表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もし、社畜が異世界の第三王子に転生したら【連載版】  作者: りな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/18

14

ある日のことだった。第一王子から告げられたのは、出たくもない夜会への出席命令。

「王族の義務だ。出るように」

正直、面倒だと思いながらも、最低限だけ顔を出すつもりで会場へ向かう。

(顔だけ出して、挨拶して、すぐ帰ろう)

そう決めていたはずなのに、会場の隅に辿り着く前に捕まった。

「殿下」

声をかけてきたのは、地方を治める貴族だった。年の頃は中年。人当たりは柔らかいが、目はよく動く。

「商人から、損害保険の話を聞きました。実に素晴らしい仕組みです。そこで思ったのですが――」

彼は、少し声を潜めた。

「この保険制度を、農民にも広げてはどうでしょう。凶作や災害に備える仕組みとして、非常に有効かと」

……なるほど。発想自体は、悪くない。

だが、私は即答した。

「必要ありません」

間があった。彼が瞬きをした。

「と、仰いますと……?」

「農民にとっての“保険”は、すでにあります」

私は、淡々と続けた。

「凶作の年には、年貢を減免する。種や農具を貸し出す。次の収穫までの生活を、領主が支える」

周囲にいた貴族たちが、静かに耳を傾け始めているのが分かる。

「つまり――本来、その役割を担うのが、領主です」

私は、相手を見た。

「もし農民が、保険料を払わねば生き残れないなら。それは、領主が保険の代わりを果たしていない、ということになります」

沈黙が落ちた。

音楽も、笑い声も、まるで一歩後ろに下がったかのように感じられる。

私は、その空気の中で、内心を整理する。

(保険は責任を分ける契約だが、領地経営は責任を背負うことから始まる。赤字をどう支えるかで、領主の手腕が決まる)

貴族は言葉を探していた。だが、すぐには見つからなかったようだ。周囲も同じだった。


その輪の少し外で、一人の伯爵令嬢が、第三王子を射るように見ていた。

その視線は、敵意か、興味か、あるいは――計算が混じっているのか。


私は、ようやく気づく。

(これ、責めてるように聞こえたか?)

意図は単純だった。役割の整理をし、制度の重複は無駄になる、と言っただけ。

だが――夜会という場所で、「領主の責任」を正面から口に出すのは、どうやら歓迎される話題ではなかったらしい。

誰かが咳払いをし、誰かが視線を逸らした。

私は、グラスを置く。

(……やらかしたか)

まあ、いい。嘘は言っていない。

当初の予定通り、私は静かに会場を後にした。夜風が、ひどく心地よく、中庭でほんの少し涼む。

(やはり、夜会は性に合わない)



貴族たちより

第三王子の言葉が落ちた瞬間、夜会の空気が、目に見えて変わった。

(……今の、聞いたか?)

誰も声には出さない。だが、同じ思いが、あちこちで交錯していた。

保険制度を農民に――その提案自体は、善意に聞こえた。実際、商人たちの間では評判も良い。

だが、それに対する第三王子の返答は、あまりにも真っ直ぐだった。

「それは、領主の役目です」

柔らかくもなく、攻撃的でもない。ただ、事実を並べただけ。それが、余計に刺さった。

(……責められたわけではない)

ある貴族は、背中に冷たいものを感じた。

凶作の年、年貢をきちんと減らしたか。貸すべき農具を、回したか。形だけの救済で、済ませてはいなかったか。

別の貴族は、舌打ちしそうになるのを堪えた。

(なぜ、こんな場で言う。夜会だぞ。建前の場だ)

だが同時に、反論の言葉が浮かばない自分にも気づく。第三王子は、誰かを名指ししたわけではない。糾弾も、非難もしていない。

ただ――「役割」を、正確に言語化しただけだ。

だからこそ、自分の胸に、勝手に入る。

また、若い貴族の一人は、少し違う感想を抱いていた。

(……あの方、怖いな)

声を荒げない。威圧もしない。

それなのに、誤魔化しが通じない。

(あれは、無自覚に正論を出す人間の目だ)

夜会向きではない。だが、統治者向きではある――そんな考えが、頭をよぎる。


やがて、第三王子は場を辞した。

引き止める者は、誰もいなかった。

残された貴族たちは、ようやく小さく息を吐く。

「……重い話題だったな」

「夜会で出す話ではない」

そう口にしながらも、誰一人として、「間違っている」とは言わなかった。

言えなかったのだ。

その夜、何人かの貴族は、自分の領地の帳簿を思い浮かべながら眠りについた。

第三王子の名は、その夜を境に、貴族たちの間で少しだけ違う評価が囁かれ始める。

――扱いづらいが、目を逸らしてはいけない王子、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
遅くなりましたが、この回よんだときも、「1領地に所属する農民の保険役は領主だから、領主達から税金貰ってる(?)王族(というか国)が領主達の保険役だよね」って思ったんですけど、王子がそれを言っちゃったら…
夜会だから定時じゃないけど、義務ならしゃーない、まぁ美味しいもの食べてとっとと帰ろう!w
正論だけを振りかざす人は統治者には向かない。 政治ではなく役人向きです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ