神様は恋に焦がれていらっしゃる
「実は、私……神様なの」
「か、神!?」
こんなちっちゃくてカワイイ子が神様だって?そんなこと───
「ねぇ……今失礼なこと考えたでしょ」
「ひゃえ!そ、そんなことは!」
急に言われたものだから、素っ頓狂な声が出てしまった。
「ぷっww!図星じゃん。まぁ、いいけど」
そんな僕の姿が滑稽だったのか、神を名乗るその子は嘲るように笑った。僕は少し恥ずかしくなった。
「で、ここからは真剣な話。君の名前は?」
「えっと……エリスですけど……」
「そう、エリスね。私はラピス。ちゃんとラピス様って呼んでね!それで、エリスに話があるんだけど……」
「話?」
今あったばっかりの僕に話?なんだろう?
「うん。それはね……君に私の力を貸してあげようと思ったの!」
まるで楽しんでいるかのような声色で告げてきた。
チカラ?そんなこと急に言われても……
「ち、力……って?」
「まぁ急にそんな事言われてもわからないよね〜。私はね、この世界の大地の神なの。」
そう言うと彼女は手を広げ、するとそこから輝く石が生成された。
「す、すごい……!」
「ほらね!信じてもらえたかな?」
こんな小さな少女が神だなんて、にわかには信じがたいが、どうやら本当らしい。
「それで、私の神の力を君に分け与えようって話。分かった?」
「う、うん……でも、そんな神様がどうして僕なんかに?」
そうだ。どうして僕みたいな一般庶民に……ましては、僕はたった今日、魔力無しの無能ということが判明したばかりだ。そんな僕が神の力を授かるのに相応しいかと訊かれると、おそらく満場一致で「ノー」と答えるだろう。なのになぜ……
「君からは、なんだか特別なものを感じるんだよ。私の目に狂いはないよ」
僕にはかなり曖昧な気がするが、彼女は自信満々の顔でそう言っている。おそらく、本気なのだろう。
「う〜んでも……」
それでもやはり怪しい。そもそも、あちら側にはなんの利点も無いはずなのだ。それなのにわざわざ僕のためにだなんて……もしかしてこの神様、僕のことが!?……んなわけ無いか。もしかしたら、罠の可能性も……
悩んだ末、ラゼに相談することにした。そうだよ。こういう時こそ有効活用しないと。
(おーいラゼ………ラゼ?)
応答がない。いつもならすぐに返ってくるのに……
「……ねえ」
見るとラピスがこちらへゆっくりと歩み寄ってきていた。
「確かに相談することも大切だ。けど、これは君自身の問題なんだ。だから───」
そう言うと僕の額に手を構え、
ペチンッ
と一発デコピンをいれてきた。
「いてっ!」
「イマジナリーフレンドじゃなくて、君が考えて答えてくれないかな」
こいつ……神にもなると心が読めるようになるのか?こいつの考えてることも行動の意図も何一つわからない。
ともかく…となるとラゼの意見は訊けないってことか。……それなら流石に危険か。ここは断ったほうが───
「君は、強くなりたくないのかな?」
「!!」
「強くなりたくないの」か。そりゃあ、僕だって強くなりたいさ。強くなって、有名になって、可愛いお嫁さんをもらって……
「チャンスは一度しかない。私だって忙しいんだよ。後悔、後でしても知らないよ」
笑って後悔なく死にたい!!せっかくの異世界なんだから!!
「……分かった」
「お!やっとその気になったのかい?」
「ああ。貰うよ、その力。ただ一つ条件がある」
「へ〜神様に条件を突きつけるんだ。中々だね」
「こんな一般庶民に力を与えようとしているあなたも中々ですけど?」
「……じゃあ似たもの同士だ。いいよ、条件ってなんだい?」
「僕になにか『目標』を立ててください」
「目標?一体何のために?」
「僕にとって見れば、こんなにうまい話、何か裏があるとしか思えない。だったらそちらからも条件を挙げてもらったほうが、信憑性が増すので」
「なるほどね〜、確かにそうだ。うーん……それじゃあこうしよう!」
そう言ってラピス様は一つの提案を持ちかけた。
「君は魔王を倒すんだ」
「ま、魔王を…!?」
予想外の提案に思わず面食らった。
「うん!そうだ。もちろん今すぐにとは言わないよ。君がもっと成長してから倒してくれたって構わないさ。いずれはこの世界の全魔王をやっつけてほしいの。それとも………断るのかな?」
まさか魔王を倒すなんて、まるでRPGゲームじゃないか!いいな、これぞ異世界転生!
「いや、いいさ。やってやるよ」
「決まりだね。私は君に力を授ける。代わりに君は魔王を倒す。契約成立だね。じゃあエリス、君に力を授与するよ。今日から君は『母なる大地の神 ラピス』の加護を受けるんだ」
「うん!」
こうして僕は神様の力を手に入れたのだ。
「じゃあ、早速力の使い方を教えるよ」
「え!教えてくれるの!?」
「そりゃーね。チュートリアルもなしに使いこなしてくださいなんて無理な話だよ。まぁ、私は優しいからね!」
「さすがラピス様!!可愛くて優しいなんて!!」
「え、え〜//そこまで言われると……えへへ//」
ふっ。こいつもチョロいな。
「ゴホン、じゃあ使い方をレクチャーしていくよ。まず地面に触れてみて」
「こう?」
言われた通りに地面の土に手をつく。
「そうそう!で、何でもいいからモノを想像して、地面に力を加えて、その石像を作ってみて」
「え、でも僕には魔力が……」
「大丈夫だから!ほら、今触れている地面全体が自分の手であり、足であり、胴であると思って」
「わ、分かった……」
正直、全然分かってない。ただ、こういうのは感覚でやるのに限る。深呼吸をし、集中する。
すると次第に感覚が研ぎ澄まされ、土や石がさも自分の身体であるかのように吹き下ろしの風を受けているのがわかる。
「いいよ〜。そうして、想像したモノの姿を一気に作り上げるの」
想像する姿……僕の今考えてるもの……直感……!!
「ふっ!!」
そして目一杯力を込めた。すると徐々にその姿が組み上がっていき───
「おお!出来てきたy……あ、えぇ!?」
はぁ…はぁ…かなり疲れた。一回だけでこれとは……自分でも何を想像したか覚えてないが多分良くできているはずだ。
「ふーどうですか?ラピスさ…ま?」
振り返ると、そこにはうずくまり、今にも頭から湯気が立ちそうなほどに顔中が真っ赤に赤面したラピス様がいた。
「えっと、どうしたんですか?」
そばまで近寄って尋ねた。
するとそのまま僕の後ろを指さした。
「え?後ろになにか───」
そう言いながら振り返るとそこには、僕がさっき建てたであろう、満面の笑みで微笑むラピス様の姿を模した大きな石像があった。どうやら僕は力を込める直前、咄嗟にラピス様のカワイイ姿を想像してしまったらしい。
「あ、えっと……あの、これはえー……」
建てたこっちも恥ずかしくなってきた。
すると、ラピス様が立ち上がり、とても恥ずかしそうな顔をしながら言った。
「き、きみは……そ、そんなに私が……えっと…………す、『好き』なの??」
言ったあと更に恥ずかしくなったのか、顔を隠した。ああ!その姿もカワイイ!!これは残機がいくらあっても足りない!!
そしてこっちをチラッと見た後、急に袖を抜き、なんとあろう事か服を脱ぎだしたのだ。そのままスカートも降ろし始め───
「って、えー!?ス、ストーップ!!ななな、なにしてるんですかぁ!!?」
「え?……はあーーー!!」
パニックになり咄嗟に止めてしまった。するとハッと我に返ったのか、慌てて脱いだ服を着直し出した。
ほっとしたのと同時に、止めなきゃよかったとものすごく後悔した。クソッ!!バカバカ〜!なんで止めちゃったんだよ!少し前の僕〜!!(涙目)
それからお互い、十五秒程の長い沈黙が続いた。いや、何だこの間は!?めっちゃ気まずい……
そんな空気感を先に破ったのは僕でも、ラピス様でもなく、意外にもとある魔物だった。
目の前に現れたのは、輝く光沢を魅せ、ぽよぽよと跳ねる、見覚えのある金のスライムだった。
「あっ、さっきの!」
「あ、ヴィタちゃん!」
すると、そいつはラピス様に擦り寄って来た。
「え、そのスライム……まさかラピス様の……」
「うん、私のペットなんだ。よしよし」
ラピス様が撫でると、スライムは満更でもない表情をした。良かった、殺してなくて。もし洞窟に来る前に倒していたらどうなっていたことか……
その様子を眺めていると、ラピス様がこちらを向いて言った。
「なに〜羨ましいの?もしかしてエリスも頭、撫でてほしいの?」
「あえ、いえ、そういうわけじゃ……」
予想外の言葉に驚いてつい動揺してしまった。
するとラピス様がこちらへ来いと言わんばかりに手招きをしたので、近くまで寄った。
銀色に輝く長い髪、幼く見える顔立ち、透き通るようにきれいな肌、幼女のような可愛らしい服装……やはり見た目は到底神には思えない。恥ずかしがり屋で、時々態度がデカくて、褒めると案外チョロい。内面だって、ただの女の子そのものだ。
「ほら、ひざ枕」
少し恥ずかしいな……ひざ枕なんて、幼稚園の先生にしてもらった以来だ。まさか、こんな見た目だけは明らか自分よりも歳下の少女にしてもらうなんて、夢にも思わなかった。
そうしてラピス様の膝の上に横になると、頭を撫でてきた。恥ずかしさで自分の顔が赤くなっているのが見なくても分かる。ラピス様の手の質感が柔らかく、気持ちいい。横にいるスライムのヴィタがズルいと言わんばかりに睨んでくる。ふっ、残念だったな。今は僕の番だ。
ああこの時間がずっと続けばいいのになぁ。
「ねえ、エリス。ちょっと手を貸して」
しばらくして、ラピス様が突然そんなことを言い出した。
「え、はい、いいですけど」
左手を差し出すと手の甲をなぞり始めた。すると、そのなぞった軌跡を辿るように、紋章のようなものが浮かび上がってきた。
「これは?」
「これは神様との信頼の証さ。これで君の好きな時に私を呼び出せるよ。だから───」
少し間をおいてから言った。
「わ、私が恋しくなったら……その、いつでも呼んでいいから…ね♡」
はーーマズイ、このままだとキュン死してしまう………あれ?何だか…きゅうにねむ、く……………
「ふふっ、おやすみ」
◇◇◇
「エリス様!!エリス様!!」
目を開けると、暗くて見づらいがそこには泣いているアテナがいた。
「う…う〜?ここは……」
「あぁ!エリス様!!良かったご無事で」
あれ?確か僕は洞窟にいてそれで……
急いで起き上がり周りを見渡す。けれどもそこには少女の姿をした子も、苔生した土も、洞窟の入口すら無かった。あれは……“夢”……だったのだろうか……
「エ、エリス様?どうしたのですか」
泣きながら尋ねるアテナ。
「あ、いや。なんでもない。それより、ごめんなさい、迷惑かけちゃって」
「いえ、そんな。ただ日が落ちても戻って来ないので……もしかしたらと、心配して……」
アテナの涙が止まらない。本当に申し訳ない事をした。
「今って何時頃?」
「いっ今はちょうど十時です」
え!もうそんな時間かよ!そりゃ心配にもなるわな……
(ふわぁ〜……よく寝たよ〜)
(は!?ラゼ!?今まで何してたんだよ!)
(え?どうしたのさ、そんなに怒って……えっと〜いつからか眠くなって……つい寝ちゃった☆)
はぁ……何だよ、マイペースだな。……まぁ無事なら良かった。
(後で話したいことがあるんだ……いいか?)
(うん、いつでもウェルカムだよ〜)
まったくこいつは……
「じゃあ、帰ろっか」
「はい……帰りましょう」
「あ、そうだ。ギルドってまだ開いてるかな?もし開いてたら途中で寄りたいんだけど」
「ええ、開いてますよ。ギルドは夜中の一時までやっているので」
結構ブラックなんだな……ギルドって。
「それなら良かった。ほら、スライムの被膜。こんなに集まったからさ。」
「まあ!流石エリス様です!では帰りに寄りましょうか」
「うん!よろしく」
こうして、僕の初めてのギルド仕事は幕を閉じ、僕らは手を繋ぎながら帰路につくのだった。
そしてその左手には、大地を、そして僕と神様との信頼を意味する世界樹の紋章が刻まれていた。
(ああ、やっぱり“夢”なんかじゃなかったんだな)
どうも、ロリコンじゃないよです。
先に弁明させてください。元々はこんなはずじゃなかったんだ。
いや、元はフツーに神の力をもらい、フツーにギルドに納品しに行き、フツーに家へ帰るシナリオを練っていたんですよ。ですが書いてる内にラピスに激しく情が入ってしまい……気がついたらこんなことに(汗
まぁ後悔はしてないんですがね。
本当はもっと話を進めたかったのですが、思わぬところで尺を使ってしまい、そこまで行きませんでした。残念です。
なんか話もあれになっちゃいましたし……別世界線ではラピスが服を脱ぎ出すところで、あのままエリスと###(ご想像にお任せします)した世界線もあるとかないとか……
は!俺としたことが、変なことを……えーゴホンッ!次回は一回キャラクター紹介を挟みたいと思います。はい!理由はもちろんいつものやりたいからです!!その次はそろそろセレンの出番予定です。こちらも登場させたかったのですが中々機会がなくて。なので満を持して登場してもらいましょう。
では、次回もお楽しみに(あ、次回のセレン回はまともです)