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第4話「冒険者」

あくまで目安ですが、一人称に代読可能な箇所は名前のみ、それ以外は氏名で表現しています。

※物語上は情報の非対称性がありますが、読者の読みやすさ優先にしています。

 シャルロット・デュポンは私だってやればできるのだと胸を張り、自信満々にどや顔を披露する。むふふと喜びを隠しきれていない彼女とは裏腹に、その豊満な胸が皆の視線を集めてしまい、一同は殊更萎えて冷ややかな視線を送る。一般常識として胸は慎ましい方が好まれ、豊満は卑しい女性の象徴として恥ずべきものだからだ。二重の意味で、フランツ・フェルディナンドは彼女について深く溜息を吐く。

 

「...シャルロット、一応聞いておく。新しい魔法使いとはその少年なのか?」

「そうですよ!ほら、この子を見て下さいッ!凄まじいオーラが感じられませんか??」


 シャルロットはそう言って後ろに隠れていたファムの肩をポンっと掴み、リーダーであるフランツの御前に差し出す。ファムは唐突に触られたことで一瞬身体をビクッと震わせるが、特に嫌がっている様子はない。フランツはまた吐息をついて少し考えた後、目を細めてファムを凝視してみる。

 ...いや分からん。オーラって何だよ。

 辛うじて推測できるのは、シャルロットが向かった教会の修道服を着ている点からこの少年は修道孤児であること。そして不自然な点として、清廉な凛々しさと気品を感じるという奇妙なチグハグさがあることだろうか。オーラとは外見的な話なのか。


「...」

「...」


 フランツ・フェルディナンドはファム・ファタ―ルと数秒間見つめ合い、先程までの騒乱とは程遠い時間が流れる。眼前の美少年、ファム・ファタ―ルは透明感のある琥珀色の髪を持ち、癖っ毛を活かした中性的なウルフカットをしていた。小顔で綺麗な色白の肌とパッチリとした灰色の瞳が、幼子ながらも妖艶な美貌を引き立てている。特に灰色の瞳は珍しく、観る人によっては美しくも禍々しくも思えるため、どこか引き摺り込まれそうな不思議な魅力、妖艶さがあるのだ。無言で凝視されるファム・ファタ―ルは気まずさから苦笑するが、彼の気持ちとは裏腹に、一同には艶やかに笑みを浮かべる美少年として認識される。

 その一方でファムも、フランツ・フェルディナンドを眼の下に大きなクマがあり、不健康で、どこか気怠げな印象のする軍人と評する。彼女の腰まで伸びた金髪は若干くすんでいるものの、日々の手入れはキチンと施されているのかサラサラな髪質だ。じっと見つめてくる瞳は碧眼であるが、三白眼のため冷ややかな視線として脳に処理される。白と黒を基調とした硬派な軍服には、胸のあたりに一つ華やかな勲章が付いており、彼女が何らかの武功に優れているのだと推測できた。


「ふむ...。もしや魔力オーラというやつか?」


 膠着が続く沈黙を破ったのは、重厚な鎧と革装備に身を包んだドワーフの巨漢であった。ファムは発言主ラクラウ・アームストロングへと視線を逸らし、その堂々たる振る舞いから彼らの精神的支柱なのだろうと思慮する。彼はファムの想像する異世界ドワーフの姿そのものであった。


「そうです!私も初めて見ましたが、きっとファムくんはすごい魔法の才能を持ってますよッ」


 シャルロット・デュポンが、ファム・ファタ―ルの後ろから身を乗り出して回答する。密着の勢いで彼女の豊満な胸がファム少年の頭上に乗ったが、そのあまり下品なセクハラ行為に対して、フランツは憤りから引きつった笑みを浮かべる。


「なるほどな。だが仮に魔力総量が多いとしても、それがすなわち魔法使いであるとは限らんぞ?」

「ええッ、そうなんですか!?」


 ラクラウ・アームストロングは冷静に反証可能性を指摘する。彼は焦げ茶色の立派な顎鬚を触りながらふむと呟くと、事情を呑み込めていない一同に対して魔法使いという存在を説明する。

 まず一般的に魔法とは、神話時代における支配階級の血脈を引く者が使えるとされている。近代解剖学の発展によって、肩から腕を中心とした身体構造に魔法生成器官が発見されたのだ。つまり、魔法使いとは特定の血脈を持ち、魔法生成器官を生まれつき発現させた者に限られる。逆に特定の血脈を有していても魔法生成器官が発現しない者も大勢いるので、魔法使いは希少性が高いと言える。しかし、長い年月を経て血脈は薄れ、現在は平民出身でも魔法使いがしばし生まれる傾向にあるのだと。

 次に僧侶に代表される魔術使いであるが、こちらは主に神々に対して信仰心があれば原則誰でも扱える。僧侶職で例えるならば、自然治癒を早める回復魔術や一時的な身体能力向上を授けられる。しかし、魔法と異なり特定の器官があるわけでもなく、その原理はいまだ謎であると。

 

「まァ。つまり、誰でも魔力自体は持つことができるが、実際に魔法として発現できるかはてめェ次第っつーわけだ」


 ラクラウ・アームストロングの説明が一通り終わると、ファムとテーブルを挟んで対角線上に座っていたイブ・サンローランが一同の疑問点に回答する。彼女はまるで品定めするようにファムの顔をじろじろと眺めている。

 イブ・サンローランは狐の獣人であり、白くて大きなもふもふの尻尾を椅子の隙間から出して振っている。両手を頭の後ろで組んで耳をピクピク動かしている様は、愛玩動物のような可愛らしさがあるが、放つ言葉は野蛮で粗暴だ。シャルロット・デュポンと同様、その女性らしい胸に思わず視線が向かうが、それは彼女が非常にラフな格好をしているからに違いない。上着はノースリーブの厚手タンクトップ一枚のみだし、着席のため分からないがズボンはオーバーサイズの男性ものを履いているようだ。

 

「それで、おぬしは魔法が使えるのか?」


 一同が説明に納得したのを見届け、ラクラウ・アームストロングは本題に入る。全員の視線がファム・ファタ―ルに集まり一瞬緊張が走るが、彼はコクリと頷く。


「おォ、いいじゃねェか。じャあ、早速なんか魔法を見せてくれよ」


 イブ・サンローランは不敵な笑みを浮かべ、ファム・ファタ―ルを煽る。言葉遣いこそ粗暴だが、彼女の言葉は一同の意向でもあった。ファムはそれを察し、テーブルから少し離れた場所で両手いっぱいの鉄塊を生成すると、持ちきれなくなった塊をボトボトと床に落とす。

 この魔法を選んだのは、実家に幽閉中使い慣れていたからだ。土魔法で物質を生成するのが最も魔力を消費するし、魔法出力時のイメージ造形の訓練に適していたのだ。魔法教育の家庭教師曰く、魔力は極限まで使い込みを繰り返すことで最大値が上がるとのことだった。おまけにファムが生成した謎の金属物質は高く売れるようで、元々資産に溢れていた実家はさらに富んだようである。


「す、すごい...」


シャルロット・デュポンは思わず感嘆の呟きを漏らす。そして、それは一同同様の感想であった。


「...見事じゃの。して、おぬしや。それを早く飛ばすことはできるか?」

「危ないので試したことはありません。ただ可能だと思います」


 ラクラウ・アームストロングは、ファム・ファタ―ルの魔法の有用性をいち早く見抜いた。魔力消費が大きい生成魔法を膨大な魔力で使いこなし、遠方から鉄塊を敵にねじ込む。この魔法だけでも、他の魔法使いが真似できないぐらい確実で即死性のある殺傷魔法だ。おまけに魔法が使えると分かれば、訓練次第でいくらでも能力を伸ばすことが可能である。ファム・ファタ―ルは原石であった。


「よッしャ、今すぐ組合本部に行くぞッ!」


 イブ・サンローランの一声で、一同は一斉に席を立つ。ファム・ファタ―ルは事情をよく呑み込めずオドオドと周囲を見渡すが、ここには自分たちの利益のためなら貪欲で手段を選ばない冒険者という存在しかいなかった。ファムは何も分からないまま、近くのシャルロット・デュポンとフランツ・フェルディナンドに腕を組まれ、冒険者組合の本部へと連行されるのであった。


 もはや美少年修道孤児誘拐について、シャルロットを批難する者はいなくなっていた。


余談ですが、フランツのビジュアルイメージはソーニャ・シコレンコ看守長です。

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