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もし、社畜が異世界の第三王子に転生したら【連載版】  作者: りな


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18

私は、再び手紙を受け取った。

厚さは、前の半分以下に減っている。封を切る前に、わずかに口元が緩んだ。

――読ませる形に、なったな。

中身を取り出す。紙は少ない。だが、視線が迷わない。

・現状の問題点

・原因の推測

・数字の要約

・優先順位

ようやく、「考えた資料」になっていた。私は椅子に深く腰を下ろし、頁を開く。水害。農具の破損。鍛冶職人の減少。街道の遅れ。交易の停滞。繋ぎ方は正確だ。だが――

「金の話が、ない」

小さく呟く。ペンを取り、余白に書き込む。

第一優先:街道の応急整備

完全な補修は不要。人と荷車が通れる状態を、最速で作ること。

そのための資金は――今年予定していた堤防建設費を、半分だけ回す。堤は今すぐ作らなくても、今年は持つ。だが、街道は今直さなければ、領地が止まる。

さらに、

・街道整備は領民を労働力として使える

・賃金を払うことで、領内に金を回せる

・結果として、税収の下支えになる

これは支出ではなく、循環を戻すための投資だ。

第二優先:鍛冶職人の確保と仮工房の設置

街道が通れば、鉄と炭が入る。

職人には、三年分の税の減免を提示する。費用は、今年の貴族向け交際費と、不要な祝祭予算を削ることで賄える。今、見栄に金を使う意味はない。

第三優先:堤と土地整備

街道と農具と職人が戻り、税収が回復してからでよい。その頃には、堤を作るための金は、自然と戻っているだろう。

私はペンを止めた。

そして、最後の頁に書き加える。

問題は正しく捉えられている。

だが、領地経営において最も重要なのは、

「何をやるか」ではなく、「どこから金を出すか」と「順序」だ。


……だが、まだ足りない。

私は新たな紙を取った。


水害について。

堤を築くことを考える前に、川沿いの低地を調べること。そこを遊水地として指定する。

遊水地とは、水を止めるのではなく、意図的に逃がす場所。増水時に一時的に水を受け入れさせることで、本流の氾濫を防ぐ。

堤は金も時間もかかる。失敗すれば被害は拡大する。だが遊水地は、土地を区切るだけで始められる。被害を抑えつつ、領地の巡りを止めない。水は、塞ぐよりも、逃がした方が安くなる。

まずは巡りを戻す。守るのはその後で良いだろう。


書き終え、私はペンを置いた。

説明は最小限でいい。

理解できる者には、これで足りる。

できない者には、何枚書いても同じだ。


紙をまとめ、封をする。マルクに手渡した。

「返せ」

「ご指導は、以上でよろしいですか?」

「ああ。これで十分だ。……あとは、どう言葉を返してくるかだな」

マルクは、わずかに苦笑した。

「リディア嬢は、なかなか骨のある相手になりそうですね」

私は肩をすくめる。

「ようやく、領主の思考に近づいてきた。ここから先が楽しみだ」



椅子にもたれる。

目が少し疲れている。肩も凝っている。

だが、この程度なら問題ない。

寝れば、治る。

今日も、定時だ。


誠実には、誠実で返す。

――この疲れなら、悪くない。

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― 新着の感想 ―
派閥でもなく記憶にない領地でも、無料でコンサルする理由は、王子(王族)だからで事足りるのでは? 返信を基にしただけで、問題点に気付いたのは令嬢自身ですし。 仕事をしようとする領主(娘ですが)への助言…
派閥でも無く名前も記憶に無かった領地のコンサルタントを無償でする理由が欲しいですね。 せめて派閥の貴族家で知己のある令嬢だったりするなら納得出来るんですが。 いくら社畜でも関係のない他社の仕事をした…
嬢の話になってから思ってましたが、王族と領主というより、先生と生徒の話みたいですね。嬢の成長に期待。
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