かえるの王女さま
ずいぶんと少女趣味な女がいた。『少女趣味な女』というだけに彼女は少女という年齢ではなく、だいぶ遠ざかっていたが、しかし、結婚はまだだった。少女趣味だから結婚できないのか、あるいは結婚できないからその趣味に走っているのか、なんにせよ、彼女は未だに白馬の王子が自分を迎えに来ると強く信じていた。
白馬の王子といっても、それはあくまで比喩……というわけでもない。一人暮らしの彼女のアパートの部屋で、今夜もチュッとリップ音が響く。
その音を奏でているのは彼女と、その手の中にある蛙だった。そう、彼女はあの童話、蛙の王子様を信じていたのだ。キスによって魔女の呪いが解け、美しい王子が目の前に現れると。だから、彼女の部屋には蛙が入った水槽が所狭しと並んでいた。
元々、動物好きだった彼女は蛙以外にも飼育していたのだが、婚期が過ぎていくにつれ、徐々に変化が訪れ、今では蛙だらけの部屋になってしまった。彼女の行動は妄信と言っていいだろう。
しかし、彼女は自分を疑うことなく、毎日毎日せっせとチュッチュと蛙と口づけを交わし続けた。変わらぬ蛙の鳴き声に一切めげることなく、淫らな音色を響かせ、また愛を囁き続けていると、ついに……
――え、嘘。本当に、え、嘘、え、嘘、え、え、え、え、エッ、エッ、エッ、エッ
はてさて、それは魔法か神の仕業か、それとも執念か。あるいは、実はそれは科学実験により生まれた特殊な蛙で、それが有していたこれまた特別な毒のせいか。なんにせよ、彼女は幸せそうである。なぜなら、彼女の周りはみんな男性。そして、彼女の瞳には、彼らがそれはそれは、大変美形に映っているのだから。