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大人の話し



 意気揚々と現れたのはイナンナ。側にはアレイスターもいた。途中痛そうに腹を押さえながらも国王と王妃の前に立った。



「どうだった? あたしに成りきっていたベルティーナちゃんは」

「見事に騙されました」

「どうせだったら、イグナートくんのおでこの広がり具合を弄ってくれても」

「私はまだそんな歳じゃありません!」



 等と言いながらも王冠を深く被ろうとするのは気にしているからだろう。

 揶揄うのは此処までにし、別室で待機していたイナンナがやって来たのは国王にお願いがあって。ベルティーナ達に向いたイナンナは目を丸くした。



「あら~ビアンコくんどうしたの? 泣いちゃって」

「え」



 驚いたのはベルティーナで。ばっと振り返ると泣いているビアンコがいて呆気に取られるもすぐに溜め息を吐き首を振った。ある程度の予想はついているイナンナは敢えて触れず、この場に自分と国王だけにしてほしいと述べた。



「大人のお願いなの。子供や女の子にはちょっと刺激的だから王妃殿下も遠慮してほしいの~」

「陛下」

「ふむ……分かった。悪いが皆席を外してくれ」



 国王の一言によりベルティーナ達は部屋を出た。泣いているビアンコをクラリッサが引っ張って行った。

 室内には国王とイナンナ、それにアレイスターだけになると早速イナンナは切り出した。



「アニエスちゃんとルイジくん。処刑を待つ間、一旦大聖堂側に預けてほしいの」

「モルディオ公爵については解りますが夫人は何故」



 ルイジは他人を使ってイナンナの殺害を企てた、私的制裁を与えたい理由は解せてもアニエスまで必要とする理由が解らない。



「あの二人、特にアニエスちゃんは知るべきよ。愛してもいない相手に強制される苦痛を」

「一体何をするのですか」

「秘密よ秘密。後はまあ……クロウくんがあんまりにも可哀想だからかな~」



 十八年前、産まれてすぐ亡くなったベルティーナの片割れに名を付け、せめて家族の側にいられるようにと本邸に埋葬した我が子の墓を毎日訪れていると昔クロウは語っており。魅了の洗脳が酷くなってからも足を運んでいるか不明で。それはカタリナも同様。ベルティーナが双子の姉の存在を知らないのなら、ビアンコも恐らく知らない。

 忘れられているかもしれないミラリアがあまりにも可哀想で。



「アンナローロ公爵夫妻ですが……大神官でも治せないですか」

「治さない方がいいわよ~……廃人になって生きるか、何も思い出さないまま生きるか。どちらが正しいかなんてあたしにだって分からない」

「何故、モルディオ夫人はそうまでして実の兄に拘ったのでしょう」

「これ、あたしの予想なんだけどね~」



 イナンナの語った予想に信じられないと声が漏れた。そうだろうと苦笑した。



「事実なら……モルディオ夫人は余程愛しておられたのでしょうね」

「そうね~事実は本人にしか分からないけど」

「大神官に預ければそれが事実かどうかも分かるのでは」

「やってみる価値はありそう」

「議会の方では私が上手く誤魔化します。モルディオ夫妻を処刑まで大聖堂にお預けします。但し、決して、死なぬようにお願いしますよ」

「ありがとうイグナート君。今度、知り合いの薬剤師に育毛剤を調合させるわね~」

「私の髪の毛の話はいいでしょう!!」



 等と言いながらも「……ありがとうございます」とぽつりとお礼を言うという事は……そういう事である。





●○●○●○


 早歩きで王城内を歩くベルティーナの背後からは「ベルティーナ!」「ベルティーナお姉様!」と二人の声が同時に飛んでくる。距離を開けようと早歩きを続けているのに後ろの二人は諦めが悪くベルティーナの後に続く。涼しい表情でベルティーナの横に並ぶアルジェントに「引き離す?」と問われ、強く頷いた。



「もういないよ」



 瞬時に実行し、二人をベルティーナの視界に入らない外に飛ばした。普段早歩きなどしないから額から汗が流れ落ちる。差し出されたハンカチで額や頬を拭いてポケットに仕舞った。



「まったく、しつこい!」



 イナンナの大人の話し合いをしたいという希望で国王以外は退室。そこに丁度第二王子アレクシオが現れた。まだ幼い王子は異母兄を見るなり「兄上!」と嬉し気に駆け寄り腰に飛びついた。

 異母兄弟の仲は良く、王妃教育で登城した時何度か二人が並んでいるところを見た。アレクシオに絵本を読むリエトの表情はベルティーナが知るどの表情よりも優しく、温かみがあった。


 異母弟にはあのような笑みを見せるのか、とか、人間味のある顔が出来るんだ、と驚いた。

 王妃と王太子とはその場で別れ、一旦大聖堂に戻ろうとなったベルティーナとアルジェントの邪魔をしたのがビアンコとクラリッサ。


 アンナローロ公爵邸に戻ろうとしつこい二人から逃げ、疲れが出始めて漸くアルジェントが二人を外へ飛ばした。



「最初から言ってくれれば良かったのに」

「貴方の力があれば何でも出来るけど、極力頼りたくないの」



 人間では扱えない魔法を使える悪魔の力を借りれば、大抵の事なら叶えられる。便利だよとアルジェントに言われてきたがベルティーナは滅多に頼ろうとしなかった。

 今回の件についてもアルジェントにお願いして調べてもらえば早くに判明したかもしれない。しなかったのはベルティーナの意思。



「一度その便利性に気付いて頼りっぱなしになるのが私は嫌なの。アルジェント、これからも余程の時だけ頼むわね」

「俺はいいけどベルティーナはつらくないの?」

「お父様達の話?」

「うん」



 ずっと従妹のクラリッサを可愛がるのは愛する妹の娘で、自分が愛されないのはクラリッサにある可愛らしさが自分にはないからだと思い込んでいた。



「私、貴方がいてくれて良かった」

「急だね」

「言いたい時に言わないと」



 ずっと一人ぼっちだった。お茶会で友人が出来てもそこにクラリッサが来るとクラリッサに譲りなさい、クラリッサの方が可愛いから、と人は離れていき、残った人は昔から仕える使用人達だけ。


 街でアルジェントを拾ったのは寂しさを紛らわせる為、そして強い好奇心から。



「これからが大変よ」

「だろうね」



 アニエスが使った魅了の正体やアニエスを唯一止められたであろうルイジが止めなかった理由を知りたい。


 


 

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