、思い知らされました。
今は、父と共に、示していただいた順序を一つずつ形にしています。
紙の上では見えなかったものが、現場でははっきりと見えます。人が動き、金が巡り、領地が息をし始める様子を、見ていこうと思います。
教えてくださったことに、心から感謝しております。
いつか胸を張って、もう一度資料をお見せできるよう、努めます。
リディア・クロウフォード
読み終え、私はわずかに微笑んだ。
第三王子殿下より
クロウフォード伯
貴書、確かに受け取った。事情は理解した。
領地の現状を直視し、即座に動きに移されること、見事である。
急な方針転換は、貴殿にも少なからぬ負担であったはずだ。まずは身体を労われよ。
結果は時を要するだろう。だが、正しい順序で進んでいる限り、憂うことはない。
また、令嬢の件については、すでに意に留めていない。あの行動は、貴殿の領地が領民に真摯に向き合っている証と受け取っている。
書面からも、そして動きからも、貴殿の統治の確かさが伝わった。
そのような領主のもとであれば、領地は必ず立て直る。
今後、必要とあらば遠慮なく申し出よ。巡りを戻そうとする領地に、国は惜しみなく手を貸す。
第三王子
リディア・クロウフォード殿
先の件は、すでに意に留めていない。
あれは私に向けられたものではなく、領民を思う真剣さゆえの言葉だと理解している。
自ら考え、動き、責任を負おうとした姿勢は見事だった。
領地を思う者の行いに、咎はない。示された順序を、一つずつ形にしていけばよい。
現場に立ち続ければ、心も体も思う以上に疲れる。無理はするな。
結果は、後から必ずついてくる。
そして、覚えておけ。頼ることを厭う必要はない。それは弱さではなく、国の将来に繋がる選択だ。
励むように。
手紙を重ね、端を揃える。
よし。今日も定時だ。
……文章というのは、不思議なものだ。
考えを書けば、必ずその人間が出る。
癖も、迷いも、性格も。
だからこそ、読む価値がある。
そして――書くというのは、存外に難しい。




