第6話 この世界での目的
青金鉱を持って鍛冶屋ハルドの工房へ向かった。
怜が扉を開けると、ハルドは振り向き、目を丸くした。
「おいおい、ほんとに取ってくるとはなぁ!」
怜が青金鉱を差し出すと、ハルドは手に取り、にやりと笑う。
「見事だ。しかもこんな純度の高い鉱石……滅多にお目にかかれねぇ」
「そういえば、鉱山のモンスターを倒したらこれが出てきたんだが、何か知ってるか?」
怜は懐から、ストーンリザードの落とした灰色の石を取り出した。
ハルドは手に取るなり、目を細めた。
「これは……魔物の《コア》だな。一定以上の魔物が、ごくわずかに落とすお宝品だ。」
「運がいいな。コアを武器に混ぜれば一段と鋭く強くなる。」
ハルドは作業台を叩き、笑った。
「気に入ったぜ。お前のために最高の武器を作ってやる。どんなのがいい?」
怜は少し考え、答えた。
「鎌がいい。俺と同じくらいの大鎌で頼む」
「……鎌、だと? 珍しい武器を選ぶじゃねぇか」
怜は短く頷く。片手で使う短剣くらいのサイズの鎌も考えた。
《WARLDS》の時の戦闘スタイルのようにすることはできるが、
あれは火力不足を手数で補うためのスタイルだ。
だが――今回はAGI特化に加えて、STRも両立できるなら、もっと火力を出せる。
《WARLDS》で最強の火力武器は大剣だった。
なら、同サイズの“鎌”ならどうだ。なかなか面白いスタイルになりそうだ。
「取り回しがしやすいように軽いのだと助かる」
「分かった。任せておけ、すぐに取りかかる。明日の朝、取りに来な」
ハルドは笑い、早速作業に取りかかった。
***
工房を出ると、アリシアが隣で嬉しそうに言った。
「ありがとうございました。冒険って、楽しいですね!」
「君は初めてにしては大活躍だったな」
「えへへ……怜さんは冒険者なんですよね? ランクはどれくらいなんですか?」
「ランク? 冒険者?」
怜は初めて聞く単語に眉をひそめた。
「冒険者じゃないってことは、その実力でギルドに加入してないってことですか!?
C級冒険者って言われてもおかしくないですよ!」
(C級?ギルド?……そんな仕組みがあるのか)
話を聞くとどうやら、この世界では“冒険者”と呼ばれる職業が存在するらしい。
魔物を倒して素材を売ったり、依頼を受けて報酬を得る人々。
彼らはギルドに登録し、そこから依頼や任務を受ける。
「なるほどな……」
面白い仕組みだ。
特に気に入ったのは、強さがランクで明確に分けられているところ。
Fから始まり、E・D・C・B・A、そして最上位のS。
Sランクともなれば、国に十人ほどしかいないという。
――上に行くほど、実力そのものが証明される。
単純で、分かりやすい。
怜は空を見上げた。
この世界に――訳も分からず転移させられてから、
何のために生きるのかも分からなかった。
けれど今、ようやく見えた気がする。
強さを求める理由。
それは、この世界で“自分の存在”を証明するためだ。
どれだけ理不尽な世界でも、強さだけは嘘をつかない。
誰に奪われることも、否定されることもない。
Sランクを目指そう。
この世界で――“自分が何者なのか”を証明するために。
そのために、まず――冒険者になる必要がある
「そのギルドはどこにあるんだ?この村にあるのか?」
「この村にはありません。北の都市にあります。そこなら冒険者も多いです」
「北、か……」
コンパスや地図があればいいんだが、この村で少し探してみるか。
「あの!」
「私も……一緒に行っていいですか?」
アリシアはまっすぐ怜を見上げていた。
「私、冒険者になるの、ずっと夢だったんです。
でも、一人じゃ怖くて踏み出せなかった。
怜さんとなら……きっと楽しいと思うんです」
怜は少し黙り、彼女を見つめた。
――彼女の支援がなければ、あのリザードには勝てなかった。
それに、土地勘のない俺にとって、案内役がいるのは助かる。
しばらく考えたのち、短く答えた。
「……よろしくな」
「はいっ!」
アリシアが満面の笑みを浮かべる。
怜はほんの少しだけ口の端を上げた。
誰かと行動を共にするのは、効率的じゃないと思っていた。
だが、なぜだろう。
今は――少しだけ、前を向ける気がする。




