レッツ!スライムハンティング
(そういえばさ、《解析者》てどのぐらいの精度なの?)
ギルドへ向かっている途中にふとこんな事を思ったので、直接本人に訊いてみた。
(え?そうだな〜……じゃあさ、試しにたわわちゃんでやってみる?)
(いいけど……なんでアテナのことそんな呼び方してるの?)
(う〜ん…何となく、かな☆)
ふ〜ん……何となくね。ふ〜ん……
(んじゃあ、早速《解析》するよ〜)
そう言うとラゼはササッと解析をした。
(個体名:アテナ・リーゼル、年齢20歳、身長164cmの体重53kg、着ている服は植物製の繊維でできたメイド服だね。体積属性は“風”かな)
(その体積属性っていうのは?)
(体積属性っていうのは、その人の体内の魔力が反応しやすい属性のことで、まぁ簡単に言えば、その人が扱いやすい魔法の属性ってことだよ)
(へー、そんなことまで判るのか。じゃあ僕にもその体積属性があるってこと?)
(いやいや〜、生まれつきあるものじゃないんだ。確かに親の属性を受け継いだりすることはあるけど、大抵は育っていくに連れてその人の個性や周りの環境にあった属性が身についているものなんだよ。だからキミの体積属性はまだ“無”だね〜)
そうなんだ。てっきり生まれつき決まってるものなのかと。
(それと、魔力量に関しては7100だね)
うん、まずそれがどのぐらいなのかが分からないよね……
(う〜ん……個人差が大きいけど、大体一般人が350ぐらい。これは下級魔法が少しなら使えるぐらいになるかなぁ。そしてたわわちゃんと同じランク“B+”の平均が大体3800だから……1.9倍ぐらいだね〜)
1.9倍か〜…………は?1.9倍!?それって結構ヤバくない??めちゃ強じゃん!?
(まぁー魔力量が強さに直結するわけじゃないしさ〜)
それもそうだけど……もしかして、アテナって僕が思ってるよりだいぶ強い!?
(ちなみに、キミの魔力量も見れるけど……気になる?)
(気になります)
(おぉ、即答だね〜)
そりゃ誰でも気になるに決まってるでしょ。こういうのは決まって転生時に莫大な魔力を貰ってるものだからね。
(よ〜し、どれどれ…………ぷっww)
ん?今、笑わなかったか?
(フフッ……これはww……)
うん絶対に笑ったな!!その心笑ってるな!?
(お…おい、何笑ってるんだよ)
(だってw…ぜ、0ってwww)
は??今「ぜろ」て聞こえたのは気のせいか?気のせいだよな………?
(あ、ごめ〜ん。正しくは“ほぼ”0だったよ)
(そういうことじゃな〜い!!)
は!?嘘だ……『スキルは地味だけど実は魔力最強クラスで人生無双でした』ってのが異世界転生の定番のはず。これは何かの間違いだ!
(な、何かの間違いだよね……?なぁ??)
(もーー!カンペキなわたしが間違えるわけ無いでしょ)
(ちなみにそれって魔法は使え……)
(え?そんなのないに決まってるじゃん)
辛辣だな!!もうちょっとオブラートに包んでくれてもいいんじゃない!?
(じゃ……じゃあ、僕の異世界で無双する物語は……)
(そ〜んな夢物語なんて、あるわけ無いよ〜。マンガじゃあるまいしさ〜)
泣いた。膝から崩れ落ちそうになった。嗚呼、終わった。悲報、僕の異世界物語、終了のお知らせ……。
(………今までご愛読、ありがとうございました。またどこかでお会いs……)
(うわ!ちょ、ちょっと〜!?勝手に終わらせないでよ〜〜!!てか!何を終わらせようとして───)
「………様、エリス様?」
「!?」
聴き慣れたいつもの優しい声で、僕は現実に引き戻された。
「え?ア、アテナ。どうしたの?」
「い、いえ。ただ、表情が暗かったので、ご体調でも悪いのかと思いまして……」
し、しまった……あまりのショックで、つい顔に出てしまっていたらしい。
アテナを不安にさせたくなく、首を横に振り、
「んぅん。何でもない。心配してくれてありがと」と、いつもと変わらぬ声色で言った……はず。
「そうですか……それなら良いのですが……。悩み事があるのでしたら、いつでも気軽にご相談下さいね」
悩みねぇ……「実は魔力がないんだ」なんて言ったらどんな反応を取るかな……
(驚き7割、同情2割、失望1割ってところかなぁ)
だよなぁー。はぁ、このことは黙っとくか。ラゼのこともバレたくないし。
アテナの優しさが、心に負った傷を少し癒してくれた気がした。
「エリス様、到着しましたよ」
はぁ、気分最悪のまま到着してしまった。そんなことも知らずに、アテナはギルドの扉を開けた。そこは前と変わらず、冒険者たちで賑わっていた。
「エリス様、依頼を請けると時は、まずこちらの掲示板から請けたい依頼を選び、その依頼用紙をあちらの受付まで持って行くのですよ」
掲示板には依頼用紙がびっしりと貼ってあった。この世界では紙は高級品らしいのにこんなに貼ってあるなんて、さぞかし儲かってるのだろう。
「僕が請けれる依頼はある?」
「一様、適正ランクが一つ上の依頼まででしたら請けれるのですが……おっ!この依頼なんてどうですか?ほら、『スライムの被膜集め』。報酬は銅貨5枚。階級は★1です。まぁ最初なのでこのくらいが良いんじゃないですか」
あれ?確かさっきは「ダンジョンに行く」とか言ってなかった?スライムなんて少し街を出ればどこにでもいると思うけど?
(あ〜、どうやらキミの考えるダンジョンとこの世界のダンジョンは少し違うみたいだね)
(それって、どういう意味?)
(キミが考えるダンジョンって、洞窟に入って行って、道中のザコモンスターを倒して、そして最後にボスを倒してクリア〜って感じでしょ?でも、この世界のダンジョンって、これらの依頼そのもののこと何だよね〜。ちなみに、さっきの鍛冶屋のおっちゃんが言ってたのは“討伐”ダンジョンのお話。この依頼は“納品”ダンジョンだから、別物だよ〜)
へ〜、まぁよく考えれば、七歳のかよわい男の子のギルド初日にこんなとこ行かせないわな。
「うん、じゃあこれにする!」
そうして依頼用紙を受付まで持っていき、無事に依頼を請けることができた。
「よし、それでは行きましょうか」
「うん!」
その瞬間、ぐぅ〜っという大きな音が僕のお腹から響いた。やばい!めっちゃ恥ずい!!
「あ………えへへ//」
秘技!あざとく笑って誤魔化す!!
「ふふふっ。もうすぐお昼ですので、先に昼食にしましょうか」
「う、うん//」
かくして昼食の後、僕の人生初めてのギルド仕事が始まったのだった。
◇◇◇
街を出てはや三十分、アテナの案内のもと、僕らはある場所に向かっていた。
「もう少しで着きますからね」
かれこれ十分前から言ってないか、それ。
「もうそのへんでいいんじゃない?」
「それだと夜までかかってしまいますよ」
「まぁね……そもそも、スライムの被膜なんて何に使うの?」
「専門的な知識はないのでよくは分かりませんが、武器や防具のコーティングや、化粧品なんかに使われるそうですよ」
結構使い道があるんだな。弱いくせに。
(スライムは基本的に穏やかなで闘いを嫌う生き物だからね。初心者でも狩りやすいんだよ)
そんな会話をしながら歩いていると、ようやく目的地が見えてきた。
「エリス様、見えてきましたよ!あそこが『水泉の森』です。スライムが多くいるのでスライムの森なんて呼ばれています。スライム狩りにはうってつけの場所です」
「へ〜、何でスライムが多いのかな?」
「あそこには小さな泉が多くあります。スライムは水気の多い場所の好むのでそれが原因かと」
なるほど。そりゃここで狩った方が効率良いわな。
そうして森に入ると早速、一匹のスライムが現れた。その見た目は水色でぽよぽよしている、ゲームにでてくるのと何ら変わりない姿だ。
「もう出てきた!よ〜し……」
すぐに剣を構える。体が揺れる。やっぱり少し重過ぎるかなぁ……。
(………)
今、ラゼの「ほら〜」って思いが伝わってきたような気がした。
僕が構えるとスライムは跳ねて逃げ出した。
「あ!待て!!」
すかさず追いかける。スライムを追いかけると、小さな泉の近くで止まった。
重いけど、その分リーチがある。僕は少し重たいその剣を振るった。
「えい!」
僕の攻撃は見事に的中し、スライムは二つに切れて弾けた。
「見事です。流石、セレン様と特訓してるだけありますね」
「うん」
スライムが弾けた所に近づき、被膜と思われる薄いビニールのような物を拾った。
「これがスライムの被膜?何かブニブニしてて、ちょっとピリッとするね」
「おそらくスライムの体液でしょう。スライムの体液は酸性で、触るとピリッとするんです。そしてそれを包む被膜は酸性に強く、それでコーティングされた武器や防具は溶けにくく、錆びにくくなります。その剣も同様のようですね」
ほぉ〜。タイガさん、結構いいのくれたんだな。感謝しないと。
「よし!じゃあこの調子でどんどん狩っていこー!」
「はい!私もお手伝い致しますか?」
「いや、大丈夫だよ。せっかくの人生初の依頼なんだから、自分の力で達成したいんだ」
「エリス様……ここまでご立派になられていたとは……了解しました。では、こちらの泉でお待ちしておりますね」
「うん。行ってくる!」
「あまり遠くに行かれないようにしてくださいねー」
よし!それじゃあどんどん狩っていこう!覚悟しろよ!スライムたち!!
◇◇◇
「よし、これで十五匹目かな」
袋の中を見ると、結構な量の被膜が入っていた。
「よっと、結構溜まったしそろそろ───」
アテナのもとに戻ろうとした直後、目の前に今まで見たことない金のスライムが飛び出してきた。おいおい……これは絶対狩るしかないだろ!!
僕の殺気を感じてか、その金色のスライムは即行で逃げていってしまった。
「うおー!逃がしてたまるかー!!」
僕は急いで追いかけた。
「くそ……どこいった?」
追いかけること数分、完全に見失ってしまった。
「こっちの方に逃げたと思ったんだけど……アテナに『あまり遠くに行くな』て言われちゃったからなぁ……ていうか、そもそも戻れるか、これ?」
(そうだと思って、ちゃ〜んと道は覚えておきましたよ〜)
「ナイス!!でかしたな、流石ラゼ!」
(えへへ〜//、褒め過ぎだよ〜)
チョロいな、こいつ。
「はぁ〜諦めて戻るか……ん?」
アテナの元へ戻ろうと踵を返そうとした時、一つの洞窟が目に入った。
もしかしたら、あのスライムはこの中に逃げたのかもしれない。そうだ!そうに違いない!僕のスライムセンサーがそう言っている。
「よし、行こう!」
(えー、まだ続けるの〜)
「当然だろ。あんなスライム、少なくともこの世界では見たことない。そう簡単に諦めてたまるか」
そうして僕らは洞窟の中と足を踏み入れた。
「う〜ん全くいないな……」
結構奥まで来たけど、スライムどころかコウモリすらいない。やっぱりいないのか?
すると道が二つに分かれた。右か……あるいは左か……
悩んだ末、右の道にした。僕は右利きだからね。
そして更に進んでいく。しかし、あのスライムの姿は全くない。
しばらくすると、少し開けた空間に出た。天井が筒抜けになっており、日の光が差し込んでいた。
「続く道は……ない。行き止まりかよ。仕方ない、戻るか……」
戻ろうとした時、ふと周りを見渡した。苔生した地面に差し込んだ光が当たり、綺麗に輝いている。街とは違う澄んだ苔の香りに心が落ち着く。僕は思わず深呼吸をした。
その時、キラーンと何かに反射した眩しい光が目に入ってきた。見ると、倒れて朽ちている木の幹の上に、輝くキレイな石が乗っていた。
何の変哲もない石……けれども、謎に惹かれる。近づいて、手に取ってみた。やっぱり何ら変わりないただの透き通った石だ。それでも、妙に見入ってしまう。
「その石、気に入ったの?」
「あぁ。なんでだろうな」
今まで石なんか、帰り道に必死で蹴ってた小学生のときしか興味無かったのに……
………………
………
…ん?
僕、今誰と話してた??
ラゼ…の声じゃなかったよな?
急いで横を見たが、そこには誰もいなかった。
(気のせい……か?)
そう思った次の瞬間、
「気のせいじゃないよ」
と逆側から聞こえ、驚きで格好悪く跳ねてしまった。
「うわっ!?えっ?お、女の子?」
そこには長髪でアホ毛がぴょこっと立っている、可愛らしい少女が立っていた。
何このちっちゃい子!?めっちゃカワイイ!……じゃなくて、ここ洞窟の中だよね?なんで女の子がこんな所に…?
「えっと……どうしたのかな……迷子?」
「私を子供扱いするの!?ひどい!!罰当たり!!」
「あ…えっと、ご、ごめん」
頬をプク〜っと膨らませ怒っている。咄嗟に謝ってしまったが……なんだこのカワイイ生き物は!?危うく尊死するところだった。
「え、えっと〜……君は?」
「私?ふ、ふ、ふ。驚かないでよ。」
と言い僕に近づいてそっと耳打ちしてきた。それにしても近いよ!僕は頬を赤らめながら聞いた。
「…実はね、私───」
その一言に僕は耳を疑うのだった。
よ!我がアマタルの貴重な民達よ。レンだよ。
ん?なぜいるのかって?実は『さくしゃ』とか名乗る奴からキミ達への伝言を預かっている。まぁ俺の国民のためだからな。特別だぞ。(面白そうだし♪)
えーと何々………
やっほーみなさん。さくしゃ〜です。
今回の『庶民、転生。』いかがでしたか?
今回、なななんと!いつもより長めにしてみました〜!!!その字数(空白・改行は含まない)5197字!
いや〜今回は頑張りました。なにせいつもは1500字程度ですよ。褒めちぎってください。
それはともかく、スライム狩りの仕事。してみたいですよねー。だって、ザコ狩りで銅貨5枚も稼げるんですよ!?やるしかないでしょ、こんなの。
……とか言ってると、森で強い魔物に遭遇して殺られるんですよ………もしくは盗まれたりね。
みなさんは楽勝でも調子に乗らず、不測の事態にも備えて行動してくださいね。
にしても……エリスくんはロリコン…と……カキカキ。
え、「お前はどうなのか」って?そんなのショタコンに決まってるでしょ。そもそも可愛いショタが主人公の小説や漫画を書いている人なんて大体ショタコンでしょ。(偏見おつ)
あと、今回はなんとなくレンに伝言を頼んいます。なのでもしかしたらみなさんに届かないカモ。その時はレンを恨んでね♡
では、また次回!お疲れサマンサ。
……だそうだ。たくっ、誰なんだよ『さくしゃ』って奴。俺は知らないんだがな……あっちは俺のとよく知ってるらしいが。
言ってることが全く分からなかったが…「エリス」か……
うん?いや、何でもない。独り言さ。
そんなことよりこれで用が済んだからな。俺は帰るよ。またなんかあったら、気軽に魔王城まで来てくれ。立ち入り許可出しとくからさ♪
んじゃ、じゃーな。これからもどうぞご贔屓に〜。