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私は、再び手紙を受け取った。
厚さは、前の半分以下に減っている。封を切る前に、わずかに口元が緩んだ。
――読ませる形に、なったな。
中身を取り出す。紙は少ない。だが、視線が迷わない。
・現状の問題点
・原因の推測
・数字の要約
・優先順位
ようやく、「考えた資料」になっていた。私は椅子に深く腰を下ろし、頁を開く。水害。農具の破損。鍛冶職人の減少。街道の遅れ。交易の停滞。繋ぎ方は正確だ。だが――
「金の話が、ない」
小さく呟く。ペンを取り、余白に書き込む。
第一優先:街道の応急整備
完全な補修は不要。人と荷車が通れる状態を、最速で作ること。
そのための資金は――今年予定していた堤防建設費を、半分だけ回す。堤は今すぐ作らなくても、今年は持つ。だが、街道は今直さなければ、領地が止まる。
さらに、
・街道整備は領民を労働力として使える
・賃金を払うことで、領内に金を回せる
・結果として、税収の下支えになる
これは支出ではなく、循環を戻すための投資だ。
第二優先:鍛冶職人の確保と仮工房の設置
街道が通れば、鉄と炭が入る。
職人には、三年分の税の減免を提示する。費用は、今年の貴族向け交際費と、不要な祝祭予算を削ることで賄える。今、見栄に金を使う意味はない。
第三優先:堤と土地整備
街道と農具と職人が戻り、税収が回復してからでよい。その頃には、堤を作るための金は、自然と戻っているだろう。
私はペンを止めた。
そして、最後の頁に書き加える。
問題は正しく捉えられている。
だが、領地経営において最も重要なのは、
「何をやるか」ではなく、「どこから金を出すか」と「順序」だ。
……だが、まだ足りない。
私は新たな紙を取った。
水害について。
堤を築くことを考える前に、川沿いの低地を調べること。そこを遊水地として指定する。
遊水地とは、水を止めるのではなく、意図的に逃がす場所。増水時に一時的に水を受け入れさせることで、本流の氾濫を防ぐ。
堤は金も時間もかかる。失敗すれば被害は拡大する。だが遊水地は、土地を区切るだけで始められる。被害を抑えつつ、領地の巡りを止めない。水は、塞ぐよりも、逃がした方が安くなる。
まずは巡りを戻す。守るのはその後で良いだろう。
書き終え、私はペンを置いた。
説明は最小限でいい。
理解できる者には、これで足りる。
できない者には、何枚書いても同じだ。
紙をまとめ、封をする。マルクに手渡した。
「返せ」
「ご指導は、以上でよろしいですか?」
「ああ。これで十分だ。……あとは、どう言葉を返してくるかだな」
マルクは、わずかに苦笑した。
「リディア嬢は、なかなか骨のある相手になりそうですね」
私は肩をすくめる。
「ようやく、領主の思考に近づいてきた。ここから先が楽しみだ」
椅子にもたれる。
目が少し疲れている。肩も凝っている。
だが、この程度なら問題ない。
寝れば、治る。
今日も、定時だ。
誠実には、誠実で返す。
――この疲れなら、悪くない。




