早咲きの桜の木の下で
桜乃宮学園、旧校舎の外れに立つ、桜の木──
毎年、三月上旬の卒業式に合わせて、満開となる桜の木。
いつの頃からか【早咲きの桜の木】と呼ばれ、卒業生たちから慕われていた。
今年も例年通り、満開の季節を迎えた。
式を終えた卒業生たちが記念写真を撮り合い、大賑わいだ。
「はぁー、素敵よねー……」
「あ?」
「あの桜が満開の今! あの桜の下で告白を決めて結ばれた二人は、永遠に離れることはないんだって……」
二年生の村野 茜は、この学園に伝わる噂を語りながらため息を漏らした。
「ほぉ~。ほんじゃ、来年は俺が告白決めてやろうじゃねぇか」
後頭部で手を組んで、賑わう卒業生たちを眺めながら、小山田 宏は不敵な笑みを浮かべた。
「え? だ、誰に告白する気なのよ?」
「そりゃー……もちろん、学園のアイドル、美森 亜理紗ちゃんだろー」
「……はいはい。あんたなんか相手にされるわけないじゃない。高嶺の花もいいとこよ。バカっ」
「でもよ、だーれも告白なんかしてねーよな」
卒業生がほぼ全員集まるこの場所で、告白する勇気のある者はそう現れるものではない。
その時、ひと際大きな歓声が上がる。
「あ! 誰か告白するみたいよ!? もっと近くで見てみようよ!」
『ぇっと……さ、三年間、ずっとあなたのことが、川崎さんのことだけが好きでした! 俺と付き合ってください!』
わぁぁああー!! と盛り上がる観戦者たち。
『ぇ──、ご、ごめんなさい! あたし、他に好きな人いるから……』
あぁぁぁ──……と盛り下がる観戦者たち。
「あ~ぁ、可哀想に……宏、あんたも、ああなるのがオチよ?」
「な~に、まだ告白は一年後だ。これからが勝負ってもんよ!」
◇ ◇ ◇
そして一年が過ぎ──
「ついに俺たちも卒業かー、あっという間だったなー」
小山田宏は数人の男子生徒たちと一緒に、桜の木の下で写真を撮り合っていた。
「(あ、いたいた。宏……逆告白だって、ありよね?)」
村野茜は、小山田を見つけて歩み寄ろうとした。その時──
『あの、小山田くん。少し良いかしら』
周辺がざわつく。
学園のアイドル美森亜理紗が、桜の木の下で小山田に声をかける。
その意味は、誰が見ても明らかだった。
「(え……? 美森さん……そんな…………)」
村野茜はじりじりと後ずさり、その場に背を向けて立ち去った。
小山田宏とは、小学時代からの幼馴染だった。
男女の隔たりなく、ど突き合って笑い合ってきた。
しかし、いつしか、自分の中に芽生えていた想いから目を逸らせなくなっていた。
桜乃宮学園高等部に進学してから、その想いは強く確かなものとなっていた。
そして、卒業式の日に、言い伝えのある『早咲きの桜の木』の下で告白しようと、密かに決めていた。
告白の言葉を、何度も何度も、練習していた。
「(宏の憧れだった学園のマドンナからの逆告白かー……敵うワケないよー……)」
独り、校門を抜けて、駅へ向かう坂道を下っていく。
すると、後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには息を切らせた小山田宏が──
「茜ー、なんで先に帰っちゃうんだよー(はぁはぁ)」
「宏……。あっれー? 美森さんと一緒じゃないの?」
村野茜は、目に溜まった涙がこぼれ落ちないように空を見上げた。
「あー、告られたけどなぁ。OKしちまったら、一生、亜理紗ちゃんだけになっちまうんだろ? それはちょっとなー……」
「贅沢言っちゃって……あんたなんかが、相手を選ぼうだなんて……」
「だな」
小山田宏は、そう言って、村野茜の隣に立つと、スマホを掲げる。
画面を見上げると、そこには『早咲きの桜の木』を下から撮った写真が映っていた。
「なぁ、茜……俺たち、付き合ってみねぇか?」
『早咲きの桜の木』の下での、告白────
「……うん」
村野茜の瞳から、とめどなく涙が溢れ出した。
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