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自覚なし?


 あれ……と首を傾げた。婚約者のリエトから婚約破棄を突き付けられてから三日が過ぎた。いつアンナローロ家に父の怒声が響くのかと待っていても一向にやって来ない。母も兄も父も普段の嫌味を言うだけで婚約破棄の件を何も言わない。可能性があるとすれば、まだ父の耳に婚約破棄の件が入っていない事となる。

 アルジェントに紅茶のお代わりを注いでもらい、その事を話すとアルジェントもそういえばと訝しく思った。



「殿下がまだ父に話していないのは何故?」

「王様や王妃様の許可を得ているのが嘘とかね」

「実際に二人は知らないかもしれないのね……」


 けど、とベルティーナは続けた。



「殿下は嘘が嫌いよ。そんな人が嘘を吐くかしら」

「ベルティーナは嫌われてるから。嫌いな人に義を通す気はないんじゃない?」

「……確かに」



 説得力のある言葉に納得した。早く婚約破棄を父に伝えてほしい。ベルティーナはアルジェントと家を出る準備を終えている。後は父の絶縁宣言を貰えれば直ぐにでも出ていく。

 紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせると執事長がリエトからの手紙を届けに来た。

 疑問を多分に頭から放出しながらも手紙とペーパーナイフを受け取って封を切り手紙を読んだ。アルジェントに内容を訊ねられると脱力しそうになりながらも文面を見せた。



「お茶の呼び出し……?」

「何を考えてるのあの殿下は……婚約破棄を突き付けた相手をお茶に誘うなんて」



 指定の日時は十日後。定期的に行われるお茶会の日付に相違ない。



「どうする? 行くの?」

「行くわけないでしょう」



 婚約破棄を命じられたのなら、苦痛以外何も感じないお茶の席に等誰が座りたいか。近年はクラリッサを同席させて如何にクラリッサが可愛いか、べルティーナは可愛げがないかと語られた。自分よりリエトの方が父達に似ていると出かかった言葉はその場で呑み込みアルジェントには盛大に愚痴を零した。


 手紙を封筒に直し、返事を書く便箋とペンを持ってくるようアルジェントに指示した。

 言われた通りに運ばれた便箋とペンを受け取ったベルティーナは一言書いて終わった。



「何を書いたの?」便箋を覗いたアルジェントは軽快に笑った。

「手紙の届け先を間違えていませんか? か……はは、確かにね」

「婚約破棄を命じた相手にこんな手紙を送るなんてどうかしてるわ」

「若しくは、国王夫妻は真面目に知らないとかね」

「殿下の独断って事?」



 果たしてベルティーナ嫌いでリエトと言えど、国王や王妃に無断で婚約破棄をするだろうか。ましてやアンナローロ家はリエトを支援する家の中で最上位。嘗て国王の婚約者だった令嬢の家を抑えるにはアンナローロ家の力は不可欠で。同時に、ベルティーナとの婚約はより地位を盤石にするためのもの。

 うーんと頭を悩ませるも、三日前を思い出すと湧いて来る苛立ちから便箋を封筒に入れ、公爵家の封蝋を押してアルジェントに渡した。



「殿下宛に届けて」

「は〜い」



 間延びした返事で手紙を受け取ったアルジェントが出て行くと一人になったベルティーナは天井を仰ぎ見た。

 好きになってもらおうと努力した、クラリッサのように可愛い女の子にもなろうとお洒落を頑張った、未来の王妃となるべく嫌な事も苦手な事も逃げずに真面目に取り組んだ。どれだけ努力したってリエトも家族もクラリッサを可愛がってベルティーナを見ようとしなかった。

 王妃になるのだから甘えるな、怠けるな、王太子に心を尽くせとばかり言われ続ければ……クラリッサを実の娘のように可愛がっている場面を見ていれば……ベルティーナの心の拠り所は数少ない。



「はあ……」



 疲れた。家族にもリエトにも。頼れるのはアルジェントだけだ。

 アルジェントが戻るまで同じ体勢でいたベルティーナであった。


 ———翌日。またリエトから手紙が来た。



「何なのよ一体」



 苛立ちながらアルジェントから手紙とペーパーナイフを受け取り、手紙の文面を読んだ。



「は?」

「何が書いてるの?」



 固まったベルティーナの横から手紙を覗いたアルジェントは噴き出した。



「相手は間違えてない、ですって? しかもお決まりの言葉……」



 手紙は確かにベルティーナに宛ててあり、以降は可愛げがないだの、婚約破棄をしてもクラリッサを見習わないのかというお決まりの言葉に追加要素を見せてきた。脱力したベルティーナは手紙を丸めてゴミ箱に捨てた。



「行く?」

「行かない。殿下からお茶の招待が来ていると他は知らないでしょう?」

「ベルティーナにしか手紙の事は言ってないから」



 ただ、定期的にお茶の日が行われる日は毎月決まっているのでその日はアルジェントを連れて買い物に出掛けてしまえばいい。家族からどんな様子だったかを聞かれてもいつも通りだと言えば、どうせお決まりの言葉で嫌味を言ってくるだけ。耐えればいい。慣れた。


 時間はあっという間に過ぎ、今日はお茶の日当日。生憎の雨だがお出掛けは実行する。着替えまでアルジェントに任せる訳にはいかず、比較的親しい侍女にドレスを着せてもらい、帽子を被り傘を持って玄関へ。



「ベルティーナ」

 ビアンコに呼ばれるが相手をするだけ無駄と知っているベルティーナは素通りをし、外へ出て傘を差した。「待てと言っているだろうが!」追い掛けてきたビアンコに肩を掴まれ振り向かされた時、心の底から軽蔑した目でやれば顔を青くされた。



「な……な、なんだその目は……」

「お兄様って私を嫌いなのに姿を見ると毎回絡んできますよね? 鬱陶しいんですよ」

「な、ぼ、僕は別に嫌ってなんか……」

「私は嫌いですよ。お父様お母様王太子殿下と揃って馬鹿みたいにクラリッサは可愛い可愛いと言われて。で? 私もクラリッサを可愛いと褒めれば良かったんですか? クラリッサを可愛いと思えない私が嫌いなんですか?」

「そういう訳じゃ……だ、だが、お前に可愛げがないのは事実で」

「なら、可愛げのない妹は放っておいては。もう一度言いますわ、鬱陶しいです」

「……」



 明確に、キッパリと拒絶の言葉を放つと今度こそ肩を離し、歩き出しても呼び止めなかった。ちらりとビアンコを見ると俯いて悲壮感を漂わせていた。



 ——……もしかして……私に嫌われていないと思っていたとか……?



 だとしたら、とんでもないお花畑だ。溜め息を吐いてアルジェントが手配した馬車に乗り込んだ。前に彼が座ると馬車を発車させた。

 憂鬱げに過ぎ行く外を眺めていれば「ベルティーナ、一度王宮へ行こうよ」と提案された。目を丸くすると本当に王太子がベルティーナとお茶をする気があるのか気になるのだとか。



「私はない」

「俺はある」

「……絶対、クラリッサがいるわ。まんまと行った私にこう言うでしょうね? なんだ本当に来たのか、って」

「そうならないように遠目から見よう。クラリッサがいなかったら、声だけでも掛けよう。お互い嫌い合うのは良いけど、ベルティーナが王太子を無視した事実が出来ちゃうじゃん」

「……そうね」



 お茶の手紙を貰った際、婚約破棄したくせにと頭に血が上って冷静な判断能力を失っていた。向こうに付け入らせる隙を作らない為にもアルジェントの言い分は理に適っている。

 御者には既に王宮へ向かうようアルジェントが指示していて、無駄がないわねと頼りになる従者に安心した。


 ——一方、王宮内にあるサロンでは。王太子リエトがテーブルに多種類のスイーツがある席でジッと座っていた。




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