表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

第4話 鉱山への道

朝靄の村の外れ。

腰の短剣を確かめ、荷を最小限にまとめた。

冷たい風が頬を撫でる。出発するにはちょうどいい時間だ。


背後から、軽い足音が近づいてくる。


「怜さん!」


振り向くと、白いローブを羽織ったアリシアが息を弾ませて立っていた。

手には杖と、小さな薬草袋。


「……何のつもりだ」

「鉱山に行くって聞きました。私も連れていってください」


「やめておけ。遊びで行くような場所じゃない」


アリシアは唇を噛み、まっすぐこちらを見上げてくる。


「それでも行きたいんです。

 この村から出たことがなくて……一度でいいから、“冒険”をしてみたいんです」


「遊びじゃない。死ぬかもしれない」

「……分かってます。でも、この村にずっと閉じこもってる人生なんて嫌なんです」


杖を握り直し、少しだけ声の調子が変わる。


「私、ヒールだけじゃなく支援魔法も使えます。

 戦いの場なら、少しは力になれるはずです」


「……バフも使えるのか」


バフ持ちのヒーラー。確かに、サポート職としては貴重だ。

それに、今の自分はまだ一人では戦力が足りない。

理屈で考えれば、同行を拒む理由は――ない。


「それに、まだお礼をできてません。今度は私が手伝わせてください」


短い沈黙。

腰の短剣を軽く叩き、言葉を絞る。


「……ついてこい」

「はいっ! ありがとうございます!」


***


山道は、森よりも荒れていた。

岩肌がむき出しで、風が土埃を巻き上げている。

足を取られぬよう慎重に歩きながら、周囲に視線を走らせる。


「思ったより……静かですね」


その瞬間――山の奥から、低い唸り声が響いた。


短剣を抜く。

灰色の毛並み、血走った目。

森で見た魔物より一回り大きい狼が、牙をむき出しにしていた。


「下がっていろ」


次の瞬間、狼が跳びかかる。

その勢いをいなして、喉を一直線に狙う。


刃が走り、狼は一瞬で崩れ落ちた。


(……これが、バルドの短剣か)


この世界に来てから、初めてまともな武器を握った。

《WARLDS》で使い慣れた短剣と同じ感覚。

刃の重みも、振り抜きの感触も、思った以上に馴染む。


そのまま数体の魔物を斬り伏せながら、山道を進んだ。


「怜さんって、本当に強いですね!」


アリシアの声に、肩越しに返す。


「バルドの短剣の切れ味がいいんだ。

 前までは、こんなに簡単に森は抜けられなかった」


それは本心だった。

手にした武器が違うだけで、世界の見え方まで変わる。


短剣を払って血を落とし、視線を前へ戻す。


いよいよ、鉱山の入り口が見えてきた。

山の空気は重く、奥から湿った風が吹き抜ける。


……その風には、鉄のような匂いが混じっていた。


鉱山の入口は黒く口を開け、奥がまったく見えない。

空気の流れが、不自然に吸い込まれていく。


「……ここ、本当に入るんですか?」


アリシアの声は、わずかに震えていた。

怜は短く答える。


「ああ。素材を取るなら、奥まで行くしかない。

 恐怖を感じるなら、ここで引き返したほうがいい」


「いえ、せっかくここまで来たんです。

 それに私は、まだ怜さんの後ろにいるだけで――何もできていない。

 最後まで、ついていきます」


アリシアが杖を握り直す。

怜は一歩、暗闇に足を踏み入れた。


湿った空気が肌を這い、足音が反響する。


(……嫌な気配だ)


アリシアも前を向いている。もう引き返す理由はない。

この先に、“青金鉱”がある。


ここからが――本番だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ